ラブミーラブユー 三色目
※本作は下記作品の“公認クロスオーバー作品”となっております
《原作》
三色ライト『(元)魔法少女が(やっぱり)変態でした。』
華永夢倶楽部『ラブミーラブユー』
前作: https://ncode.syosetu.com/n5088gn/
親元と地元を離れ、新生活となる場所で朝の五時過ぎ。私は今日から念願叶って最愛の彼女、日向風玲亜ちゃんと一緒に生活する毎日が始まった。
「おはよう風玲亜ちゃん。今日から私達、大学生だね」
私の名前は月宮あかり、今年でいよいよ一八歳。そんな私と風玲亜ちゃんは、ついに今年度から一星大学の新一年生として通う事になりました‼︎
「入学式で灯さん達と目が合ったらどうしよう…… 無意識に手を振りたくなるかも」
「知り合いに手を振りたくなる気持ちは分かりますけど、入学式が終わるまでの我慢ですよ」
「は〜い〜」
今の私達には、高校時代と比べると明らかな変化が訪れました。まず最初にお互いに成人した事、次に風玲亜ちゃんが私を呼び捨てで呼ぶ様になった事、そして風玲亜ちゃんと二人暮らし生活を始めた事。これは私にとって大きな快挙だよ‼︎
そして灯さんと輝夜さんの紹介で知った女性専用のアパート、百合園荘に昨夜から住む事になった私達。管理人の守屋さんとも仲良くなったし、灯さん達の部屋には昨夜お邪魔したし、明日からは大学生として刺激的な毎日がスタート‼︎
良いねぇ〜、幸せ溢れる人生への第一歩を踏んでる感じがあるよコレ‼︎
「じゃあそろそろスーツに着替えよっか。風玲亜ちゃんは仕切りいる?」
「えぇ必要です。どうも人前で服を脱ぐのにはまだ抵抗が……」
部屋に備えてある仕切り板を使って、それぞれ向かい側の部屋で私用の黒くてカッコいいスーツを身に付けていく。このピッタリとした服の感触と本物の大人になった実感、そして何よりも真面目になった凛々しい気分‼︎
“やっぱりコレを着ると、とても凛々しいオーラを感じる…… スーツってスゴイなぁ~”
身だしなみチェックを終え、風玲亜ちゃんのいる向こうの部屋に声をかける。
「風玲亜ちゃん、そっちの方は大丈夫?」
「はい、もう開けても大丈夫ですよー」
「じゃあさ、お互いに見せ合いっこしてみようか! いっせーのぉーせ‼︎」
私が仕切り板を取り払うと、そこにはキャリアウーマンに見間違えてもおかしくない程にカッコよく決まった、スーツ姿の風玲亜ちゃんがビシッと立っていた。
「おぉ……! 風玲亜ちゃんがスゴく決まってるよ‼︎」
「そ、そうですか……? でもあかりに言われてみると、何だか良い気分になってきますね」
私に褒められて少し気分が舞い上がったのか、風玲亜ちゃんがデキる大人なポーズをして私を悩殺にかかった。
「あかり、取引先の相手に電話をする様ですがどうでしょうか?」
「うんうんっ、カッコいいよ‼︎ キャリアウーマンだよっ‼︎」
いや〜、やっぱり風玲亜ちゃんはどんな衣装を身に纏っても似合うし、完璧だね‼︎
それに引き換え私がスーツを着ると、どこか背伸びした幼い子供に見えるのは何故なんだろうか……
やっぱり顔がアレだから、かな?
「……それじゃあ、行こっか‼︎」
部屋の鍵を私が閉め、管理人の守屋さんの部屋の前を通る。すると私達の足音が聞こえてたのか通りかかってすぐに部屋から出てきた。
「お〜、二人とも似合ってるねぇ。入学式頑張ってくんだよ」
「はい‼︎ 行って来ます、守屋さん‼︎」
「行って来ます、管理人さん」
二人で恋人繋ぎをしながら通学路を歩いている今日の間は、あまり喋らない様にしている。今日が入学式だからこそ緊張した空気を味わいたいのもあるけど、やっぱり浮かれた気分で入学式を迎えたくないのもある。
だから大学に入るまで、本当に一言も喋らずに登校した。
「いや〜、緊張するなぁ……」
今年から大学生でもあり、立派な成人でもある私達にとっての新生活。この先どんな人生が待ってるのか、私には分からないし風玲亜ちゃんにも当然分からない。
でも、一度きりの人生を絶対に無駄にしたくない。立派な大人になりたい。その為に私は進学を選んだ。
一星大学で絶対に、自分の明るい将来を掴みとるんだから……‼︎
《只今より、令和四年度、一星大学入学式を行います》
学校長による生徒の読み上げが始まる。今まで大学の入学式について何も知らなかったから、小中学校みたいに学生一人一人の名前を読み上げていくのかと思っていたけど、どうやら違うみたい。
各学部の代表一名の名前を読み上げて、そのまま新入生を祝福するみたい。ちなみに私は歯学部なんだけど、歯学部の代表にはなれなかったよ……
あっ、でも法学部の風玲亜ちゃんは見事代表に選ばれたから大きな声で名前を呼ばれるね‼︎
『法学部代表。日向、風玲亜』
「はい‼︎」
この後はもう、淡々と進行するからカットで良いよね?
それじゃあ、これから私はもっと真面目になるからこの後は皆の想像に任せるよ。
《続きまして、新入生代表による挨拶のスピーチです》
あっゴメン、やっぱカット無しで‼︎ 風玲亜ちゃんのスピーチは絶対に聴きたいからね‼︎
『初めまして、新入生代表の日向風玲亜です。私達は今日からこの一星大学の一員となります。ここには高等学校までに出会ってきた人以上の出会いの可能性があります。私達はそのチャンスを掴み、自らの糧としていけるよう、一日一日を大切に過ごしていきます。また、ここまで育ててくれた両親に感謝して学びを深めたいと思います。そして、学びの機会を与えてくださった一星大学にも感謝します。私達は多くの事を学ぶ機会を得ました。これからそれを活かせるかどうかは自分次第です。この貴重な年月を大切に過ごしていきたいと思います。以上で挨拶とさせて頂きます』
風玲亜ちゃんが深くお辞儀をすると同時に、私を含む新入生と在学生からの熱い拍手が送られる。あんなに長いスピーチを一度も噛まないで演説するなんて、流石風玲亜ちゃんだよねぇ〜。これは私も負けてないねっ!!
と、その時だった。
「…………ッ‼︎」
風玲亜ちゃんが一瞬だけ、私の目に視線を向けてくれた。そして周りに気付かれない程度に優しく微笑んだ。
“あぁぁ〜〜〜〜〜〜‼︎‼︎”
悶絶しそうになった私の身体を必死に心の中で抑えて、平然を装った。
《以上で令和四年度、一星大学入学式を終了します。新入生はこの後学部説明があるので担任の先生の指示に従い、学部毎に移動して下さい》
ここで風玲亜ちゃんとは一旦お別れかぁ。でもこのくらいで寂しくなる訳にはいかないよ……
私はもう、立派な大人だからねっ‼︎
それから学部説明が終わって、トイレで緊張をほぐしながらここまでの情報をまとめる。そして纏まったところで私は驚いた。
“まさか一年生のやる事は義務教育と変わんないとは…… オープンキャンパスでブラッディが歯学部の説明をふざけてたのはわざとじゃなかったんだ”
あの時は歯学部について「歯について学ぶ場所」としか言われなかった。でもそれは一年生がする事を知ってて、それを知って私がショックを受けない為のブラッディなりの優しさだったんだね。
そして今、私はたった今ショックを受けた。割と良いパンチを受けた感じ。
「あとは時間割の設定や明日からクラス分けのテストや新入生歓迎会がまってるのかぁ。盛り沢山過ぎてどっか忘れそうかも……」
スケジュールを確認しながら玄関前で風玲亜ちゃんを待ってると、誰かが脇腹をつついた感覚があった。
「うぅっ、ソコ弱いからやめて……」
「……あぁゴメン、じゃあ次から声かけにする」
ハッキリだけどか細く、なのに透き通ったこの声はブラッディだね。
「お疲れ。入学式を頑張ったあかりとフレアに、私からのプレゼントを」
そう言いながらブラッディが、一枚の紙を手渡した。目にした時から気になったからその場で読んでみる。
《三ツ星シェフ主催、入学式お疲れ様会の招待券》
……おぉ、ブラッディって実は人脈が広くて有名人なのかな?
「えっ、こんなの貰って良いの? なんか申し訳ないと言うかさ……」
「そんな事言わず、二人で来ても大丈夫。三ツ星シェフは灯だから」
「いや、灯さんかいッ‼︎」
私を期待させといての裏切りを見て笑ってそうなブラッディに、ややテンション高めのツッコミをかましてやった。
「分かってるかもだけど、場所は百合園荘の灯の部屋。今晩ずっとそこで灯が料理を振るまうって」
灯さんの手料理かぁ、思えば一度も食べた事が無かったね。
「うんっ、じゃあ風玲亜ちゃんと一緒に六時過ぎにお邪魔するね‼︎ じゃあまたねブラッディ‼︎」
「……うん、また夜」
ブラッディは灯さん達とは帰らずに一人で帰った。それからしばらくして風玲亜ちゃんが玄関にやって来た。
「ごめんなさいあかり、待たせてしまいましたか?」
「ううん、全然待ってないよ。私も今来たところだから」
とっても有名過ぎるお決まりのセリフを返して、本題に入る。
「ねぇ風玲亜ちゃ––––」
「ところであかりは、こんなものを貰ってますか?」
私が喋り終える前に風玲亜ちゃんは、さっき私がブラッディから貰ったのと同じ紙を見せた。
「うん貰ってる。三ツ星シェフが作る料理を堪能するんだよね」
「そうなんですよ! 百合園荘に三ツ星シェフがくるなんて、夢のようですね‼︎」
……あ、コレもしや風玲亜ちゃん天然なのかな?
「あの、風玲亜ちゃん……」
「ん、どうしました?」
風玲亜ちゃんの目を見てみる。そしてこの後のセリフを言うかどうかためらってしまう。
「……いや、なんでもないよ」
あんなにキラキラした目をしてたら、ホントの事が言えないよ‼︎
「とりあえず、帰ろっか風玲亜ちゃん」
二人で百合園荘に帰ると、守屋さんが掃き掃除していた。
「あ、おかえり〜。入学式どーだった?」
「えっと〜、なんだか入学した実感がまだ無いですね……」
「そっかぁ〜、そりゃお疲れ様だね。まぁその内慣れるからさー、ストレスで倒れない程度に頑張んな」
守屋さんとはここで別れて私達二人の新居へと戻った。ちなみに灯さん達とは部屋が隣同士だから、もし灯さんのテンションが最高潮に達したらこっちの部屋まで聞こえてくる。
昨日の夜なんて、私達が入学する事で盛り上がってた灯さんの声が五分程聞こえてて、聞いてて恥ずかしかったし……
「さてと、時間割の設定をしないとね。私の学力も高校の時より上がったから、余裕もって単位が取れそうだし」
二人でお喋りをしながら時間割を作っていく。こういうのは前々から簡単に考えていたから、すぐに終わっちゃった‼︎
「出来たー‼︎ しかもまだ昼一時前だよー‼︎」
思ってたよりも早く終わっちゃったし、風玲亜ちゃんも早く終わってやる事なし‼︎
……と、言うことは?
「ねぇ風玲亜ちゃん、一緒にお昼作ろうっか‼︎」
料理中、スピーチで緊張して疲れてるはずの風玲亜ちゃんを間近で見てるけど、もうそんな様子が見当たらないんだけど……
なんかもう平然としているし、既に大学生の自覚がある感じがあるっ‼︎
「あかり、野菜切れましたよ」
「あっ、うん。じゃあフライパンに入れてくれる?」
ちなみに私達が今作ってるのは野菜炒め。中華をイメージして味を濃いめにしてみたけど、そもそも中華の味ってこんなのかなぁ?
「とりあえず味見味見っと…… うん、いい感じ」
あとはお皿に盛り付けて、お米を盛り付けば完成‼︎
『いただきます‼︎』
二人で同時に手を合わせて、お昼を口にした。
「〜〜〜〜ッ‼︎」
美味しいッ‼︎ 食レポする必要なんかないくらいに美味しいよコレ‼︎
『ごちそうさまでした‼︎』
二人で皿洗いも済ませたし、次に待ってるのは……
「夜まで自由だね。じゃあ私は予習でもしておこっと」
夜から始まる自称三ツ星シェフの灯さんによる入学お疲れ様会まで、とりあえず教科書を開いて勉強していった……
「お邪魔しまーす、灯シェフはいますかー⁉︎」
台所で可愛いエプロンを身に付けた灯さんが、慣れた手つきでフライパンを揺らしていた。
「あかりさん、風玲亜さん、入学式お疲れ様です」
テーブルに料理を並べている輝夜さんが、見栄えを確かめながら挨拶を交わす。
「……おつかれ」
ブラッディは…… 冷蔵庫の隣で直立している。アレってどういう意味?
「ブラッディ、ケチャップ‼︎」
「あいさー」
冷蔵庫を開けた瞬間に手を入れ、ケチャップを手に取ったかと思えばすぐにフタを開け、灯さんが作った料理の上にケチャップをかけた。
「はいっ、ハンバーグの出来上がりだよ‼︎」
そして灯さんが盛り付けた料理をよく見てみると、パーティ会場でよく見かけるオードブルがテーブルに並んでいた。
「さぁ、どんどん食べて良いからね‼︎ おかわりしたかったら私に言ってね‼︎」
「ありがとうございます灯さん、それじゃあ早速……」
「あの、えっと…… あかり?」
風玲亜ちゃんが辺りを見回しながら私を呼んだ。
「三ツ星シェフは、どこにいるんですか?」
「えっ、三ツ星シェフならそこに……」
自称三ツ星シェフの灯さんに手を向けて存在をアピールさせる。灯さんは得意気にドヤ顔をしているのを見た風玲亜ちゃんは、ボッと顔を赤くして顔を隠した。
「……天然」
ブラッディがわざとっぽく言うと、風玲亜ちゃんが少し涙目になった。
「わ、忘れてください……‼︎」
「えぇ〜、忘れてと言われても私達かなり記憶力あるし……」
「うぅ……」
灯さん達に恥ずかしい一面を見せてしまった事で赤面しっぱなしの風玲亜ちゃん。実は天然なトコロがあるだよね〜風玲亜ちゃんって。
「ん〜と、とりあえず座って食べようか。あかりちゃんも風玲亜ちゃんも座って」
「ブラッディは写真をお願いしますね」
「うん、任せて」
それからしばらく私達はオードブルを囲んで盛り上がった。灯さんと輝夜さんはお酒をまだ一杯しか呑んでないはずなのに、既に酔ったのかブラッディに鼻眼鏡をさせたり一人コントをさせたりと無茶ぶりをさせてついに怒ったブラッディが、仕返しに灯さんの頭をポコポコ叩いたりと色んな事をして盛り上がった。
あとはシメに王様ゲームをしたんだけど、私は一度も王様役が出来なかった。
「……私が王様。全員幼女になって」
そしてブラッディが王様になる度、私達は恐怖で抱き合う事しか出来なかったです…………
「今夜はどうもありがとうございました。明日から頑張っていきますね! それじゃあおやすみなさい灯さん、輝夜さん‼︎」
楽しい時間もあっという間に終わり、夜の十時前に解散して部屋に戻った。寝る準備をしながら風玲亜ちゃんが隣に入ってきた。
「ねぇあかり、灯さんって三ツ星シェフの称号を獲得してるんですか?」
「ううん違うよ、あれは灯さんの演出だよ。自称三ツ星ってところかな」
「そ、そうだったんですか……」
「いや~それにしても、まさかあれを本気で信じちゃうなんて風玲亜ちゃんったら可愛いんだね〜‼︎ まだまだ子供なんじゃないの〜?」
「い、言い返せない……」
……まぁ、このくらいにしないと拗ねちゃうからね。何事も加減が大事、優しくしないと。
「じゃあ明日に備えて寝よっか。おやすみ風玲亜ちゃん」
「おやすみ、あかり……」
明日も、良い日になるといいなぁ~。
そして次の日はクラス分けの為のテストの日。それが終わったら午後から新入生歓迎会を各学部毎に行うみたいなんだけど…………
「あっ、ここでやるみたいだね。もうそろそろ開会式も終わって自由行動になるから、誰か一年生の知り合いを作りたいなぁ〜……」
そんな事を考えながら先輩の前置きが終わった途端、先輩達のテンションが激変した。
「おーいオマエラぁ、ノってますかぁーー‼︎!?」
『ウェーイ‼︎‼︎』
うわぁ〜、先輩達全員がチャラ男からバブル女までよりどりみどりのパリピ軍団なんだけど…………
「盛り上がってますかぁー‼︎!?」
『ウェーイ‼︎‼︎』
「スーパーパリピターイム‼︎‼︎」
ど、どうしようコレ。周りと一緒にノらないと先輩から怒られたりしないかなぁ?
だってホラ、隅で無表情で周りに合わせてる人とかいるし。絶対ここで先輩からの印象が決まりそうで本心を抑え込まれそう……
「…………ねぇ」
おっと、背後にいつの間にかブラッディがいたんだ。でもこういう時のブラッディはありがたいよ‼︎
「うわぁ〜ん、ブラッディ‼︎ 良かったぁ、先輩達のテンション嫌いなんだね〜」
「まぁね。うるさいし邪魔」
「邪魔って事は、静かな所に避難してるって事だよね? そこに灯さんもいたりするかな?」
「うん、いる。こっちだから付いて来て」
ブラッディに手を引かれながら先輩達の間を通り抜けていく。通り抜けていく一瞬にも色んな先輩達何人かと目が合ったり、避けてくれたりした。
『こんにちは!! もしかして新入生なのかな?』
「あぁハイ、今年度から一年生に……」
向こうから話しかけてくれる明るい先輩もいれば……
「こんにちはー、私は月宮――――」
『あっ、連鎖繋がってなかった…… ここもっと見直すべきだったか……』
人の話を聞いてなさそうなゲーマーの先輩もいた。
「……ブラッディ達って、凄いんだね」
「……いきなり何の話?」
まぁ二人の先輩の顔と声はきちんと覚えるとして、そのままブラッディに手を引っ張られながら灯さんのもとにやって来ると、見知らぬ人が灯さんと楽しげに話している。
「あっ、あかりちゃん‼︎ もしかしてあかりちゃんもうるさいの苦手?」
「えぇハイ、パリピ軍団はちょっと……」
「そうかそうか、ならウチらんトコでゆっくり話そうか〜。あ、ウチは灯とおんなじ三年生の谷間優言うんや。これからもよろしくな」
「は、はい。よろしくお願いします、優さん……」
おっとりとした関西弁と豊満な胸が特徴的な優さんとしっかり握手して、私は優さんのすぐ隣の席に座った。
「それにしても灯さん、あの人達は大学デビューを間違えたのではないでしょうか? 大学生っていう肩書きがありますけど、それはあくまで肩書きなだけで実際には立派な成人。つまり私達全員が大人なんですよ? あの人達ってこれが終わってもうるさかったりするんですかね……?」
音楽とかが全く流れてないのに喋ってて聞き取れてるか不安になるうるささ。でもなんとか灯さんは聴き取れてたみたいだよ。
「う〜ん、まぁ確かにアレ見てるとそう思っちゃうよね…… でも歓迎会が終わったら、意外と大人しく帰るんだよねぇ〜」
やっぱり歓迎会を二回経験しているだけあって、もう既に慣れてる様子を見せる灯さん達。大学が用意した一口サイズのお菓子を時々口にしながら会話を進める。
「いや〜、この娘を見てると一年生ん時の灯たちを思い出すなぁ。あかりみたいにえらい盛り上がってる人達を掻い潜ってウチんトコ来たもんな〜。ホンマ懐かしいわぁ〜……」
「えぇ〜、ユウまだ覚えてたの〜?」
「そりゃ流石に覚えてるで〜、歓迎会場で浮いてたウチに向こうから話しかけてくれたおかげでウチと灯に輝夜とブラッディとは友達になれたし、あぁいうバブリーなノリノリパリピ軍団に捕まらずに済んだし」
その後は数分ほど灯さんと優さんとの思い出語りで盛り上がって、私は隣でただ頷くだけ。
私は、このままで良いのかな? こんな事してたら駄目なんじゃ……
「……………………」
“そう言えばブラッディがさっきから静かだけど、大丈夫かなぁ?”
少しだけ横目でブラッディを覗くと、ブラッディは俯いてグッスリ爆睡していた。しかも心地よさそうな寝息を立てながら。
「寝てるッ⁉︎」
「あぁ、ブラッディはこのイベントが嫌いだからいつもこうしてるんだよ。だからあんまり気にしないでね」
と、灯さんが教えてくれたけども……
私みたいに初見だと、どうも気になって仕方ないんですけど〜‼︎
『明日になる前にパリピテンションを落とせよな、みんな。それじゃあ解散だッ‼︎』
二時間くらいでパリピ軍団は普通の大学生に戻り、やっと静かな空間が戻ってきた。グッタリしているブラッディをおんぶしながらクラス分けの結果を見に灯さん達と一緒に広い廊下にやって来た。
「どうあかりちゃん、クラス見つかった?」
「私、三クラスになってますね。割と賢いクラスになれたのでは⁉︎」
「うっ、そ、そうだね……」
「えっ、灯さん…… まさか勉強が?」
何故か少し目を逸らす灯さん。そこへ優さんが追い討ちをかける。
「そうやで〜。ちなみに灯は六クラスやから、あかりの方が賢いな」
「わざわざ言わなくて良いのに‼︎」
そんなこんなでワイワイしていると、二号館から輝夜さんがやって来た。灯さんは飛び付く様に輝夜さんに抱き付くと、楽しく会話し始めた。
「ねぇねぇ輝夜ちゃん、あかりちゃんが思ってたよりも勉強出来てメッチャショックなんだよ〜」
「仕方ないですね、よしよし……」
灯さんが輝夜さんと話をしてる隣で、私と同じくらいの背丈の女の子が輝夜さんの隣で会話に参加している。そんな謎の小さな大学生が灯さんと輝夜さんの二人に入って会話してるあの人が誰なのか、すごく気になった。
「あの、輝夜さんの隣にいる人って法学部の人ですか?」
「えぇそうですよ。彼女は切谷鋏と言いまして、あかりさんの言う通り法学部の人です」
「どうも初めまして、あかり…… さんだっけ? わたしは切谷鋏。わたしの事は下の名前で呼んでも構わないから」
歩み寄って握手をするけど、その時にお互いの背丈を確認しあう。見た感じほぼ同じ背丈なんだけど、鋏さんの方が数センチ私よりも小さい印象があった。
ややこしい例えだけど、鋏さんの背丈は一五〇センチをギリギリ超えてると思う。
「月宮あかりって言います。今年度から歯学部一年になります!!」
何だろう、鋏さんから何か苦労に苦労を重ねて一星大学を掴んだ感じがあるよ。もしかしたら私よりも色々と強い人なのかもしれないね。
「あの…… 突然な質問で失礼かもしれませんが、鋏さんって兄妹がいたりします?」
「へっ⁉︎ いきなり何を言い出すのかと思えば…… えぇそうね、わたしには双子の妹が二人いて、よく妹達に読み聞かせしたりお姫様ごっこしたりしてるわよ」
なるほど、鋏さんには妹が二人いて、しかも双子なんだ……
「わたしはこう見えて家が貧乏なの。でもお母さんがわたしにココへのお金を出して、応援してくれたの。だからわたしは決めたんだ、ココを卒業して家族を支えてあげるんだってね……」
「そうなんですか…… ここまで来るのにすごく苦労されたんですね」
「えぇ、ホントに苦労したわ。理系がてんでダメだったからそこを重点的に勉強して、特待生としてやっとの思いで入学したチャンス。絶対に無駄にしたくないんだ……」
右手を握りしめる鋏さんの目は、熱い意識で燃えていた。私はそんな鋏さんが素直に凄いと思ったし、感動した。
「鋏さんは、家族の事がとっても大好きなんですね……」
「えぇ、当然よ。家族は大切な守るべき存在だからね。その為ならわたし、命だって賭けれるから」
うわ、カッコいい……
「……あかり、玄関に着いた」
ブラッディに言われて初めて自分の居場所を知る事が出来た。っていうか、コレって結構よそ見時間が長過ぎて危ないよね……
「あ、ホントだ。じゃあ私は風玲亜ちゃんを待ってるからココでお別れだね。では皆さんまた明日‼︎」
灯さんと輝夜さんとブラッディ、優さんや鋏さんに手を振って別れてからおよそ十数分後に風玲亜ちゃんが小走りでやって来た。
「お待たせしてごめんなさいあかり。新入生歓迎会の片付けで遅れてしまって……」
「あぁ全然大丈夫だよ。何となくそんな気がしていたから、謝らなくても平気だよ」
でもしっかり謝ってくれる風玲亜ちゃんも、私は大好きなんだよね〜。そんなしっかり者の風玲亜ちゃんと恋人繋ぎで百合園荘までゆっくり歩いてく。
「ねぇ風玲亜ちゃん。そっちで友達は出来たりした?」
「友達は一人出来ましたよ。確か切谷さんと言ってましたよ」
切谷さん、つまり鋏さんの事だね。
「鋏さんなら私も会ったよ。輝夜さんと同じ学部同士仲良くやってたよね〜。いつも私とブラッディが一緒にいる時みたいに」
「言われてみれば、確かにあかりはブラッディさんとよくいるのを見かけますね…… そう言えば、あかりはいつ頃から意気投合したんですか?」
「う〜ん、割と最近かな?」
「最近、ですか……?」
オープンキャンパス以来少しずつブラッディと仲良くなったけど、さらに仲良くなったのはつい最近だと勝手に思っている。
時々ブラッディにからかわれるけど、仲良しなのは誰がどう見ても変わらない事実だよね‼︎
……とまぁそんな当たり障りのない会話を続けていき、そのまま百合園荘に帰って来た。
「おかえり〜。歓迎会楽しかったかぁ〜?」
「とても楽しかったですけど、パリピ軍団がちょっとうるさかったです」
「そうかそうかー、まぁここはソイツらよりかは静かだからゆっくりしなー」
守屋さんに挨拶しながら自分達の部屋に帰って床に寝そべった。風玲亜ちゃんは帰ってすぐに着替えを始める。
「あっそうだ、風玲亜ちゃんは夕食に何食べたい?」
「では、あかりの得意料理が食べたいです! 何が自信ありですか?」
「そうだなぁ〜、強いて言うなら卵料理かな。親子丼でもオムライスでも、何でも言って!」
そして風玲亜ちゃんのリクエスト通りに作った卵料理は、玉子焼きと小さいオムライスなどなど。料理を作り始めた頃にはもう夜の七時を過ぎてたから、流石にガッツリしたものは食べられないという事でこうなっちゃった。
「さて、明日も早いから寝ようか。一緒に寝よっ、風玲亜ちゃん!」
「は、はい……」
夜の支度を済ませて、布団の片側を叩きながら勧める。そしたら風玲亜ちゃんは恥じらいながらも私の隣に入ってくれた。
「ねぇ風玲亜ちゃん……」
「どうしました?」
「風玲亜ちゃんってさ、もし私が風玲亜ちゃんの事を求めても怒らないかな?」
「……そんな事で怒るわけないじゃないですか。あかりが私の事を欲しいのなら、私は同じ位にあかりを欲しがっちゃいますよ?」
「えっ、それってつまりさ…… エッチしても良いって事?」
自分で言っといて顔を赤くしてしまう。でも風玲亜ちゃんはそんな私を見て、微笑みながら私を抱き寄せる。
「私達はもう大人の仲間入りですから、そういう事をしても良いんですよ?」
「風玲亜ちゃん…………」
お互いの顔を見合わせる。気の所為か心臓がいつもよりドキドキしている…………
“あぁ、風玲亜ちゃんがこんな近くに…………”
なんかもう、いちいち何か起きる出来事を細かく覚えていられなくなってきた。
…………それにしてもキレイだなぁ、風玲亜ちゃんって。
“……………………”
朝の日差しを受けて目が覚め、カーテンを開ける。
「う〜ん、今日も良い日になりそうだよ」
一星大学に入学してそろそろ一週間が経ってこの街にもだいぶ慣れてきた。星乃川市の今日の天気は快晴、これは絶好の買い物日和だね。
空になりそうな冷蔵庫を思い出しながら買い物リストを書き上げていく。書き忘れがないか思い出していると、いつの間にか風玲亜ちゃんが起きていた。
「おはよー風玲亜ちゃん、身体の調子はどう?」
「かなりいい感じですよ。あかりのおかげで今までで最高のコンディションです」
なんか風玲亜ちゃんからああ言われると、結構照れるなぁ。嬉しいのも勿論あるんだけどさ、なんかこう…… 複雑な気持ちって言うの? あんまり上手くは言えないけど、これは何とも言えない気分だね。
まぁ良いや。とりあえずリストを書き上げたから早速買い物へ向かおうっと、風玲亜ちゃんには留守番してもらって一人で行って来ます‼︎
「え〜っと、確か青果部門は入ってすぐ左だったね。それでニンニクはっと…… いいかげんに場所を早く覚えないとね」
高校三年生の職場実習でスーパーに一月も働いた経験がある私的には、このスーパーは割と配置が覚えやすいのに未だに覚えられない。部門の配置は余裕だけど、何処にあの商品があるか聞かれたらすぐに混乱してしまう。
「うぅ〜、少し恥ずかしいけど近くの店員さんにニンニクの場所を聞くしかないかな…… あのぉ、すみません。ニンニクを探しているんですが何処にありますか?」
『はいっ、ニンニクはですね…………』
若くてハキハキした声が印象的な女性店員の案内で、ニンニクの場所を教えてもらった。
「ありがとうございます、まだ野菜の場所が暗記出来なくて……」
『もし分からなかったら、また私に聞いて下さいね。遠慮しなくて良いから』
……なんかヤケに馴れ馴れしい店員だなぁ。声なんて灯さんみたいだし、名札なんて「もりの」って書いてあるし。
「…………えっ、もりの⁉︎」
思わず顔を凝視すると、目の前の店員が本当の本当にリアルで本物の灯さん本人だった。あまりにもビックリし過ぎて叫んじゃったよ……
「えへへ〜、驚いた? あかりちゃんは一人でお使いに来たのかな?」
「えっ、あ、あぁハイ。鍋とか作りたいと思ってたのでここへ買い物に。それにしても灯さんがここで働いてるとは思わなかったです……」
「あぁ〜、まぁそうだよね。あかりちゃんにはまだ言ってなかったからね、私ここでアルバイトしてるんだよ。講義がない日はここで働いて少しでも自立した生活を目指してるんだ」
「す、すごい……」
あ、マズイマズイ。灯さんはいま仕事中だった、早めに話を切らないと……
「あっ、じゃあ私はこの辺で。灯さんっ、これからもお仕事頑張って下さい!」
「うんっ、今日はありがとね〜あかりちゃん‼︎」
百合園荘までの帰り道に、私は灯さんの事を思い出していた。理由はもちろん大学生兼アルバイトについてだから、今の心境をみんなに伝えるとしたら……
「私もアルバイトをするとしたら、どんなバイトにしようかなぁ…… 灯さんと同じスーパーの店員にしようかなぁ、それかショッピングモール清掃員とかも良いかもね。給料だってそこそこ高いし色んな店の販売方法だって見られるし、何より星乃川市のモールがデカ過ぎる‼︎ これに限るよね‼︎」
ここに一人で初めて来た時なんて忘れもしない。昼四時頃に入って楽しんだ後に迷子になって、やっと出られた頃には夜八時過ぎになって風玲亜ちゃんに心配かけた一昨日の出来事。
もし風玲亜ちゃんと一緒に来てたら、最悪の場合迷子アナウンスが入ってたかも…………
《これより迷子のお知らせを致します。月宮あかりさん、月宮あかりさん。三階のゲームセンターにて日向さんがお待ちしておりますので、そちらへいらして下さい》
なんか良い年して公開処刑されてるみたいで恥ずかしいから、むしろ一人で迷子になっててラッキーだねッ‼︎
……ほっ、ホントだからね‼︎
「待てよ、灯さんがバイトしてるという事は輝夜さんも何処かでバイトしてるかも……」
その可能性は十分にある気がした。灯さんは行動力があるし、輝夜さんに影響されて自分も何かしようと考えたらすぐ実行に移すのがカッコいい所。
だから輝夜さんが何処かでアルバイトしているに違いないし、そうなるとブラッディも何処かで後を追う様にアルバイトしてるかもしれない。
“……まぁ、多分二人はきっと教える系だろうね。だとしたらオフの時しか会えないかな”
そんな事を考えていると、モールの広過ぎる屋内のとあるエリアを少し歩いた先にある本屋に見覚えのあるシルエットがあった。
「あの小さな人影は、ブラッディだね!」
本屋に入っていくブラッディの後を追って自分も本屋に立ち寄る。星乃川モールの本屋は初めて入ったけど、想像以上に迷う程の広さだね。この広さならきっと大抵の連載漫画も全巻揃ってるだろうね……
「えっと…… ブラッディは何処に行ったかな?」
週刊誌にはいない、青年誌にもいないし女性誌にもいない。となるとまさかだけど、よりによって成人コーナーにいたりなんてあるワケないよね⁉︎
「あっ、いた……‼︎」
成人コーナーのすぐ隣にある百合漫画コーナーに、ブラッディが目を輝かせながら買う漫画を選んでいた。
「ブラッディ〜、何買おうとしてるのー?」
ブラッディは私の声に反応して視線を向けてきた。その目つきは親にエッチな本を見られそうになった時の、思春期の男の子みたいにキョドキョドしていた。
「……なんでここにいるの?」
「なんでって、本屋に入るブラッディを見かけたから付いて来ちゃった」
「そんな動機で買い物の帰りに寄り道とか……」
あっ、そうだ。買い物の帰りだったの忘れてた。よく見てるねぇブラッディは……
「それにしても、百合漫画って思ってたよりも幅が広いんだねぇ〜。空気系とかも百合になるんだ、ちょっと意外」
「そう。百合は主に女性同士の絡みがメインであれば何でも百合になる。日曜の朝にやってる女児向け番組も見方を変えれば百合になる」
……それはちょっと強引な見方なんじゃないかな?
「ん〜、でもその言い方だとさ…… たとえば梨花ちゃんと沙都子ちゃん、あるいは梨花ちゃんと羽入ちゃんとの絡みも百合になるって事だよね?」
「…………まぁ、うん、なるね。うん、あの二人組達ならきっとなると思う」
ふっふっふっ、思った通りだよ。やはりブラッディは私が大好きなあのアニメが相当頭にこびりついて離れない様だね。カワイソカワイソ、なのです。
「……心の中で何か言ってるでしょ」
「いいや、言ってないよ?」
おっ、この流れはもしやアレを言うのかな? かな?
「…………[血の鞭]」
なんかボソッと言い出したと思ったら、何か手から血で作った鞭が出てきたんですけど⁉︎
「ごめんなさいッ、調子に乗りましたぁー‼︎」
その場で瞬間土下座をしてブラッディの怒りを鎮める。これで効果が現れるかどうかは運次第だけど、とにかくやるしかない。
「…………冗談」
……とりあえず、助かったかな?
「梨花達が可愛かったから許す」
「アレッ、これ私だけ許してないパターンじゃん‼︎」
数分に及ぶ謝罪で、何とかブラッディがまともに話を聞いてくれる様になった。今私が気になってるのはブラッディが手にしてる漫画だね。見た感じ少女達の何もない日常を描く漫画に見えなくもないけど、百合漫画なんだよね……
「ねぇ、ブラッディが手にしてるその漫画って一体どんなお話なの?」
その時だった。私はブラッディの目つきがオタクのその目になった瞬間を見てしまった。
「あかり、もしかしてリリチルが気になるの?」
普段のブラッディからは想像も出来ないくらいに、とても早口で心のこもった声色でグイグイと迫ってきた。
「いや、ホントに気になっただけで読みたいとまでは…………」
「この漫画はね、二〇〇八年九月から連載開始して今も続く長寿漫画なんだよ。アニメだって一期を二〇一二年に四クールで放送が始まって、二〇一五年に二期を四クール放送して今年の冬に念願の三期がなんと六クールも放送されるんだよ。でも原作ストックはまだたった半分しか消費してないんだよ。そもそもリリチルは原作とアニメ両方が神だし、アニメ制作会社も美少女アニメに定評のある作画工房が全シリーズ担当してて更に神なんだから。アニメ版ならではのよくあるアレンジやオリ展開も入ってるけどファンからは『違和感の無い良アレンジ』として好評だし、アニメ版で追加された設定が原作に逆輸入されたりしてるからアニメと作者、そしてファンとの間にある信頼関係もスゴイんだよ……‼︎」
待って待って。ブラッディって興奮したらこんな饒舌になるの?
ホントは聞き流したいけど、ちゃんと聞かないと後でガッツリ怒られそう……
「あ、ごめん。あかりにイキナリこの話は難し過ぎたよね」
「そうだよ‼︎ いきなりアニメの話されても全然分かんないって‼︎」
「それもそうだね…… それじゃあ、一巻からキチンと説明するね」
「何故にそうなる⁉︎」
根本的に違うし、そもそも私が言いたいのはそういう事じゃないんだけど‼︎
「リリチルこと『リリー・チルドレン』は小学六年生の“ヒメ”を主人公に色んな女の子達が集まってゆるくて可愛い日常を過ごすのが本作の大まかなストーリーなんだけど、ストーリーの最初である一巻では主人公とメインヒロインの“カノコ”とヒメの姉である“マヤ”の三人を中心に展開するんだよ。ヒメとカノコとの出会いのキッカケはヒメが一人で公園へ初めて来た時に話しかけてきた子が本作メインヒロインのカノコで、一緒にバスケをした事をキッカケにお互い仲良くなる所から始まっていくんだけど、ヒメはこの時まだ自分がカノコに対する恋愛感情には気付いてないのが大きなポイントなんだよ。だって一巻で誰かを好きになる恋愛またはラブコメ漫画は有り余る程に沢山あるからね。リリチルはまずそこで他とは違う事をアピールしてるんだよ。それからしばらくヒメとカノコとの何の変哲もない絡みが続くんだけど、その内ヒメの姉であるマヤが本格的に登場して恋愛のいろはをヒメに教え始めるんだよ。それでヒメはカノコに向けて教わった事を次の日に実践するけど、ヒメ自身が大人に対する憧れが強過ぎるがあまりクールなカノコには当然ヒメのアピールにはほとんど気付けないし、ヒメ自身もほとんど空振って終わってしまうんだよ。でもそこで諦めないのがヒメの良い所で、そこから普段通りにカノコと接すれば良かったんだと自分で気付くんだよ。まだ小学生なのにそういうところが凄いとあかりは思わない? それからヒメとカノコはよく頻繁に会う様になって、かくれんぼや缶蹴りに鬼ごっことかしてお互いに友達以上の関係になろうとした丁度絶妙なタイミングで新キャラが現れるんだよ。しかもコテコテの外人キャラだから読者にはもうインパクト抜群なんだよ‼︎ あ、ちなみにこの新キャラ登場回でリリチルは一巻の終わりになるから気になったんなら今すぐ四百円を持ってレジへゴーだよ。あぁでも一巻だけじゃ足りないかもしれないから五巻くらいまで一気に買った方が良いかもしれないね。ほら、最近の漫画って一巻が主にキャラの紹介で半分を占めちゃうから、かなり深い内容に到達するまでには何巻かストーリーが進む必要があるからね。だからアニメや漫画などの作品を観る前にきちんと作品を最後まで見ないと作品に失礼だからね、一ミリも観もしないでネットや他人からの情報を頼りに作品を異常なまでに批判するのは筋違いだし、作者やファンに失礼だもん。あかりはもちろんそんな人間なんかじゃないよね? でもまぁ聞くまでもないよね、あかりはそういう事をしないのは私が知ってるしあかり自身が批判の無意味さを知ってるからね。でも物は試しとして少しは読んで欲しい、前にあかりが私にアニメを勧めたように私からもあかりに漫画及びアニメを勧める。お互いが今よりもさらに仲良くなる為にも、お互いの好みはもっと詳しくなった方が良いと思う。あ、そうだ言い忘れてた。ちなみに私の推しは二巻の最初から出てくるフランス人の“ブラン”ちゃんと言って、小学六年生にして特技が乗馬のハイスペックガールなんだよ‼︎ ブランはヒメの事が大好きでいつも構ってちゃんみたいにくっつきに来るのが可愛くて可愛くて…… それにまだまだ読み進んでいくとどんどん新キャラも増えるんだよ。例えばヒメのクラスメイトで親友の“イノ”やテレビドラマに引っ張りだこの人気子役“サナ”にアニオリキャラのムードメーカーでアホの子担当“アオイ”などなど、挙げ句の果てにはクラスの担任とかも出るからリリチルは百合作品として私の最高の推し作品だよ。さっき読みたくなったらここで買ってねと言ったけど、お金が心配なら私の部屋にあるリリチルを遠慮なく読んでも良い。そうすれば分からない事があったらすぐに聞けるし各キャラの良さを私が直々に語れるからね。あとDVDも全巻揃えてるから私に一言さえ言えばいつ借りても良いんだよ。あかり達の部屋に置いておけば観れる時間に観れるし、あわよくばアニメに詳しくなさそうなフレアも意外とリリチルにハマるかもしれないからね。これぞまさに一石二鳥ってやつだね……‼︎」
あまりにも早口で熱弁してきたブラッディが、私からはもはやリリチルガチオタクの吸血姫ブラッディにしか見えなかった。
「へ、へぇ〜……」
もはやブラッディに圧倒された私が言える言葉は、これしかなかった。でもブラッディの話を最後まで聴いてみたけど、だんだんと興味が湧いてきた。
「えっと〜、とりあえずブラッディの持ってるDVDを借りようかな。とりあえず二巻まで借りても良いかな?」
「……じゃあ百円」
「ヴェッ⁉︎ お金取るの⁉︎」
「……冗談。無料だから安心して」
いやいや、ブラッディがたまに言う冗談がほとんど本気に聞こえるから怖いんだけど。でも私に対して冗談を言うのは、一体どうしてなんだろう?
「じゃあ私はこれからDVDを取りに行く。あかりは早くソレを持ってフレアの所に帰った方が良い、きっと待たせてるから」
「あっ、うん。じゃあまたねブラッディ! 部屋で待ってるから!」
「……うん、待ってて」
その時一瞬だけ見せたブラッディの表情は、はにかみや作り笑いなんかじゃなく女の子としての柔らかい笑顔だった。
やっと百合園荘に帰って来たけど、もう夕方になりそうな夕焼け空になってしまった。まぁ午後五時になりそうだし、実際には夕方と言っても良いくらいに良い茜色の空だよ……
「ただいま〜。ごめん風玲亜ちゃん、待たせちゃったよね?」
「待たせてなんかいませんよ。あかりが帰ってくる少し前に帰って来てるので」
えっ、そうなんだ。じゃあ良いっか。
「じゃあ早速鍋を作ろうっか!」
そして鍋作りがいよいよ始まりました!
「よしっ、それじゃあこれで後は煮込むだけかな。完成が楽しみだね!」
『ピンポーン♪』
あっ、今ブラッディが来たんだね。さっきDVDを持って来るって言ってたし。
「はい、どなたですか?」
あぁっ、けど私が出る前に風玲亜ちゃんが先に出ちゃった‼︎
「……フレア、こんばんは」
「あっ、ブラッディさんですか。こんばんは…… ところで、今日はどんな用事なんですか?」
私も急いで玄関に来てブラッディの前に立つと、ブラッディが風玲亜ちゃんに分かる様私に目を合わせて話を始めた。
「実はあかりとさっき外で会って、そこでDVDを貸す約束をしたから手渡しに来た」
ブラッディからリリチルのDVD二巻まで手渡しで貸してくれた。おぉ、これがアニメ版リリチルかぁ……
もう見た感じで分かるよ、これは絶対に良いアニメだって‼︎
「それじゃあ、私はこれで。灯に勉強を教えなきゃいけないから」
手を振りながら微笑んで部屋を出たブラッディを後にした私は、鍋が完成するまでの煮込み時間をアニメ視聴に少しだけ振る事にした。
パッケージをまじまじ見ていると、風玲亜ちゃんが私の隣からヒョコっと覗き込んできた。
「あかり、ブラッディから一体何を借りたんですか?」
「あのね、ブラッディのお気に入りで『リリー・チルドレン』っていう百合アニメだよ。随分前に私がブラッディに私が大好きな惨劇ループ系アニメを勧めたら、お返しにこのアニメを勧められたんだ」
再生機器に一巻のディスクを読み込んで、再生ボタンを押したら後はソファーに座るだけ‼︎
アニメ本編に入る前に音量を確認っと。ここは一軒家と違ってアパートだから壁が薄く、騒いだら隣の部屋にすぐ丸聞こえ。テレビの音とかで隣の灯さん達に音が漏れたりしたら大変だからね、そういう所とかはちゃんと気を遣わないと。
『私には、まだ好きな人がいない。これから出来るのか分からないし、そもそも出来るのかなんて分かるわけがない』
ふむふむ、この子は確か主人公のヒメちゃんだったね。妙に大人びた喋りなのが特徴的だね。覚えておこうっと……
「あっ、公園だ……」
「ん? 公園がどうかしましたか?」
「あっ、いや…… 何でもないから」
危なかったぁ〜、風玲亜ちゃんにネタバレしちゃう所だったよ〜……
『あっ…………』
そしてヒメが遠くから一人でバスケをするカノコを見つけ、胸をときめかせる演出を入れてすぐにヒメが心の中で喋った。
『……どうやら私、将来ずっと一人にならなそうな予感‼︎』
そしてリリチルのオープニングが入ると、アニメあるあるでよくあるオープニングでのキャラバラしが存分に入っていた。風玲亜ちゃんは表情一つ変えずに観ているけど、もしかしてこれが百合アニメだって気付いてないとかないよね?
……それにしても、私が今まで観てきたアニメって割とシリアスだったりトラウマ系アニメが多かったけど、こういうひたすら平和なアニメもたまには悪くないね‼︎
……でも、私の最推しは梨花ちゃん一択だけどね‼︎ そこだけは譲らないよ‼︎
「あのね風玲亜ちゃん、このアニメは少女達の日常を描く空気系アニメだよ。ドラマじゃ全く使用しないジャンルだから少し慣れないかもしれないけど、アニメ好きからの人気は火曜ドラマと同じ位に人気だよ」
「なるほど、日常を描くアニメなんですね。聞いてて少し興味が湧きました」
主人公のヒメが意中の相手カノコと出会った夜のシーンになって、ヒメの姉であるマヤさんとの会話に入った。
『ヒメ、ヒメ。ヒメ〜?』
『えっ、何おねーちゃん?』
『さっきからボーッとしてるけど、大丈夫なの?』
『うん、大丈夫だよ。何でもないから……』
するとマヤさんが頬を膨らませながらヒメのおでこを優しくデコピンした。こういう些細な演出も、きっと百合好きにはご褒美なんだろうなぁ……
ブラッディって、あぁ見えて結構ピュアで純粋なトキメキの持ち主なんだね。
『いまウソ吐いたでしょ。お姉ちゃんにはお見通しなんだよ?』
「なんかマヤさんの声、茅野さんの声にしか聞こえない……」
お姉さんボイスがとても似合うなぁ、この人の声は。もし私が声優を目指してたらどんな声として親しまれるんだろう……?
ロリ声、少女声、アホの子ボイス……
まぁ、いっか。
『あらあら、もしかしてさっき話してたカノコちゃんって子の事が気になるの? 気持ちは分かるけど、でもまだ一回しか会った事ないんでしょ?』
『うん…… でもヘンなんだよ。カノコちゃんの事を思い出すとね、なんかこう…… ポカポカした気分になるの。お姉ちゃんはこの気持ちが何か分かるの?』
『う〜ん…… それはきっと“恋”だね‼︎』
『来い?』
ヒメちゃんの頭の上に「来い?」と表示させて、ヒメちゃんの勘違いを演出している。
『ううん、人を好きになる気持ちの“恋”よ。お父さんとお母さんがお互いに愛し合ってるあの雰囲気を思い出してみて?』
そしてヒメとマヤさんの両親がラブラブなワンシーンを挟む。こういう誰もが幸せに満ち溢れた世界って、観てて良い気分の他に何もないよね。こういうのって、実に当たり前の事なんだけどね。
『ヒメはね、きっとカノコちゃんの事が“好き”なんだよ。あの子とお友達になりたいって気持ちも“好き”って事なの。もし次に会えたらしっかり自分の気持ちを伝えた方が良いよ? お友達になりたいって』
『おねーちゃん……』
そしてヒメがカノコに会う為に姉のマヤさんから色んな事を教わって次の日もう一度公園に行き、恋愛作品でありがちなセリフを立て続けに言って空振りで終わった。
さてと、こっからが後半だね。ヒメの姉であるマヤさんがカノコを背後から追跡するシーンから始まった。という事はカノコとマヤさんはもしかして学校が違うのか、学校は同じでもクラスが違うのかだね。
“あっ、カノコが服屋のオシャレな服を見て目を輝かせてる”
アニメで描かれている服がどれも可愛くて、何着か試着するカットを挟むというプロの仕事ぶりを見せてもらった。
うんうんっ、カノコすっごく可愛い‼︎ さすが女の子‼︎
『ふ〜ん…… カノコちゃんはとってもオシャレ好きさんなんだね。帰ったらヒメにしっかり教えなきゃね』
『あ、あの〜……』
『はいーッ‼︎』
あっ、マヤさんがカノコに見つかっちゃった‼︎ はたしてどうするマヤさん⁉︎
『いつまで私に付いて来るんですか? 言いたい事があるなら、ハッキリ言ってくれますか?』
『あの、えっと〜…………』
その後もマヤさんとカノコとの絡みがずっと続いて、最後に流れるエンディングが始まった。
『誰もが持つ花がある〜、何色にも染まらない白い花がね〜♪』
そしてスタッフロールが流れて、記念すべき一話が見終わった。本当だったらそのまま二話に入るけど鍋の調理がまだ途中だからね。だからアニメはここで一旦止めなきゃ。
「どうだった? 面白かったかな?」
「……え〜っと、一話だけだと面白いかどうかはちょっと」
「あぁうん、その気持ちよく分かるよ……」
風玲亜ちゃんには、まだリリチルがよく分からなかったみたいだね。まぁ私もまだ出だししか観てないから何とも言えないけどね。
「さてと、休憩はここまでにして鍋の仕上げに取り掛かりますか‼︎」
「風玲亜ちゃん、まだ起きてる?」
夜寝る前に風玲亜ちゃんに話しかける。
「えぇ、起きていますよ。どうかしました?」
「私ね、今日星乃川モールのスーパーに行ったら灯さんに会ったんだよ」
「灯さんに会ったんですか? それはどういう状況でですか?」
「灯さん、アルバイトとして働いていたんだよ。それを見て思ったんだけどさ…… 私も今年中にアルバイトでも始めようかなぁ〜って思ったんだよ。風玲亜ちゃんはアルバイトって考えてたりするのかな?」
「私もアルバイト、少しですけど考えてたりしますよ。あかりがいなかったお昼に輝夜さんの所にお邪魔してたんですけど、そこで輝夜さんが塾講師のバイトをしてる事を知りました」
「輝夜さんも……?」
「えぇ、輝夜さんは塾講師をしてて子供達に勉強を教えてるそうです。あとブラッディさんも英講師のバイトをして生計を立ててるそうです」
「そっかぁ、皆バイトしてるんだね…… 私やっぱり何かバイトしてみようかなぁ……」
「出来れば無理のない職種にした方が良いですよ。やりがいとモチベーションが無いと毎日仕事をする意味を見出せませんから」
「うん、そうだよね。でもまずは履歴書を書かないと始まらないよね」
「そうですね、まずはそこからですよね」
「……まぁ、その時になったらもっと深く考えるよ。おやすみ風玲亜ちゃん」
「はい。おやすみなさい、あかり」
“……………………”
少しだけ外をよそ見する。もう外は暗くて怖い雰囲気が漂っているのは、今日が珍しく夜遅くまでの講義だから。
午後五時過ぎまでやる講義はこれで二回目だけど、その時は風玲亜ちゃんと一緒だったから特に何とも思わなかった。でもね、今回は違う……
“風玲亜ちゃんが先に帰って行く……‼︎”
一星大学から出て行く人だかりの中に、風玲亜ちゃんの姿を見つけてしまった。あぁ、ついに私はこの一星大学から一人で帰る事になってしまった……
“まだあと九十分もここから出られないなんて、地獄過ぎる…… あぁもう、一刻も早く帰りたい‼︎ 帰りたい‼︎ でも勉強を疎かにしたくはないからね、とりあえず大嫌いな数字は何とか覚えなきゃ……”
そんなこんなで、やっと九十分もある地獄を耐え抜いた私に待ってたのは疲弊だけだった。本当は走って帰りたいんだけど、何だか頭がクラクラするからまともに走れない。玄関に向かうまで壁伝いで歩かないと辛い程にね。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
講堂から早く出て帰る為にも、さっさと帰ろうと体を起こした時にブラッディの姿を発見した。私が座ってた席は結構高いトコだったけど、ブラッディ自身の背丈の所為でいるのに気付かなかったよ‼︎
「おーい、ブラッディ〜‼︎」
よろよろ移動でブラッディのもとに来たら、ブラッディから少し後退りされた。それで割と傷付いた気がした。
「……おつかれ。勉強はどう?」
「いやもう追い付くのがやっとだよ。何で高校の時はスラスラ解けてたのか不思議に思う程だよ……」
「まぁまぁ。私もこれで帰れるから、二人で一緒に帰ろう」
おっと? へぇ〜、ブラッディから帰りに誘うとは。なかなか柔らかくなったもんだね……
「ちなみに私は寄り道する用事があるから、あかりも付き合って」
「あぁ、もしかして漫画とか?」
「うん、今日はリリチルのアンソロジーコミックが新たに出たのを買いに行く。アンソロジーは大々的に宣伝されないからね、ほぼ毎日あの本屋に通ってる」
「いや、割と漫画雑誌で結構デカく単行本の宣伝してるんだけど…… いや、アンソロジー本目当てだと話は別になったりするの?」
「うん。アンソロジーってだけでも色々あるから単行本自体の宣伝は少ない方。それに今回は久々の公認アンソロジーだからね、公認は原作で大きく宣伝されるから発売日を狙える……」
おっと、早速ブラッディの目つきが変わった。うんうん、戦いに挑む目つきだねコレは。
そして私はオタクモードに突入したブラッディと一緒に星乃川モールにある本屋に入り、沢山並んでいるリリチル公認アンソロジーをお互いに一冊ずつ買って、平和な顔を浮かべるブラッディを横目に近くのベンチに座った。
「……買えた。良かった」
「そうだねぇ〜。漫画にはあまり詳しくないけど、公認と非公認だときっと全然違うからね、一体どんな百合が楽しめるんだろうね‼︎」
「非公認とあんまり変わんない。たまにはっちゃけた内容が入ってるから面白いと思う」
「それ、非公認と分ける必要ってあるのかなぁ?」
……それにしても、さすが休日の夜。子連れの人が沢山いるし友達同士で来てる人が沢山いるよ。しかも夜だってのに制服姿で来てる人もいるし‼︎
『お姉ちゃん、今日はいっぱい遊ぼうねー‼︎』
『はやく、はやく〜‼︎』
『はいはい、急がなくても逃げないから大丈夫だよ』
ホラ見てよ、あそこにいる二人の姉妹がお姉さんを引っ張ってゲーセンに入って行ったよ。もしかして子供達に人気のアニメキャラのぬいぐるみ目当てかな?
「ねぇブラッディ。やってほしい事があるんだけど……」
「……何?」
「梨花ちゃんの声マネして」
「却下」
「いや、棒読みでも良いからやってよ〜」
ブラッディがジト目でこっちを見てきた。でも私は諦めずに期待の眼差しを送り続けてると、ついにブラッディがため息を吐いてイヤイヤながらもやってくれた。かなりの無茶振りだったのに、本当にありがとうブラッディ‼︎
「えっと、確か………… 『みぃ〜、今日も一緒に頑張りますですよ〜。ファイト、オー‼︎ なのです☆』」
「ホントにありがとうブラッディ‼︎ そして無茶振りごめんなさい‼︎」
宣言通りの棒読みだけど、それでもやってくれたブラッディに敬礼。
……って言うかブラッディの声って、どこか梨花ちゃんと声が似てるのは気のせいかな?
『惜しいー‼︎』
あ、あの子達の声が響いて聞こえてくる。そもそもゲーセンってすごく騒音がうるさいのに聞こえてくるって、どんだけ叫んでるの……
『いけー、鋏お姉ちゃーん‼︎』
「え、待って‼︎ 鋏お姉ちゃんってまさか⁉︎」
「……そのまさか、かも」
二人でゲーセンに足を踏み入れると、クレーンゲームのコーナーではしゃぐ三人の小さな女の子達がすぐに見つかった。その子達の真ん中にいる女の子の後ろ姿に、ブラッディと共にすごい既視感を感じていた。
間違いない、クレーンで遊んでいるのは鋏さんだ。そして両脇の女の子達が鋏さんの妹達だね‼︎
「ぃやったー‼︎ 落ちたー‼︎」
「ありがとう、鋏お姉ちゃん‼︎ 帰ったら早速遊ぼうね‼︎」
「こらこら、菜多も乃子も宿題がまだでしょ? 帰ったらまず宿題してお風呂だからね」
『はーい』
鋏さんがクレーンを後にした瞬間、真後ろに立っていた私達と目が合う。
「えっ、あ、えっと、ブラッディにあかりさん……‼︎ いつからソコに⁉︎」
いつの間にか背後をとられていた事に驚く鋏さん。一方で鋏さんの妹達は私達の事を全く知らないからか、無警戒でグイグイと迫って来た。
「ねぇねぇー‼︎ お姉ちゃん、もしかして鋏お姉ちゃんのお友達?」
「うんそうだよ〜、私はあかりって言うんだよ〜」
「……私はブラッディ」
「わたしは菜多で……」
「わたしは乃子だよ‼︎」
鋏さんの妹達の見た目、どっちがどっちか全く区別がつかないや…… あぁそうか忘れてたっ、この子達は双子だったね‼︎
「おっきい〜」
二人が私を指さす。
「……ちっちゃい」
そしてブラッディを指さす。
「白いお姉ちゃんって、どこの小学校なの?」
「……あのね二人とも、私は小学生じゃなくて大学生なの。分かる? そこの鋏お姉ちゃんと同じ大学生なの」
「大学生なのに何でちっちゃいの?」
小学生達の純粋で無垢なるダイレクトアタックで、ブラッディのライフがゼロになって心が折れてしまった。まぁでもブラッディって本当に小さいしね。一五〇センチ未満だし、なんなら鋏さんよりも分かりやすく背が低いし……
「えっと、あかりさんとブラッディは二人で遊びに来たのかな?」
「ハイ、私達は漫画目当てで……」
「……これから帰る」
「ねーねー、あかりお姉ちゃんはアレ取れる?」
痛ッ、痛い‼︎ 菜多ちゃんと乃子ちゃんがキャッキャしながらお互いに腕を引っ張ってくる‼︎
「待って、引っ張らないで‼︎ やるからさ‼︎」
帰ろうとしてたんだけど、鋏さんの妹達から体を引っ張られてしまいクレーンに付き合ってしまった。
「……それで、どれが欲しいのかな?」
『あれ‼︎』
ふむふむ、大きめのぬいぐるみかぁ。見た感じ取れやすそうだから一回でいけるかも……‼︎
「よ〜し、お姉ちゃんに任っかせなさ〜い‼︎」
お金を入れて、クレーンと景品との距離感をじっくりと確かめる。私自身クレーンゲームの腕前は自信がないけど、確実に取れる方法なら頭にある。
そして相手はポールに乗ってるだけのぬいぐるみだから、今回は引っ掛けからのひっくり返して落とすやり方を実行するよ‼︎
「よし、これでどうかな……?」
クレーンがゆっくりと落ちていく。取り方としては爪で掴むんじゃなくて、片方の爪を引っ掛けて景品ひっくり返す感じ。私だけじゃなく、菜多ちゃんや乃子ちゃんに鋏さんも私の挑戦を見守っている……
「……………………」
ブラッディは後ろにあるお菓子のクレーンをやっていて、かなりの数のお菓子を獲得していた。もしかして、この子達にあげるつもりなのかな?
「やった‼︎ 落ちた‼︎」
何とか一発で落ちてくれて、二人にプレゼントが出来たよ〜。これにて任務完了かな?
『あかりお姉ちゃん、ありがとう‼︎』
「……二人とも、ブラッディお姉ちゃんからのプレゼント」
ブラッディが二人に大量のお菓子を差し上げているけど、自分の事を「お姉ちゃん」って付け足してるあたり、まだ根に持ってるね。しかもお菓子で好感度を上げるというあざとい作戦をしれっとしてるし……
ブラッディ、あなたホント恐ろしい子だよ。
『あかりお姉ちゃん、また遊ぼうねー‼︎』
「それじゃあ、また大学で。お勉強頑張ってね」
鋏さん達は私達より先にモールを後にして、私達と別れた。
『また会ったら一緒に遊ぼうね、ブラちゃん‼︎』
そして、とうとうブラッディは二人からあだ名で呼ばれる程に仲良くなっていた。実際には胃袋を掴まれてるだけなんだけどね……
「ブ、ブラッディ…… 大丈夫?」
「……何とも思ってない」
ブラッディは、案外タフな心の持ち主だった。やっぱり向こうで酷い呼ばれ方されてたから、ちゃん付け程度じゃ怒らないんだね‼︎
「お菓子で釣れば、後はコッチのものだから」
「幼女を誘拐する人の考え方なんだけど‼︎」
「……でもさ、あかりは私の弱みを握ろうとしてたよね? 声が出ない私に梨花の声真似させて、隙あらば恥ずかしい写真撮ろうとしてたし」
「……そこまでしてないんだけど。少なくとも写真は撮ってない、と思う」
ブラッディはね? たまに迫真の表情で冗談を吐くからさ、コッチは脅迫されてる気分になるんだよ。分かりやすく言うと、頭のネジが外れた悪役と対話する感じだね。
「……無茶振りは一応これからもするけど、灯達の前では絶対しないから」
あ、無茶振りはしてくれるんだ。
「……え〜っと、その」
段々とブラッディの表情が普段に戻ってきた。そろそろおふざけモードになるのかな?
「……例えば、本物の力が見たい時は遠慮なく解放させてもらうから」
「あ、ソレは結構です」
「遠慮しなくて良いんだよ…… 血の魔法は半永久的に撃てるから好きな時や撃ちたい気分にあかりに見せれるし」
って、よく見たらブラッディが顔芸レベルのドヤ顔で手から血の魔法ってヤツを発動させてるし‼︎
「いや、やるなら外でやって‼︎ ここじゃマズイから‼︎」
それから私と軽く話し合って、その結果本当に外で血の魔法を披露した。実際によく見えたかどうかは外の夜景に聞いてね。
「……よし、じゃあ帰ろう。早く帰ってリリチル読みたいし」
「そういえば私達、ずっとリリチル片手に色々してたんだね。正直完全に忘れてたよ……」
星乃川モールを出て外を歩いてしばらくして、私達が赤信号に引っかかって待ってる間にブラッディがまた話し始めた。
「ところで、あかりは怖いのって平気?」
「うん、平気だよ。って言うか急な話題だね、どうしたの?」
「いや…… だってあかりは見た目に反してホラーやグロが平気なんでしょ? そういうのってさ、小さい頃から平気だったりするの?」
「う〜ん、まぁそうだね。あんまり覚えてないけど、私が幼稚園の頃にお父さんが借りたホラー映画をいつの間にか観てたらしくて…… お父さん曰く『すごく喜んでた』って言ってたよ」
「あかりの感性が壊れてるんだけど……」
「ちょっと悪口にも聞こえたりするのは気のせいかなぁ⁉︎」
『おーい、あかりちゃんにブラッディ‼︎』
遠くから、すごく声が高い女の人がコッチに走り寄って来た。
「……灯だ。仕事おつかれ」
「あっ、ホントだ。灯さんだ‼︎」
暗くて誰だかよく見えなかった…… 灯さん、ごめんなさい。
「何々〜、二人で買い物中だった? 何買ったの?」
「聞いて驚くな。私達は––––」
「あっ分かった‼︎ 二人でリリチルの漫画買ったんでしょ⁉︎」
まずいまずい、ブラッディが紙袋を見せびらかそうとしてた時に、灯さんが空気を読まずに答えを言ってしまった……‼︎
ブラッディと灯さんの間に、一秒だけの沈黙が流れた。そしてブラッディがした行動は……
「……あかり、下がって。ちょっと灯を軽く叩っ斬るから」
「うぇっ⁉︎ 何で答え当てただけで私斬られなきゃいけないの⁉︎」
ブラッディが多分冗談のつもりで血の魔法を発動した時、ギリギリ青信号になったから私と灯さんは奇跡的にお互いの命が救われた。
「…………さぁ。輝夜が待ってるから、早く帰ろう」
「いや、さっきまで私を斬ろうとしてたよね⁉︎」
百合園荘に着くまで、私とブラッディは灯さんを挟んで日常の話でいっぱい盛り上がった。灯さんはバイトでの体験談、ブラッディは新たに二人の友達が出来た事、そして私は星乃川モールで鋏さんと妹達に会った事をそれぞれ話し合った。
「それでね、最近寒い日が続く所為なのか野菜が沢山売れるんだよ。きっと鍋にする人が普段よりも多いんだよ‼︎ 野菜を売ってる店員の私としては、お客様はありがたい神様そのものだよ〜」
灯さんはバックヤードでは主に野菜のカット、そして店内では野菜の品出しや温度管理などをこなしてるらしい。しかも注文まで任されてるらしいから、もう灯さんは一人前の店員だと私は勝手に思っている。
「灯が働いてる間、私はクレーンでお菓子をまとめて頂いた。三百円で沢山獲れたから満足」
「えっ、ブラッディがお菓子を……?」
あぁ〜、やっぱり灯さんはブラッディがした話の意図を読み取れてないなぁ〜……
「あの、えっと…… 実はブラッディが鋏さんの妹達に自腹でお菓子をプレゼントしたんですよ。そしたら妹達はすごく喜んでブラッディに抱き付いたんですよ」
「へぇ〜、ブラッディって随分と子供に優しいんだね〜」
灯さんがニヤニヤしてる。きっとブラッディの好みを知ってて、ワザと言い回しを使ったんだ。
それをブラッディも直感で読みとったのか、無表情で灯さんに乗っかる。
「……まぁね、お菓子さえあげれば小さい子はみんな喜ぶから」
「あれっ、なんかブラッディがまともな返答してきたんだけど⁉︎」
「……私を何だと思ってる」
「昔も今も、幼女に目がない吸血姫だとばかり……」
“灯さんは今までブラッディをどんな目で見てたんですか……‼︎”
けど、やっぱりあれくらいで怒らないブラッディ。むしろ灯さんだから怒らないとかも、十分にありえるね。
「……否定はしない」
否定は、しないんだ……
「そうだっ、あかりちゃんも鋏に会ったんでしょ? 何か二人で一緒にしたの?」
「一緒にしたかと言われると、何もしてませんね…… 軽くお話したくらいですね。本当に会ってすぐ別れる程の短い時間だったし、実際は鋏さんとクレーンで遊んだくらいしか接してませんし」
「そっかぁ〜、あかりちゃんは鋏の妹達と遊んだんだねぇ〜。羨ましい‼︎」
えっ、いきなり灯さんが私がモールでした事を羨みだしたんだけど⁉︎
どゆこと⁉︎
「私もたまにはクレーンゲームがしたいよ〜‼︎ だって小さい頃に少しだけ遊んだくらいだもん、私だって可愛いぬいぐるみを一度くらいゲットしてみたいんだよ〜‼︎」
「灯には無理だと思う」
「いや、諦めるのはまだ早いよブラッディ‼︎ あぁいうのはね、やってみないと分からないんだからね‼︎」
「…………さすが底抜けのバカ」
かなり小声で呟き、それから微笑んだブラッディ。灯さんはブラッディが悪口を言った事には気付かず、微笑んだ所しか見えなかったのか……
「えへへ〜、やっぱり私はいつも前向きじゃないとダメみたいだね〜」
うん、これは沈黙が正解だね。
「……それじゃあ、私はこれで」
「またねブラッディ‼︎ 明日大学で会おうねー‼︎」
ブラッディと別れて二人きりになった私と灯さん。灯さんもこういう沈黙の空気が苦手なのか、私とほぼ同時に話しかけてしまい、その後順番に話し直した。
「えっと…… あかりちゃんはさ、帰ったらすぐ夕食かな?」
「はい、そうですけど……」
「そっかぁ〜、じゃあ今夜は優と三人でたこパかぁ〜」
「何だかごめんなさい、今夜は風玲亜ちゃんとの用事があるので」
「あっ、それはゴメンね。もしかしてエッチする予定?」
「そっ、そういうのじゃなくてですね……‼︎ その、バイトとか考えてまして。私も灯さんと同じスーパーの店員やろうかなぁ〜って」
「おっ、じゃあもし採用されたら私が色々教えてあげるね‼︎ 私が何でも教えちゃうから‼︎」
「あぁえっと、多分ですけど灯さんの助けは思ってる以上に必要ないかなと……」
「えっ、もしかして風玲亜ちゃんも一緒にそこに来るからとか?」
「すみません。実は私、高校の職場実習でスーパーの店員を一ヶ月やってたので……」
「えぇ〜、じゃあ私が教える事なんてないじゃん‼︎ っていうか、あかりちゃんにスーパーの経験があったなんて……」
それから二人で実習の話で盛り上がって、楽しく話している間に百合園荘にいつの間にか到着していた。
「それじゃあ灯さん、また明日学校で会いましょうね」
「うんっ、あかりちゃんもね‼︎」
隣同士の部屋の扉を開けて、私は自分の家にやっと帰ってきた。
「ただいま〜」
ふと気付くと、部屋中にいい匂いが充満していた。キッチンに目を向けると風玲亜ちゃんが一生懸命に料理していたからもう嬉しくて嬉しくて……
「あっ、おかえりなさいあかり。今日はあかりが遅くなりそうだったので、私一人でカレーを作ってみましたよ」
「ありがとう風玲亜ちゃん!! じゃあ早速食べようよ‼︎」
席について、一緒にカレーを一口。
「美味しい‼︎」
二人でほぼ同時に言ったかと思うと、次にカレーを口にするタイミングまで被った。やっぱり食事は一人よりも二人、二人よりも……
「ねぇ風玲亜ちゃん、皿洗い終わったら一緒にお風呂入らない?」
「えぇ、終わったら一緒に入りましょうね」
「ぃやったー‼︎」
そしてついに、百合園荘にある私達の部屋の小さなお風呂に二人の大学生が入る事になりました‼︎
ってか、なんか思ってたよりもかなり狭い‼︎
「えっと、その…… 何だかごめんなさい」
「いいや、謝る必要なんてないよ。これはむしろお互いの肌を重ね合えて良いと思うよ?」
「そっ、そうですね…… でもそう意識するとかなり恥ずかしいのは何故でしょう……」
それはね、風玲亜ちゃんがお互い裸で接してるからだと思うよ。
……なんて、言えたらなぁ〜。
「そういえば、あかりの裸をまじまじと見た事が無かったので初めて知りましたけど……」
「ん? 急に私の裸の話題?」
「あかりって、私よりも肌が柔らかいんですね。ちょっと羨ましいです……」
「えっ、胸より肌の質感見てたの? でもまぁ確かに風玲亜ちゃんの肌と比べたら私の肌の質感は目立つかな。それに加えて二十歳になっても顔が童顔のままだから、プールとか行ってもきっと子供扱いされそうだよねぇ~……」
「フフッ、そうですね。加えてあかりは地声がとても高いから、ちいさな子供達からはいつも好かれちゃいますしね」
「うぅッ、やっぱり大学生になっても周りから大人に見られないのはその所為だったか……」
私の顔は子供に見間違えられる程の童顔だから、大人な顔つきの風玲亜ちゃんが羨ましいよ。私より身体つきだって大人だからなおさらね……
「ねぇ風玲亜ちゃん。今夜ってさ、シても良いかな?」
「ちょっ…… 聞くタイミングが突然ですね……」
あっ、風玲亜ちゃんの顔が少し赤くなった。可愛いなぁ〜……
「でも私もちょうどシたかったので、お風呂上がったらシましょうね」
はいキタ、ラブミーラブユー‼︎
「それじゃあシよっか、風玲亜ちゃん……」
パジャマを着て布団に潜れば、あとはお互いに思いやりながらのエッチが始まる。今夜は私が攻めの立場で風玲亜ちゃんが受けの立場でする事で話が進んだ。
「はい…… 来てください、あかり」
風玲亜ちゃんが恥じらいながらも全てを許すポーズで私を待つ。私は今か今かと、はやる気持ちを抑えられずに風玲亜ちゃんへ手を伸ばす。
「…………ッ」
うわっ、可愛いなぁ。
「風玲亜ちゃん、大好きだよ」
さらに手を伸ばして風玲亜ちゃんに触ろうとした時、ふと隣の部屋が少しうるさい気がした。
「……灯さんと輝夜さんも、同じ事をしてるみたいだね」
「……素敵なカップルですね」
少し気が逸れちゃったけど、その後はお互いを愛し合いながら欲望の赴くままにしちゃいました。風玲亜ちゃんも、私も。
「ん〜…………」
気が付いた時にまず目に入ったのは、日の光が当たって光り輝く風玲亜ちゃんの綺麗な身体。あまりにも綺麗過ぎて見惚れていると、風玲亜ちゃんが目を覚まして私と目が合った。
「あっ、えっと…… おはよう風玲亜ちゃん」
「おはようございます、気持ちのいい朝ですね」
ニッコリ笑顔でおはようを言い合う。朝ごはんをのんびり食べて日曜日をどう過ごすか話し合っていると、風玲亜ちゃんは買い物と家事をする日になって、私は家事をお休みする事になった。
「今日は私に任せて下さいね、少しでも成長した私を期待してて下さい」
「うんっ、期待してるよ?」
外に出ていざ散歩…… と行きたい所だったけど、今日は何だかブラッディと遊びたい気分だね。今って空いてるかなぁ?
『〜♪』
ブラッディに電話をかけてみる。いつもならかけてすぐに反応するブラッディだけど、今回もすぐに反応してくれた。
「もしもしブラッディ、あかりだけど……」
『ん、遊びに行くの?』
「そうそう、ブラッディって今は勉強してたりする?」
『いや、もう終わってるから行けるよ。いつものモールにするの?』
「うん、そこで色々見て気に入った物を買おうと思って」
『……分かった、四十秒で支度する』
なんかどこかのアニメで聞いた事のあるセリフを言ってから本当に四十秒後、ブラッディが部屋にやって来た。
「……おまたせ」
しかもそれなりにブラッディらしい、可愛いおめかしまでしてるし。意外と可愛いしゴスロリ風なのがさらに高ポイントだよ。
「そっ、それじゃあ行こっか……」
星乃川モールまでは歩いて二十分くらいで着くから、着いてもまだお昼前になる。まずはウィンドウショッピングでもして、それから軽くお昼でも食べようかな。
「そう言えばブラッディ、あれから菜多ちゃんと乃子ちゃんの二人とは仲良くなったの?」
「うん、まぁそれなりに」
ブラッディは辺りを見回しながら淡々と返事している。というか、何かに怯えながら返事してない?
「まさかだけど、ブラッディあの子達が苦手?」
「に、苦手なんじゃ…… ない。少し付いていけないだけ……」
「あぁ〜分かる、分かるよそれ。子供って元気が無限にあるんじゃないかってくらい勢いがあるもんね〜。ブラッディがいくら幼女好きでも、やっぱり元気の塊には追い付けないんだね〜……」
「それとこれは違う。私は幼女が好きだけど幼女パワーに付いていけない訳じゃない」
「さっきと言ってる事が滅茶苦茶なんだけど⁉︎」
「あかりは幼女の良さをまるで分かってない。そもそも幼女の可能性というのは––––」
幼女の可能性について話し始めたブラッディの熱弁に耳を傾けながら歩き回っていると、とあるおもちゃ屋でブラッディが足を止めた。
「ん? どうしたのブラッディ、気になるおもちゃでもあるの?」
「見て、あれ……」
ブラッディが指差す先にあるのは、見ただけで分かる位にフワフワでモフモフしてるデフォルメサイズの人形達。
「……欲しいの?」
「いや、あの子達に餌付けとして使えそうと思った」
「餌付けって……」
でもまぁ、じっと見てて気になってきたから私も近寄って目を通す。カッコいいから可愛いまで何でも揃っているから、正直見てて迷っちゃうなぁ……
「あっ、ねぇブラッディ。リリチルグッズがあるよ」
「それはもう揃えてる」
流石ブラッディ、ソッチ系の行動力は灯さん以上だね〜。
「あかり、とりあえずあの二人の餌付けに使えそうな人形を二体ほど探してほしい。上手くいけば私の事をさらに好きになるかもしれないから」
「最後は随分とストレートに言うねぇ〜…… まぁ一応協力はするけどさぁ……」
とは言ったものの、菜多ちゃん乃子ちゃんが好きそうな人形の好みがどんなのか未だに確信が無いからなぁ。可愛い系かカッコいい系か動物系かを推理する必要があるけど……
「よくよく考えたら、あの子達ってまだ小学校の低学年だから可愛い人形が好きそうかもね。例えばこういう可愛くて魔族っぽいお人形とか……」
沢山ある可愛い人形コーナーの一部を独占している、一つのグループに目が行った。その子達は褐色肌の魔族っぽい人形と白い肌でメイド服を着た魔族っぽい人形の二人組で、大きさは四五センチ程の割と巨大なサイズ。そんな大きくて可愛い子達をセットで手に取ってブラッディへ持ち寄った。
「ねぇブラッディ、こういう人形なんてどうかな? まぞく人形‼︎」
「……いいね、すごく可愛いから喜ぶかも」
「すみません、これ下さい」
そして二人の餌付けとして購入した人形を持って、ファストフード店で昼食にした。ブラッディは食事が出来ない体質の為ただ座ってるだけだから、たまにすごい視線を感じて食べづらい時もある。
「その人形さ、こうして見てみると結構可愛いね〜。そういえばこの子達の名前ってそれぞれなんて言うんだろう? 見ないで買っちゃったから分かんないや」
大抵の人形にはちゃんとした名前があるはずなんだけど、私が名前を見ないで買っちゃったからブラッディが代わりに名前を見てくれている。
「……こっちの褐色肌がリリー、白肌の角持ちメイドがアスセナ」
「へぇ〜、リリーとアスセナって言うんだね~。もしかして二人ともアニメか何かのキャラだったりするのかな?」
「いや、多分違うと思う。少なくともアニメではないはず」
ブラッディはリリーをジッと見つめているけど、突然抱き寄せてすりすりし始めた。
「可愛い……」
「ちょっ、ブラッディ⁉︎」
「あっ、そうだった…… あの二人にあげるんだった」
危ない危ない、ブラッディもこういう人形が好きだから注意しないと。
「……もう一セット買おうか?」
「え、良いの?」
そして昼食を食べ終わって、もう一度おもちゃ屋でリリーとアスセナ人形を追加で買ってブラッディにプレゼントした。
「可愛いねぇ〜、二人とも」
ブラッディは目を子供の様にキラキラさせながらリリーとアスセナ人形を片方ずつ抱き寄せる。
「ところで、あかりはどっちが好きなの? 私はリリーだけど」
「私はアスセナかな。とっても優しくて献身的な性格してそうだし‼︎」
「それは分かる。一方でリリーは多分すごく強い、ものすごく強い。私と良い勝負かも」
「あの〜、なんか次元が違う話してない?」
このお人形を運良く二人にプレゼント出来ないかと、ゲームセンターに立ち寄ってみた。すると予想的中、菜多ちゃんと乃子ちゃんが鋏さんと一緒に遊んでいた。
「鋏さん、こんにちは〜」
「あっ、あかりさん‼︎ それにブラッディじゃないの‼︎」
鋏さんの声に反応して双子の女の子、菜多ちゃん乃子ちゃんがブラッディを見るなりグイグイ迫った。
「ブラちゃんだー‼︎ こんにちはー‼︎」
「こんにちはー‼︎」
ブラッディは紙袋に入った人形を落とさない様に抱えながら、菜多ちゃん乃子ちゃんに体を揺らされている。
「ちょっとやめて、揺らさないで……」
二人の元気を一時的に止めて、ブラッディはスッと人形を差し出した。
「二人にコレをプレゼント。中身はお人形だから」
菜多ちゃん乃子ちゃんは、それぞれ人形を手に取るとキラキラした目でリリーとアスセナを抱きしめた。
「ブラッディ、良かったね」
「うん」
二人が喜ぶ姿に見惚れていると、鋏さんが不安な顔で話しかけてきた。
「ねぇブラッディ、菜多と乃子に人形をプレゼントしてくれるのはありがたくて嬉しいけど…… 二体も買うなんて高くなかった?」
「大丈夫、お金はそれなりにある」
「そう……? どうもありがとうね。フフッ、早速二人とも人形で遊んでるわね」
菜多ちゃんはリリー、乃子ちゃんがアスセナを持って遊んでる様子を見てブラッディはほっこりした笑顔で眺めている。
……あっ、よく見たらブラッディの目つきがロリコンのソレだった。
「ほら二人とも、どんな物でも大切に使うのよ。優しく優しく」
「はーい‼︎」
二人の元気な声が重なる。さすが双子だね。
「じゃあ私達はこれで。今度大学で会ったら二人の話でも聞かせてくれませんか?」
「えぇ良いわよ。ブラッディと仲良くなった話とか、色々ネタもあるしね」
「……頼むからアレだけは話さないで」
「ほ〜う? それはブラッディから話を聞きたいねぇ……」
「じゃあ私の攻撃に耐えられたら、言ってあげないでもない」
「条件が人間用じゃないんだけど‼︎」
「アハハ…… じゃあ私達はこれで。またねブラッディ、あかりさん」
「あ、ハイ……」
「また明日」
私とブラッディの会話に付いて行けないと判断した鋏さんは、空気を読んでこの場から離れてしまった。その間に菜多ちゃん乃子ちゃんがブラッディと私に手を振ってくれたから、あまり微妙な空気にならなかった。
「えっと〜、どうする?」
「どうするって、何を?」
「とりあえず私はまだリリチル一巻を観終わってないし勉強も途中だから、もうそろそろ帰ろうかな」
「それなら、私も帰って二人を愛でようかな。リリーもアスセナも気に入ったし」
今の時刻は午後一時過ぎだけど早くもやる事がなくなった私とブラッディは、今日はこれでお開きにする事にした。これから大学だってきっと忙しくなるだろうし、大きな行事だって控えてる。
だからこうして毎日遊んでばかりだと、すぐに落第点をとって留年しちゃうかもしれないからね。少しは真面目に勉強する時間をたくさん作らないと……
「とりあえず帰ったらすぐ勉強して、息抜きにリリチルを残ってる話分観て、そしたらまた勉強して風玲亜ちゃんお手製の夕食を食べて、お風呂入って一緒に寝て……」
何だか昨日とあまり変わらない生活だけど、まぁいっか。風玲亜ちゃんも「嫌いじゃない」って言ってたしね。
まだまだ大学生活は始まったばかり。今は楽しい事でいっぱいだけど、辛い事もきっとあるはず。でも私には風玲亜ちゃんがいるし、灯さんや輝夜さんにブラッディもいる。私には支えてくれる仲間がいるから頑張れるし、もっと上を目指せる……‼︎
この世でいちばん好きな人となら、私は……
「アイ、キャン、フライ‼︎‼︎」
どんな苦行でも出来るんだ‼︎
「お家で風玲亜ちゃんが〜、まっている〜」
だから風玲亜ちゃん、私をずっと見ててね‼︎
私は風玲亜ちゃんと肩を並べられる、最高のパートナーになってみせるから‼︎
「ただいまー‼︎」
そして私は今、人生で一番最高な時間を味わう為に……
青春を、人生を、そして二人の時間を。
楽しんでいきたいな。
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