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リレー ⑤ 貴様 二太郎

「きゃあああああ!!」


 瞬間、感じたのは経験したことのないような柔らかな感触。たゆんとして、ふわんとして、でもたしかな弾力もあって。


「へ? あ、うぇぇぇぇぇぇ!?」


 ヤバイ。ヤバイヤバイヤバイ! これ、今腕に押し付けられてるこれって、ちとせちゃんの――!!


「いあ……うぅ……」


 って、こっちもヤバイーーーー! どどど、どうしよう。僕、キイチ通してじゃないと2人以上の女の人となんて話せない!!


「あ、キミも参加者? よかった~、女の子ちとせちゃんだけみたいで困ってたんだよ~」

「あ……うぅ?」


 初対面の男――キイチ――にいきなり手を握られ、ボロボロの女の子はオロオロと僕たちを見てきた。


「いやぁ、困ってたんだよ。オレとタケルとちとせちゃんだけじゃ人数足りなくてさ。これでようやく合コン始められるよ~」

「いや、だから合コンとか言ってる場合じゃねぇだろ。だいたい、なんでそこに俺は入ってねーんだよ」


 キイチ、たしかにさっき話の途中で気絶させられてたけどさ……おまえ、まだミステリー合コンツアー信じてるの? あとオッサン、後半のそれは今どうでもよくない?

 なんて僕が心の中でツッコミを入れてると、ボロボロの女の子がキイチの手を引っ張り始めた。


「あう」

「なになに? あ、もしかして会場そっちってこと? おっけおっけ。じゃ、行こっか。タケルー、ちとせちゃん、行くよ~」


 ボロボロの名前も知らない初対面の怪しすぎる女の子と手を繋いで、ご機嫌な様子で歩き始めたキイチ。あいつの動じなさというか図々しさというか、本当に毎度感心する。そのオリハルコンメンタル、僕にも少し分けてほしい。


「だから合コンじゃねぇって言ってんだろ! お前、頭の中どうなってんだよ」

(たかし)さん。あの子、たぶん大丈夫です。見た目は別として、それ以外は怖い感じしないです』

「まあ、お前がそう言うなら。おい待て、合コンバカ」

 

 オッサンとミカちゃんもキイチたちの後に続く。


「わたしたちも行こ」

「はい、喜んで!」


 腕に感じるムニュって感触がさらに強くなって、つい反射で前屈みに。


「もしかして……具合、悪くなっちゃった?」

「いえ、大丈夫であります!!」

「そう? なら、キャリーお願いね。もう少しだけ頑張って」


 具合が悪いっていうか、体裁が悪いです。お願いだから今、絶対に下見ないでください。


「おーい、早く来いよー」


 ちょっと先から、ちとせちゃんのトーチを振り回すオッサンの声がした。さっきトーチ持つ係交替しててよかった。暗さにこんなにも感謝したの、生まれて初めてかもしれない。


 ボロボロの女の子は正面玄関には目もくれず、そのまま建物の壁沿いに歩いていく。しばらくすると従業員出入口かな? 飾り気のない、シンプルなドアの前で彼女は立ち止まった。

 そしてリングにいくつもの鍵をぶら下げた古風な鍵束を取り出すと、手慣れた感じでそのドアを開けた。


「あう!」


 入れってことかな? ていうかこの子、さっきから「あう」とか「うぅ」とかしか言ってないな。もしかして喋れない?

 

「もたもたしてると、またさっきの奴らが来るかもしれん」


 オッサンに急かされて慌てて建物の中へと入る。全員入ったところで、ボロボロの女の子が鍵を閉めた。


「明かりは……この状態じゃ、電気なんか来てるわけないわよね」


 ちとせちゃんは僕から離れると、真っ暗な廊下を見てため息をついた。


「自家発電機……なんて、あるわけねぇよな。廃病院とかだったらまだしも、オープン前に潰れたショッピングモールじゃなぁ」


 オッサンもため息混じりに呟く。


「ほらほら、いいから早く行こうぜ」


 1人能天気なキイチはボロボロの女の子の隣に……っていうか、いつの間にか手繋ぎから肩抱きになってやがる。あいつ、ホントどんなメンタルしてんだ!?


 今のところ行くあてもない僕たちは、結局またボロボロの女の子に着いていった。案内されたのは、かつては洋館の応接室かなんかだったのかな? 暖炉のある、クラシカルな洋風の部屋だった。


「それにしてもここ、ずいぶんと奇妙な建物よね。ここへ来るまでの間だけでも、まるで迷路みたいだった」

「どこにも繋がってないドア、途切れた階段……あれだ、ウィンチェスター・ミステリー・ハウスみたいだよな、ここ」


 かけられていた白い布を取り去ったソファへ腰をおろしたちとせちゃんとオッサンは、腑に落ちないって感じで顔をしかめてた。僕はキャリーをちとせちゃんの隣に置くと、彼女の座っているソファの端っこに腰をおろさせてもらう。

 ちなみにキイチはボロボロの女の子の名前を聞き出そうと、あれやこれやと話しかけていた。あいつ、ほんとすごいな。


 ようやく一息つけた。なんて、ちょっとほっとしたら……


「タケル? オマエ、なにモゾモゾしてんの?」

「いや……その……」


 やつが襲いかかってきた。


 尿意。


 ヤバい。あと少しは我慢できるけど、僕の膀胱の中は既に危険水位一歩手前。


「あ、わかった! タケル、オマエ暗いのが怖くてトイレ行けなくて我慢してんだろ」


 あああああ! ムカつくほど的確に当ててきやがった。

 そうだけど!! そうなんだけど……みなまで言わなくてもいいだろが。うう……ちとせちゃんの前でカッコ悪すぎる。


「ほら、行くぞ」


 僕が言い返すよりも先にキイチはトーチと僕の手を取ると、「ちょっとトイレ探してきまーす」と言って部屋を飛び出した。

 部屋を出るとき、オッサンの声がなんか聞こえたけど……ま、いっか。

 とにかくこの尿意をなんとかしたい。その一心で、僕はキイチに連れられ暗い廊下を進んだ。

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