リレー ③ LED
怪しげな三流マジシャン風の男が、珍妙な名乗りを上げると――隣にいた巨乳の女性・ちとせは、しばらく首を傾げていた。
が、突如「あっ」という声を上げ、ポンと手を打つ。
「鳥船……ジパング……思い出しました。
今ではすっかり干されてますが、5年くらい前までお笑い心霊番組でイキっていた、三流霊媒師っぽい芸人さんでしたよね?」
「干されてねー! 俺は断じて干されたりなんかしてねーぞッ!!」
マジシャン風の男、鳥船は一瞬にして演技をかなぐり捨て、抗議の声を上げるが……顔を真っ赤にしている所からして、自覚があり相当気にしているようだ。
櫻井ちとせ。おっとりした声なので第一印象「だけは」好感を持たれやすいが、どうもすでに腹に一物「アブナイ」何かが見え隠れしている。
だがその危うさに気づいたのは鳥船だけで、フリーター二人組の視線は彼女の胸元に釘づけであった。
「へ~ちとせちゃんって言うんだ~。可愛い名前だね~」キイチは満面の笑みを浮かべて鼻を伸ばし、デレデレしている。
「…………」対するタケルはどぎまぎしながら、チラチラと遠慮がちにちとせの胸を盗み見ている。実に分かりやすい、童貞特有の習性である。
「フーム。合コンに写真撮影……ねえ。あ、俺は一応、旅番組の取材で来たのよ。
……ともあれ、ここでノンビリ話し込んでる余裕はなさそうだな」
鳥船はすっかり素の状態に戻り、夜なのに怪しげなサングラスをクイッ、と上げて言った。
「へ? 話す余裕がないって、どーゆー事っすか」
キイチが不思議がっていると――不意に背後から金色のオーラに包まれた筋肉モリモリマッチョマンの変態守護霊が飛び出し、彼のみぞおちに一撃を食らわした。
『破ァ!!』
「あべしっ!?」
マッチョ幽霊のパンチは実際の攻撃ではない。だが……キイチを気絶させるには十分だったらしく、彼はカクンと意識を失い、マッチョに支えられるという何とも言えない絵面になった。
「ちょ……あなたイキナリ何してるのよ」呆れ声をちとせ。
『はっはっは! 遺憾な事に、キイチ君は霊感ゼロ! 私の姿が見えないからね!
状況把握能力のない彼がいちいち口を挟んできたら説明の邪魔になる。よって黙ってもらう事にした! ストーリー上の都合という奴さ!』
守護霊が憑いてる本人を黙らせる――問題行動にも程がある。一糸纏わぬ外見と同様、このマッチョも頭のネジがダース単位で抜け落ちているらしい。
『という訳だタケル君! キイチ君の身体はキミに任せた。
私はこれから、迫りくる霊的脅威に備えなければならない!』
「くっそ、またこのパターンか……!」
毒づきつつ、タケルはマッチョ幽霊に代わり気絶したキイチの身体を支えた。
どうやら彼は、似たようなシチュエーションを過去に何度も体験しているようだ。
「霊的脅威……」鳥船が周囲を見やると、あちこちから複数の足音が聞こえてくる。
『あひゃい! えひゃい! なななんかいっぱい聞こえますぅ!』例によってパニックを起こすミカ。
『こ、これ以上あたし耐えられません! 心臓止まっちゃいますぅ!』
「幽霊のクセに心臓止めんな。最初からねえだろっ!?」
さっきから声だけ聞こえる女性の声。
タケルもちとせも不思議がっているので、鳥船は「二人とも霊感あるみたいだから、ホラ。顔出して自己紹介しろ」と促した。
すると鳥船の右肩から、ひょこっと天冠をつけた黒髪の少女の顔が出てくる。典型的な幽霊スタイルである。
『あ、ど、どうも~はじめまして……武智ミカって言いますぅ。
あたしこういう怖いスポット、とっても苦手でして……宜しくお願いしますね~』
幽霊のクセに心霊現象が苦手。存在自体が壮絶な矛盾を抱えているミカだったが、隣にいる黄金マッチョ変態幽霊に比べれば常識人の類であった為、誰一人ツッコミを入れなかった。
『さぁ諸君! 残念だがお喋りしている時間はないぞ! 敵は間近に迫っている!
キミたちがもし生き残りたければ、私が戦っている間、廃村にあるショッピングモールを目指すんだ!』
「は……? こんな限界集落にショッピングモール……? そんなモノ存在するの……?」
廃村に全く似つかわしくないワードが飛び出したので、ちとせも不審がる。
『うむ! 元洋館を改装したものの、集客できずそのまま潰れてしまったがね。
ともかく、他の場所よりは安全さ。ちなみにサイレンを鳴らしたのもその建物だ。
具体的な場所は、そちらの幽霊のお嬢さんの案内に従ってくれたまえ!』
それだけ言うと、マッチョ幽霊は茂みの中に飛び込んだ。
物音から察するに、得体のしれない「霊的脅威」とやらとのバトルを繰り広げているようだ。
「何か分からんが、アイツが足止めしている間にショッピングモールとやらに向かうぞ。
ミカ! あのマッチョが案内できるって言ってたけど本当か!?」
『あ、はい~。サイレンが聞こえた方角に行けばいいんですよね? それだったら何とかなりますよ~』
「よっしゃお前ら。道中やべー霊に襲われるかもしれんから、一応こいつを持っとけ」
鳥船はタケルとちとせに、小さなスプレーを投げて寄越した。
「えっと……これは……○ァブリーズ……臭い消しの?」
「そ。ファ○リーズ」
タケルはぽかんとした顔になった。
かなり胡散臭い。市販品の消臭スプレー。「除菌用」の「菌」の字にバツ印が書かれ、その上に「霊」と手書きされているだけの代物だ。
「こんなの、役に立つのか……?」
「馬鹿にしちゃイカンぞ。○ァブリーズが除霊に使えるって話、聞いた事ねーか?
手軽に持ち運べて手軽に使える。除霊道具としては実にリーズナブルなんだよコレが!」
「昔、ネットで見た事あるけど……ネタだと思ってたよ」
『ネタじゃありませんよ~。ホラ、神道なんかで穢れを祓うとき、清めたまえ~とか言うじゃないですか。
悪霊の類は穢れに宿るとされていて、寄せ付けないためには、身の周りをお掃除するのが一番効果的なんですっ』
「わたしも半信半疑でしたが……生の(?)幽霊さんに言われると、説得力半端ないですね」
ミカの力説に、ちとせも納得してしまったようで頷いている。
『あ、くれぐれもあたしに向かって吹きつけないで下さいね~。あくまで追い払うだけで、成仏する所まで行かないんで』
タケルも正直信じられなかったが――結局ないよりはマシだと考え、スプレーを受け取る事にした。
かくして、鳥船とミカに尾いていく形で、タケルとちとせは道なき道をひた走るのだった。




