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リレー ① 天界音楽

 夜の闇を裂くように、廃村の空にサイレンが鳴り響く。

 いきなり耳に飛び込んでくる音に驚いたタケルは、思わずスマホを取り落としそうになった。


「っ!」

「うわっ、うるさっ! うるせーーーーー!」


 タケルの横ではサイレンに負けない声量で、金髪の青年が耳を押さえて叫んでいる。


「いや、どう考えてもおまえの方がうるさいんだけど。やめてくれる、それ」

「あっ、女の子!」

「え?」


 タケルは金髪の幼馴染を振り返った。底抜けにバカでスケベでヤリチンで、『合コンミステリーツアー』なんかに騙されてこんな場所に捨てられるマヌケではあるが、キイチの視力は確かだ。


 だが、こんな村のこんな状況に外に出ている女の子とは……?


 タケルが周囲を見回してみても、キイチの言う「女の子」の姿はどこにも見えなかった。


「キイチ、それって……」

「やっぱ会場ここでよかったんだって! おーい、そこのお姉さーん!」

「ちょ、おいっ!」


 いきなり走り出したキイチをタケルは慌てて追いかけた。

 ただでさえ真っ暗な道だが、そこを外れて雑草の生い茂る空き地に入っていく。地面はでこぼこしているだけでなく不気味に柔らかくて、タケルは何度も足を取られそうになった。足取りの軽いキイチと比べると明らかに日頃の運動量が不足している。


(くっそ! その女の子、本当に生きてる子なんだろうなっ!? あと、女の子なのかお姉さんなのかハッキリしろよ! バカ野郎!)


 タケルは心の中で叫ぶと、スニーカーに包まれた足を泥から引っこ抜いて、キイチの明かりを頼りに走って追いつく。そしてそのバカはというと、納屋のような建物の前に立ち、だらしない表情でどこか言い訳のような言葉を中に向かって発していた。


「ビックリさせちゃってゴメンな。オレぇ、なんか気ぃついたらこの辺に置き去りにされててさぁ~、『あっ、ヒトだ!』って思ったら、いてもたってもいられなくなっちゃってぇ~。いや、ホント、脅かすつもりはなかったんだって! キミみたいなカワイイ子を、さ……」


 出会ってすぐにコレである。まるで深夜のコンビニ前でナンパでもしているみたいな気軽さだ。

 息を整えながらもタケルは心の中でツッコミを忘れていなかった。


(デレデレしやがって! しかも、「オレぇ」じゃなくて「オレら」だろ!)


 そこへ、タケルの頭上からいかにも柔らかそうで優しい、おっとりした声が降ってきた。


「まぁ、置き去りに? おふたりともですか? それは大変な目にあわれましたね」


 タケルはすごい勢いで顔を上げた。

 そしてそこには彼の想像通り、いや想像以上の美少女がいた。清楚で都会的な、二十歳前後の女の子である。こんな乏しい灯の下でもその容姿の端正さがわかる、タレ目がちな美人で、こんな可愛い子には大学でもそんなに頻繁にはお目にかかれなかった。そして……


(お、大きい……!)


 タケルの目は彼女の豊満なバストに釘付けになっていた。

 サマーニットを押し上げている双丘は、少なくともCカップはあるだろうか。まったく、グラビアから抜け出てきたと言っても過言ではないハイレベル美少女だ。


「オレ、キイチ。キミは? っつか、この合コンミステリーツアー、合流すんの大変過ぎじゃね? 敷地広すぎじゃね?」

「合コン? ミステリーツアー?」

「アレ? もしかして、参加者じゃねーの?」


 キイチの言葉に、彼女は首を傾げている。

 「もしかして、勘違いなのでは」という一言を、タケルは言えなかった。その代わりに、近づいてくる音に気がつく。


 普通なら警戒するべきタイミングとシチュエーションだが、タケルには何故かその音に嫌な感じを覚えなかった。そのため、開きっぱなしの納屋の扉から、そちらへヒョイと顔を出す。


 その瞬間。


『おっびゃああああああああ!?』

「うわぁぁぁぁああああああ!?」

「おおおおおお?」

「きゃああっ! ちょっとぉ!」


 上がる悲鳴、驚声、黄色い声。

 後半ちょっと見えないところでセクハラじみたやり取りがあったようで、タケルは背後のキイチに殺意を燃やした。


『あああああ! なんまいだぶなんまいだぶなんまいだぶ……』

「あのさぁ」

『はんにゃはらみったしんぎょー!! 破ァ!』

「いやいやいや、無理だしな? ちゃんと唱えられてないしな? っていうかお前、その念仏が効くならどうしてお前が成仏しないわけって話になるじゃん!?」


 タケルたちの前に現れたのは、かなりアヤシイ人相風体の、三十絡みの男だった。女の子の声に対してツッコミを入れているのは彼だ。


 あらゆるところにフリンジのついた派手な服装、サングラス、そしてなぜかベレー帽。ヒョロリとしたナマズヒゲに、顎にはチョロリと山羊ヒゲまで。落ちぶれたマジシャンか大道芸人のような男である。


 そして不思議なのは、なぜか聞こえてくる女の子の声。

 どう見ても誰もいないし、男の後ろにも隠れていないのは確認した。だというのに一体どこから聞こえてくるのか。


「手品……?」

「いやぁ、えっと……話すと長くなるんだが……」


 マジシャンの男は「参ったなぁ」と後ろ頭を掻いた。

 日の暮れ切った廃村に、妙に場違いな雰囲気が漂う。


 一人は、髪を金に染めた軽い雰囲気の若い男。


 一人は、いかにも根暗で人づきあいの下手そうな若い男。


 一人は、洒落た格好のワケありそうな若い女。


 一人は、胡散臭いマジシャン風の三十男。


 およそ接点のない四人と一体である。たとえ街ですれ違ったとしてもきっと、通常であれば彼らの人生は交わることはなかっただろう。


 そう、通常であれば。

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