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オープニング③ 鳥船 ジパング

「本日もやって参りました、『鳥船(とりふね)ジパングのぶらり一人旅』!

 リポーターはこのワタクシ、超☆霊能力者・鳥船ジパングがお送りしまァす!

 今夜は一体どぉんな怪異が襲ってくるのか? 怪奇・超常・摩訶不思議!

 どんな霊障もパパっと解決! この鳥船ジパングの活躍にご期待下さい!!」


 閑散とした土地に、場違いにテンションの高い声が響き渡る。

 派手で胡散臭い格好をした自称・霊能力者――鳥船(とりふね)ジパング。

 しかし彼の気合いとは裏腹に、周囲には古ぼけたビデオカメラを回す中年男性が一人だけ。テレビ撮影にしてはやけに寂しい陣容だ。


「あ~鳥なんとかさん? 悪ィけんどよ。

 ウチのケーブルTVで放送予定の、旅番組収録なんで……もっと普通にできへんもんかねえ?」

「なん……だと……霊能番組じゃなくて旅番組!? 聞いてた話と全っ然違うんだけど!?

 てか、周りの殺風景ぶり! どう見てもヤバイじゃない!? いまどき限界集落でも、もうちょっと活気あるよ!?

 廃村って聞いてたけどさぁ、たまに見かける家も、廃墟とか通り越して背景と同化してるし! 一体何を語れと!?」


 鳥船は一通りまくし立てたものの、マイペースなカメラマンに「まあまあ落ち着いて」となだめられ、ガックリ肩を落としてしまう。


 鳥船(とりふね)ジパング。数年前のホラーブームに乗っかり、以前はローカルながら幾つかTV出演した事もある男。


 しかし今やブームは去り、下手にリアルすぎる心霊番組など放送しようものなら、即座に視聴者からクレームが殺到するご時世。

 そのクレームとやらも「ウチの子供が引きつけを起こしたらどうしてくれるんザマス!?」などと、深夜番組にも関わらず理不尽な内容である。

 ともかく、下火になったアオリを喰らい、鳥船の仕事はみるみる減っていき――今や誰も見ないような旅番組のリポーターの仕事がやっと、という有様であった。


「もうすぐ日も暮れるし、今日の撮影はここまで。んじゃ車取ってくるべよ」


 カメラマンの男性は笑顔でそう言って、道を引き返していった。

 近畿地方の某所。日本といえど未だ開発が進んでおらず、もはや秘境レベル。もちろん道路は舗装されておらず、獣道と見紛うほど。

 噂によればここら一帯は、人口密度がオーストラリアとどっこいどっこいという状態らしい。


 さて、この鳥船ジパングという男。外見だけ見ればただの胡散臭い、売れない三流手品師といった容貌なのだが。

 世間一般の人物とはちょっと違う特徴を持っていた。それは――


畑中(はたなか)さん(註:カメラマンの名前)、遅いですねえ~。車だったらもう、こっちに来ても遅くないと思うんですけど~』


 不意に、舌足らずな女性の声が響く。聞いてて和むが、どこかしら間の抜けた雰囲気。

 しかしながら、周囲には鳥船以外の人影はない。この声の主はどこにいるのかというと。


「おいミカ。お前が顔を出すって事は、今この辺にはマジで人がいないって事か」


 鳥船が自分の右肩を見上げると、そこには半透明の黒髪の少女の姿があった。

 比較的はっきりしているのは上半身だけで、腰から下はどんどん透けて見えなくなっている――彼女の名は武智(たけち)ミカ。鳥船に憑いている幽霊である。


『はい~。あたし人前に顔出すの苦手でぇ~。(たかし)さんが写真撮る時もしっかり隠れてるんです! 偉いでしょ~』

「自ら心霊写真にならないよう努力する幽霊っているんだな……あと俺を本名で呼ぶなよ」


『だって~恥ずかしいじゃないですかぁ。幽霊になると、髪もバサバサ、お肌も荒れてるのに、お手入れできないんですよ~。

 嫌じゃないですか~そんなの。常識で考えて下さいよぉ』

「すっぴん晒したくないって理由なんかいッ!」


 ミカがいつ頃から、鳥船に取り憑いたのかは定かではない。彼女自身も記憶喪失であり「気がついたら憑いちゃってました。てへぺろ」との事だ。

 その時はすったもんだの論争もあったのだが――結局鳥船はミカを連れ歩き、日本各地の心霊スポットを巡る事を約束させられてしまう。

 彼女が本来いた場所を突き止めれば、記憶を取り戻して成仏するキッカケが掴めるだろう、という主張をされたからだ。


「あん時は軽い気持ちで引き受けちまったけど……お前、幽霊っていうだけで仕事に全然役立たないし……

 てかお前、見た目は幽霊っぽいのに、性格は全然イメージ違うよな。なんかこう、もっとさ。幽霊としての自覚持って? どうぞ」


 先ほどから奇妙な、鳥船の言い分。その理由は――


 ガサガサッ。


『ひいいいッ!? なんか動いたぁ! やだやだ怖いぃ! 帰る! あたしもう帰るっ!!』

「落ち着けミカ! ただのタヌキだ! もう逃げてった――」


 そう。幽霊にも関わらずミカはとんでもなく臆病で、心霊現象全般が大の苦手なのである。

 鳥船が自宅でホラー映画を見ていると、ゾンビが出ただけで悲鳴を上げるので――ご近所への説明と謝罪が大変だった。


「そもそも俺に憑いてるんだから、一人で帰れねーだろ。

 幽霊のくせにビビリが過ぎるぞ、お前。そんな豆腐メンタルで恥ずかしくないの?」

『偏見ですよぉそれは! 幽霊になったからって、怖いもんは怖いんです!

 あたし昔っから、心霊スポットとかこの世から滅べばいいって思ってましたもん!』


 涙目になりながらブーたれるミカ。

 深々と嘆息する鳥船がその場に座り込むと――不意にサイレンらしき騒音が鳴り響いた。


『うひいっ!? なんなんですか!? 地震!? 避難訓練!? やだやだ、どうしよう! おへそ隠さなきゃ! 尻子玉抜かれちゃうぅ!?』

「パニックになりすぎて色々混ざってんぞ。しかし何だぁ? こんな場所で……サイレン……??」


 これからこの廃村で、もっと不可解な「事件」が起こるなどと、鳥船たちはまだ知る由もなかった。

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