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エンディング② 番紅花 タケル

 鎮魂のサイレンが、うっすらと明けてきた薄群青(うすぐんじょう)の空に鳴り響く。

 どこか懐かしいような、淋しいような。その胸をしめつける鎮魂の調べは徘徊していた(ゾンビ)たちの耳にも届いたのか、彼らの足を一斉に止めた。

 動きを止めた屍たちは同時に天を仰ぐと――瞬く間に土へと還ってしまった。あとに残ったのは大量の土塊(つちくれ)と静寂のみ。その土塊からホタルのような光が浮遊し始めると、つい今しがたまで彼らを殲滅せんと奮闘していた黒装束たちも一斉に引き上げてしまった。

 

『終わったな』

『ああ』


 小さく縮んで少年の姿になってしまっていた()(うん)は窓から空へと昇っていく光を見上げると、互いの顔を見合わせうなずいた。


「おおうあん!」


 そこへ飛び込んできたのはあの少女。鳥船たちをこの屋敷へと招き入れた、あの少女だった。

 彼女――杏樹――はうずくまっていた男の霊のもとへ行くと、彼の手を取った。そして鳥船たちの方へ振り返ると、本当に嬉しそうな笑顔を浮かべ――


「あいあおう」


 感謝の言葉を残し、男と共に光の粒となり天へと昇っていった。


『当初の予定とはだいぶズレたけど。これはこれで……ま、いっか』

『俺の目的はアイツから解放されること。その結果が得られたのなら、何も問題はない』

「もしかして、お前らも逝くのか?」


 鳥船の問いに、阿吽のコンビは静かな微笑みを返した。そして杏樹たちと同じように光へと変化していく。


『で、きみは逝かなくていいの?』

『え?』

『お前も、この村に連なる者だろう? 呪縛が消えた今なら、もう逝けるはず』

『あたし……は』


 光の粒になりつつある阿吽の二人は肩をすくめると、ミカを見て呆れ顔で笑った。


『どうやらきみは、あのクソ神より強い呪縛に囚われてしまったみたいだね』

『莫迦なヤツだ。わざわざ自分で鎖を繋ぐとは』

「おい、ちょっと待て! ミカがこの村に連なるとかより強い呪縛とか囚われるとか、なんか知ってんなら説明してから成仏しろ!!」


 そんな鳥船の叫びもむなしく、阿吽の二人は子供らしい声変わり前の高い笑い声を残して消えてしまった。


 ※ ※ ※ ※


「じゃあ、行きましょう」


 ちとせちゃんが微笑んだその時、ここへ来て最初に聞いたあのサイレンの音が聞こえてきた。


「これ……誰が鳴らしてるんだろ?」


 一番初めに聞いた時は不安しか感じなかった音だけど、今の音はなんていうか……郷愁を誘うような? とにかく、最初みたいな怖い感じは全然しなかった。夕方5時になると町のどっかから聞こえてくるメロディを思い出す。そういや子供の頃は、あれが鳴ると遊びは終わりって暗黙の了解があったなぁ。


「お前らの仲間だろ。鎮魂とか余計なことしやがって」

「え、誰!?」


 なんかいつの間にか、隣にめちゃくちゃ不機嫌そうな黒装束の人が立ってた。忍者、だっけ?


「うるせーな、誰だっていいだろ。ったく、余計なことしやがって……燃やし放題、壊し放題って聞いてたのによ~。ぜんっぜん足りねぇ! あのサイレンが鳴った途端全員土に還るとか、ほんっとクソ!」


 彼はしゃがみ込みヤンキー座りで真っ赤な髪をガリガリと掻きむしると、舌打ちを残して一瞬で消えてしまった。……いったい、なんだったんだ?


「うふふふ。今の人、なんだか危険な香りがして……」


 赤髪の忍者が消えた場所を、ちとせちゃんが頬を染めてうっとりと眺めてた。

 って、えぇ……もしかしてもしかすると、ちとせちゃん、ああいうのが好みなの!? どうしよう、僕、全然タイプ違うんだけど。もしかしてヤリ捨てされんの? 僕、もうお婿行け……なくはないな。


「なになに、ちとせちゃんもう浮気~?」

「あら。浮気も何も、私とタケルさん、まだ付き合ってないですよ」


 やっぱり僕、ヤリ捨てられるんだぁぁぁぁ!


「だってタケルさん、何も言ってくれてないもの。きっと、私の体だけが目的だったのね」


 わざとらしい泣きまねをするちとせちゃん。でもそれって、期待していいの?


「うっわ、タケルひっでぇ~。ドーテーが一晩でヤリチンかよ~」

「おいっ、人聞き悪い! ちがっ、僕は――」


 ゲラゲラ笑うキイチを一発殴り、ちとせちゃんを見た。僕とキイチを見て楽しそうに笑う彼女の姿に、まだもう少し、このままの関係でもいいかなって……

 まあ、単にまだ告白する勇気がないだけだけどね!


「帰ろっか」


 5時のチャイムが鳴ったら遊びはおしまい。前世の因縁とか、そういうのも全部おしまい。

 じゃあね、前の僕。僕は、僕の人生に帰るから。

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