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リレー ㉑ LED

「間に合ったか! 無事のようだな!」


 神主の格好をした人々と、黒子の姿をした人々。悪霊や亡霊の類ではないが、一気に人数が増えた。

 白と黒の一団は何事かを言い合いながらも、統率された動きで地底湖の各地へ散らばっていく。


 そして鳥船やタケル、ちとせの一団の下へは壮年ながら整った髪型の神主が一人、近づいてきた。


「えーと……あんた達は一体?」

「我々が何者かなど、重要ではない。畑中さんの救援要請を受け、きみたちを助けに来た」


 畑中さん。鳥船にローカルTV番組出演を依頼してきた、カメラマンの中年男性である。

 ただの遭難者救助にしては、格好が現代的ではなく――まるで平安時代と江戸時代から抜け出てきたような集団。


『あ~。この人たち、神職の方々ですね~。あちらの方は宮司(ぐうじ)さんです。

 黒い人たちはニンジャですかねえ~。あたしが知ってる時代の格好と違いますけど~』


 呑気な声でミカが解説する。見ただけで職名まで分かるのか、と鳥船は思ったが……ともかく、神道と隠密のプロっぽい連中という認識でそう間違いはないだろう。


「神職の皆さんがモーターボートっすか。近代的っすね」とキイチ。

「今の時代、この程度の機械には精通していないと、目的地に手早く着けないからね。

 今やインターネットでお賽銭が振り込める神社もあるようだし、臨機応変が私のモットーだ!」


 歳の割には、やけに機械やITに理解があるらしい。宮司さんはにこやかな笑みを浮かべた。

 ボートを使ってここに来たという事は、この地底湖は外界へと繋がっているようだ。

 元々この地域は霊的に不安定なスポットとして、前々から目をつけられており――彼らは準備を整えていたのだろう。そう考えなければ、余りにも手際が良すぎる。


「と、ともかく……これで僕たちは助かったんだよね?」タケルは安堵した様子で言う。

「いかにも除霊とかのプロフェッショナルって感じだし。あとはあの人たちに任せれば――」


 タケルの言葉に、ちとせもキイチも安心した表情になる。これで、終わったのだ――ついさっきまで、巨大な土地神によって絶体絶命の危機に晒されていたのだ。気が抜けるのも無理からぬ事だった。


 ところが……一人だけ物憂げな顔をしている者がいた。幽霊のミカである。


(たかし)さん……あのぅ……』

「なんだミカ?……言ってみろ」


 いつも大騒ぎしている彼女にしては珍しく、周りに気を遣っているつもりなのか小声――鳥船にしか聞こえないほどの。


『……ニンジャの人たち、ゾンビを見つけたら片っ端から破壊しちゃってますぅ』

「まだ動いてたりするのか。でもしょーがねーだろ? ゾンビなんだし」


 鳥船の返答に、ミカは何か言いかけようとして……ふるふると首を振ってから「そ、そうですよね……」と声を落とした。


『心苦しいのだな、優しき乙女よ』

 不意に、野太い声が聞こえた。

『あの者たちとて、元はこの村の住人たち。憑代を破壊され強引に昇天させられるのを見るのは、辛いという事か』


 またひとつ、野太い声。聞こえる位置がやけに低い事に気づき、足元を見やると……小さなおっさんが二人いた。


「なッ……お前らもしかして……さっきの変態マッチョ幽霊二人組か!?」

『いい加減、名前で呼んで欲しいものだ。我が名は()。そしてこちらの相方は(うん)だ』


 生きていたのか? そして余りにも小さい姿である為、鳥船とミカ以外の誰も気づいておらず……彼らは隙を見て、ミカの服の袖口に潜り込んだ。


「てめーら、まだやる気か……? ミカをどうこうする気なら、○ァブリーズぶっかけっぞ?」

『勘違いするな。我らに戦う力など、もはや残されておらぬ。このお嬢さんに耳たぶそっと噛まれただけで消滅してしまう』

『噛みませんよ気持ち悪っ! それにファ○リーズはやめて。あたしにも効いちゃう!』


『ともかく、行って貰いたい所があるのだ。我々があの連中に見つかる前に――どうするかは、お主次第だがな』


 ただ懇願するだけの阿と吽。先刻までの展開からは信じられないが……もはや立場は完全に逆転してしまったのだ。

 鳥船は「やれやれ」と息を吐き、独り()ちるように答えた。


「しょうがねえな、行ってやるよ。神主連中に見つからねーようにすりゃ、いいんだな?」


***


 タケルたちが異変に気づいたのは、これより大分後の話。

 彼らにすれば、鳥船が忽然といなくなったように思えたかもしれない。


 鳥船――ミカと一緒に隠れている阿吽――が向かったのは、地上にある隠し部屋だった。

 本来なら分厚い壁に覆われていて、どこからも入る事のできない場所。

 だが、最初のあの少女が案内してくれた休憩室からなら――正確には打ち捨てられた暖炉の奥から――驚くほどすんなりと侵入する事ができた。


「灯台下暗しってヤツか? すぐそこに答えがあったんだな」


 中に入ると、古ぼけた机の上に――廃墟に似つかわしくない、小型の装置が置かれていた。

 鳥船はTV番組に駆け出し芸人として関わっていた頃、アシスタントの手伝いめいた事もやっていたので、多少は想像がつく。これは――サイレンだ。


「これは……俺たちが最初に来た時に鳴ってた、あのサイレンか……? 随分小さかったんだな。

 それに、ん……何だこりゃ。壊れてるぞ?」

『このサイレンは、この地の霊たちを目覚めさせるためのトリガーであってな。実際に音が出るか否かは関係ないのだ。

 もともと霊感があるか、あるいは何らかの形で霊が寄り添っているか――そうでない者には全く聞こえない』


 阿の言葉に、鳥船は次に何を為すべきか、大体の想像がついたが……一応確認する。


「つまり、村のゾンビ連中を鎮める為には、このサイレンをもう一回、鳴らす必要がある。そういう事か?」

『……そうだ。土地神がいない今、彼らを縛り付ける者はいない。心を込めて鳴らしてやってくれ』


 鳥船はごくり、と唾を飲み……サイレンのスイッチを入れた。

 が……いくら待ってもウンともスンとも言わない。


「……って、おい! 鳴らねーじゃねーか!?」

(たかし)さぁん、ちゃんと心を込めないからですよぉ。現実のサイレンは壊れてますし。

 この村の皆さんを成仏させたい、って強い気持ちがなければ――心のサイレンは鳴り響きませんよ……?』


 何か上手い事を言った気になってドヤ顔しているミカに、無性に腹の立った鳥船なのであった。

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