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リレー ⑳ 貴様 二太郎

 夢を見てた。遠い昔の、今の僕じゃない僕の夢を。

 (前世)の僕は、この村の人間だった。この村の神社で、ある神様に仕えていた。それがどんなものかもわからずに。でも、前の僕は知ってしまった。数えで十三になった年の正月の夜、あの新月の夜、アレを見てしまったから。

 そして、目をつけられた。アレにも、宮司(ぐうじ)にも。何度も逃げようとした。でも、だめだった。アレの呪いは、魂まで食い込んでいて。


 アレに遭って一月後(ひとつきご)、宮司に僕が神様のおてつきになったことがばれた。宮司はとても喜んだ。ちょうどその頃、神使の()様と(うん)様の様子が急激におかしくなっていたから。だから、代替わりのための次代の神使を急いで探してたんだ。

 そして僕は神使という生贄にされるべく、次の年の正月まで監禁されることになった。紀千(キイチ)と共に、神社の中の座敷牢で。宮司を始め誰一人、嫌だという僕の言葉は聞いてくれなかった。


 翌年正月、僕とキイチを神使とすべく儀式が行われたんだけど、結果としてそれは失敗に終わった。


「そんな莫迦な! 術が、歪められて!?」


 薄れゆく意識の中、宮司の悲鳴が聞こえる。


『悪いんだけど、私たちは逃げさせてもらう』

「ふざけるな! だが、全てお前達の思い通りになどさせるものか!!」


 阿様はおかしくなんてなってなかったんだ。アレの神使でいるのが嫌で、おかしくなったふりをしてただけだった。おかしくなったふりをして、代替わりの儀式をさせようとしてたんだ。


『やってくれたな、老いぼれが』

『うっわぁ。ほーんと、このクソジジィ。お前、ロクな死に方しないよ』


 吽様と阿様の声に憎悪の色が乗った。宮司が何かしたらしくて、僕の方も体が熱くなってきた。


「黙れ、この悪霊ども!」

『はは、仮にも元神使様に向かって悪霊だって~。吽、殺っちゃっていいよね?』

『好きにしろ』

「お前らを自由になどさせるもの――がっ、は」


 老人の短い断末魔の後に残ったのは、きいっ、ぎぃ、きいっ、ぎぃという振り子のように規則正しく繰り返される軋音(あつおん)だけ。

 そして誰かが入ってきて――というか無理やり入れられた感じだったけど――、前の僕の意識はそこで途絶えた。


 ――汝、女人に触れることまかりならぬ。もしこれを破れば、汝の中より愚かな穢れが放たれるであろう。


 同時に魂に刻みつけられたのは一つの戒律。その言葉は僕の無意識から縛ってくれて、おかげで今の僕は女の人とまともにコミュニケーションが取れなくなっていた。あのクソ宮司、なんてことしてくれる。

 どうやらこの戒律ってのは、僕の中に封印した吽様を解き放たないためのものだったらしい。うん、もう手遅れだけどね。僕、大人の階段ガンガンのぼったんで。はぁ……ちとせちゃん、いいにおいだったし柔らかかったし、思い出したらちょっとヤバくなってきた。

 でも今までは強固だったその戒律、なんで急に弱まったんだろう? これって、キイチに憑りついてた阿様が関係してたり? だって多分あの時、前のキイチにも僕と同じように阿様が封じられたんだと思うんだよね。ただ残念ながら、キイチの封印は早々に解けちゃったみたいだけど。自由人のアイツは戒律じゃ抑えられなかったのかも。


 ――こんな村、滅びればいい。滅びてしまえ。


 唐突に聞こえてきたのは、前の僕の末期の願い。というか呪い。

 前の僕は力がなさ過ぎて結局殺されちゃったんだけど、最後の最後、命が消えるその瞬間この村に呪いを残したんだった。すっかり忘れてた。……これもしかして、今あそこにいる僕ら全員ヤバい感じ?


「これ、どうやったら目覚めるんだよ!?」


 明晰夢(めいせきむ)の檻の中、僕はなんとかして外の誰かにこれを伝えたくて叫ぶ。


「誰でもいいから、寝てる僕の体連れてここから逃げてくれぇぇぇ! この村はヤバいんだって、さっきからすっげぇ嫌な予感がしてるんだよ。多分だけどこの村……沈む(・・)


 頼む、現実の僕。盛大に寝言を言っていてくれ!

 とその時、急に周りの景色が変わった。昔の村だったそれは、一瞬で真っ暗な空間に変わっていた。


『ヤ、ヤメロ……! 近ヅクナ!』

「痛く、優しく、天国に送ってあげますね」

『ヤメロ~~~~~~!!!!』


 すごく聞き覚えのあるおぞましい声と、すごく聞き覚えのある甘い声がして。僕は反射的にそっちに目を向けたんだけど……


 ※ ※ ※ ※


「ぶはっ……げほげほっ、って、あれ?」


 なんでか知らないけど、僕は湖の中にいた。周りを見渡せばオッサン、ミカちゃん、キイチ、そして……


「ちとせちゃ……!?」

「あら、わたしどうして裸なのかしら」


 マッパのちとせちゃんがいた。


「隠せよっ!?」

(たかし)さん、見ちゃダメっ!』


 半透明のミカちゃんがオッサンの目をふさいでる。でもあれ、目隠しになってんの? 完全に見えてるよね。


「ひょ~、いい眺め~!」

「キイチっ、少しは遠慮しろよ!」


 バカキイチ! おまっ、ちとせちゃんに変な事したらヤバいぞ!

 僕の脳裏によぎったのは、さっきの暗闇の空間でのこと。僕を優しく導いてくれた女神様は、どうやら破壊神の顔もお持ちだったようだ。いや、あれはあれで僕はアリだけど……でも、すごかったなぁ。僕、エロ漫画以外でアヘ顔ダブルピースとか初めて見た。


「お? なんだ?」


 キイチが顔を向けた方向からエンジン音が聞こえてきた。小さな影はたちまち大きくなり、すぐにそれは僕たちの前にその姿を現した。

 モーターボートに乗っていたのは神主さんみたいな服を着た男の人たちと、黒子の服を着た人たちだった。

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