オープニング② 番紅花 タケル
「タケル、合コン行くぞ!」
勢いよくドアを開けて僕――番紅花 タケル――の部屋に入ってきたのは、腐れ縁の幼馴染――三枝 黄一。
「いや、なんで旅支度? 意味わかんないんだけど」
いきなり来て勝手に服やらなにやら鞄に詰めこみ始めた金髪チャラ男。コイツはいつもこうだ。言うより先に行動して僕を無理やり巻き込む。
「ばっか、そんなん泊りがけだからに決まってんだろーが。山奥の温泉宿でしっぽりずっぽりって寸法よ!」
「……はぁ?」
泊りがけの合コンってなんだ? 街コンみたいなやつか?
なんて僕がそんな疑問をめぐらせてるうちに、キイチはすっかり旅支度を終えていた。
「さあ、いくぞ! ほら、さっさと立てってば」
「はぁ!? 今からとかバカかおまえ。僕、明日バイト入れてんだけど」
「安心しろ。班長には今週いっぱい休むって言っといたから。オマエの童貞卒業のためだって言ったら、班長めっちゃいい笑顔で任せとけって言ってたぞ」
「おいぃぃぃぃぃ!! おまっ、なに勝手に僕のプライベート事情たれ流してんの!?」
くそっ、これだからデリカシーも節操もないヤリチンは嫌なんだよ! 僕は結婚する相手のために貞操を守って…………嘘です。本当はヤりたいです。すっげぇヤりたいです。今すぐにでもエロくてかわいくておっぱい大きくてちょっとSな美少女に蔑ま――ご指導ご鞭撻願いたいです。
「あ、オマエの母ちゃんにも言っといたから。童貞卒業旅行行ってくるって」
「アホォォォォォォ!!」
「なんかめっちゃ感謝されたわ」
「笑ってんじゃねぇぇぇ!!」
くそっ、なんでこんなヤツと幼馴染だったんだ。しかもバイト先も一緒とか地獄かよ。……いや、大学で就活に失敗して引きこもりやってた僕を引っ張り出して、バイト先紹介してくれたのコイツなんだよな。うん、バカは僕だな。
結局そのままキイチに引きずられるようにして、僕は地元の駅から東京駅へと連行され新幹線に乗せられて……家を出てから約3時間。僕は今、京都にいた。
「1時半か。うん、腹減ったしメシにしよう。迎えの車は3時っつってたから、食ったらその辺ブラついてよーぜ」
「迎えの車って……泊まるの、京都じゃないの?」
「あー、なんかさ、行き先は秘密なんだって。ミステリーツアー的な?」
なんだよそれ。めちゃくちゃ怪しいんだけど、大丈夫なのか?
なんて僕の不安をよそに、キイチはどこまでも楽観的で。昼メシ食ってる間も、「どんな子がくるのかな~」なんて鼻の下伸ばしまくりやがって。この脳みそ海綿体のヤリチン野郎め。
昼を済ませ、その辺ウロウロしてから八条口ってとこから近くのバス駐車場へ。そこで僕とキイチは、送迎に来ているというマイクロバスを探した。
「どっちだろ?」
駐車場には2台のマイクロバスが止まっていた。現在時刻は14時50分。迎えの時間は15時らしいので、そろそろ出発の時間だ。
「聞いてみりゃわかんだろ」
そう言うとキイチはさっさと手前のマイクロバスに向かっていた。知らない人と話すのが苦手な僕は、黙ってキイチの後をついていく。
「すんませーん。これってミステリー合コンツアーの迎えの車っすか?」
「はい。まもなく出発ですので、中へどうぞ」
車の前に立っていたおじさんにキイチが声をかけると、イエスの答えが返ってきた。どうやら当たりだったらしい。というわけで、僕とキイチはマイクロバスへと乗り込んだ。
「なあ、僕たち以外誰も乗ってないんだけど」
「ん~、そのうち来んじゃね?」
もう出発まで2分もないのに? これ、もしかして僕たち以外参加者いないとかじゃないだろうな。
「女の子来ない合コンとか行く意味ないし! 僕、帰る」
「待て待て、待てって。もし女の子が集まらなかったんだったら、主催から中止の連絡来てんだろ。だいじょーぶだって」
「いや、なんかやな予感がすんだよ。僕、帰――」
席を立とうとしたそのとき、運転手さんが入ってきた。彼はそのまま何も言わず運転席に着くと、降りようとしていた僕を無視して車を発進させてしまった。
「あの、運転手さん。僕、降りたいんですけど」
いくらちょっとか細かったからって、さすがにこの距離で僕の声は聞こえてるはずなのに。運転手さんは無言のまま、僕のことを完全無視。おいおい、いくらなんでもそんな接客態度ないだろ。
「タケル~、いいかげん覚悟決めろって。オマエ、童貞捨てたいんだろ?」
「童貞童貞うっさい! なあ、キイチ。なんか、ヤバい気がすんだよ……このまま行ったら、なんか、こう……」
「出た出た、タケルのやな予感。……でもオマエのそれ、けっこう当たるんだよなぁ。こりゃもしかして、ハズレ引いたか?」
明後日の方向の心配をしだしたキイチ、そのおめでたい頭を思わずはたいてしまった。
「アホ! そういうのじゃなくて……ほん、と……」
急に、ありえないほどの不自然な眠気が襲ってきた。
「なん、これ……おい、キイチ――」
閉じかけたまぶた、その狭い視界の中のキイチは、すでにアホ面さらして爆睡していた。
なんだこれ、なんだこれ、なんだこれ!?
嫌な予感と焦りでパニックになった僕の思考は、そこでプツリと途切れた。
※ ※ ※ ※
「……ケル、タケル!」
バカキイチの声で目覚めるとか最悪なんだけど。
「って、ここ……どこ?」
「わかんね。オレも今起きたとこだし」
空を見上げると、太陽はだいぶ傾いてて山の端にかかっていた。鞄からスマホを取り出して確認すると、時刻は18時30分。
「バスは?」
「起きたときにはいなかった。オレら、ここに捨てられてったみてぇ」
ひび割れたアスファルトの上には僕とキイチの2人だけ。周りには人影一切なし。知らない場所でアホと2人……これってすっげぇヤバくない?
「くっそー! だから言ったじゃん、やな予感がするって」
「わりぃわりぃ。いや~、てっきり女の子がハズレとかなのかなって思ってたんだけど」
「それもやだけど、そういうんじゃないって言っただろ!」
「だからゴメンって。あ、あっちに家あるぞ。とりあえず行ってみね?」
ここは農道なのかな? 見渡せば、周りには田んぼだったらしき雑草の絨毯も見える。その先、荒れた道の先にポツンと建つ一軒家のシルエットが見えた。
コミュ障と言われてる僕だけど、この時ほど人恋しいと思ったことはない。助けを求められる、そう期待に胸を躍らせていったというのに……
「これ、どう見ても廃屋……だよな」
たどり着いた家は、とうの昔に主を失っていた。でも、こんなところで諦めるわけにいかない。僕は、女体の神秘を知らないまま死にたくなんてない!
僕をこんなところへ連れてきた責任を感じてるのか、キイチも真面目に人を探していた。でも、探せど探せど人っ子一人出会わない。町? 村? に入っても、誰もいない。家はみんなボロボロだし、犬の鳴き声も野良猫の姿も、何もなかった。
「どうしよう、キイチ。ここ、どこなんだろう」
スマホは無情にも圏外になっていて、外に助けを呼ぶことも、ネットで検索することもできない状態。絶望で思わずうなだれたそのとき、大きなサイレンの音が鳴り響いた。




