リレー ⑮ LED
「なーなー鳥船のオッサン。いつになったら着くんだよ?」
「あんま大きい声出すな。静かに歩け……しっかし、おかしいな? こっちの道で合ってると思ったんだが……」
キイチの言葉に対し、鳥船は余裕が無くなったのか苛立った声を上げた。
真っ暗闇の地底湖。闇の中で目が慣れてきたのか……懐中電灯の電池が切れかかっているにも関わらず、薄暗がりの中を、水や泥に足を取られる事もなく進んでいる。
鳥船だけでなく、明かりを持っていないハズのキイチですら、苦も無く自分に尾いてきていた。
(なんだ……? 電気なんざ通ってなさげなのに、明かりが見える……?)
奇妙な灯。何もない空中にただ、ぼんやりと光っている。光量はまったく頼りげのないものだというのに、周囲の様子はハッキリと分かるのだ。
『おお~。お二人とも大分、霊に目が慣れてきたみたいですねぇ』
ミカが感心したようにうんうんと頷いている。それを見てキイチは好奇心が湧いたようだ。
「霊に目が慣れるって、どういう事なんだいミカちゃん」
『この地底湖は、上の建物より断然、霊的な圧が強いんですよ。
だからあたしみたいな幽霊でも、天さんの腕を掴んでブン投げる事ができました。
要するに、本来なら見えもせず触れもしないあたし達幽霊も、肉体や物質に触れるようになるって事なんです』
「へー! マジか! じゃあ今ここでなら、俺もミカちゃんと握手とかできるってこと?」
『その通りですぅ! 試しにやってみます?』
何故か和気藹々と話し込んでいるミカとキイチ。
鳥船は何も言わなかったが、ミカの説明が正しいとするなら、辺りに浮かんでいる明かりも霊的な「何か」……死者の魂と呼んで差し支えないモノという事になる。実にぞっとしない話だ。
しかしながら、目的地――地上にある「閉ざされた部屋」――に向かっている筈なのに、行けども行けども心なしか、さらに地下に潜ってしまっているような気すらする。地形的に水没していてもおかしくない深さだ。鳥船は焦っていた。
やがて……辿り着いた。
巨大な柱のように隆起した岩場。上は見えづらいが、地上に続いているのだろう。そしてその先には間違いなく、あの部屋がある。
「……へ? この岩みたいなのが目的地? タケルやちとせちゃん、ここにいんの?」
「いや……まったく確証はないが……」
『しっ……お二人とも、静かにして下さい。中から何か、聞こえます』
ミカに注意され、キイチと鳥船は口をつぐんだ。
彼女がふよふよと空中を漂い、少し上昇した所で「あっ」と声を上げる。どうやら岩場を昇った所に、中へと繋がる穴が空いているらしい。
『天さん、キーちゃん! こっち来てみてくださいです』
小声でこっそり呼びかけるミカ。この短時間でキイチと打ち解けすぎなのを見て、鳥船はちょっとイラついたが……ともかく指示に従う事にした。
お世辞にも安定しているとは言えない足場を慎重に昇り、鳥船たちは穴からそっと中を覗いてみた。
そこには異様な光景が広がっていた。
何百年も昔からあったかのような、岩を切り出した祭壇。その上に二人の男女が気を失って横たわっている――もしかしなくても、タケルとちとせだ。
篝火のような人魂が無数に浮かんでおり、祭壇の周囲には不気味なマッチョ幽霊が「二人」。満面の笑みを浮かべ、まるで仁王像のようにポージングを決めている。
(あいつは……キイチに憑りついてた変態幽霊!? なんで二人に増えてやがる?
しかも何だこの怪しすぎる儀式は。まるでこれから生贄にでも捧げられるみてーじゃねーか! なんつーホラーテンプレなシチュエーションだよ!?)
何かは分からないが、只ならぬ事態なのは間違いない。
鳥船がどうしたものかと逡巡していると――隣のキイチは恐れおののいたのか、うっかり小石を蹴飛ばして物音を立ててしまった。
マッチョ幽霊二体は耳ざとくそれに気づき、鳥船らと目が合ってしまう。彼らは肉食獣の笑みを浮かべた。
『やっとここまで来てくれたか。そんな所でコソコソしていないで、降りてきたらどうだい? キイチくん!』




