リレー ⑨ LED
『ひぎぃぃぃぃ!! いやぁぁぁぁ!?』
騒がしく響き渡るは、大方の予想通り、超臆病な幽霊・武智ミカの発した悲鳴。
キイチとタケルを探しに行ったはいいが、少し館の中を歩いたらすぐに、迷子になった。
それだけならまだしも、館の中には外で見た異形の化け物――ゾンビ?――が侵入していたのだ。
「おまっ、ミカ! ビビリなのはしょーがねーにしても……もうちっと声のトーン落とせねえのかよ!?」
鳥船も冷や汗をかきつつ、抗議の声を上げる。
せっかく物陰に隠れても、ミカがギャーギャー喚き散らすせいで、居場所を思いっきり知らせているようなものだからだ。
『だ、だってだってぇ。あんなグロいんですよ!? 気色悪いじゃないですかぁ!』
「つーかお前、曲がりなりにも幽霊だろ? 生身の俺と違って、ゾンビに襲われたってすり抜けてノーダメージじゃねーのか?」
『ちっちっち。甘いですねぇ天さん。彼らが実際に危害を加えられるかどうかなんて、些細な問題なんです。
問題は……あたしのメンタル的に怖いと思ったモノは怖いって事です! もう口からエクトプラズム出ちゃうレベルでっ!』
「胸を張って情けねえセリフ言ってんじゃねえっ!? そもそもだな! エクトプラズムなんて迷信なんだよっ!」
『…………ほへ? そーなんですか?』
キョトンとした顔になり、首を傾げるミカ。鳥船は深々と溜め息をついた。
数十年ほど前まで、可視化された半霊的物質として持て囃された「エクトプラズム」――だが今やオカルトマニアの間ですら、その用語が聞かれなくなって久しい。
「口から霊魂みたいなのが出てるのが写真に映ってて……ってヤツだろ?
アレの原因って、昔の写真技術が未発達だったせいで起こる不具合だかんな?
要するに『アステカの祭壇』と一緒のパターンだ。今やスマホ映像も高画質化してきて、粗悪な現象はほとんど起きなくなっちまってなぁ」
『がーんです……幽霊のあたしが言うのも何ですが、夢のない時代になっちゃったんですねえ……』
しみじみと頭を垂れるミカ。何というか二人して、緊張感の欠片もない。
……というのも、先ほどから辺りを徘徊しているゾンビ(?)たちが、いっこうに鳥船を見つけようとしないからである。
悲鳴を上げてしまった以上、声を潜める意味もないと思い、普通に会話してしまっているが……彼らはどうした訳か、鳥船の横を通り過ぎて廊下を歩き去っていく。
「? な、何なんだ一体……? マジで俺たちの事、眼中にねえみてーだが……」
『……はッ。これはまさか……あたし、ピーンと来ちゃいましたよ天さん!』
ミカはフンスと鼻を鳴らし(息ができるのか?)、何か思い当たったらしく目を光らせた。
「ピーンと来たって……何か分かったのか?」
『ほらぁ、よくある話じゃないですか。ホラー映画とかで真っ先に殺されちゃうのって、大体場所もわきまえず乳繰り合ってるバカップルですよ!』
「え、それはつまり……この館で何かの拍子でカップルが誕生して、ゾンビどもはリア充オーラを感じ取ってそっちに向かってる……って事?」
『いぐざくとりぃ! その通りですよぉ~。いや~襲われちゃうカップルさんは気の毒ですけどぉ』
ミカの世迷言が万一、正しいとすれば……この館において、急遽カップリングが成立した事になる。
(まさか……あのちとせとかいう女と誰かが……? 会った時からなんか、ヤバイ雰囲気出てたしなぁ……
特にタケルとかいう奴。目に見えるレベルで童貞オーラ漂ってたし、ちとせのおっぱいガン見してたよな……
もし何かの拍子で誘惑とかされちゃったりしたら、一発で即オチしちまうんじゃねーの……?)
困った事に鳥船のアホらしい想像は、もはや妄想レベルだというのに、現時点でおおむね事実だったりするから始末が悪い。
ともかく嫌な予感しかしなかった鳥船は、廊下に消えたゾンビたちの後を追う事にした。




