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リレー ⑦ 天界音楽

 結局トイレを見つけられず、適当なところで用を足したタケルとキイチの二人だったが、さっそく迷子になってしまっていた。トイレを探してさまよった結果、帰り道すらわからなくなったのだ。


「どうすんだよ、キイチ〜!」

「しゃあないしゃあない。何とかなるって」


 軽く手を振ったキイチは、ちとせから借り受けた照明で手当り次第照らしながら進んでいく。それに文句をつけたところで、「じゃあオマエが先に行け」と言われるのは嫌なタケルはついて行くしかない。


 やがて二人は光のあふれる場所に出た。

 そこはたくさんの蝋燭が灯った礼拝堂で、真正面には大きなマリア像らしき物が立っていた。


 マリア像にはステンドグラスから注ぐ様々な色の光が集まっており、それが複雑な模様をなしている。タケルは思わずキョロキョロと礼拝堂の中を見回した。


「お。イイもんめっけ! あの子に持ってってやろ」

「は?」


 少し目を離したスキにキイチは中に入っていた。そして、マリア像の手に下がっていたロザリオを取り上げる。


「やめろ!」


 タケルの制止も虚しくロザリオは取り去られた。

 息を飲むような静寂。

 

 キイチがニヤッと笑って口を開きかけた瞬間、ゴゴゴゴゴという地響きと共に立っていられないほどの揺れが始まった。揺れる視界の中、入口のドア枠にしがみついて耐えるタケルは、マリア像付近の床がひび割れ、陥没するのを見た。


「キイチ!」

「うわぁぁああああああぁぁぁ!」

「キイチーーーーー!」


 キイチはマリア像と一緒に、深い穴に飲み込まれていった。


 穴は瞬く間に広がり、礼拝堂全体を瓦礫に変えていく。タケルがキイチの声を拾おうと耳を澄ませている数秒の間に、そこはもう、ドア枠だけを残して後はすべて崩れ落ちてしまった。


「そんな……」


 タケルはその場にへたり込み、真っ暗な空間を見つめることしかできなかった。





 辺りの様相は一変していた。

 至るところが崩れ落ち、部屋や通路が変動していく中、明らかに彼らではないモノが徘徊している。ちとせは懐中電灯の光量を最小に絞りながら、安全な場所を探していた。


 彼女が壁を背に膝を抱え込んだタケルを見つけたのは偶然だった。驚きつつも安堵したちとせは、小走りで彼に駆け寄り声をかける。


「よかった、見つかって。こんな所でどうしたんです? キイチさんは?」


 しかし、タケルは膝の間に顔を埋めたまま応えない。ちとせは不安を圧し殺して続けた。


「ここ、おかしいんです。あの女の子もいなくなっちゃったし、鳥船さんとも合流できないし。何か影みたいなものが歩き回ってるし……。早く出口を探しましょ? きっとキイチさんも外にいますよ」


 それにも返事はなかった。ちとせはタケルを立たせようと腕を引っ張るが、彼女の力では成人男性を引っ張り起こすことはできなかった。


 その時、またしてもあの影がやってきた。

 ズルズルと重い物を引きずるような音を立てて。


 ちとせは咄嗟に灯りを消し、タケルを庇うようにその体に覆いかぶさる。


「っ!?」

「シッ、じっとして……」


 しかし、柔らかい物が頭に触れる感触に、タケルは気が気ではなかった。やがてちとせはタケルから身を離し、辺りの様子を窺うと、小部屋へとタケルをいざなった。


「しばらくここでやり過ごしましょう。中は……安全みたい」


 中へ入ると、そこは物置のような部屋で、二人並んで座るとほんの少し余裕ができるくらいのスペースしかなかった。正気に戻ったタケルは、できるだけ奥に詰めて座ったが、ちとせはお構いなしにタケルに密着してくる。


 ちとせの呼吸、ちとせの体温、ちとせの汗の匂い……それに加えて女体の柔らかさがタケルの理性をジリジリ焦がしていく。


(どうしてこんな状況になってんの……!?)


 すでにギリギリいっぱいまで端に寄っていたタケルは、無駄な努力と知りながらもう一度、体を動かしてちとせと距離を取ろうとする。しかし、ちとせはさらにタケルにしなだれかかってきた。


「あ、あのっ!」

「ふふっ、ようやく口を開いてくれましたね」

「あ……」

「何があったのか、聞いてもいいですか?」


 体を離してタケルに向き直るちとせ。この密着状態はタケルに口を開かせるためにわざとしたことだったのだろうか。タケルはそれを少しだけ寂しく思いながらも、事情を説明することにした。


「……でも、キイチのことだから、生きているとは思うけど」

「きっと大丈夫ですよ。だから今は、わたしたちが生き残ることを考えましょう?」


 ちとせはそう言い、タケルに腕を絡ませながら肩に頭を載せた。再びの密着に、思わず体が硬くなるタケル。柔らかい拘束から逃れようとする彼の耳に、ちとせの笑い声が吹き込まれる。


「かわいい」

「!」

「髪の毛に隠れてて見えなかったけど、お顔もかわいいですね」

「あ、えっと!」


 ちとせの手が無遠慮にタケルの前髪を掻き分け、素顔を晒していた。薄ぼんやりとした明かりに照らされた、天使のような小悪魔の微笑みがタケルの心を、視線を奪う。


「わたし、アレ(・・)、持ってるんです。……言ってる意味、わかりますよね?」

「えっ……えっ!?」


 慌てるタケルの腕がちとせの豊かな胸を押し上げ、ちとせが少し驚いたような声を出した。しかしそれ以上に動揺していたタケルは、背面のラックで後頭部を強打してしまい痛みにうめいた。


「いってぇ!」

「ふふふっ、もう……。タケルさんって、もしかして、童貞? 童貞が許されるのなんて、中学生までじゃない?」

「う……」


 今度は別の意味でうめくタケルを、ちとせの指先が優しく撫でた。

 甘い愛撫に、タケルの理性は麻痺して動かなくなっていく。代わりに本能がむくりと首をもたげ、突き破らんばかりに膨れ上がっていた。


「いや、で、でも!」

「ほら、触って……?」


 じれったくなったちとせはタケルの手を取り、自分のスカートの中に導いた。タケルがハッと息を飲む。そこには、あるはずの布の感触はなく、蜜をしたたらせる毒の花弁に指が触れた。たくしあげられていくスカート。タケルが思わず見入ると、彼女の体を覆うのは純白のガーターベルトのみであり、他には何も身に着けていなかった。


「卒業するチャンス、ですよ。がんばって」


 そこでタケルの意識はプツンと途切れた。興奮の渦の中、断片的に覚えているのは、ちとせの柔らかさと甘い声、そして「わたしを守ってね?」という約束の言葉だけ……。

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