リレー ⑥ LED
鳥船ジパングは自問していた。
(何なんださっきから……霊的スポットかと思いきや、物理で掴みかかってくるゾンビは出るわ。
洋館に着いたら着いたで、出てきた女の子は喋れねえし、建物の中も入り組んでやがる……!)
先ほど鳥船はこの洋館(ショッピングモール?)を「ウィンチェスター・ミステリー・ハウス」に似ていると思った。
ウィンチェスター・ミステリー・ハウス。最も有名にして、世界最大の規模を誇る幽霊屋敷の名だ。
所有者である大富豪サラ・ウィンチェスターが、相次ぐ身内の不幸に心を打ちのめされた挙句、占い師の言葉を信じ、生涯かけて増築し続けた奇怪極まりない館。一説によれば、館に侵入してきた幽霊を逆に迷わせる為に入り組んだ構造にしたのだという。
(ショッピングモールの造り方じゃねーだろ! 買い物客を迷わせてどーすんだ!
まったくワケが分からねえ……そもそもなんだ? あの外のゾンビどもは?)
先ほどタケルとキイチが「トイレを探しに行く」として部屋を離れた。まだ戻っては来ない。
尿意自体は自然現象なので致し方ないが、いくら洋館が広いといっても、時間がかかりすぎている気がする。
そして部屋を案内してくれた少女は、相変わらず喋れない。口元が何かの病気で、上手く発音ができないようだ。
ミカが言ったように、こちらに危害を加える意図はないらしい。何をするでもなく、ぼうっと突っ立って顔を引きつらせている。笑顔のつもりなのかもしれない。
「遅いですね……タケルくんとキイチくん」
鳥船と共に取り残されたちとせが、所在なげに不安な声を上げた。
しかしどうも彼女は、怯えている風ではない。さっきはゾンビに襲われ悲鳴を上げていたというのに、この廃墟に近い洋館の中では、むしろ落ち着きすぎているきらいがある。
「全然ショッピングモールの構造じゃねーもんな、この建物……
ま、俺の地元に新しくできたヤツも、無駄に広くて入り組んでたからなぁ」
鳥船は頭をかきつつ、小声で幽霊のミカに耳打ちした。
「お前さぁ、ビビリとはいえ幽霊の端くれの風下にこそっと置いてもらってる立場だろ?
なんかこう、お役立ち能力とかねーのかよ? そこの口が不自由な女の子と意思疎通するとか、トイレの場所を一瞬で特定するとかさ」
『無茶言わないでくれますぅ? あたし基本的に、天さんに憑いてて離れられない霊なんですよぅ。
行動範囲はどうしても限られちゃいます。あの女の子だって、話したがらない事は話してくれませんし。あたしエスパーと違うんですから』
「ん? じゃー今彼女が『いえいえ』言ってる内容はミカ。理解できるのか?」
『正確には無理ですが、ニュアンスくらいなら。えっとぉ、”この部屋にいる限りは、明日の朝までは安全”っぽい事言ってますねぇ』
「おまっ……分かってるんならもっと早く教えろや!?」
洋館の中でも、彼女が案内してくれたこの部屋は安全。ミカも言っているし、信じてもいいのだろう。
だが裏を返せば、この部屋を出ていったタケルとキイチの身の安全は担保外だという事だ。
「二人とも遅いし、気になりますね。探しに行った方がいいんじゃ?」
「うぐぐ……ここでじっとしててもジリ貧になりそうだしなぁ。しゃーねえ、俺が行くか」
鳥船は最初、ちとせを部屋に残すつもりだったが――意外にも彼女の方から積極的に、タケルたち二人を探したいと強く希望してきた。
この辺も議論が紛糾したのだが……二人は結局、手分けしてタケルらを探しに行くという結論に至った。
件の女の子は、何か言いたげに口をモゴモゴと動かしてはいたが……彼らの行動を止める気はないようだ。
「○ァブリーズの残弾はまだあるな? 大事に使えよ。
あとあまり遠くに行きすぎないようにな。いざとなったらこの部屋にいつでも戻れる範囲内で捜索するんだ」
本当なら、ケータイの番号を教え合って連絡手段としたかったが、お約束のように圏外で通じない。流石某県南部の秘境である。
という訳で鳥船とちとせは、消臭スプレーと懐中電灯を持って、タケルたちを探しに部屋を出た。




