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必殺ざまあ仕事人

作者: 森たん

「お前はクビだ! メイティオ!」

「え、えええ! なんでですか!?」

「お前が役立たずだからだよ」

「そ、そんな! 僕は一生懸命やっているのに」

「一生懸命かどうか知らんが、最近のお前の失態は目に余る!」


 魔王を倒すために結成された勇者パーティー。


 勇者であるエルト・エライザ。

 僧侶であるアイナ・ロザンナ。

 戦士であるバーガド・ラッシソン。

 魔法使いであるフェイ・ネフェルアンタンシー。


 そしてシーフであるメイティオ・クデンだ。


「正直、メイティオはお荷物なんだよねえ~ぷふふ」


 魔法使いであるフェイが皮肉たっぷりで言い放つ。


「うむ。伝統通りシーフをパーティーに入れてたが、正直僧侶をもう一人入れたほうが成果は出るだろう」


 戦士であるバーガドが冷静に言う。


「みんなとも話したが、やはりメイティオは不要だと結論が出た。

 俺だけじゃない。みんながそう思っていたんだ」


 勇者エルトは皆の総意としてメイティオに言い放った。

 僧侶であるアイナは一人俯いて沈黙を守っている。


「お、おかしいだろ! 僕はみんなのために精力的に仕事をしてきたじゃないか!

 宝箱の開錠、罠チェック、索敵から斥候まで全部こなしてきたのは僕だ!」


 メイティオは叫ぶ。

 場所は酒場なのだが、他の客は大声を出したメイティオに注目している。


「メイティオ。少し声が大きいよ。

 ……ただでさえ、ドドーリア洞窟の制圧失敗で悪評がたっているんだから」

「う……」


 メイティオは口を噤んだ。

 ドドーリア洞窟はハウパーン国領内にある洞窟だ。

 最奥には『導きの水晶』があり、魔王国領に侵入するためには必ず手に入れなければならない。


「まっさか、罠解除が失敗してて、魔法が使えなくなっちゃうなんて信じらんないわよね~。

 ねえ~? メイティオ~」

「うむ。俺とエイトが死に物狂いで戦ったおかげでどうにか助かったがな」

「ぐ……! だ、だけど」


 エイトは机を叩いた。


「――メイティオ」


 勇者が睨む。

 勇者特有の威圧スキルが漏れ出している。

 メイティオは震えた。


「君が天才シーフであるアルバート・クデンの末裔だから勇者パーティーに誘った。

 だが……最近の君はミスばかりだ。パーティーが君のせいで何度もピンチになったのはわかっているだろう」

「そ、それは……」

「こんな事は言いたくないが……メイティオ。君は本当に仕事をしていたのか?」


 メイティオは「な、なに言ってるんだ」と震える。


「アンタさ~、開錠とか罠チェックしたって言ってたけど~ほんとに罠なんてあったの~?」

「な!?」

「罠があるフリして、実は何もしてなかったんじゃな~い?」


「うむ。索敵に関しても適当な事を言ってたんじゃないか?」

「わっかる~。『こっちのルートがいいです』ですなんて自信満々に言ってたけど、本当だったのかしら」

「な、なに言ってるんだよ! 僕はちゃんと索敵してたよ!!」


 メイティオはあらぬ嫌疑をかけられて激昂する。

 だが他の面々の視線は冷たい。


「わからないのか? メイティオ。

 みんなお前の事を信用していないんだよ。

 アルバート・クデンの末裔だっていうのも嘘だっただろ?

 勇者パーティーに入りたいがためだけに嘘をついた。

 つまりお前はペテン師だ!」


 普段物静かな勇者エルト。

 だが今日はヒートアップしている。

 僧侶であるアイナは顔を伏せているが、アイナを除く三人はメイティオが親の仇のように侮蔑し始めた。


 言い返そうにも三対一では多勢に無勢。

 更に勇者の威圧で口が思う様に回らない。


 散々罵声を浴びせた後「――君はクビだ。これは変わらない」と言い放った。

 そしてエイトは金貨が入った袋をテーブルに置いた。


「少ないが、これを」

「渡す必要ないんじゃな~い? ぷふふ」

「言うな。ほら、受け取れメイティオ」


 半ば強引に金を渡されたメイティオは、この場に居づらくなり逃げるように席を立った。


「言い忘れていたメイティオ。装備は明日回収に向かわせる」

「え?」

「アハハ~あったり前じゃ~ん。アンタのモノは勇者パーティーのモノだっつ~の」

「うむ。違いない」


 メイティオは「くっ……わかった」と言いその場を後にした。


**


 メイティオは夜道を歩きながら、宿屋に向かった。

 罵声を浴びた割にはケロっとしている。


「え~っと……なんだっけ。あ、そうそう」


 メイティオは思い出したかのように道を曲がり路地裏に入った。

 そして――


「くそ~……俺が何したってんだ……!」


 この世の終わりのような顔をし、メイティオは壁を殴った。

 自分の手が痛まないように優しめに。


「ケヒヒ」


 耳障りな笑い声が聞こえる。


「誰だ?」

「アンタァ~勇者パーティーの人だろ~?」

「……だったらなんだよ」

「すまねえんだけどさあ、少し恵んでくれよ~。ちょっとでいいんだ」


 町のチンピラ一人。

 かと思いきや裏からゾロゾロと仲間が出てくる。


(え? ちょっと多すぎじゃない??)


 メイティオはカツアゲのために20人以上出てきて驚いた。

 だが冷静なフリをした。


「……今は機嫌が悪いんだ。どこかに行ってくれ」

「つれねえこと言うなヨ~。なあ?」


 メイティオはシーフである。

 戦闘向きの能力ではない。だが一般人に負けるほど弱くは無い。

 腐っても勇者パーティーメンバーなのだ。


「――影入り」


 シーフのスキルである『影入り』。

 文字通り影の中に入るスキル。

 だが――


「え?? スキルが発動しない??」

「キヒヒ~どうしたんだ~伝説のシーフ様~?

 いや……伝説のペテン師かな~? 元勇者パーティーのメイティオさんよお!」


 チンピラはメイティオの腹を殴った。


「ぐ、ぐはあ」

「ははは、ザッコ。お、金持ってるじゃねえか~ははは」


 メイティオは勇者から受け取った金を盗られた。


「く、くそお」


 チンピラは地面に転がるメイティオを蹴り飛ばし、顔に唾を吐きかけた。


「ハハハ、今回の勇者パーティーは噂通りの無能集団だな。

 オラ。行くぞテメエら」


 金を奪われたメイティオは地面を殴り――


「痛てえ……マジで痛ええ……」


 そして――


台本・・通りだとしても……やりすぎじゃね……くっそ」



****



 翌日、勇者パーティーの使いの者がアイテムを回収しに来た。


 その後、やる事もないメイティオは町をぶらついていた。

 そうすると掲示板に、『勇者パーティーのシーフ、夜道でお金を盗まれる!』と速報のニュースが張ってあった。

 ご丁寧に写真まで張ってある。


 町の人達はメイティオを見てクスクスと笑う。


 いてもたってもいられなくなったメイティオは町を出ようとする。


 だが再度チンピラに見つかり、ボコられた。


 金銭を持っていないメイティオは、腹いせに服を全て奪われ全裸にされた。


 そして町中の笑いものになりながら、町を追い出された。



 


「――よおーっし。『ざ』はオッケーだな!」


 メイティオがボロボロになっていく様子を遠巻きから見ていた男。


 彼こそが『必殺ざまあ仕事人』である。



****


 仕事人視点――


「いや酷すぎるよ! なんだよこの展開!!」


 町の外にキャンプを張っておいた。

 メイティオとはそこで落ち合う約束をしていたので、待ってたんだけど……。

 流石にやりすぎたのか、素っ裸のメイティオは怒っている。

 

 ちなみに俺の名前は座間ざま網雄あみお

 日本から来た異世界転生者である。


「はっはっは、お疲れ様でした。はい、コーヒー。それに毛布」

「どーも! しっかし本当に大丈夫なの~? アミーさん」


 俺はアミーと名乗っている。


「大丈夫だよ、メイティオさん。仕込みは完璧だ」

「本当か~? なんだっけスキル『ざまあ』だったっけ?」


 俺は異世界転生する際に神様から『ざまあ』というスキルを貰った。


 生前の俺は極度の『ざまあ』大好き人間だった。

 悪役令嬢系とか勇者に捨てられた系とかが大好物。

 そんな俺は、『ざまあ』なんていう癖が強いが、俺にピッタリのスキルを貰ったのだ。


 そして『ざまあ』を実現すべく、勇者パーティーに近づいたのだ。


「そうです。ま、くれぐれも秘密にしてくださいよ」

「ああ、それはわかっている。

 俺としてはまあ……その……なんだ」

「ははは、アイナさんとお付き合いしたいんですよね」

「お、おう。ぶっちゃけ……滅茶苦茶好きなんだ。正直エロいことしか考えられねえ」


 メイティオは勇者パーティーの僧侶であるアイナが大好き。

 だが、アイナは勇者と恋人未満な状態だ。

 そんな状況を打開すべく、俺の『ざまあ』提案にのったのだ。


「ははは、若いなあ」

「へへへ。しかしなんだったかな? その~『ざまあ』の発動条件だっけ?」


 スキル『ざまあ』は恐ろしい能力だ。

 文字通り『ざまあ』を発生させる能力。


 だが発動条件が非常にめんどくさい。

 『ざまあ』ってのは綿密な下準備がいる。


「ふふふ、企業秘密なんですがね。

 もう一度『ざまあ』の発動条件をお伝えしますね」

「おう」


 スキル『ざまあ』の発動条件! それは――


「まず! 『ざ』!

 罪人のように可哀そうなAさん!」

「ん~俺だな」


「そして『ま』!

 まごうこと無きクズ野郎のB!」

「あのボケ勇者!」


「最後に『あ』!

 あれ!? Aさんって実は有能だったのか!?」

「……ふ~む」


「この三要素がすべて満たされたとき、『ざまあ』が発動します。

 つまり罪人のように可哀そうなAさんはほぼ満たしつつあります。

 後は手筈通り、町のギルドに行ったりして虐められたり罵倒されたりしてください。

 下準備は出来てますので、いるだけで罪人状態は継続されるでしょう」

「な、なんか嫌だけどわかった」


「私はこれから、まごうこと無きクズ野郎Bをちゃんと作ってきますよ」

「どうやって?」


 ふふふ、スキル『ざまあ』には様々なサブスキルがあるのだ。


「スキルがあるんですよ。『ざまあ』実現のためのスキルがね。

 ちなみに俺がAさんの近くにいると、不幸な事が起きるようになってるんですよ」

「え!?」


 メイティオは周囲を警戒した。

 たらいでも落ちてくるんじゃないかと心配したんだろう。


「大丈夫ですよ。今はスキルをOFFにしてるから。

 これが『不幸体質』っていうスキル」

「おっそろしいスキルだ」


 素っ裸になったメイティオは『不幸体質』の恐ろしさをこれでもかと体験したからね。


「そして俺がBさん、つまり勇者パーティーの近くにいると発動するのがスキル『いじめの衝動』。

 文字通りAさんを虐めたくて仕方なくなるスキル」

「あ~……そうだったのか」

「ちなみにアイナさんにはかけていません。

 アイナさんにまで罵倒された方が『ざまあ』は発動しやすいんですけど……」


 メイティオは首を振った。


「アイナに罵倒されたら俺は立ち直れん!!」

「本当はそんな状況の方が『ざまあ』は発動しやすいんですけどね~」

「無理無理!!」

「ハハハ。まあいいですよ。

 とにかく『いじめの衝動』は理性を破壊しAさんを虐めたくて仕方なくします」

「確かに……エイトがあんなに嫌な奴になるとは思わなかったなあ……」


 実は勇者パーティーがメイティオを追い出す際、俺は同じ酒場にいた。

 『不幸体質』も『いじめの衝動』もどちらの有効範囲は狭く、相手を視認している必要がある。


「ま、『ざ』は条件は満たしました。

 メイティオさんはしっかり町で虐められてきてくださいね」

「なんか嫌だけど……わかったよ」

「ギルドに行けば、すぐに腹パンするようにゴロツキを雇っていますんで」

「え、笑顔で言うなよ! ま、まあいい。ここまで来たらいくらでも殴られてやるぜ!」

「ふふふ。それじゃあ――」


 俺は立ち上がる。


「どこ行くんだ?」

「勇者のところですよ。『ま』を達成してきますね」


**


「しかしあなたも物好きですね。アミーさん」


 俺は勇者パーティーに接触した。

 「ドドーリア洞窟の攻略を、現地取材させてほしい」と頼んだのだ。

 そしてドドーリア洞窟に向かう馬車の中にいる。


 『ざ』の条件を満たすとスキル『ご都合主義』が発動する。

 『ざまあ』を発動するために、必要な事象が発生しやくすなる便利スキル。

 通常なら同行取材を許すわけなど無いが、『ご都合主義』のお陰で同行できているのだ。


「いや~勇者パーティーのドドーリア洞窟リベンジ。

 これは町のみんなが期待していますからね」

「今回は大丈夫ですよ。邪魔者を排除しましたから」


 勿論スキル『いじめの衝動』は発動している。


「そういえば……シーフの方がいないですね?」


 俺は火種を放った。


「くっ! あんなペテン師野郎は要らないんですよ!!」

「そうそう~! 思い出すだけでも腹が立つよねー! ぷっぷー!」

「うむ! 追放では無く斬首のほうが良かったかもしれん!!」


 勇者、魔法使い、戦士はメイティオに対しての怒りを露わにした。


「わたしもお~聞いてびっくりしましたあ~!」


 勇者の隣に座る、新メンバーであるポヨン・タワワンもメイティオバッシングに参加する。


 ポヨンはエロ僧侶である。

 勇者を誘惑するように胸を押し付けている。


 ふふふ。ポヨンと勇者パーティーが接触したきっかけは俺が作った。

 俺が『ポヨンさんを勇者パーティーに加入させたい』とギルド宛に勇者パーティーのフリをして手紙を送ったのだ。

 そして『ご都合主義』が上手く発動し、ポヨンは勇者パーティーの仲間入りってわけだ。


 ちなみにポヨンを選んだ理由はスタイルが良かったからなんだけど、こんなにエロい感じでは無かった。

 『ご都合主義』のお陰で、勇者を誘惑するエロさが追加されたみたいだね。

 結構結構。


 勇者はエロに耐性が無いようで、常に前屈みになり勃起を隠している。


 メイティオがぞっこんのアイナは、勇者と恋仲になる一歩手前の状態と聞いていたが、勃起勇者に少し幻滅しているようだ。

 ふふふ、いい傾向だな。



**


 ドドーリアの洞窟に到着した。


「よおし! 行くぞ!」

「「「おおっ!」」」


 勃起勇者は、股間同様に威勢よく号令をかけドドーリア洞窟に侵入した。

 先頭は戦士に任せ、勇者は俺に話しかけてきた。


「アミーさん」

「なんでしょう? 勇者様」

「アミーさんはレベル8ですよね? スキルは?」

「スキルは持っていないんです。ほら」


 俺はスキルシートを提示した。

 スキルシートにはレベルと所持スキルが表示される。

 スキル『ざまあ』関連はスキルシートには表示されない。

 まあチートスキルって扱いなんだろうね。


「わかりました。くれぐれも気を付けてくださいね」

「わかってます!」


 スキル『ざまあ』にはレベル補正能力がある。

 『ざ』に続いて『ま』が条件を満たしているからね。

 実はプラス50レベル補正が発生している。

 勇者のレベルが42らしいし、勇者よりも強いかもしれんな。

 ま、自分の身を守るのに問題はない。


 さあ~て! 後は『あ』だけだ。



**


 ドドーリア洞窟の洞窟は12階層だ。

 現在6階層までやってきた。そろそろ……やるか。


 『あ』は【あれ!? Aさんって実は有能だったのか!?】である。

 『ざ』と『ま』が条件を満たし、一定時間が経過するとスキル『確率変動』が発動できるようになる。

 このスキルはAによって都合が良く、Bによって都合が悪い可能性をとことん引き起こすスキルだ。


 運命の歯車を回すぜ。


「『確率変動』……発動」


 俺は誰にも聞かれないように小さく言い放つ。



 ガシャガシャ!!


「む!? なんだあの敵は!?」


 勇者パーティーの目の前に、機械仕掛けのモンスターが現れた。


解析アナライズ

 な、なにコイツ!? 物理魔法耐性大!? じゃ、弱点は……コアパーツを盗むこと?」


 魔法使いのフェイは驚きながらパーティーに情報を伝えた。


「こ、コアパーツってのは……あれかあ?」


 モンスターの心臓部分に赤い石がある。

 なるほどねえ。盗める人がいればザコってわけだなあ~。


 大苦戦。


 どうにか勇者パーティーはモンスターを倒すが――

 お、言うか? 言うか~? お決まりの『ざまあ』ワード!


「――い、行こう。先を急ごう」


 言わないー! くう~粘るねえ~!


**


「な、なんでこんなにモンスターと大量に遭遇するんだ!?」


 勇者パーティーは絶えず襲い来るモンスターと応戦していた。


「ま、前はこんなにモンスターがいなかったのにい!」

「フェイ! お前が選択するルートは敵だらけだ!」

「わ、私のせいだって言うの~!」

「いや~ん! こわい~!」


 いい感じでボロボロになっていく勇者パーティー。


 特に新加入のポヨンがまったく使い物にならない感じが素晴らしいな。

 回復役として加入したポヨンだが、彼女の得意分野はステータス異常の解除だ。

 しかし残念な事に状態異常系の攻撃をしてくるモンスターはいないようだ。

 残念・・な事にね。


 結果、アイナが獅子奮迅で回復をしている。

 アイナ以外も疲労感は隠せない。そして――



「――や、やはり……」


 お! 来るか? こういうのはやっぱり戦士タイプが言うもんだよね!?


「メイティオが……いれば」


 はい! 言ったー! ちょっろーい!


「な、なに言ってんのよ~! メイティオなんて役立たず……」

「だ、だが! あいつがいた時はこんな大量のモンスターに襲われることも無かった!」

「そ、それはたまたま」

「たまたまで前の三倍以上のモンスターと遭遇するのか!?」


 戦士と魔法使いが揉めだした。いいね、いいね!


「た、戦いに! しゅ、集中しろ!」


 勇者が叫ぶ。


「いや~ん! 怖い~」


 ポヨンが勇者にまとわりつく。

 勇者の戦いっぷりは素晴らしいのだが、傍から見ればエロ僧侶を護るために戦っているようにしか見えない。


「……チッ」


 渋々戦いに参加する戦士。

 そして――


「女とイチャイチャするためにメイティオを追い出したんじゃねえのか?」

「あ!? なんて言った!?」


 仲違い~キター!


「メイティオを追い出して、その役立たずとイチャイチャしたかったんじゃねえのか!」

「な、何を馬鹿な!」

「おかしいと思ってたんだ! すぐに補充メンバーを用意するなんてよ!

 元々の愛人だったんじゃねえのか!?」


 明らかにモテなさそうな戦士クン。

 そんな中でイチャイチャしてたら揉めるに決まっているよね!?


 男女関係は絆を壊すのにもってこいだからね!



「い、一旦撤退だ!」


 勇者パーティーは敗走し、安全地帯まで逃げ込んだ。


 ギスギスしているよー! いい感じだよー!!


 そろそろ『あ』――

 『あれ!? Aさんって実は有能だったのか!?』も条件を満たすな。

 ふふふ、そろそろ大きなイベントが来るだろうね。



「あっれえ~? 宝箱じゃない~?」


 魔法使いのフェイが岩に擬態した宝箱を見つけた。


「……本当だな」


 ギスギスした状況の中で、ちょっと嬉しい宝箱タイム。

 勇者パーティーはゾロゾロと宝箱に集まった。


 だが――


「誰が開ける?」


 メイティオがいない。

 そんな状況で誰が宝箱を開けるのか?

 これは~困るね~。


 困るかと思ったが勇者が男を見せた。


「俺がやるよ。勇者は状態異常耐性が高いからな。もしもの場合はアイナ、ポヨン頼む」

「はい」

「は~い」


 戦士と魔法使いは、「かっこつけやがって」と思っているがスルーしている感じだな。


 さあ~て何が出るかな?

 ああ~楽しみ~。



****



 メイティオパート――


 ギルドでボコボコにされ散々な目にあったメイティオ。


 ボロボロになりながらも、盗んだパンを齧りながら空を眺めていた。


「ご、号外ーー!!」

(なん……だ?)


「ドドーリアの洞窟が崩落したーー! 勇者パーティーが生き埋めだー!!」


 メイティオは目を丸くした。

 そして――すぐに走り出した。


 走りながら武器を盗んだ。

 そして馬を盗む。


(行かねえと! アイナ!!)


 メイティオはドドーリアの洞窟に向かった。


**


「ほ、崩落なんてしてねえじゃねえか」


 ドドーリア洞窟に到着し、メイティオは胸を撫でおろした。

 だが何かがおかしい。


「とにかく……行くしかねえ」


 メイティオは勇者パーティーを探すために洞窟を潜っていく。

 索敵スキルをフルに使い、モンスターを避けつつ大急ぎで進む。


 そして――


「い、いやがった!」


 勇者パーティーを見つけた。


 勇者であるエルト・エライザ。

 戦士であるバーガド・ラッシソン。

 魔法使いであるフェイ・ネフェルアンタンシー。

 おっぱいであるポヨン・タワワン。


 いない。 


 僧侶であるアイナ・ロザンナ。愛する女がいない。


「おい!! エルト!!」


 安全地帯で休んでいるエルト達は驚いてメイティオを見た。


「め、メイティオ!?」

「おい! アイナはどこだ!!」

「なんでここに?」

「そんなことはどうでもいい! アイナは? アイナはなぜいない!」

「……アイナは犠牲になった」

「は!? どういうことだ!!」


 胸倉を掴むメイティオ。

 エルトは振り払う。


「うるさいな。仕方なかったんだよ」


 悪態をつく勇者。それに対し――


「身代わりにしちゃったんだよね~エルト」

「ち、違う! 仕方なかったんだ!」

「嘘ばっかり~。私達ちゃんと見てたよ~。

 宝箱開けた瞬間、洞窟が崩れ始めて、更にバインド系の呪いが飛んできたじゃん」


 メイティオは「二段トラップか」と呟いた。


「バインド系の呪いをアイナに押し付けたんでしょ~?」

「うむ。俺も見ていた。

 アイナとポヨンどちらかに押し付けれる状況だったからな。

 お前はアイナを選んで呪いを押し付けた」


 勇者は怒っている。


「うるさいな!! 俺が死んだら魔王討伐は誰がやるんだよ!!

 俺のために死んだんだ!! 本望だったろうよ!!

 お前らなんて俺を支えるための道具だろうが!」


 ギスギスしていた勇者パーティーだったが、この瞬間に結束は完全に崩れてしまった。

 だがメイティオにとってそんなことはどうでも良かった。


「アイナはどこだ?」

「は? うるせえよペテン師が!」


 メイティオは――


「さっさと答えろ!! アイナはどこだ!!」


 空気がビリビリと震える。


「うるせえ! ハッ、ちょうどいいや。

 おいメイティオ。俺達を地上まで案内しろ。

 そうすればパーティーに入れてやってもいいぞ。

 お前だって勇者パーティーに戻りたいだろ~? ハハハハハ!」


 メイティオは再度胸倉を掴んだ。


「……アイナはどこだ? ……殺すぞゴミ野郎」


 エイトは顔を歪ませた。そして――


「誰が誰を殺すって!? 盗人風情が!!」


 エイトはメイティオを押し飛ばし、勇者の剣を抜いた。

 メイティオは構わずエイトに殴りかかる。


 エイトは勇者の剣を人に向けて使用した。

 ――使用してしまった。


「ひっ!」


 フェイの悲鳴が洞窟内に響いた。

 何故ならメイティオの小指が吹き飛んでいたからだ。


「ヘヘヘ、次は……小指じゃあ済まねえぞ!!」

「テメエ……。テメエは……勇者じゃねえのかああああああああ!!」


 エイトが持つスキルは『勇者の資質』。


 『勇者の資質』は究極スキルに分類される。

 究極スキルは10種類あるが、一人でも保有者がいると他は発動しない。


 だが、エイトが人間に対して剣を振ったことで『勇者の資質』は効力が大きく下がっていた。  


 お陰でメイティオに受け継がれていたスキルが解放される。


 怒りと共にメイティオは究極スキル『クデンの秘儀』を覚えた。

 効果は――人生で一度だけ『なんでも』盗むことが出来る。


 メイティオは殴りかかりながら、無我夢中で『クデンの秘儀』を使う。

 そしてエイトの大切なモノを盗んだ。


 それはエイトの心などではない。

 エイトの――『勇者の資質』だ。


 次の瞬間――エイトは勇者の剣を落とした。

 『勇者の資質』を失い、勇者専用武器の重さに耐えられなくなったのだ。

 そして殴り飛ばされた。


「ぐはあ!」

「おい! アイナはどこだ! 言え! 言わないなら!」


 「殺す」と言おうとした時――

 後ろから戦士バーガドがメイティオの肩を掴んでいた。


「アイナは8階の安全地帯近くに置いてきた。

 頼む。助けてやってくれ」


 メイティオはコクリと頷いてすぐに走り出した。


**


「アイナー!! アイナー!!」


 崩落が酷い。


 安全地帯の場所はもうわからない状況だ。


 だがシーフであるメイティオはどうにか安全地帯だったであろう場所を見つけた。


「あ、アイナ!?」


 メイティオはアイナを見つけた。

 だが――


「が、瓦礫に挟まれて動けないのか?」


 身動きが取れないアイナ。

 かろうじて息をしているだけの状況だ。


「アイナ!! アイナ!!」


 懸命に名前を呼ぶメイティオ。

 アイナがうっすらと目を開けた。


「あ、アイナ!! 良かった! ちゃんと生きてるな!」

「め、メイティオ?」


 メイティオは懸命に瓦礫を動かしていく。


「待ってろよ! すぐに助けるからな!」


 アイナは――「ごめんね……」と言う。


「何言ってんだよ。こういう時はありがとうだろ~? ハハハ」

「だって……私達……あなたに酷いことしたわ……」


 アイナは涙を流している。


「アイナは何もしてないよ」

「何も出来なかった……。みんなを止めれなかった」

「いいんだよ。大丈夫だから」

「私……私……!」


 メイティオは笑う。

 そして「いいんだ」と言った。


 だが……。


「あ! 危ない!!」


 天井が崩れ、岩が落ちてくる。

 狙ったかのようにアイナ目掛けて。


 咄嗟にメイティオは両手を交差し、岩を受け止めた。

 シーフであるメイティオに、岩を受け止めることなんて出来ない。


「い、いやあああああああああ!! め、メイティオォーー!」


 だが、岩が弾け飛ぶ。


「大丈夫だから」


 誰かを護るときに力を最大限発揮する勇者の光がメイティオに宿っている。


 メイティオは笑った。


「君は俺が護るから」


****



 数日後――


 メイティオはエイトから『勇者の資質』を盗んでいた。

 そしてメイティオは勇者としての人生をスタートすることになる。


 仲間には――


 僧侶であり恋人となったアイナ・ロザンナ。


 更に――

 戦士であるバーガド・ラッシソン。

 魔法使いであるフェイ・ネフェルアンタンシー。


 仲違いしていたが、メイティオは快く彼らを受け入れた。

 一度裏切られても、勇者は何度でも信じる力を持っている。

 だからこそ勇者は人に愛されるのだ。


 間違っても人に向けて剣を振ったりはしない。

 勇者の剣は悪に対してしか振るってはならないのだ。




 エイト・エライザ。

 元勇者。


 『愛人をパーティーに入れるため仲間を捨てた男』


 『仲間を身代わりに逃げた卑怯者』


 『味方殺し』


 『部屋と猥褻な私(ビッチと勇者)』


 様々な記事が掲示板に載った。

 なんと写真付きで。


 ポヨンとの密会シーンや、アイナに呪いを押し付けたシーン。

 そしてエイトの小指を斬ったシーンや、町に帰ってきてポヨンと交尾している鮮明なシーン。


 どれも写真に収めるのは難しい。

 だが鮮明な写真。


 エイトは全てを失った。

 調子にのっていたクズ勇者が、全てを失う様を民衆は最高の娯楽として楽しんだ。



「うふふ。中々素晴らしい『ざまあ』じゃないですか」


 座間ざま網雄あみおは笑っていた。

 写真を撮ったのは勿論この男である。


「『ざまあ』のサブスキルとして、『透明化』と『写真』があるんですよね~。

 そして『ざ』、『ま』、『あ』全てが揃った時に、スキル『堕落』が発動可能になる。

 町に逃げ帰り、酒場で暴れ、そのあと怒りをぶつけるようにポヨンと交尾する様は最高だったなあ~。

 『堕落』の対象を勇者だけにするかは迷ったけど……勇者のみに絞ったので効果は絶大だったね。

 おっと……元勇者ね。ふふふうふふ~」



 座間ざま網雄あみおは新たな勇者として祝福されるメイティオをつまらなそうに見た。

 その後、エイトの凋落ぶりを見て恍惚感を味わっていた。



「ハアハアハア。『ざまあ』ってたまらんわ。

 ああ、次はもっと気持ちいい『ざまあ』がしたい。

 ふふふ~次は悪役令嬢とでも遊ぼうかな~」


 座間ざま網雄あみおは人知れず町から消えていった。

 彼は『ざまあ』さえ見れればいいのだ。

 例え、幸せだった人が不幸に陥ったとしても『ざまあ』が見れればそれでいいのだ。



 主人公を引き立たせるためだけに『ざまあ』される人がいる。


 必殺ざまあ仕事人はあなたの異世界にもいるかもしれませんね。

好評だったら続編を書いていきます! 本気です! 書籍化狙ってます!!

嘘でーす! ざまあwwww


大変申し訳ありません。ふざけすぎました。

謝りますので↓から評価をお願いします。


出来たら★★★★★でお願いします。

つまらなかったら★1つで構いません。


――★1つでもポイントになるんですよ~。ざまあwww



さて、ここからはどうでもいい話です。


私は『ざまあ』系の話って凄く苦手です。

面白いは面白いんですけど、『ざまあ』される相手って『ざまあ』されるためだけに悪役にされてるみたいで、切ない気分になるんですよね。


例えばドラえもんのスネ夫で例えると――

お金持ちで性格の悪いスネオが、いつも通りのび太を虐めます。

いつものようにドラえもんが道具を出して、スネ夫を懲らしめるとします。


もしも懲らしめるレベルが、スネ夫の父の会社が倒産させて、骨川家を一家離散。

これだと凄く後味悪いですよね?

スネ夫って性格に難があるかもしれませんが、そこまでしてほしくないと思いますよね。

だってスネ夫は悪人では無いからです。


つまり、『ざまあ』をされる相手というのは、殺されようが没落しようが一家離散されようが『ざまあ』と思われるような最低な人間で無いといけないからです。

結果『ざまあ』対象者は、良いところは一つもない完全無欠な悪人として描かれます。


いやいや『ざまあ』対象者がかわいそうです。

クズ勇者だって、昔は正義に燃えていた事があったのかもしれません。

悪役令嬢だって、誰かに優しくした経験はあるかもしれません。

『ざまあ』対象者にだって良いところはあるはずなんです!



そんな事を考えていると、私は悲しくて涙が…………出るわけ無いじゃないですか(笑)

ざまあwww


まあまあ、ここまで読んでくださった優しい読者の皆様は、↓から★★★★★していってくださいよ。


ちなみに更に↓には私が連載中の小説『【収納空間】を極める男』のリンクもあります。


短編が良い方は『なろうランキングで流行ってる【おっさんスローライフ】をやろうとしたけど何かおかしい……。』なんていかがでしょうか?



宣伝までされてしまいましたね。

ふふふ、これこそ本当の『ざまあ』ですよ!

おあとがよろしいようで。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 悪人を仕立て上げてざまぁするのは楽しいか?座間さんよォ、って読んでて何度も思わされたけど、それって我々なろうの読者作者にとっては特大ブーメランですよね。 後書きも含め、皮肉が効いてて良いと…
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