第4話 キャラバン
二日ぶりですかね?( ^ω^ )
とりあえず説明が多いがご勘弁を。
世界観がややこしいんです(・∀・)
この地平線まで広がる湿原をみて、誰もかつてここが湖であったことを知るものはいないだろう。
空の蒼と水の青がかつて地平線で触れ合っていた。
今ではその面影はない。
人類から、歴史から、忘却される。
かつてここにも爆弾が落とされた。およそ半世紀前ここは地獄の一部でもあったのだ。
平和ボケした、戦争とは無縁であった国から始まった大暴動〈大災禍〉は、北米を中心とする英語圏に拡大し、世界各地に民族戦争、宗教戦争をばら撒いた。結果、世界中で核爆弾の雨が降り、唯一の被爆国と名乗っていた日本から、その名が消え去った。現在それを知る者は余程の歴史マニアだろう。
「汝、隣人を愛せ」
『表』では、お互いに思いやり、支え合うことがオトナだと教えられてきた。そういう人間になることがオトナになることだと。あの〈大災禍〉を経験した後では、世界はそのように変貌せざるを得なかったのだ。
HealthCareが開発された理由だって〈大災禍〉だ。世界中に落ちた核弾頭の放射能によって癌になる人が増え、ウイルスの突然変異の多発の影響で、人類は命の危機にさらされた。
そこで上のお偉いさん達は世界単位で病気の殲滅を試みた。その際にできた代物がHealthCareで、殆どの病気の教養をなくしてしまった。
この体内恒常性監視システム―HealthCareは、免疫一貫性を監視し、怪我をすれば携帯用セットが血漿の働きを高め、傷口から侵入した病原菌に対する抗体を生成し、送り込む。
「姉さん、連中だ」
だが、健康管理は疎かAIなどによるシステム管理を嫌う、『裏』の世界は別だ。
『表』の住人である僕らにとって、『裏』とは、それはそれは「非効率な世界」だった。
どうして、『表』と『裏』が戦争するのか。
理由はいたってシンプルだ。
『裏』に属する民へより健康な生活を与えようとする『表』と、そのお節介を断っている『裏』の連中。何より『裏』の人間はシステムに組み込まれることを嫌がる。まさにそのお節介は『裏』の人間を自らの医療サーバーに繋ぐというもの。
だが、『裏』の人が全てその意見であるというわけではない。むしろ、この戦争は互いの上層部のケンカのようなものである。
その証拠として、『裏』にもHealthCareを求める人が大勢いた。それが良きものならば程々に嗜むというのが、彼らの智慧だ。なにせ、HealthCareのインストールは注射と小型端末さえ在れば簡単にインストールできる。
そこで『表』に「人助け」をお題目として秘密裏にそれらを流す集団がいた。
彼らは「キャラバン」と呼ばれていた。
そして、僕らはその「キャラバン」に出会おうとしている。
事の発端は1時間前まで遡る。
■■■
「姉さんこの湿原を抜けたら、武装地帯だけど、どうする?」
「キャラバンと接触しよう。奴らなら信用できる」
「だが、『キャラバン』は『表』の軍人どもだろ? いくら好戦的じゃないにせよ、坊主がいるのはちと不味いんじゃないすかね?」
「…リュール。流石に私もデメリットだけの状況に突っ込んでいく勇気はないよ。これが危険であることは承知しているが、その分のメリットも大きい。もちろんトアンにはフードを被ってもらうつもりさ」
テンの返事を聞き、リュールはため息を吐く。
だが、彼女への反論の言葉はなかった。
彼女はいい加減だが、このような取引では頭が切れる。その証拠に俺は未だ彼女から「復讐」を志した経緯とやらをきいていないし、彼女がどんな人物かを掴み取れていない。
だから、今のリュールの言葉は彼なりに行った、彼女の意思の確認なのだ。リュールだってテンを信頼していないわけがない。
「――もしも、トアンの事がバレたら?」
「ああ、わかってる。消すさ。だが、消さない使い道もある。消すとなっても非武装地帯じゃ無理だ。そっちの方が目立つ。目立つのはごめんだ」
「……じゃあ、消すとしたら……」
「「ここを出てすぐか、『裏』か」」
俺はゾッとする。
曲がりもなく彼らは『裏』の人間であり、殺し憎しみあう世界の住人なのだ。
「…まぁ、そうしないようにするのが一番ですけどね」
「わかってるさ。まぁ、そのときはそのときさ。明日は明日の風がふく〜♪」
これから敵に挨拶しに行くようなものなのに彼らはいつも通り呑気にしている。
■■■
そのときは意外にはやくやってきた。
「姉さん、きたぞ、連中だ」
スコープ銃を覗きこんだリュールが『キャラバン』を見つけ、ジープを運転する彼女に教える。貴重な『表』の情報とHealthCareを持って、立派な人助けを主張する連中はやってくる。
「景気づけに一発かましてやれ」
「そんなことしたら…マズいんじゃ?」
「なに、坊主心配するな。これは攻撃じゃねえ…取引の合図さ」
リュールは呑気にテンに答えた。俺の心配など他所に、彼らはことを進めていく。
ここは、『非武装地帯』じゃなかったのか!?
「――喜べ、姉さんいい知らせだ。向こうの隊商はアイツが率いてる。坊主、こりゃ幸先いいぞー」
「それは大変喜ばしい知らせだ、リュール」
そう言ってテンはニヤリと笑った。
俺にとっては、今すぐ「なにが!?」とツッコミたい気分だが、自重することにした。
おそらく、こいつらに何言っても、俺の常識を超えた答えが返ってくる予想しかない。
「さぁ作戦開始だ」
リュールの撃った弾丸が装甲車に当たる音で、それは幕をあけた。