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第3話 彼女と彼と優しさと

 彼女__霜月テンは、『世界』に復讐するといった。

 平和な『表』の世界を壊すと。

 それが悪いことなのかどうか、俺には判断がつかなかった。普通なら『表』の人間として真っ先に「人々のために世界を守る」という正義を謳っていたかもしれない。

 だが、俺には、誘拐犯である彼女(コイツ)が悪いやつかと訊かれて、「はい、そうです」と答える自信がなかったし、『表』の世界にそれほど愛国心があるわけでもなかった。


 そもそも善意の押しつけられる『(せかい)』で、俺は異質だったと思う。誰も彼もがお互いのことを気遣うこのご時世。俺もその優しさを受け取っていたが、同時に『表』の側面も知っていた。

「汝、隣人を愛せ」

 それが当たり前である世界。それが『表』というものだった。

 だから、俺もそれに従う。他人に優しさを、思いやりを。

 だが、俺はその優しさを全て受け取ろうとしなかった。()()()大人になんてなりたくなかった。そして、孤独を選んだ。

 なぜなら、俺は罪を犯したから。だけど、誰もそれを咎めることもなく、むしろ、俺に哀れみの目を向けた。俺が欲しかったのは同情でも、哀れみの目でもなかった。

 だけど、それを与えてくれる人はいなかった。

 俺は「優しさ」に疲れ果てていた。


 

 先の彼女の問いかけに関して、俺は協力者になるとも、ならないとも伝えなかった。その濁った答えは「保留」というカタチにまとまったが、俺の中ではさらに混迷を極めていた。

 嫌っていた「優しさ」から抜け出せる機会(チャンス)であるはずなのに、俺はまだ決断できずにいた。

 それは「社会貢献」を諦めずにいるから? それとも『(むこう)』に何かを置き忘れてきたから?

 (いな)、どちらでもない。

 ただ、俺が臆病者だからだ。未知の世界である『裏』を心のどこかで恐れているのだろう。

 それを伝えたら彼女はなんで思うだろうか、というどうでもいいことを思ったが、そのうち俺は眠りについた。

 


■■■



坊主(ぼうず)、眠れんのか?」


「いや、ただ思い返してただけ」


 間違ったことは言っていない。ただ悩んでいたことは、なんとなく伏せたくなった。


「まぁ、あんまり思い悩むなよ」


「え?」


坊主(ぼうず)の顔見てたらわかるさ。『表』の人間は大抵そうさ。今のうちに隠すことを覚えておいたらいいんじゃねえか」


「リュールは…『表』の人間とよく会うの?」


「そりゃ、情報や依頼があるとこにはいくからな。『(あっち)』の奴らはほとんど顔を出さねえが、戦場ってなると話は変わる。まぁほとんどが『表』から抜け出したやつばっかだがな。

別に俺は姉さん(あねさん)と違って『(あっち)』のことが嫌いなわけじゃねえんだ」


「そうなんだ…」


「―ま、明日は朝早くに出るからな、今のうちに寝とけ」 


 彼はそれ以上何も聞くことはなかった。『表』の住人ではない、彼は、俺のテリトリーに侵入してこなかった。ただ、それが今の俺にとってはありがたかった。


「これは俺の独り言だが、こっちのことは考えるな。坊主(ぼうず)はお前さん自身のことを気にすればいい」


 そして、彼はしばらくして見張りの仕事に戻っていった。



■■■



「―姉さん(あねさん)も、ずいぶんと丸くなったもんだ」


「…うるさい」


アルフィー(助言者)になれって、まったく姉さん(あねさん)のお願いじゃなきゃあんなことをしませんよ。柄じゃないのに」


「私にはあんな言葉吐けない。リュールの方が適任と思ったから」


()()()()()()()()()の間違いでしょ。

…お前は『優しさの仮面』は嫌いって言うけど自分は仮面を使いまわしすぎだ」


「…リュール」


 二人が静寂に包まれる。


「…私が依頼主で、アンタは情報屋兼雑用。あの頃から変わったの、アンタも私もね」


「わりぃ、()()()。見張り交代だ」


「じゃあ、後は任せたよ、()()


「「おやすみ」」

 


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