第2話 彼女は復讐するようです
2日連続投稿です。
さて、やっと名前を出せるぜ。
「さて、何から話そうか」
彼女は、こほんと咳払いし、話を切り替えた。
「聞きたいことは山々ですが、
あなた達の名前と、ここに至るまでの経緯、現在の状況を僕にわかりやすく説明してください」
「やれやれ、坊主はせっかちだねぇ」
「ほんと、これだから『表』の人間は困る…キミ、誘拐されてるんだよ、そこんとこわかっといてよ」
「わかってるよ。あと、俺16歳だから坊主じゃねえって」
せっかく、人が丁寧な言葉を使って質問をしたのにテキトーにあしらわれた。
流石に彼女は自分が誘拐犯であることを多少は自覚しているようだ。いい加減にみえて、意外としっかりしているってことか。
ちくしょう! 計画が大幅に狂ったぞ!?
めんどくさいと思いつつ、計画を練り直す。やはり、小さなことでは騙せないか。
ということで、俺は自分を装うのもやめ、しばし裏方に周り状況を読むことにした。
「では、先に俺が」と、テントの主である彼は、アルフィー・ウォルソンと名乗った。
「情報屋を営んでいるから、一応リュールが隠し名で通ってる、そっちで呼んでくれ」
「わかった、リュールさん」
「さん付けはやめてくれ。リュールでいい」
「り、リュール」
「ん、しばらくよろしく」
「―アルフィー…賢い助言者…らしくないな…く、くっ」
「うるさいな。何度目だよ、このやりとり。早く姉さんも自己紹介しろよ」
「ああ、私の名はテン、よろしく」
「あの、今の状況とか…」
と一応確認してみるが、テンに「みたらわかるだろ」と言われ、なんの情報も得られなかった。
やはり彼女はいいかげんだ。
■■■
しばらく、俺たちは無言でリュールの出してくれたコーヒーを飲んでいた。
幼い頃一度だけ母と飲んだ際、たっぷりと入れていた砂糖は、今では姿を消している。ただ、ミルクなしのブラックは、今の俺には少々苦かった。
そのため、ミルクを入れようか入れまいか考えていたのだが、この数秒後彼女から爆弾が降ってくるとは思っていなかった。
俺がコーヒーフレッシュを入れる決断をし、流し込んだ時、
「あ、言い忘れてたけど…」
と、彼女は改まって俺の方に向いて話す。
「―わたし、世界へ復讐しようと思ってるの―」
俺は一瞬固まってから、思わず「はぁ!?」と大声をあげてしまった。
それが俺の拐われた理由だと言うのだ。
テンの目的は、平和な『表』の世界を壊すこと。
俺は彼女の復讐のために用意された、ひとつの駒にすぎない。『表』の人間で、HealthCareを持っているからと、偶然巻き込まれたのだ。エキストラに戻るはずだったのに、事件の中心核に呑まれていく。オーディションもなく、ただ彼女に選ばれた、主人公のひとりとして。
これ以上面倒なことを避けたかった僕にとって、最大の誤算だった。
やはり彼女は意外と頭がまわる。
「―ほっといても死ぬだろうけど、助けることもできるよ。協力者としてね」
「んじゃ、聞いてみようか。さて、トアン、お前はどうする?」
リュールにも再度確認される。
が、俺に残された選択肢はひとつしかない。
今の状況は俺にとって不利すぎて、どうしようもないのだ。
ひとまず俺は協力者として人質となることを渋々了承するのであった。