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自分を棚に上げて話せなきゃ、文句のひとつも言えない


 聖澤はカヒューカヒューと、おかしな呼吸音を鳴らしながら俺の手元でぐったりとしている。


「き、貴様何をする!?」


 その様子を見た勇者様お抱えの女騎士がこちらにやってくると剣を一閃し、牽制。

 俺と聖澤を引き剥がした。


 その隙に、聖女様の方は聖澤の傍に駆け寄ると回復魔法を掛け始める。


「何って見りゃわかんだろ?俺の女にちょっかい掛けてきた奴がいたから殴っただけだ」


「この方は火の勇者だぞ?」


「だからなんだよ。勇者だったら何してもいいのか?」


「む。そ、それは……すまなかった」


「別にお前が謝ることじゃねぇだろ。それはこいつがする事だ」


 俺が指さした先で聖澤は気絶したままの状態で、聖女に膝枕されている。


 だが、不幸中の幸い。

 こっちは聖澤と違ってまともらしい。


 真昼間にもう夜とだとかほざき出すアイツは、きっとどこかの悪徳宗教にハマってるのだと思う。


「しかし、英雄は色を好むと言うのでな……。私にも相手をする覚悟ができればきっと……だから、その許して欲しい」


「は?」


 前言撤回。

 きっと、なんだ?

 こいつは馬鹿なのか?

 私が相手をできないせいで、手当り次第に女の子にちょっかい掛けてます。だから彼は悪くありません。って言いたいのか?ふざけるな。抱けないだけで目移りされるならお前だってこの男にとってその程度の存在でしかないだろ。

 

「わかった。いいから黙ってさっさと消えろ」


 見てるだけで痛々しい。

 俺は人間関係のこういう所が嫌なんだ。

 一方通行の空回り。報われない想い。

 それでも人は誰かを愛さずにはいられない。


 そんなもの全部捨ててしまえばいいのに……。


「それは貴様の価値観だろう。それを私達に押し付けるのは違う!」


「押し付けたりなんかしない。俺は目を瞑り耳を塞ぐだけ。お前らが何をしようと構わない。ただ他人に迷惑は掛けるな」


 別に自分が正しいとは言わない。

 この騎士のように誰かを庇いたくなる気持ちだって理解できる。ただ、矛先まで変えさせようとするのは間違いだ。


「お前もいつか本当の意味で愛された時にはきっと聖澤も俺と同じ事を言う」


「私が愛されてないと?」


「いや、そこまでは言わない。けど少なくとも俺は大事な人の全てを受け入れた上で、堂々と隣を歩くぞ?」


 先程鑑定眼で覗いた目の前の騎士の種族はエルフであると、しっかり記されていた。

 恐らく聖澤は外聞の悪さから、彼女の存在を偽らせているのだろう。


「……っ!?そこまで見破ったのか?──しかし、それはお前が人族で、そこの女も人族だからこそ言える戯言だ。現実は甘くない」


「いや、そんな事ない。俺だったら大事な人の命がかかっているなら2万4000のドワーフだって敵に回す覚悟がある」


「どういう事だ?」


「先週。お前の命が危ない時、そこの英雄様は何をしていたんだ?」


「……!?貴様……一体何者なんだ?」


 やはりこの子も世界樹からのSOSは受け取っていたらしい。そして世界樹を失えばエルフも命を失う事も知っているようだ。


「黒の方舟って知ってるか?」


「まさか……では貴様が……貴方が世界樹を?」


「さぁな。ただ、正義よりも大事なものがあると思うのなら、誰からも虐げられず自由に生きたいというのなら、俺の手を取らないか?」


「私は──」




「って!黙って聞いてればさっきから!翔太が一番ナンパ師じゃない!!!!」


「ぐはっ!」


 光の勇者のボディブロー。

 俺は空中で56回転捻りを繰り出し地面に倒れる。


「カヒュー、カヒュー」


「デート中に他の女の子をナンパする奴がどこにいるって言うの!?ねぇ?」


「すびばせん」


「で?翔太、言い残すことはある?」



「嗚呼……お前、ツッコミも出来たんだ……なっ!(がくり)」



──〇〇〇〇──



「翔太、さっきの半分八つ当たりだったよね」


 彼が目を覚ましたのはあれから20分後。

 船乗り場で船を待っていた時だ。


「そうだな。むしろ8割は八つ当たりだけに」


「……」


「勇者の事責めてたけどさ、翔太ってレナード王子の想い人の理沙ちゃんの事、攫ってきたよね?それってナンパより罪重くない?」


「……正論過ぎてなんも言えんわ……」


「だよね」


「けどさ、やっぱムカつくだろ?ああいうの。せっかくこっちは楽しんでたってのに」


「翔太は人の心に高潔さを求め過ぎ。人はもっと愚かで醜くて穢い」


「わかってる」


「わかってない。わかろうともしてない。人の価値観なんてものは本来、もっと簡単に変わるべきなの。なのに翔太は私が出会った時から少しも変わらない!」


 元はと言えば、翔太とペトラちゃんの監視のために同行した私。


 それがいつの間にか、全てが愛おしく感じて、家族との毎日が楽しくて、幸せで──そうやって私は変わっていった。


「なのに、私を変えてくれた翔太だけは未だに変わらないまま。私は翔太の心に触れられないまま」


「そんな大袈裟な」


「大袈裟なんかじゃない。翔太は私達を家族って言うよね。それは素直に嬉しい。けどさ、翔太にとって家族って、特別な存在じゃないよね?」


「……」


 翔太は何も言わない。

 けれど、それこそが肯定を表す。


「さっきはありがとうね。助けてくれて嬉しかった。私は翔太の女、なんだっけ?」


「それは言葉の綾だよ」


「ふーん」


「なんだよ?」


「別に。──ねぇ、翔太。提案なんだけどさ、私と──」





やっとストーリーが進んできました!

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