事後処理
私が翔太の所に辿り着いた時には全てが終わっていた。
その場に敵の姿はない。逃げられたのか完全に消滅したのか定かではないが、その場が安全であるのは確かなようだった。
私よりも先に着いていたネギまちゃんとクハクちゃんに守られるようにして眠る翔太は、まるでおとぎ話のお姫様のように美しい寝顔を晒していた。翔太はきっと「俺は男だ!」と怒るかもしれないけれど、全てを出し切ったと誇るような、満足気なその寝顔が私の鼓動を早く打ち付ける要因になったのは確かだ。
「かっこいいね。翔太……」
また無茶をしたのだろう。
せっかくの制服もボロボロで、ほとんど半裸の状態である。身体のほとんどは包まれるようにして二匹の従魔に隠されているが、この雨の中じゃ風邪も引いてしまうかもしれない。
私は魔法袋から外套を取り出すと翔太の傍で膝を折る。
「クハクちゃん、ちょっと失礼するね」
言葉が通じているかは分からないけれど、彼女の主に触れることに対し、一応の断りを入れてから翔太の上体を起こした。
そっと胸に手をやると、彼の鼓動が少し冷えた体温と共に直接伝わってくる。よかった。ちゃんと生きてる。
「グルゥゥゥ」
クハクちゃんの機嫌が悪くなってきたところで、私は翔太を着替えさせる。
何故か足元の聖剣が青白く光っているのが見えた。
「ん?これ、何だろう……」
これまでに聖剣が青く光った事は一度もなかった。
少し気になるけど……じゃなくて!もっと重要な事がある。聖剣が光ったと言うことは、魔力が使えるということだ。
「私と翔太は先に帰還する。ネギまちゃんはまだ戦ってる子達の援護をお願い。私もすぐに戻るから」
クハクちゃんの方は……着いてくる気満々だ。
私は渋々といった態度で飛んでいくネギまちゃんを見送ってから、翔太とクハクちゃんと共に我が家へと転移した。
──〇〇〇〇──
目を覚ますと、俺はいつの間にか我が家へと帰って来ていた。
いつもより寝心地が良かったのは、俺が寝ていたのが布団ではなくクハクの上だったからだろう。
クハクの呼吸に合わせて上下する毛並みが心地よく、どこか安心する。
「おはよう。ありがとうな、クハク」
「いえ、それほどの事ではございませぬ。お礼なら先輩と勇者様に言ってあげてくださいまし」
「リシア達に?」
「はい。勇者様がここまで運んでくださいました。先輩は雨で体温が冷えぬようずっと寄り添っておりました」
そうか。
クハクが素直に他の人を褒めたりするってことは余程世話になったのだろう。
強敵と戦う度にいちいち事後処理してもらわなきゃならないってのもなんだか情けねぇな。
「戦場の方はどうなってる?」
「主様以外に怪我人はおりませぬ。今は敵軍も引いているようでございます。すぐにでも、皆、帰りになるかと」
そっか。みんな無事か。
「最早人類ではワタクシ達の相手にならないでしょう」
そうだな。クハクの言う通りだ。
人類が相手なのだとすれば敵なしと言っていいだろう。
例え敵が今回の倍いたとしても、負ける気がしない。
ただ、俺が倒さなければならないのは、人族10万の軍をたった一人で蹴散らすような化け物を軍団で率いる神だ。
インフレ起こしまくらなきゃ到底辿り着かない場所にいる奴らを相手取らなきゃいけない。
強くならなきゃだ……。
下級神なんて一撃で屠れるような、実力を付けなくちゃいけないんだ。
「主様?今は休みましょう。せっかく二人きりなのですから」
「あ?ああ、そうだな」
難しいことは、また後で考えよう。
──〇〇〇〇──
「実に面白いではないか」
男は大口を開けて笑う。
「まさか貴様の恩恵を受けていない異世界人にここまでできるとはな」
男は自らの足元に目を向ける。
視線の先にいるのは鎖に繋がれた一柱の女性。
ウェーブのかかった金色の髪を床に垂らし、背を丸めるその女性は女神である。
彼女は何も言わないままただ目を伏せる。伏せ続ける。
「さて、何故あんなにも早く成長していくのだろうか。不思議なものだ」
その男──ゼーベストは知らない。
自らが興味を示した異世界人が自分の命を狙っていることなど。
いや、それ以前に知る必要などないのかもしれない。
たかが人間に、全能神であるゼーベストを討てるなどと、誰が考えようか。
「やはりお前の眷族は面白い。融通の効かないうちの愚図共とは大違いだ」
男は笑う。
大口を開けて笑う。
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