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友の声


戦闘はラストです!



「くそっ……」


 やはり下級であっても神は神だ。全く歯が立たない。


 迫り来る剣撃をどうにかして凌ぐも、少しずつ、着実にダメージを負っていく。


 剣を6本持っていたのは、どうやら腕も6本あったかららしい。人の限界を超えた動きをする神を相手に、俺は手も足も出なかった。


 俺としても、人類の中ではかなり上り詰めた気でいた。

 もちろんペトラなんかには敵うはずもないが、それでも強者である事は自負していたのだ。


 けど、そんな事、なんの価値もなかった。


 俺はどうやらまだ日本人気分が抜けていなかったらしい。

 人類が食物連鎖の頂点だって、勝手に思い込んでいた。この世界じゃ人類最強であったとしても、意味なんかないのに。


「【空断】」


 飛来する6つの剣。

 俺はバックステップで距離を取り一撃目を躱す。

 次の攻撃が左脚を掠めたところで、俺はそのまま宙に飛び、三撃目を躱す。

 空中で逃げ道を失い、迫ってきた四撃目と五激目を剣で防いだところで六撃目──これは大きく俺の脇腹を抉った。


 熱を帯びた腹部が雨に濡れ血を滲ませる。


 圧倒的な力を前に絶望してしまえば、そこに狂気は生まれない。


「貴様は何故戦場(ここ)に来た?」


 神の問いかけ。そこから感情らしき物を感じることはできないが、俺は素直に答えた。


「家族を失わない為に」


「そうか。しかし、先程貴様の仲間が斬られたのを見た。小さな獣の少女を庇った黒髪の者だ」


「急に口を効き始めたと思ったら、何だよそれ。そんな訳ないだろう」


 うちの家族は強いんだ。そんな言葉に耳を貸す必要はない。


「名は……リリムというらしい」


「……っ!」


 しかし、俺はその名を聴いて動揺をしてしまった。


 まさかとは思う。だが神がこのタイミングでつまらない嘘を言うだろうか。それにこの神はリリム名前まで把握している。


 なら本当に……!?


「雑念だ」


 神がそう呟くと、【吸魔】では回収しきれない程の絶大な魔力が空を包み──雷が大地を貫いた。



──〇〇〇〇──




「……ミリィちゃん、大丈夫だった?」


 背後から迫る敵に気付いたリリムはミリィを庇い、背に傷を負った。

 血溜まりができる程の深い傷。リリムは多くの血を失い、意識が朦朧とするのを感じた。


「リリムお姉ちゃん!死んじゃやだよ!」


 ミリィは仰向けに倒れるリリムに寄り添い手を握る。


「……ねぇ、お兄ちゃんは……翔太くんは、私が死んだら悲しんでくれるかなぁ」


「大丈夫だよ!リリムお姉ちゃんは死んだりしない!今すぐ回復魔法掛けるから!」


 そう言ってミリィは回復魔法を詠唱するが、そこで違和感に気付く。


「なんで!?どうしようお姉ちゃん。魔力が練れない!」


 それは翔太が発動した【吸魔】による影響。

 タイミングが悪い事に、ここから少し離れた場所で翔太がそのスキルを発動してしまったのだ。


「まだ翔太くんのお嫁さんになってなかったんだけどなぁ。でも翔太くんが悲しんでくれるなら、悪くないかも」


 必死なミリィを置き去りにリリムは弱々しく微笑んだ。


「わかんないよ、リリムお姉ちゃんが何を言いたいのかわかんない!しっかりして!」


 ミリィも言葉の意味が理解できない、という訳ではないだろう。ただなぜこのタイミングでその話をするのかがわからない、まるで死ぬみたいではないか、と。


「翔太くん……好きだよ、ずっと、ずっと……大好き……」


 少しずつ目を細めたリリムはやがて完全に瞼を閉じるとガクリと首を落とした。


「リリムお姉ちゃん……?リリムお姉ちゃん……っ?」


 ミリィの呼び掛けに、リリムはピクリともしない。

 ただ何かを噛み締めるような、幸せそうな顔のまま──



「どうしたんですかー?」


 そこで、後ろから間の抜けた声が掛かる。

 声の主はキノ。布団叩きを片手に敵を叩き飛ばしつつ、こちらへと駆けてくる。


「リリムお姉ちゃんが、ミリィの事を庇って……」


「うわぁ!確かに凄い血の量ですねー」


 まるで緊張感のない声。

 キノは布団叩きを使って、お好み焼きのようにリリムをひっくり返す。


「結構深くやられてますねー」


 キノは魔法袋から回復薬(ポーション)を取り出すと乱暴に振りかける。


「さっさと起きてくださいー!キメ顔のつもりですかー?遊んでないでさっさとしてくださいよー」


 キノは声を掛けるがリリムが反応する様子はない。

 焦れたようにため息をひとつ吐き、キノは布団叩きを振りかぶると、そのままリリムのお尻をスパンと叩いた。


「痛っ痛い!!!」


「HPが1割しか削れてない人間がどうやったら死ぬんですかねー?悲劇のヒロインの妄想も大概にしてくださいよー?」


「ご、ごめんなさい。なんか、興奮してたみたい、です」


「ならいいですけどー。ほんと、今日といい訓練の時といい、血を見る度にあるじへの告白を聞かされる私達の身にもなってくださいよー?」


 気がつくと、辺りには他の家族達も集まっていた。

 今までの光景を見ていた者はキノの言葉に賛同するようにうんうんと頷いている。


 リリムが本気で死ぬと思っていたのは、この場ではリリム本人と純粋なミリィくらいのものだろう。


 その他の者にとってこの光景は最早見慣れたものである。


「ほら、さっさと片付けるよ!」


「はいっ!」


 彼女達は再び武器を構え、敵の元へと駆け出した。




──〇〇〇〇──



 計り知れない程の魔力の本流に呑まれた俺であったが、一命は取り留めていた。

 【七転び八起き】のスキルはどんなオーバーキルだったとしても俺を生き長らえさせてくれるらしい。

 このスキルが無ければ今頃俺は死んでいただろう。


 みんなは無事だろうか。


 真っ先に思ったのはそんな事だった。


 自分でも驚きである。まさか自分よりも心配な人ができるなんて……。


「けど、あんな落雷があったんだ。みんなも巻き込まれて……」


 それに、こいつに勝てる気が全くしない。

 どんなに足掻いてももう無駄なんじゃ……


『翔太って諦めが早いよね。潔く切り替えられるならそれでもいいと思うけど、翔太は違うでしよ?』


 こんなタイミングで思い出す友達の言葉。

 考えてみればいつだってあいつは偉そうに俺に説教していたと思う。けど、全部間違いじゃなくて、決して出来ないことだけは言わなくて……


 俺以上に俺を知ってるような奴だった。


 神は倒れ伏す俺との距離をジリジリと詰める。


「ふざけるな……勝つんだろ?みんなで家に帰るんだろ?」


 なんで俺はこんな所で寝てんだ。


 立て、立てよ。立つんだよ。


 この程度の相手にビビって、どうやって女神様を救うってんだ。



「っぐっ……うあぁぁぁぁぁっ」


 俺は軋む身体に鞭を打ってなんとか立ち上がる。


 呼吸をするだけで、骨が痛む、目眩がする。


 血に混じり、全身から油汗が溢れ出す。


「ようやく温まってきたわ」


「笑止」


 俺の友は、俺の憧れたアイツならきっとこんな事で諦めたりしない。


 俺が惚れた男は泣いたって、死んだって、バラバラになったって、何度でも立ち上がるような奴だ。


 大丈夫、まだ俺には腕が生えてる。

 まだ俺には足が生えてる。


 ──戦え


 ──戦え


 ──戦うんだよ!


 かっこよく死ぬって決めただろ。


 もう二度とかっこ悪い真似はしないって、誓っただろ。


 あの日、あの夜、手紙に綴っただろ。


 俺はこの世界で、あいつの友である事を誇ってもらえるように生きるって。


「それは涙か?」


「そうだよ。怖ぇんだ。死ぬのは怖ぇ」


 いつの間にか俺は泣いていた。震えも止まらない。


 けど、しかたないだろ。これが俺の選んだ道なんだ。


「俺は正義のために生きれるような上等な人間じゃねぇよ。けど、助けを必要とした家族を見捨てられる程、腐ってもいねぇ」



「っっっぐっはぁっ」


 まるで弄ぶかのようにして薙ぎ払った剣が、胸を切り裂き、そのまま流れるようにして繰り出された蹴りに俺の身体は数メートル後方へと飛ばされる。


「まるでゴキブリのような生命力だ」


 俺の事は哺乳類呼ばわりのくせにゴキブリは名称まで覚えられてるのかよ。


「ゴキブリよりしぶてぇよ。俺は潰されたくらいじゃ死なねぇ。消し炭にされたぐらいじゃ死なねぇ。俺が死ぬのは、たった一人の友に認めてもらった後だ」



 ──自分に自分を誇って死にたい。


 ──アイツに認められて死にたい。


 ──女神様との約束を守ってから死にたい。


 ──だから今は……死にたくない!


『固有スキル:消えぬ灯火を獲得しました』


『固有スキル :生への渇望を獲得しました』


『固有スキル :夢見る追憶を獲得しました』


「っぐふっ……」


 迫り来る剣は俺の胸を貫き赤く染まる。


「死ねねぇよ。今はまだ、死ねない!」


 もはや感覚があるのかどうかさえ、頭ではわからないその右腕を無理やりに振るい敵の顔を狙う。


 神はその拳を避けることは叶わなかったが、左腕でガードすると俺の胸から剣を抜いて距離をとる。


 まだだ。まだ俺は負けてねぇ。


 アイネクライネナハトムジーク第十八金剛烈空丸・華叉が吸収した魔力で傷口を塞ぐとフラフラと神との距離を詰めていく。


「……はぁ、はぁはぁ……」


 (まばた)きはするな……もし次に目を閉じたら、二度と開かねぇぞ。


 敵を見据えろ、歯を食いしばれ。俺は男だ。


 俺はアイネクライネナハトムジーク第十八金剛烈空丸・華叉に間力を込める。一撃でいい。一撃で仕留めるための魔力を……


「【愛音(アイネ)】」


 俺の声に導かれるようにして刀から溢れた魔力が優しい音を奏始める。


 これは溜め(チャージ)スキル。特大な1発をお見舞いする為の布石である。



「滅せよ」


 俺が構えたその刀に危機感を感じた神は休ませる間もなく全力で切りつける。


「【無覇(ナハ)】」


 衝撃波を生み出す刀のスキルでどうにか軌道を逸らす。


 奴は目の前の男──俺に本能的に危険を感じたのだ。

 ははっ。神様も一丁前に焦るんだな。


 だから俺は倒れない。


 血を流し、涙を流し、汗を流しながらも依然とそこに立ち続ける。


「何故立ち続ける?」


「っぐっ。……怖いんだろ?」


「?」


「お前、俺が怖いんだろ。どんなに殴っても、どんなに切りつけても死なない俺が怖いんだろ!」


 図星だな。普通ならとっくに死んでいるようなダメージだ。それでも尚、俺は倒れることなくそこに立ち続けている。孤独な神に、俺たち弱者の意思など理解出来るはずもない。


「解せぬ」


 もういい加減諦めたさ。

 俺はヒーローになれない。主人公にもなれない。

 けどさ、醜くても恥ずかしくてもダサくてもいいから。


 俺は何も失わずに生きたいんだよ。

 


 やがて福音は止み辺りを静寂が覆う。

 俺の手には膨大な魔力を纏った刀が一振。


「汝、死ぬのが怖くないのか?」


「さっき言っただろ?怖ぇよ」


 こんな莫大な魔力、解放してしまえば余波で自分まで死ぬかもしれない。神はその事を言っているのだろう。

 けど、恐れるものなんて、何も無い。


 前にリシアが約束してくれたから。

 俺が死ぬ様なことがあっても、その時は代わりにリシアが女神様を助けてくれるって。


「だから俺はお前さえ殺せれば十分だ。あいつらを失わずに済むのなら、俺は死んだって構わない」


『翔太は他人を大事にし過ぎ。そりゃ、友達も作りたくないよね。大事な物が増えるほど、人は弱くなるんだから』


 また、かつての友達の言葉を思い出す。


「うっせぇよ」


 今思い出したいような記憶ではなかった。

 ただ微かに口角が上がってしまったのも事実だ。

 そう言えば、続き、あったよな。確か本当に強くなれる時ってのは──


「『誰かの為に何かをしたいと思った時』だったな」


『自己満足、できる?』


 ──ああ、できるよ。してる。

 

 俺は弱くて、情けない自分が心底大好きだ。


「【勝導(ジーク)】」


 俺は赤い魔力を纏うアイネクライネナハトムジーク第十八金剛烈空丸・華叉を構えると全力で神に振り抜いた。


いつもありがとうございます!!!


今回で戦闘はラストです。

後何話か入った後、次の章に移ります。


テーマは恋と愛!ぜひ、これからもよろしくお願いします!

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