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手を取る



「おはよう」


 俺は次の日の朝、目を覚ますことができた。


 本当によかった。

 俺が寝た後、勇者と魔王による第二次人魔大戦はなかったらしい。


 2人はまだ寝ていたようで、返事はなかったがリシアの方は目を覚ましたようだ。

 警戒心の強さなどを見るに、やはりリシアも騎士なんだなって思う。

 いや、待て。こいつ本当に起きてるのか? 目開けて寝てるだけじゃね?


 一方ペトラと言えば寝息を立てている。リシアが剣を抱えて座りながら寝ていたのに比べ、こっちは大の字だ。

 図太いのかアホなのか……昨日まで殺し合いをしていた宿敵を目の前にしてこの態度、なるほど王の器である。

 大きく口を開けて胸を上下させているのは言うまでもないだろう。

 俺は起きているかわからないリシアにもう一度おはようを伝えると「ちょっとトイレ」と、一言残し洞窟から出た。


 もちろんそこに広がるのはただの森で、トイレなんてないのだけれど。



 ──俺が洞窟に帰って来る頃にはペトラも目覚めていた。


 実はトイレに行っている間に色々とあって洞窟に帰って来たのは30分後だった。

 俺の身にナニがあったかはまた後日。ということになるが、それはまぁいいだろう。


「それで? 俺がいない間に話した結果、どういう結論になったんだ?」


 何はともあれ、大事なのは今後の方針である。


「私はもう戦争は懲り懲り。ペトラちゃんともそれなりに打ち解けちゃったし、良い機会だと思うから、これからは身分を隠してただの農民として生きようと思う」


  なるほど、そう言えばリシアはもともと農家の娘だったんだもんな。元の生活に戻るってわけか。


「じゃあ、ペトラは?」


「んー。ペトラはわかんない。どうしようかな?」


 そう言って首を傾げるペトラ。彼女はまだ決まってないらしい。


「魔王はもうやらないのか?」


「やった方がいいかな?」


「私としてはやめて欲しいな。ペトラちゃんが魔王に戻るなら私も勇者としてペトラちゃんに剣を向けなきゃいけなくなるし」


「なら、ペトラは魔王やめるよ。あんまり楽しくないし」


 ペトラもか。まぁ、本来なら3歳って自分のやりたい事をやりたいようにするお年頃だしな。


「で? ペトラちゃんの方はひとまず置いておいて、翔太の方はどうするの?」


「あぁ、俺か……俺はもう決まってるよ」


 俺の覚悟はもう決まっている。


「女神様に会いに行く」


「女神様?」


「そう。女神様」


 女神様が助けを求めているなら俺は行かなきゃいけない。

 金稼ぎと並行してやるべき俺の目標だ。


「随分と具体的な予定なんだね? もしかして、翔太ってそのためにこの世界に呼ばれたの?」


「え?」


 あれ? 俺、異世界から来たなんて話したっけ?


「黒い髪に瞳、翔太って日本人でしょ?」


「そ、そうだけど……? 知ってるのか?」


「ペトラも知ってるよ! この世界では宇宙人って呼ばれてるの! 女神から特殊な力を貰った宇宙人はこの世界では神の使徒として私たち()()()()()を殺す最大戦力ってことになってるの」


 なるほど、ただリシア曰く、権力を笠に着て好き勝手やらかす連中も多いのだとか。


 日本人、いっぱいいるのか……しかも、俺以外はチート持ちかよ……。


「でもなんで宇宙人って呼ばれてんだ? ここは火星だったりするのか?」


「火星? が何かは知らないけれど、一番最初にこの世界に来た宇宙人がそう言ってたらしいの。確か、『我々は宇宙人だ』だったかな?」


 リシアは口に手を当ててあわあわーとモノマネをする。


 随分とユニークな勇者だなぁ。リシアも初代も。


「1人しかいないのに複数形で名乗った事から、その宇宙人は霊能力の使い手だったと考えられているの」


 いや、多分その人は一人です。

 語呂的な問題で我々と言ったに違いない。


「その人が残した7本の剣が今も聖剣として勇者に引き継がれているの。伝承では魔王と対消滅した宇宙人の片割れだと言われてて、その宇宙人は今でも初代勇者様として崇められてるの」


 へぇ、そんな偉大な人がいたのか。

 うちの父さんに教えてやりたいね。

 まぁきっと「他所は他所ウチはウチ」って言うに決まってるんだけど。


「それで、話は逸れちゃったけど?」


「あ、ああ。これは紛れもなく俺の意思だ。女神様とは会ったけど、この世界に来たのは元々出稼ぎだから」


「そうなんだ……」


 そりゃあ、反応に困るよな。俺だって一昨日前まで神なんて信じてなかったし。


「決めた!  ペトラはそれ手伝ってあげる!」


「え?」


「ペトラ強いよ!  魔族の中では1番強いよ!  翔太の手助けできるよ?」


「それは心強いな。ありがとう。頼むよ」


 いいのか? なんて無粋な確認は取らない。助けてくれると言うのならそれに縋る。この世界は日本より遥かに死が近い。躊躇う理由はない。


「翔太はさ、拠点を作る予定はあるの?」


「うーん。そうだな、仲間も増やしたいし、どっかに家みたいなのは欲しいな」


「そう。ならいいか。私も手伝うよ!  勇者の力貸してあげる」


「いいのか?」


 余りにもびっくりしたのでいいのか? って聞いちゃったよ。


「うん。畑仕事ができるならどこでしても一緒だしね。それに魔王と勇者が手を組むなんて面白そうだと思わない?」


 うん。まぁ、そうだね。

 俺からしたらよくある話なんだけどね。


「本音は?」


「監視」


 なるほど。勇者としての矜恃か。


「それに関しては俺の方は大丈夫。だと思う……」



 きっと誰にも後悔させない、俺自身も後悔しない、そんな人生を送ろう。


 俺が選んだ道だ。俺が紡ぐ物語だ。俺はこの世界できっと幸せになってみせる。



 その日、俺たち魔王、勇者、宇宙人は手を取り合うことを選んだのだった。



 これは小さな一歩。

 人類にとって大きな変革のはじめの一歩。





ここまでお読み頂きありがとうございます!


次から新章に入りますのでいよいよギャグなどが挟まってきます!


これからもぜひ、よろしくお願いします!



トイレのナニの伏線は大分後で回収しますので、忘れてもらって構いません( ¯-¯ )

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