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初対面の相手は何故か普段より可愛く見える



「不法侵入者はっけーん! 逮捕しちゃうぞ!」


  ぴーっと黄色い笛を鳴らしたミニスカポリスの女が俺を指さし声を上げた。


「不法侵入、ですか?」


「そうだよ、あなた正規の手続きなしでこの世界に来たでしょ?」


 正規の手続き?なんだそれは。


 というかこの頭の悪そうな女はなんだ? ミニスカポリスなんて現代社会においてブルマと同じくらいのレア物だぞ。


 ちなみに俺はコスプレで言うなら巫女さんが好きです。


「私は神様、そう女神様よ」


「はぁ、そうですか」


「あら、驚かないのね?」


「まぁ、その手の小説はよく読みますから」


「なるほど、話が早いのはいい事ね」


 そう言って女神は指をパチンと鳴らすと女神らしい服装に姿を変えた。


 ──これが本来の姿か。確かに女神というのは見蕩れるほど美しいらしい。

 その艶やかな金髪も少しタレた目じりも、薄紅色の唇も、白魚のような手も裾から覗く足も、全てが芸術的なのだ。


 この人が作ったゴーヤチャンプルなら食べられる気がする。いや、例えピーマンであってもいけるだろう。



「早速ですけど女神様、チート能力ください!」


「え?いや、無理無理。ほら、これあなたの夢の中だし!」


 予習バッチリな俺は核心を突くも、いきなり期待はずれな答えが返ってくる。


 なるほど、そっちパターンかぁ。


 というか、ここ夢の中だったんだな。

 そう考えると、俺がこの状況を受け入れられたのも必然だったのかもしれない。


「ごめんね〜実際に会わなきゃあげられないんだ」


  女神様はそう言って申し訳なさそうに手の平を合わせる。


 そっか、ちょっと残念だ。これは苦労するタイプの異世界生活になりそうだな。


「どこに行けば会えますか?」


「あなたと私は会えないわよ。正規の手続きを……死なずにこっちの世界に来たでしょ?」


 なるほど、死ななきゃダメだったのか。

 いくらチート能力のためとは言えど、流石に命を差し出す気にはなれない。


「って! 待ってください! 俺死にましたよ! トラックに轢かれました!」


「なわけないでしょ。あのトラックはあなたのいた道の一つ前の交差点を左折して行ったわよ」


「なん……だと?」


「本当はね、あなたにも何か能力とかあげて、世界を救ってくださいって言いたいんだけどさぁ。会えなきゃどうしようもないわよね。そのまま頑張ってとしか……」


 しくしくと、啜り泣く演技をする女神様。あざと可愛い。

 まさか3次元世界にこんな美女がいるとは……。


「まあ、畑でも耕して余生を明かすといいよ」


  夢がない!


「俺に世界を救ってくださいって言わないんですか?」


「言うわけないじゃん!  転生者とか召喚者がチート能力を貰えるのは、日本人があまりにもカスだからなの! いい? カスなの! 平和な国でぬくぬくとママのおっぱい吸ってたような奴が、どうやって生死をかけた戦いに挑むってのよ!  ステータスの数値からして、どいつもこいつも並以下! いい? こっちの世界じゃあんたの力なんて──」


 何故か日本人を代表して10分程罵られた。

 おかしいなぁ、夢って5分も見れば夜が開けるのに……

 

 ちなみに、俺の知識が正しければ、日本人の乳離れの速さは世界トップランクだ。



「でも、確かに俺たちって無力ですよね。平和に守られてます。それでも、この平和な国を作るために戦った人達は決して弱くなかったですよ。守るべきもののために戦う人達は、きっと目には見えない力を持ってるはずです」


「へぇ、雑魚のくせに言うことだけは勇者っぽいのね」



 多分この人……この神様、これが素なんだろうなぁ。なんか、むしろ好感が持ててきた。


「俺だって、どうせなら救いたいですよ。そうですね、()()()美しい女神様とか」


 俺の言葉に女神様の視線が少し泳いだ。

 あからさまなその動揺を見逃せるほど、俺も馬鹿じゃない。

 ああ、なるほどな。やはりそうか。

 やはり彼女には()()がある。


「あのね、世の中は甘くないの。あんたなんてすぐに死ぬわよ? チワワに噛まれて死ぬわよ」


 チワワ?

 俺、チワワに殺されるのか?

 それだけは絶対やだ!


「でも、そういう呪いかけたもの」


「呪い? なんてことしてくれてるんですか!」


「私、本当は邪神なの」


「女神様でしょ!」


「そうだった、私は女神だった! 忘れてたわ! 父親が邪神で、母親も邪神で、その娘の私が聖なる女神様。確かそんな設定だったはず」


「両親が邪神だったらあなたも邪神に決まってるじゃないですか!」


 本当に邪神だったのかよ。とんだサラブレッドだ。


「まぁ、冗談はさておいて。あなたの日本での生活、少し覗いたけれど正義──じゃなくても、誰かのために生きようって思うようなタイプじゃないでしょう?」


「その前に、結局女神と邪神はどっちが冗談なんですか!」


「冗談抜きで言えば女神なのは間違いないわ」


 そうか、ならとりあえずは妥協しよう。


「確かに俺は顔も知らない誰かのためになんて生きれないかもしれません。でも──」


  俺はそっと女神様に向かって指を指す。


「苦しんでる人を見て見ぬ振りできる程、()()()()じゃありません」


 女神様は俺の言葉を聞いて一瞬目を丸くすると、ふーんっと心底驚いたように、されど嬉しそうに笑った。


「そっか。確かにあなたは()()ものね。あなたのそういう所は結構好ましいわ」


「ありがとうございます」


「まぁ、期待はしてないけどね! あなたが私を助けてくれるって言うなら待っててあげてもいいかな」


 認めたな。

 やはりそうだ。

 この女神様は救いを必要としている。


 根拠はあった。

 今俺と女神様がいるのは暗い一室だ。

 部屋の暗さと衣装に隠れていて見えづらいが、鎖が首から繋がっているのは間違いない。

 この女神様は監禁されている。

 恐らくここは牢屋かなんかだろう。


 他の転生者達は気付かなかったのだろうか。

 ……気付かなかったのだろうな。彼女の底抜けの明るさと、チートを得ることで持ち上がったテンションに隠され、誰も彼女自身を見ようとはしなかったのだろう。



「まぁ、執拗いようだけど? この世界じゃ、チート能力を貰ってない日本人なんて、クソほどの役にも立たないし期待はしないけどね。平和ボケした猿なんてこの世界じゃミジンコ以下の存在だもの」


 そうか。そこまで言うのなら──


「なら、ご褒美として俺に童貞を卒業させてください」


「……へ?」


  女神様が固まってしまった。大丈夫か?


「おーい、大丈夫ですかー?」


「だ、大丈夫に決まってるじゃない。ちょっと幻聴が聞こえちゃってね」


「そうですか、大変ですね」


「私も歳かな? もう3000年も生きてるしね、あはは」


「なら、俺に童貞を卒業させてください」


「あああああああ! 幻聴じゃなかった! 何? 何なの? 『なら』ってなによ? どうしたらそこまで話が飛ぶの? あなた、『なら』の2文字にどれだけの負担を背負わせるつもりなの? 原稿用紙5枚分くらいの分量をその2文字に押し込めたわね?  過重労働もいいところよ!  可哀想よ! 『なら』が何をしたって言うの! 過労死させるつもり? せ〇とくんにチクるわよ!」


「いえ、そんなつもりはないですけど」


 思いっきり顔を赤くして取り乱す女神様。

 なんだろ、この女神様面白いな。話せば話すほど好感度が上がっていく気がする。


「女神様、冗談ですよ」


 少しからかっただけだ。

 さすがの俺も、神様相手にそんな約束を取り付けようとするほど馬鹿じゃない。

 俺だって童貞卒業のときは両想いの女の子としたいのだ。無理矢理は好きじゃない。


「え? あ、そうなの?  そっか。うん。そうね」


 俺の言葉でようやく女神様の方も落ち着いたようだ。


「実はちょっと期待してました?」


「ばっ、なわけないでしょ?」


「そうですか。意外とウブなのかと思いましたよ」


「な、何言ってるのよ。わわわ、私ほどの美貌よ? 引く手数多(あまた)に決まってるじゃないの! その程度の約束ぐらい余裕よ!」


「そうですかー」


「あ!  信じてないな! 私はね、それはもうテクニシャンよ! みんな私にメロメロよ!  昔は夜のジェットコースターって呼ばれてたんだから」


 それは上手くないだろう……。


「俺は夜の暴れん坊将軍って呼ばれてましたよ?」


「あなた童貞なんでしょう?」


「な、なんで知ってるんですか!?」


「さっき自分で言ってたじゃない」


 そっか。そうだった気もする。


「前払いとして、肩揉みさせてもらえませんか?」


「か、肩揉み?  あなた男でしょう?  なんで私が男の人に肩揉みなんてさせなきゃいけないのよ!」


「え、でも、女神様って夜のジェットコースターって呼ばれるほどの達人なんじゃ……?」


「あっ、そ、そうよ。肩揉みぐらいどうってことないわ。昨日だって肩揉みしてもらったもの! そ、 その、男の神に!  私は肩揉みに関しても経験豊富よ」


「流石女神様!」


「私は凄いのよ!」


「はい、凄いです」


 何となくだけど、この女神様の扱い方がわかった気がする。なんというか、姉貴を少し丸くした感じだ。


 こんな感じの人が友達にいたら楽しいだろうな。


 って、もうそろそろだな。


「女神様、もうそろそろ目が覚めそうです。肩揉みの方は女神様を助けた後ということで」


「そ、そう……そっか。わかったわ」


  女神様は目に見えて分かるほどの哀愁を漂わせる。

 きっとこの女神様はずっと独りなのだろう。

 これまでも、これからも。


「女神様、今日はありがとうございました。色々と嫌なものを見たせいで、悪夢でも見るんじゃないかなって怖かったんです。女神様が夢に出てきてくれて良かったです」


「別にいいわよ、たまたまだし」


 そう言ってそっぽを向く女神様は少し頬が赤かった。

 こんなにもお喋りが好きそうなのに、ここでは独り。

 この女神様の仕事はここにやってきた死者に力を授け、送り出すこと。


  後は永遠の孤独だ。


「女神様、もし俺の夢に干渉できるなら、時々会いに来て下さい。暇つぶしにはなると思います」


「余計なお世話よ!  別に私は寂しくなんてないもの」


 そう言ってしっしっと手を振る女神様は少し機嫌が悪そうだ。


「いえ、俺が話したいんです。お願いできませんか?」


「……そう、わかったわ。全く世話の焼ける子ね。まぁ、あなたにだけ力を授けられなかったってこともあるし? 少しは面倒見てあげてもいいわよ」


「ありがとうございます」


「では、また」


「あっ……うん。またね。……約束、忘れないでね!」


 約束……?約束って……あれか!


「はい!」


 絶対に守ると誓います!


 この時の女神様の顔を俺は一生忘れることはないだろう。

 それは心の底から楽しそうにはしゃぐ、ひとりの少女のようで、とても美しかった。



「こうして童貞卒業という邪な目標を掲げた思春期男子の黒歴史が幕を開けるのだった」


「違います。女神様」


「膜を開けるのだった」


「勘弁してください……」






どうか15話くらいまでは愛想を尽かさずに読んでいただけると作者としては嬉しいです。

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