変死体
ここに来て2日目。
今日の授業は野外での魔法授業だったのだが、痛い詠唱を吐きまくる中二病オンパレードの彼ら、彼女らを見て、俺はある事を悟ってしまった。
そう。俺TUEEEEだったのである。
どう贔屓目に見ても、明らかに全員の魔法のレベルが低いのだ。
「俺、周りが強過ぎるから気づかなかったけど、普通の奴らに比べたら強い部類なんだ……」
冷静に考えればもっと早く気付いてよかったはずだ。
だって、俺は勇者と魔王と毎日特訓してるんだから。
強くないわけがない。
ミリィを含め我が家の全員が上級職に就いている。
一方、ここに居る生徒は全員が普通職だ。
先生の中ですら上級職の人はひと握りかもしれない。
なんだ……俺って凄いんじゃん。
「ははっ今日から学園俺TUEEEE物語が始まるんだ!」
──〇〇〇〇──
お昼休み。
俺は昨日と同じく、人目の付かない訓練場の裏で焼きそばパンをボソボソと食べていた。
友達を欲しいとは思わないけれど、昼飯を食べる奴がいないところを見られたくはない故の陣取りだ。
昨日までは休み時間の度に人集りができていたのだけれど、不良に絡まれてるところを見られたせいで、みんな寄ってこなくなった。ちくしょう!
「おお、いたいた!留学生!」
俺の目の前には性格の悪そうな奴らが5人、ニヤつきながら立っている。
こいつらは昨日俺に焼きそばパンを買ってこさせた奴らだ。なんか2人増えてるけれど……
「残念だったな、留学生。今日はオリヴィアさんはいねぇよ」
オリヴィア……?誰だろう。
口振りからするに、昨日の精霊騎士の女子生徒の事だろうか。
「殴られるか、俺たちの昼飯買ってくるか好きな方を選ばせてやる」
「なんでここって貴族しかいない学園なのに焼きそばパン売ってるんだ?」
昨日とは打って変わって、俺の態度はデカい。
こいつらにビビってた自分が馬鹿らしいぜ!
「っははははっ!留学生、そんなのも知らねぇのか?この国じゃ魔術学園も剣術学園も含め全ての学園で焼きそばパンを売っているんだよ。『焼きそばパンと書いて青春と読む』っていう初代勇者様の言葉を知らねぇのか?」
丁寧にも答えてくれた焼きそばパンの謎。
初代勇者……やっぱり大分変わった人だな。
「それで?何の用だ?俺は今忙しいんだ」
「おい、俺の話聞いてなかったのか?焼きそばパン買って来いって言ったんだよ」
「あぁ、そうだったな」
俺は腰掛けていた階段を一段と一段と下りそいつらとの距離を詰めていく。
「なあ──」
──〇〇〇〇──
スタッグホーン学園には裏番長と呼ばれる男がいる。なんでも、表のリーダーとされるオリヴィアとは別に、アウトローな奴らばかりを従え、学園を裏から操らんとする者がいるとかいないとか。
その者の名は──ショータ・コン・ルーザス
本名、春野翔太。
「どうしてこうなった……」
色んな奴に売られた喧嘩を買っていたら、いつの間にか荷物持ちやら何やらが、俺の周りを彷徨くようになった。
魔術しか使えないイキり野郎なんて一発殴ればぴえーんと泣き出す。正直、余り気持ちのいいものではないが、露払いは必要だから仕方なく対処していたのだが……。
まぁ、だけど、お陰でお昼ご飯は1人じゃなくなった。
今日も訓練所の裏は見るからにガラの悪い連中が俺を中心に囲むようにして入り浸っている。
悪い気はしないけどね。
裏番長っていう響きも古風で好き!
「貴方みたいな人間が風紀を乱すの。さっさと国に帰ってもらえないかしら」
「あぁ、またお前かよ」
そう。また。目の前でオリヴィアとかいう女がキーキー言っている。こいつ、昼休みの度に俺のところへ来ては小言を言って去っていくのだ。
正直鬱陶しい。助けてくれた感謝さえすっかり消え失せていくほどの、罵倒の毎日。俺のライフはゴリゴリ削られていく。
わざわざ俺に絡むためだけに訓練所の裏まで来ているのかと思ったが、どうやら彼女は昼食を早めに済ませ、訓練所で稽古をしているらしい。
一秒の時間さえ無駄にしないといった彼女のストイックさには感じるものもあったが、とりあえず俺は彼女が早々に退場してくれる事を祈るばかりだ。
「類は友を呼ぶのかしらね。腐った存在の傍ではウジが湧くのも仕方のないことだわ」
オリヴィアは今日も通常運転らしい。
俺をジャンクヤンキーと一緒にするんじゃねぇよ。
全く、腹の立つ女だぜ。
「兄貴、それは俺らに失礼じゃないっすか?」
「つーん」
俺はぷいっと知らん顔する。
「貴方はお山の大将気取って楽しいのかしら?」
「別に、俺にそんなつもりはねぇよ。けどな、大海を知った蛙ってのは十中八九井戸に戻って再び威張るもんさ」
俺は魔王と勇者を知っている。
だから責めて、ここにいる間だけは強者の気分を味わいたいのだ。
「本当の強者は常に努力を惜しまないわ。弱者を虐げていい気になってる奴はそのうち痛い目を見るに決まってるもの」
「……」
ぐうの音も出ない正論。本当にその通り過ぎて何も反論できねぇ。
「……もしかして心配してくれてる?」
「笑えない冗談は罪よ。私が断罪してあげてもいいのだけれど?」
スゥーっと目を細めたオリヴィアは腰に携えた剣を握る。飽くまで脅しの為でその握りからは剣を抜く様子は感じられないが、その洗礼された動きからは並々ならぬ努力が伺える。
「悪いけど、俺の方が強いぜ?なんてったって剣術スキルのレベルは──痛っ!」
オリヴィアは敵感知スキルにも引っ掛からない滑らかな動きで、鞘に入ったままの剣を俺の頭に叩きつけた。
「笑えない冗談はやめるよう言ったはずよ。貴方みたいな軟弱者、私の足下にも及ばないわ」
「馬鹿にしやがって……」
流石に傷ついた俺はちょっと仕返しの意を込めて、ずっと温めてきたあの言葉を口にする。
「なぁ、お前寒くないのか?」
「なによ、急に」
「いやさ、最近スカートの丈が短くなったなと思って」
「~~~~~っ!おだまりっ!」
──その日の放課後、雪を真っ赤に染めた瀕死の生徒が発見されたという。
取り巻きの不良共は誰も助けてはくれなかったらしい。
ほらな、だから友達なんていらないんだ。




