リハビリとストレス
リシアはお小遣い稼ぎのため、翔太と2人で冒険者ギルドに来ていた。
今日は翔太のリハビリの為の慣らしだ。
リリムちゃんという魔族の女の子に作ってもらった刀の試し斬りも兼ねての事らしい。
「ん?なんでこのモンスターはFランクでも受けれるのにこんなにも報酬が高いんだ?」
「それはだね……」
「これ受けようぜ」
「いや、やめといた方がいい。きっと後悔する」
そう。翔太が今手にしているのはとんでもないクエストの依頼だ。絶対に受けてはならない。そんな依頼──
「えー、でもこんだけ報酬高いんだしさ、いいじゃん」
「いや……でも……」
「頼むよ!今回だけだって!マジで!先っぽ!先っぽだけだから」
「本当に先っぽだけ?」
「そうだ」
「まぁ、うん。そっか……そうだね」
結局、翔太の食い下がりにリシアは折れた。
その魔物はある特徴を持っているのだが、その一点を除けば初心者でも倒せるような、弱い魔物なのだ。
故にイケると判断した。してしまった。
2人の身にどんな不幸が迫っているのかも知らぬまま。
今回の依頼は馬鹿3頭の討伐。
二足歩行のモンスターで馬の顔に鹿の角。人間の体をもったモンスターで、春になると畑を荒らしに人里へ降りてくるため、冬の間には討伐依頼が多く出る魔物だ。
リシアは翔太と共に街から少し離れた田舎村の近くの草原に転移する。
あれが馬鹿ね……物凄い馬鹿面だ。
この魔物に関してはリシアも初見。初めて見るタイプである。
「うっわ、こりゃひでーな」
翔太の目には見慣れたもののように映っただろう。
何故ならその魔物の見た目は、馬の被り物を装着した毛深いおっさんのような見た目だからだ。
特に胸毛が濃く、ビールっ腹。めちゃくちゃ気持ち悪い。
「よ、よし、さっさと終わらせるぞ」
引きつった顔の翔太が啖呵を切ると同時に、リシアも聖剣を構える。
ターゲットは腕立て伏せをしているやつだ。
リシアは馬鹿の角に向けて全力で刀を叩き込む。
「ばーか」
「え?」
「ばーか」
あれ、私、今この馬鹿にばーかと言われなかった?
「ばーか、ばーか」
ぶちっと何かがキレる音がする。
リシアは自身の額に青筋ができているのが自分でもわかった。
なんなの、コイツ──許せない!
リシアは聖剣を乱暴に振り回し攻撃する。
──しかし、当たらない。
「ばーか、ばーか、ばーか!」
この魔物、回避性能がえげつなく高い魔物なのである。
さっき角を攻撃した時は豆腐のように切れたし、耐久面に関しては大したことなさそうなのだが、当たらなければなんの意味もない。
「ばーか」
「うわぁぁぁぁ!」
リシアはそのまま刀を纏った光魔法を放ち消し炭にする。流石に勇者の魔法に耐えられるはずもなく、辺りにはクレーターだけが残った。
すると誰かがリシアの左肩に手を置いたようだ。
「ああ、翔太。ごめん、少し手間取ったかも」
慰めてくれるのだろうか?翔太も案外いいところあるんだなぁ〜、なんて、そう思いながら振り向くと──
「ばーか」
違った。──リシアの肩に手をやっていたのは翔太なんかではなく……馬鹿だった。
「死ねえぇぇ」
勇者とは思えないような、怒りに満ちた咆哮。
聖剣に魔法を乗せてボッコボッコに切り刻む。
この魔物絶対許さない!ああああああああぁぁぁ!!!
また、少し離れたところには両手を広げ、やれやれと言いたげに鼻の穴を膨らます馬鹿がいる。
「ばーか」
更に奥ではブリッジしながら
「ばーか」
んぬぬぬぬああああああ!許せない皆殺しなんだから!
結局リシアたちは3体討伐のところを50体も討伐し、この辺の馬鹿を殲滅したのだった。
──ペトラちゃんが可愛く見えてくるな。
「私、あんなクエスト二度と行かない」
「右に同じく」
リシアたちは金と引き替えに多大なるストレスを受け、少しやつれた顔で沈みゆく夕日を眺める。
「ねぇ翔太。たまには2人でご飯行こっか」
「ああ。そうだな」
お酒でも飲んで、今日の事はスッキリ忘れよう。
──結局、依頼で得た金よりもメンタルケアのお金の方が多くかかる私達でした。
めでたくなさ過ぎ、めでたくなさ過ぎ。
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ほのぼの休暇編は以上になります。
次回から悪役令嬢編になりますので、これからもよろしくお願いします!




