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節分



 今日は2月3日。節分だ。

 たぶん地球は今頃8月とかだと思う。

 まあいいや。


「今日は豆まきしまーす」


 俺が全員に宣言するとぱちぱちと拍手が起きる。


「みんな節分って知ってるか?」


「ううん。知らない」


 ペトラを筆頭によくわからんなぁって顔をしている人が結構いる。

 ──むしろ節分を知っている人は誰もいなかった。


 まぁ、節分に関してはちょっと地味なところがあるよな。


 広まっていないところをみるにこの世界ではあんまりウケがよくないか日本人が豆まきをイベントとして数えていないか……。


 どっちもありそうだな。


「じゃあ豆を持ったら全員俺の真似をしてくれ!──いくぞ!」


「鬼は〜外〜!」


「「「「鬼は〜外〜!」」」」


「福は〜内〜!」


「「「「福は〜内〜!」」」」


 うちって内と家どっちなんだろう。

 内で合ってるのかな?


「もっかいいくぞ〜!鬼は〜外〜!」


「「「「鬼は〜外〜!」」」」


「福は〜内〜!」


「「「「福は〜内〜!」」」」



「しょーたっ!!!!」


 後ろからの声に振り返るとペトラが頬を膨らませて目じりに涙を溜めている。


「なんでペトラに意地悪するの!!!」


「え?あっ……」


「ペトラのこと嫌いになったの?外に追い出すの?」


 そうだった。ペトラ吸血鬼だった……


 俺はグズグズと鼻を啜りながら俺の服を引っ張ってくるペトラの頭を撫でながらどうにかあやす。


「違うぞペトラ!鬼ってのはオーガの事だ!吸血鬼は関係ないぞ?」


「ほんとに?」


「ほんとだ」


「みんなペトラを追い出そうとしてない?」


「してない!してない!」


「わかった」


 ふぅ……。癇癪でも起こされたらこの辺り一帯更地になるからなぁ。気をつけねぇと。



「こうやって豆を巻くことで、邪気を払い、福を招くんだ」


「そっか!じゃあ、いっぱい福を呼び込まなくちゃね!」



「豆は年齢の数食べるように」


 自分で言って、そこでふと疑問が生じる。

 俺の誕生日は4月18日だ。だから日本にいた場合はもう17歳になっているのだが、こっちの世界では誕生日はまだ2ヶ月後ということになる。

 俺は16歳と17歳どっちなんだろう。


 まぁ、17歳でいっか。俺は豆を17個食べる。


『えええええ!アンジーさん!まじですか!』


『しっ!静かにして!主様にバレたらどうするの!』


『す、すいません。でもそっかぁ、そうだったんだぁ』


『誰にも言わないでよね』


 ふと、遠くからコソコソ話が聞こえてくる。

 テイマーのスキルの影響だろうか?仲間の声とかが聞き取りやすいんだよね。


 俺は声のする方向をちらりと見る。

「何をコソコソしてやがるんだ……あぁ、なるほど」


 アンジーさんと呼ばれていたエルフの女性なのだが、

1人だけ豆の量がえげつないのだ。

 おそらく彼女は100歳を超えているのだろう。


 流石は永遠の命とまで言われるエルフだ。見た目は完全に20代前半のお姉さんだもんなぁ。


 とは言え、エルフの100歳は人族の20歳と同じくらいらしいので、彼女の感覚としては成人して少し経った程度という事になるのだろう。


 節分……あまり女性ウケのいいイベントではないかもしれないな。特に我が家は。


 俺はすっと目を逸らして気づかなかった振りをする。



 17粒しかない豆を食べようと口を開いたところで、再び声が聴こえてくる。


「あらあら勇者ちゃまは0さいなんでちゅかぁ〜?」


「ペトラちゃん?私は何度も言っているけれど、大豆は食べない主義なの」


「あははっ、かわいいでちゅ。ばぶばぶでちゅねぇ」


 煽る魔王と畑の肉と呼ばれる大豆すら食べないベジタリアン勇者のくっだらなぁーい戦いがそこにはあった。


「何してんだよ……全く」


 ペトラは精神が肉体に引っ張られているって言っていたけど、リシアをからかってる時は特に顕著である。

 口調も態度も大人のそれで子供らしさが全て抜け落ちるんだよな。ほんと、邪神の加護を受けてるだけあって人の嫌がることをやらせたら一流なんだもんな。


「主様?ワタクシにも構ってくださいまし」


「ん?ああ、クハクか」


 俺は肩に乗ってぺろぺろと首を舐めてくるクハクを撫でる。相変わらず犬みたいに息をハァハァさせている。


 すると反対の肩にはネギまが飛んできた。

 こっちはハミハミとクチバシで耳を甘噛みしてくる。ちょっとチクッとしてくすぐったい。


 全く、うちの子達は甘えん坊さんだな。


「そういやお前らは豆、何個食べたんだ?」


 まぁ、つまるところ年齢を聞いているわけなのだが、一応従魔とはいえ女性である彼女達への配慮だ。


「ワタクシは21個でございます」


「私は54個ですね……」


「へぇ、2匹とも俺より年上なのかぁ。甘えん坊さんだから年下かと思ってたよ」


「あまり意地悪言わないでくださいまし」


「そうですよ?私はご主人様より3倍も生きてますから。お姉さんですから!」


「あははっ。そうだな」



『貴方は楽でいいわね。私なんて食べても食べても減らないわよ』


 俺は冗談を言いながら従魔組と戯れていると、お空の上?から女神様が声を掛けてきた。


「女神様は何個食べるんですか?」


『3477個よ』


「スケールがちがいますね」


『そう?一桁(いちのくらい)は同い歳よ』


「それになんの意味があるんですか……」


 俺は豆合戦を始めた魔王と勇者を後目に、手元の豆をひとくちで食す。


「さて、女神様、俺は恵方巻きの準備をしちゃいます。今年はどっちの方向でしたっけ」


『私は貴方から見て東にいるわ』


「だから、それになんの意味があるんですか……」


『久しぶりに誰かと向かい合ってご飯を食べたいのよ』


「際ですか〜」


 本当に彼女は寂しがり屋だ。


 

 結局、みんなが西南西を向いて恵方巻きを食べる中、俺だけは一人東を向いて食べるのだった。


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