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最強主人公の覚醒




 ここは……どこだ?


 目を覚ますと俺は暗闇の中に独り佇んでいた。


 辺り一面真っ暗。自分の手すら見えない。


「ついに死んだか?」


 実際こっちの世界に来てから何度も死にかけた。


 リシアが稽古を付けてくれる時に全身の骨が砕けたこともあったし、魔法を暴走させて大火傷したこともあった。


 俺は闇の中で蹲り膝を抱える。


「世の中って、上手くいかねぇよなぁ」


 誰からも返事の貰えないその空間で俺はぽつりと呟く。


 そもそも、俺はこんな所で体を張ってるんだ? 別に王女なんて見捨てちまえばよかったじゃねぇか。


 わざわざ迎えに行かずとも、放置して別に強そうな子を探せばよかったんだ。


 俺は罪人。

 犯罪者だ。

 今更罪を重ねても関係ないじゃねぇか。



「──って、そんなの無理、か」


 俺はいつだって臆病だった。



 人に嫌われたくないから友達を作らない。

 結果が出ないことに絶望したくないから努力はしない。

 傷付けるのが怖いから傷付く。

 見て見ぬ振りができないから手を差し伸べる。


 自分のせいで捕まった王女を見捨てるような度胸なんて尚更持ち合わせてないに決まっている。



 ──俺はこの世界に来て何をした? みっともなく泣いて、わがままに付き合わせて他人の人生を変えて、俺は何を成し遂げた?


 何もしてない。


 違うだろ。俺の憧れた友はこんなんじゃなかった。

 俺のなりたかった男はこんなんじゃなかった。


「……強くなりたい……心も体も強く……全てを思い通りにできるような強さが。臆病な自分に負けない強さが……。みんなに迷惑掛けて、嫌われる事も気にならず、自分のやりたいことだけをやって、気に入らない事は全部投げ出し、本当に大事なものだけは絶対に掴んで離さない。そんな強さが欲しい……」


 そんな俺の声はただ闇に呑まれ消えていくだけ。


 俺は大きくため息を吐き出すのだった。




──〇〇〇〇──



 バーサーカー野郎は笑いながらぶっ倒れると起き上がってこなかった。


「ったくどいつもこいつも狂戦士ってのは気持ちが悪い」


 さっさと帰って気分転換にそこの王女様とでも敷け込むとしよう。

 こっちのハーフちゃんもなかなか綺麗な顔立ちをしてるみたいだしな。


 俺様は剣を納めてその場を後にしようとも思ったが、何故か妙な悪寒がした。


 この男をこのまま放置してはいけない。

 そんな気がしたのだ。俺様は念の為トドメを刺そうと振り返った時、全ては肯定された。


 先程まで奴が倒れていたところには、クレーターのみが存在していて男の姿はなかったからだ。


「くそっ!!!」


 俺様が奴の攻撃を防ぐことができたのは本当にただの勘だった。


 空から隕石のように降ってきた男は、その拳を俺様の顔面目掛けて振り下ろしてきたのだ。


 俺様は咄嗟に上げた盾で防ぐとミスリル製の盾に大きな穴が空いた。


「クソっ!バケモンかよ!」


 今ので骨が砕けたのだろうか? 鞭のように不自然にしなった奴の腕が再び俺様を襲う。


 俺様は深く沈み込んでから、その喉元に刃を走らせるが、男はもうその場にはいない。


 赤く光る眼の残像だけを置き去りに、既に後ろに回っていたからだ。


 男の回し蹴りをもろに喰らった俺様は背中からの衝撃でうつ伏せに倒れる。


 あばら骨は何本かイっちまったみたいだが背骨はまだ大丈夫そうだ。幸運なことに骨は肺にも刺さってねぇ。


 俺様は一歩下がって間合いを取ると男の出方を伺う。


 男は両手をぶらりと垂らし前屈みの姿勢をとった。

 一見脱力しているようにも見えるが赤い輝きを放つその目は俺様を殺すための隙を見逃すまいと鋭く剥かれていた。


 獣だ。

 その男には最早知性なんてものは残っていない。

 ただ目の前の敵を屠る為だけに立つ獣。

 本能のままに。狂気のままに。自らの傷も顧みず、男は立っている。



 ──先に動いたのは奴だった。


 瞬きをしちまったわずかな隙に背後へと回り込んだ男は、そのまま拳を振るう。

 避けれないと察した俺様は奴の心臓を狙い剣を突き出す。


 が、先程同様、その剣は心臓に届くことなく、男の手のひらに突き刺さりそのまま勢いを失う。こいつにとって肉体は武器であり盾。敵を殺すための武器であり、保身なんて、少しも考えていないのだろう。

 

 聖剣が抜けない程深く刺さり込んだ事を察し、俺様はいち早く聖剣を手放して回避をする……が、俺はその場に右足を置き去りにしていた。


「ふざけんじゃねぇよ!」


 あの一瞬で聖剣を引き抜いた上に俺の足を切り取ったってのか?


 つくづくバカげた野郎だ。


 バランスを崩し地に伏す俺様はそれでも敵を見据える。

 それが最期だとしても。


「何もんだ、()()()……」


 死を悟った俺様は再び振り下ろされる聖剣を前にそう呟いたのだった。



──〇〇〇〇──




 俺が意識を取り戻すと目の前には胸から聖剣を生やした勇者の死体が転がっていて近くではリシアが王女と魔女っ子の縄を解いてこっちを見ていた。


 王女や魔女っ子はともかくリシアまで()()()()で俺を見るとはな。


 断片的にではあるが記憶はある。かなりエグい戦いをしていたみたいだ。俺自身も自分でドン引きだ。


「リシア、治療頼んでいいか?」


「う、うん……」


 痛みはあるのかな?

 麻酔がかかったみたいな感覚で正直よく分からない。

 未だに自分の体じゃないみたいで、指先ひとつ動かせない。


 HPは1しか残っていなかった。

 もし、固有スキルの七転び八起きがなかったら 死んでいただろう。


 しばらくしてリシアのヒールがある程度効いてきた俺は自分でヒールをかけた。


 鑑定眼を開くと風の勇者はHPが0になっている。

 そう、つまり死んだのだ。

 俺はカーレという名の男が持っていた風の聖剣を回収する。


「だめそうだな……」


 感覚の話になるのだが、俺の存在をこの聖剣が拒絶しているような感じだ。


 俺は虎の威を借る者の付属効果を発動するも特に変化は起きそうにない。


 俺じゃ使いこなせないか……

 今のこの聖剣はただの剣と変わらない。


「まぁいいや、もらっとこう」


 俺は魔法袋に聖剣を投げ入れて勇者と取り巻きの男が持っているもので金になりそうなものを回収すると、3人の女性陣に声をかけた。


「おし、帰ろうか」


 さっきまで死にかけの状態で戦っていた俺がピンピンしているってのにみんな浮かない顔をしている。


 これも狂戦士の(さが)だろうな。



 勇者が死んだことで結界の効果もなくなったので、俺はリシアの魔法袋に入って、そのまま我が家へと帰る事にした。


「ただいま〜」


「おかえりー」


「おかえりなさい! お兄ちゃん!」


「おかえりなさいませ、主様」


 畑仕事をしていたみんなに出迎えられた俺は教会へと向かって歩く。


 心配そうな目で見てくる子も何人かいたので、大丈夫だぞっ! とできるだけ気丈に振る舞う。事実、怪我は完治しているし、俺の着ている黒ローブは汚れているものの、傷一つ着いていない。まぁ、服は破れまくってるけどな。


「今日からここが2人の新しい家だ」


 数歩後ろを着いてくる魔女っ子と王女に伝えると2人ともキョトンとした顔で俺を見る。

 まぁ、この世界だと教会に住む=孤児やホームレスみたいなとこあるからな。


「あるじ? 大丈夫ですか?」


 教会に入ったところで出くわしたのは奴隷の少女──キノだった。彼女は心配そうな顔で俺を見つめている。


「あぁ、大丈……ごめん、無理っぽいわ」


「え? あるじ?……きゃっ」


 家に帰って来た。

 そんな安心感から疲れがどっと来たのかもしれない。

 俺はキノに体を預けそのまま眠ってしまったのだった。



──〇〇〇〇──



「だいぶ無茶したわね?」


 気が付くと目の前には女神様がいた。


 身体の疲労感はもうない。


 多分夢だからだろうな。


「俺、あんまり記憶ないんですよね」


「そんな言い訳が通用すると思ってるの?」


「いえ……」


「命はひとつしかないのよ? もっと大事にしなさい」


「おっしゃる通りです……」


「全く!見てるこっちがヒヤヒヤしたんだから!」


「心配してくれたんですか?」


「するに決まってるでしょ!! 何よあれ! いつ死んだっておかしくなかったじゃない」


「ツンデレが発動しないレベルの心配をかけちゃいましたか……」


「え? いや、別にそこまでじゃないわよ! ただあんたが死んだら私を助ける人がいなくなるから……」


「そうですね。ありがとうございます」


「んむ? 信じてなさそうな……まぁ、いいわ。今日はもうさよならするわよ。夢で話してたんじゃ休んだ気にならないでしょうし」


 そっか、女神様もちゃんと気使ってくれてるんだ。


「おやすみなさい。女神様」


「ええおやすみ」



ここまでお読み頂きありがとうございます。

本章はこれでお終いになります!

次章はほのぼの編、その次が悪役令嬢編になると思います。


ストックの関係上、次章からは更新が不定期になると思います。今のところ、最低でも3日に1回は投稿する予定ですので、これからもよろしくお願いします!




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