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お家に帰りたい




「わかりました。従いましょう。私はあなたについて行きます」

 王女はそう言って顔を伏せた。


 俺はそんな王女の腕を掴む。


 ビクリと一瞬震えた後、見上げたその顔は俺の視線と交わった。

 深く覗き込んだその目は次第に怯えから覚悟の色へと変わっていく。


 ……いや、これは覚悟ではなく諦めない意思だ。

 目の前で大量に人を殺した人間にこれからも連れて行かれる。

 俺だってそんな目にあったら怖い。


「俺はそんなに強くなれねぇよ」

 俺は呆れ笑いにも似た笑みを零し、回復魔法で王女の腕を治療す。


 狂剣士の俺が回復魔法を覚えていたことが意外のようで、目を丸くしていた。

 流石はきのこ派一番の美女と呼ばれる王女様だ。

 そんな顔ですら芸術品のようだ。


「……ありがとうございます」


「いいってことよ」


 俺はなんとなく気恥ずかしくなり一旦王女から周囲の方へと意識をずらす。


「一応聞くけど、俺に着いて来てくれる子っていたりしないかな?」


 ここで解放したとしても多分他の兵士に捕まるだけの話だろう。なら、もし希望者がいるのなら連れていきたい。


「ストップだよ!しょーた今回厳選するって言ってたよ!」


「うっ」


 このタイミングでペトラが部屋に入ってきた。


 床に転がる死体をまるで雑草のように踏み抜いている。

 頭に被ったローブのフードには雪が積もっていて唇も青い。


 少し待たせすぎちゃったか?


「もう夜遅いし、早く帰らないと夕飯なくなっちゃうよ!」


「あー、そうだな。帰ろっか」


 厳選すると言い出したのは俺だしこればっかりは仕方ない。俺は王女を連れて帰るために魔法袋を取り出す。


「あの!待ってください!」


 少し怯えたような声を無理やり絞りだすようにして、少女が一人立ち上がった。


 即座に鑑定眼を起動する。

 

 魔女か。人族と魔族のハーフだ。

 外見は人族と変わらないが生まれつき高い魔力を保有する種族だ。


 多分あの様子だとペトラの正体に気づいたのだろう。魔族には本質的な力がわかるらしいしな。


 俺はしーっと黙るように忠告する。


 ペトラの正体をここで明かせば大パニックになるに違いない。


 俺の合図に気がついた少女はこくこくと頷くと、恐る恐るといった形で口を開く。


「……私も連れて行ってもらえませんか?」


 俺は確認を取るという意味でペトラの方を振り向く。


「うーん。どうしよっかな〜。しょーたは連れて帰りたい?」


「まぁ、うん」


 俺は来る者拒まずだ。ペトラも予め決めてあった予定を覆すのは好まないタイプではあるけれど、家族が増えること自体は大歓迎のはずだ。


「いいよ、連れて帰ろっか。料理も上手そうだし」


 確かに鑑定眼スキルには料理術Lv7が表示されている。多分我が家では断トツの料理レベルになるだろう。


「だそうだ。よろしくな。俺は春野翔太だ。君は?」

 本当は名前知ってるけどね。


「わ、私はリリムです。よろしくお願いします!」


 奴隷の子って基本的に名乗ってくれないからな……

 使い捨て道具として子供の頃から生きていた子には名前がない場合さえある。リリムは名前があるだけまだマシだ。


「よし、これ以上はもう用もないし帰ろっか!」


 他には一緒に来る意思のある子はいないみたいだし、兵士が来る前にさっさと解散しよう。


「──待って!」


 俺は魔法袋に入ろうとすると、ペトラからストップがかかる。またこのタイミングか。


「ん?どうしたの?なんかあった?」


 ペトラはひどく真剣な顔で何かを探るようにして身構える。


「多分勇者だ。国全体に結界が張られてる。転移しようとすると相殺されて居場所がバレる」


 なるほど、どうやらリールドネス連邦国はルーザス王国の住民を逃がすつもりはないらしい。

 なんとも用意周到な事だ。


「とりあえず外に出るぞ」


 いい加減死体が何十体も転がってるところで話しているのも嫌になってきた俺はとりあえずこの場を離れることにした。


 捕まった女の子たちも床を濡らしてたし、さっさと解放して帰してあげたい。


「行こっかしょーた!」


「おう」


 当然移動は自らの足ですることになるのだが、濡れた状態で冬の夜を疾走しても大丈夫だろうか?


 俺は兵士の持ってた金とリリムと王女を魔法袋に入れるとペトラと共に我が家方向へ走った。



 ──何時間走っただろう。


 流石はステータスと言ったところか。

 これだけ走っていても全然疲れない。

 ただ、寒い時に運動すると自分の体温と気温が噛み合わなくなって気持ち悪くなるんだよな。

 ステータスは病気やそういった症状に強くなるわけではないらしい。


「今日はもう寝よう」


 俺はペトラを魔法袋の中に入れ、人のいない路地裏へと入る。そこで壁と壁の隙間に魔法袋を挟むと俺自身も袋の中へと収納した。


 これで余程のことがない限り俺たちが襲われることもないだろう。


 先程なんの前触れもなく魔法袋に突っ込んだリリムと言う魔女っ子と王女はあたふたしていたがペトラが宥めていたので後は任せて先に寝ることにした。


 明日は少し早めに起きて出発しよう。


 念話はリシアに届いていると思うので多分大丈夫だろうがあまり心配はかけたくない。

 さっさと帰って美味しいご飯を食べよう。


「みんなおやすみ」


 




主人公が最近シリアスに頑張っているので、ギャグパートまで少し間が開きそうです。


誤字報告ありがとうございます!

助かります!

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