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量産



「ん……」


 妙な重苦しさを感じて目を覚ますも、まだ日は登っていない。魔人になり、夜目が効くようになった俺は、目を凝らして周囲を確認する。

 場所は城の自室。ベッドの上で寝ていたのだが、どうやら俺の他にも数人同じベッドで寝ている人がいるらしい。


「背中にしがみついてるのはエレナで、あっちにいるのは理沙とリシアか」


 エレナは背後にいるので確証は持てないが、エルフ特有の体温の低さと足の感触からして間違いないだろう。


 そして俺に腕枕されるようにして、胸元にすっぽり収まっているのが……キノかな?


「ん、あるじー……」


「ごめん、起こしちゃった?」


「…………。」


 なんだ。寝言か。

 すりすりと、赤子のように擦り寄ってくるキノの頭を撫でながら、昨日のことを想う。

 キノはもうキノさんになってしまったのだ。

 元々1歳年上のお姉ちゃんだったが、お姉さんになってしまった。まあ、年齢なんて意識したことないし、されたこともないけど。


 キノに彼氏ができたというのは、正直かなりショックだ。

 それが彼女の幸せならば、祝福するべきなのだろうけれど、心の何処かで、自分がキノにとって特別な存在なのではないか、と勝手に期待していた。


 だって、普通に考えてキノと一番仲の良い異性って俺じゃない!? 運命共同体と言ってもいい。本当に俺よりいい人なの、その彼氏。


 まあ、女神様という本意がいる俺があれこれ言えるような立場じゃないのは分かってるけどさあ。ちょっと悔しい。いや、すげぇ悔しい。早く彼氏連れてこい。俺がキノに相応しいかチェックしてやる。


 そんな憤りを知りもせず、俺の胸元でスヤスヤと眠るキノ。……これって彼氏にバレたら普通にまずくないか?


 ……いや、まあいいか。


 明日の朝キノになんて声をかけようか。

 そんなことを考え、俺は再び眠りについた。



 翌朝、俺が起きた時には一緒にベッドで寝ていたみんなは既にいなくなっていた。どうやら俺が一番最後らしい。

 長すぎる廊下を歩き広間へと向かう。

 

「おはよー」


「おはよー。たくさん寝てたね」


 ペトラと朝の挨拶を交わし、並んで歩く。

 普段はだるだるの部屋着を着ているペトラだったが、何故か今日は外行の格好をしていた。


「どっか出かけるのか?」


「うーんとね。なんか、新しいマオー候補の人が戦争の準備してるんだって。だから、それを止める準備するの」


「マジか。俺が飲んだくれてる間に……」


「ペトラが生きてる限りマオーにはなれないのにね。無駄な争いだよ」


「ん? 選定戦で勝っても魔王になれないのか?」


「そうだよ。ペトラがいる限りはね。──あっ、でもしょーたはマオーになれるよ。なる?」


「なれるの!? そこら辺の仕組み全然理解してないから、教えてもらっていいか?」


「うん。いいよ! 元々、魔王(まおー)っていうのは最も強い魔族が手に入れられる称号(しょーごー)なの。それは知ってる?」


「知ってるぞ。そのせいでペトラは3歳にして魔王になっちまったんだよな?」


「そー。魔王が王座についているうちは、より強い魔族が王になるように、どんどん上書きで更新されていくんだよね。だけど、今王座には誰もいない──どころか、城は紫髪の少女(しょーじょ)のせいで壊れちゃったんだよね。その場合(ばーい)、家臣達にも権利が与えられるの」


「七つの大罪?」


 確か魔王軍四天王なのに7人いる奴らだ。

 黒の方舟のメンバーであるソノもそのひとり。……なんかダジャレみたいになっちまった。偶然だよ。

 

「そだねー。たとえ力が劣っていても、自分より強いやつを消せば1番になれるもんね」


「なるほど……でも実際にはペトラが生きてるから魔王にはなれない、と」


「そう。認知してないだけで、城はちゃんとあるわけだし」


 なるほど。

 じゃあ本当のほんとうに無駄な争いというわけか。ならば何としても止めねばならないだろう。


「まあ、でもその話には納得できたとしても、俺が魔王になれるってのはよくわかんねぇな。ペトラが生きてたら俺は魔王にはなれねぇだろ?」


「ううん。なれるよ。しょーたがペトラのお婿さんになればね」


「……! なるほど」


 そりゃあそうだ。

 王族と結婚すれば元の身分がどうであれ王族だ。


「ペトラはもうしょーたの血を吸っちゃったからね。ペトラのさじ加減でいつでも契れるんだよ」


「マジで!?」


 吸血鬼の特性だろうか。

 確かに人体からの直接の吸血は性行為にあたるときいたことはあるけれど……。


「魔王になる? それだけでもけっこー強くなれるけど」


 確かに、魔王の称号はバカにできないほどのステータス補正をしてくれる。やがて神と戦うことを考えると、正直喉から手が出るほど欲しい。……欲しいけど!


 契るというのは正式結婚するってことだろ?

 4歳の女の子と結婚するとなれば法に裁かれてしまう。

 ただでさえ血を吸わせていてグレーゾーンなのに。


「でも、パパもママもいいよって言うと思うよ」


 いや、ママの方は反対してたよ。めちゃくちゃ釘刺されたよ。パパの方は「孫ー!」って楽しみにしてたけど。


「……いや、やっぱりやめよう。もちろんペトラのことは大好きだぜ? でもだからこそ今じゃない」


「そっか。じゃあ、違う方法で魔王にするね」


「できんのかよ!」


「うん。ペトラの眷属としてね。今はそれでいいけど、いつまでもかわせる問題じゃないと思うよ?」


「な、何が?」


「選択を先延ばしにしても、最終(さいしゅー)的には全員と結婚することになりそーって話しー」


「いや黒の方舟って100人近くいるんだけど」


「じゃあその全員と結婚するんじゃない?」


「なわけあるかいな!」


 こんなことを言うのは恥ずかしいが、俺のことを異性として好きだと言ってくれる人はいる。ほんと、嬉しいことに、いるのだ! 何人かは!

 そんな家族を本気で大切に想っているし、俺にできることなら何でもしたいと思う。


 けれど家族全員が俺を異性として好きかといえば、そんなことはありえない。キノのように、外に目を向けている子も多くいるだろう。その子達を縛る気はサラサラない。

 彼氏ができた話を聞くと、正直めちゃくちゃショックだけど! でも! 泣きながらも祝福するよ。

 


「でも、しょーた指輪渡してたよね?」


「婚約指輪ではねぇよ」


「……そうなの? 婚約指輪だと思ってる人いっぱいいるけど」


「え?」


 ……え?


「いや! あれはメンバーを一時解散するときのお守りとして渡したやつで、シレーナとかカロリーヌの場合は色々あったから責任を取るって意味でもだな。というか、あれだぞ。あの時はメンバー70人くらいで、その後20人くらい増えたじゃんか? 俺、新入りの子によろしくの意味を込めて同じ指輪プレゼントしてるんだぞ?」


 焦ってめちゃくちゃ早口になる。

 汗がすごい!


「んー。じゃあ、多分初対面で求婚されたと思ってるんじゃない?」


「そんなカオスな話があって堪るかよ!」


 自分が仮に奴隷だったとして、ある日見知らぬ人に誘拐されて、謎の組織に半強制的に入団させられて、挙句婚約指輪まで渡されることになる。

 普通に嫌だよ。人権無さすぎだろ。弱みに漬け込む悪徳領主かよ、俺。


「元々奴隷に人権なんてないしね。美味しいご飯が毎日食べられて雨風凌げる家で過ごせるだけマシだと思うよ」


「いやいや。ぶっちゃけほとんど喋ったことない子とか結構いるぜ? いつの間にか増えてた組の子とかちゃんと把握できてないし!」


「んー。まあ、じゃあ、ちゃんと事情を説明してあげれば、いいんじゃないかな。そしたら他に男作って勝手に繁殖するんじゃない?」


「いや、言い方……」


 この件に関しては1回真剣に話し合う必要がありそうだ。


「でもいいの? ハーレムって宇宙人の夢なんでしょ?」


 確かに美少女にチヤホヤされたいという気持ちがあるのは認めます。けど100人と婚約してヤッターってなる人間はいません。普通に慄くわ。


 俺は誰かにとって特別な存在でありたいのだ。

 その他大勢じゃなくて、誰かにとって意味のある人間でいたい。


「別にハーレム築きたいとは思ったことねぇよ」


 特別な存在でいられるのであれば、異性としての好意を持たれていなくても全然いいのだ。


「しょーたは寂しがり屋さんなんだね」


「まあそうだな」


 俺に友()が限りなく少ないのは、多分そんな重い想いがあったからだ。


 正直、今の関係がずっと続けばいいなって、思ってるよ俺は。毎日楽しく笑いあって、本当に楽しい。おじいちゃんおばあちゃんになっても、ずっとこのままでいられたらって、思ってる。


「重い男はいっぱいエッチすると治るってパパが言ってたよ」


「4歳の娘になんてことを吹き込んでるんだあの人……」


 確かにペトラは肉体的には20代で、精神も普通の4歳児より遥かに成長してはいるけど!


 あの父親有害過ぎる!


「まあ、話は逸れちゃったけど、とりあえずしょーたのことを魔王化するね。いい?」


「うん」


 差し出されたペトラの手を握る。

 魔力が繋がる感覚と共にへその下辺りから暖かいものが湧き上がってくる。


「……っ!」


 体が熱い。

 まるで体を巡る魔力が暴れ狂うようだ。

 眠っていた力が湧き上がってくる。


「これが魔王……」


 何だこの万能感。

 称号欄には魔王が追加されており、ステータスに莫大な補正がかかっているのがわかる。

 チートだ。完全にチートだ。


「うおおおおおおお!」


 今なら目をつぶったままでも天下一武道会で優勝できる気がする!


「いいね! かっこいいね!」


 ぱちぱちと拍手するペトラ。しかし、ここまでパワーアップしても全然ステータスが追いついていないというのだから、本当に彼女は恐ろしい。


「今のでお腹すいちゃったからご飯食べよっか」


「おう、そうだな!」


 俺達は食堂へと向かう。

 ペトラが廊下にいたということは、多分まだみんなも朝ご飯は食べていないはずだ。基本的には家族みんなで食事を摂るのがうちのルールだからな。


「あ、翔太きいて! 大変なの!」


 慌てた様子のリシアに向かい入れられ、食堂にはいる。

 ほとんど全員が集まった部屋の中で、リシアの発した言葉は耳を疑うほどの衝撃を与えるもので、同時に俺に強い覚悟を決めさせるものだった。


 そして俺はついに決意することになる。

 神への叛逆と、新たな世界の創成を。


「おはよう、翔太! なんかね、今私たち全員魔王に覚醒しちゃったんだけど!?」


次回・家族会議。

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