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文化



 目が覚めると、もうお昼だった。

 どうやらネギまは一晩中飛んでいたようで、いつの間にか城を離れ、魔族領の方まで来ていた。

 魔族領は俺たちの城がある精霊の森からは割と近く、直ぐに着いてしまう距離だ。せっかくだし、王都まで行ってみるのもいいかもしれない。紫髪の少女の襲撃を受けた城の様子も見てみたい。

 復旧作業が進んでいるといいのだが……一応ソノの家なわけだし。


「おはよーネギま」


「こけっ!」


 俺はくいーっと伸びをして、上体を起こす。

 城までは少し距離があるようだが、いい天気だし少し散策してみるのもいいかもしれない。幸いにも、今飛んでいるところからは、小さく城が見える。着こうと思えばいつでも着ける。というか、クハクに転移を頼めばいつでも行ける距離なんだが。


「ここで降ろしてくれ」


 街から少し離れた山の麓に降り立ち、歩いて向かうことにする。俺は従魔士の能力を使い、ネギまの他にいる3体の魔物を呼び出した。


「みんなおはよー」


 フェニックスであり、イラストのニワトリのような見た目の魔物であるネギま。

 地獄の門を管理する聖獣であり、白く美しい毛並みを持つ九尾のクハク。

 俺がおしっこをかけたら毒を持つようになったポイズンスライムのドクロちゃん。

 教会近くの森に住んでいて、騙してテイムしたエンシェント・ドラゴンのマカロンちゃん。


 以上の4体が、俺の可愛い従魔である。

 みんな伸縮自在のスキルと人化のスキルを持っているのだが、現在は皆本来の姿でのしのしと街まで歩いている。

 マカロンちゃんに関して、さすがに大きすぎるので、俺の手のひらサイズにまで小さくなってもらっているが、ネギまもクハクも、今は俺より大きい。


「のんびりしながら観光でもしようぜ?」

 

 俺はクハクに跨ると、ふさふさの身体の上で寝転ぶ。

 

「んあー」


 多分こういう緩やかな時間を幸せって言うんだろうなあ。

 ぽかぽかとお日様に照らされながら、草原をゆく。


「このまま人間の街に行くのか?」


 いつの間にか人間の姿になっていたエンシェントドラゴンのマカロンちゃんが言う。

 こいつは古龍種ゆえに性別がないのだけれど、人間になるとおじいちゃんのような見た目になる。しかもそれは俺の傍にいるときだけで、他の家族達といる時は女体で過ごしているというのだから、多分嫌がらせの類なのだろう。


「おっほっほー」


「うわっ! ベタベタするな! ケツを揉むな! 気持ち悪い!」


 このセクハラ野郎が!

 普通に歩け、普通に。


 俺はニヤニヤとスケベそうな顔で笑うおじいちゃんを跳ね除けながら歩くこと2時間。ぼちぼちと民家が見え始めた。その頃にはクハクは子狐サイズ、ネギまも普通のニワトリサイズになっていて、傍から見れば、ペットを散歩するおじいちゃんと孫のように写るに違いない。


 魔人となった俺は、魔力操作も上手くなったので、真の実力を見破られる心配もなく、伸び伸びと観光ができる。


「つっても、ここは随分と田舎みてぇだな」


 リシアの故郷のような本物の田舎というわけではなく、人数も少なく穏やかな街だ。森と一体化した街並みは、何処かエルフの国に似ていた。


「鳥が多いようじゃな」


「ああ。そうだな」


 マカロンちゃんの言う通り、この街にはハーピィが多い。

 元日本人としてはテンションが上がってしまう光景だ。

 

 キラキラと、木漏れ日に反射する毛並みは美しく、とても鮮やかである。


「あの、私の翼も負けてませんが? 綺麗ですが?」


「おう。もちろんネギまが一番だよ」


 俺の耳を啄んで抗議するネギまが、バサバサと翼を羽ばたかせる。ネギまの翼はちゃんと手入れされていて、純白で、とても美しい。

 ただ、ハーピィの翼は個体ごとに色が違っており、そして誰もが有彩色なのだ。白ももちろん綺麗だが、赤や黄、緑といった翼もなかなか良いものだ。


「ハーピィ達も魔王の座狙ってたりするんかね」


 アスモデウスの選んだ花嫁の中には、確かハーピィのお姫様もいたはずだ。

 

「どうでしょう。あまり戦闘が強い種族では無いので、難しいかもしれません」


「なるほどな。種族差か。ちなみに、魔族内だとどの種が強いんだ?」


 確か神の眷属としての実力は亜人、魔族、獣人、人の順に強かったはずだ。ポテンシャル自体は魔族が断トツなのだが、亜人は総じて寿命が長いためレベルで優位に立ちやすい。亜人の身体能力は言わずもがな、人は数が多い代わりに能力は微妙。


「やはりオニではないでしょうか」


「オニって鬼?」


「はい。鬼です」


「黄色と黒色のシマシマのパンツ履いてる鬼?」


「……それは伝統衣装であって今の時代は普通の服を着てると思いますよ」


「へえ〜」


 まあ、でもそうか。

 あんな原始人装備を文明が栄えて尚着てる方がおかしいな。

 ハーピィはどちらかというと伝統的な衣装というか、やたらと装飾品の多い格好をしている人が多いので、少し期待をしてしまった。


「あの。今更ですけど、何をしに街へ来たのでしょう。またメンバーの補充ですか?」


「いや、今回は別に目的があるわけじゃないんだ。まあ、観光ってやつだな。たまにはダラダラ街を歩くのもいいもんだろ?」


 今の俺には休憩が必要だ。

 休憩というのは、休憩ではなく休憩だ。文字通り休むという意味の休憩だ!

 隠語じゃない!


「まあ! でしたら……こっちの方がいいですね〜」


 光に包まれたネギまが人型へと変化する。

 ゆるふわパーマの白髪に一部赤色のメッシュ。

 慈母とも言える容姿のお姉さんだ。


「なんだか〜人型は久しぶりな気がしますね〜」


 うふふっと笑うネギまを見て、マカロンちゃんが魅入っている。マジでエロジジイにしか見えん。こいつ性別ないんじゃねぇの?


「美しいものを愛でたいという想いに性別など関係ありやせん。この娘は美しい。それだけじゃ」

 

「……ふーん」


「どれ、ちとその乳揉ませてみせい」


 ネギまに向けて伸ばされたシワシワの手を、俺は叩き落とす。許さんぞ。


「はあ。ならこれでいいじゃろ?」


 そう言ってくるりと一回転したマカロンちゃんは小学校高学年くらいの女の子に変身していた。その目は生意気そうにつり上がっていて、イタズラ好きそうな顔だ。


 マカロンちゃんはネギまの胸に顔を埋めるとぱふぱふし始める。


「おい。道端で何してんだよ。みんな見てるだろうが」


 人型を取るなら人間の常識を持て、常識を。


「何人たりとも百合に挟まることは許されぬ。男である主にワシを止める権利はない」


「くっ……ここまでか!」


「えぇ〜、諦めないでください〜。助けてくださ〜い」


「仕方ありませんね。──トカゲ後輩、先輩をお離し下さいまし」


 今度は人型になったクハクが参戦した。

 銀色の長髪をたなびかせる、上品な美人。九つある尻尾は一本を除いて隠されている。


 エンシェント・ドラゴンを後輩呼びとはなかなかに肝が据わっているが、俺の従魔たちはテイムされた順に先輩後輩が決まっており、ちゃんとした序列があるらしい。

 俺にはよく分からないが、一応本人たちは納得している。


 戦闘力順でいえば、マカロンちゃん→クハク→ドクロ→ネギまの順になる。やはりエンシェント・ドラゴンの強さは圧倒的で、聖獣であるクハクでも太刀打ちできないレベルの強者らしい。

 しかし、黒の方舟に加入したのは、ネギま→クハク→ドクロ→マカロンちゃんの順なので、ネギまが一番先輩。一番偉い。一番弱いけど、一番偉い。強い者に従う傾向のある魔物でこの序列が成り立っているのは、とても稀有だと思う。


「私も空気を読んでおきますね」


 ついでにドクロちゃんも人型になる。

 姫カットの黒髪美人。


 イチャイチャと、くんずほぐれつし始めた4人の美人は周りの目を大いに引きつける。

 改めて見ると、黒の方舟は美女だらけだよな。長く一緒にいると、相手の容姿は気にならなくなってくるが、傍から見れば顔面偏差値の暴力だ。

 しかも、みんな気品がある。


「おうおう。鼻の下を伸ばしやがって小童が。見蕩れてしまったようじゃの?」


「いや、お前はちんちくりんだろ」

 

「なっ!? エンシェント・ドラゴンのワシがちんちくりん!?」


 思いの外ショックだったようで、その場にくずおれてしまうマカロンちゃん。プライドが高い。


「許せぬ」

 

 マカロンちゃんは再び仙人のようなおじいちゃんフォルムに変化すると、こちらに飛びかかってくる。


「れーろれろれろれろー」


「うわっ、ばっちぃ!?」


 おじいちゃんに頬を舐められるとは恥辱の極み!

 しかも人前で!


 俺はバッと体を離してマカロンちゃんから距離をとる。


「マジでやめろ」


「やめろと言われるとやりたくなってしまうのう。ほほっ」


 ほほっ、じゃねぇよ。性格悪いぞ、あんた。

 笑顔でにじり寄りってくるマカロンちゃんを躱しながら間合いをとる。傍から見れば、カバディとかバスケの1on1をやってる奴みたいだ。


『おいおいアレ見ろよ』


『え、嘘。アレって、もしかしてそういうこと?』


『こんな道の真ん中で……』


『いいぞ! 舞え! 舞えー!』


 だんだんと、俺たちを見守るギャラリーが増えてくる。

 なんだなんだ!?


 不思議に思っていると、周りの人達が手拍子をし始め、やがて楽器を持ち出した。これにはマカロンちゃんも不思議に思ったようだが、何故か応援されているような状況になってしまったたために、止めるに止められない。


 どういうことだってばよ……。

 意味のわからないままにマカロンちゃんから逃げていると、近くで見ていたネギまがぽんと手を打って言った。






「これ、どこかで見たことがあると思ったら、鳥の求愛ダンスです〜」

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