三人の奴隷
次の日家族が3人増えた。
獣人族の小さな女の子と俺と同い歳くらいの人族の女の子と歳上だろう見た目のエルフだ。
小さい女の子はペトラ、残り2人はリシアが選んできたらしい。
「とりあえず3人には風呂に入ってもらおう。ペトラは一緒に入って教えてあげて! リシアは3人の服を買ってきて欲しい」
「翔太はどうするの?」
「当然お風呂に聞き耳を立てるな」
「はぁ……、吹っ切れた瞬間それなの? ちょっとがっかり」
目頭を抑えてため息を吐くリシアは呆れたように俯く。
「冗談だよ! 俺は夕飯の支度するから」
魔法袋からしゅっとエプロンを取り出すと無害アピールのために両手を上げる。
そのまま俺は台所へと場所を移し、料理を始めるのだった。
よく考えたら食費も倍になるのか……そろそろ本格的に金稼ぎしないとダメっぽいな。
俺は今後について考えながら料理をしていく。
やはり一番の問題点はお金だろう。
ちなみに今日の夕飯は鍋だ。
打ち解けるならそれが1番だと思う。
奴隷の子たちは恐らく遠慮して食べれないだろう。
主人と奴隷が同じ鍋を囲うとか普通じゃ絶対ありえない事だろうしな。
試すようで悪いけれど、リシアとペトラの反応もうかがいたい。
今日の夕飯でリシアとペトラが一緒に食べることを拒むなら俺はやはり2人に、この世界に合わせようと思う。
俺が料理を済ませた頃みんなが風呂から上がってきた。
ちなみにリシアの方はとっくに帰って来ていてソファーでぐでっている。
ここだけの話、リシアはしっかりしているようでプライベートの方は意外と甘い。脱いだら脱ぎっぱなしとか髪の毛は自然乾燥派だったりとか変に無防備なのだ。
「よし! じゃあ自己紹介お願いしてもいいかな?」
「はい。わたくしはエルフの森のエレナと申します。見ての通りの紫髪ですので買い手もつかずにいたところをリシア様に拾って頂きました」
エルフだぁぁぁぁぁ。と心の中で叫ぶも表情を殺してなんとか微笑む。
生きてるエルフは初めて見た。さっきは汚れていて分からなかったが、こうやって見ると流石と言わざるを得ない美形だ。
その美しさは顔だけの話ではなく、その身体も、風呂上がりで濡れた髪も全てが芸術品のようだ。
リシア曰く、このエルフでさえ金貨3枚。つまり日本円で30万円だという。
いやいや、いいのかよ? って思うけれどそこまで値引かれるまで買われなかったってことは紫色の髪に何かあるってことなのかな? 後でリシアに聞いてみよっと。
「よろしくねエレナ! 次の方お願いします」
「私はキノです。同じくリシア様に拾ってもらいました。よろしくお願いします」
リシアやペトラ程ではないにしてもかなり美人だ。
……美人だけど、それ以外に特に特徴がないな。流石は人族。
顔はともかく特徴なしって点では俺とキャラが被ってるといえる。仲良くなれるといいな。
「よろしくねキノ。じゃあ、最後の君」
「えっと、わたしはミリィです。あの、えっとお掃除とか頑張ります。よろしくお願いします」
最後の子は犬耳を生やした獣人族の女の子だ。年は10歳とか11歳とかそこらへんだろうか。
この子はペトラのお友達候補かな?
風呂に入る前は全身に生々しい火傷の後があったし、ペトラが治療したのだろう。
彼女にも何か思うことがあったのだろうか。
「よろしくね、ミリィ」
「じゃあ、俺たちの方も自己紹介しようか。まず俺が翔太です。実は他の世界に住んでいたんだけどお金を稼ぐためにこの星にやってきました。たまにいる宇宙人ってやつだね。よろしく」
「じゃあ、次は私。私はリシアです。一応勇者やってます」
そう言ってリシアは微笑むがみんなはどうやら半信半疑のようだ。
さっきまでソファーでグダってたのが勇者とは思えないのだろう。
それに光の勇者リシアは魔王と相打ちになって死んでいるはずなのだ。
街で正体がバレないのもそうだが、もしかしたら一般人はリシアの顔を知らないのかもしれない。
拠点としていた国ももっと東の方って言ってたしな。
「次はペトラ! 魔王のペトラです! よろしくお願いします!」
ペトラはびしっとピースサインをしながらはにかむ。
だが、その瞬間3人がぶわぁっと逆毛だった。額には大量の汗をかいている。
勇者の時は半信半疑だったのにこっちは信じるんだ〜なんて、浅い感動を覚えている俺とは裏腹に、3人は大変なことになっていた。
ミリィなんて鼻水を垂らして泣いているのに、奴隷として主人である俺たちの気に触れないようにと必死に嗚咽を殺している。
「あっ、ミリィちゃんごめんね? ペトラは魔王でも良い魔王だから!」
良い魔王ってなんだ?
ペトラはオロオロしながら必死にミリィを慰めようとしているが、その行為が余計に恐怖を呼んでいるようだ。
「なぁ、リシア、ペトラを連れて別の部屋に行っててくれ。俺は先に話をしなきゃいけないから」
「分かった」
そう言ってリシアは狼狽えるペトラと部屋を出ていった。
俺は2人が部屋から出ていくのを見送ると3人に視線を向き直す。
エレナとキノは緊張でガタガタだし、ミリィはボロボロに泣いている。
申し訳ないな。
俺はミリィをそっと抱き抱え背中をさすってやる。
多分鼻水やら涙やらが服についちゃってるだろうけれど、それはまぁ気にしない。
小さな女の子を泣かした俺たちが悪いのだ。
ミリィは呼吸がある程度落ち着いたところで顔をムクっと上げる。
「あ、あのご主人様、申し訳ございません。お洋服を汚してしまって、あの、私なんでも、しますから、あの、許してください」
きっとあの舘では身分の差やするべき行動については徹底的に教えこまれているのだろう。
少し胸が痛む。
必死に懇願するミリィを見るエレナやキノの顔がひどく歪んでいるのもそのためだと思う。
「じゃあ、ミリィ。俺のお願いを聞いてもらってもいいかな?」
「はい、なんでも聞きます。なんでも聞きますから……」
「そっか、じゃあさ、ミリィにはペトラと仲良しなお友達になって欲しいんだ。怖がらないであげて欲しい」
「お友達ですか?」
「そうだよ! ペトラはね、魔王である以前にひとりの女の子なんだ。ミリィと一緒の──女の子だ」
「女の子?」
「そう。お友達とおままごとしたり、お人形さんで遊んだりしたい女の子なんだ。ミリィは魔王様がいつ産まれたか知ってるかな?」
「えっと、3年前だったと思います」
「そう、3年前だ。つまりね、ペトラはまだ3歳の子供なんだ。ミリィの方がお姉ちゃんなんだよ?」
そう言って俺は笑いかける。
「私の方がお姉ちゃん……」
お、少し表情が緩んできたな。
「だからねミリィ。俺たちが君を買ったのはペトラのお姉ちゃんになってもらいたいからなんだ」
「私が魔王のお姉ちゃん?でも、そんなの、無理です。私はただの奴隷で……」
「でも、覚えてるでしょ? ミリィを選んだのはペトラなんだ。ペトラはミリィと仲良くなりたくて、ミリィを選んだんだよ?」
「私を……」
「ペトラの事、お願いしてもいいかな?」
「は、はい! 分かりました! ペトラ様に仲良くなって貰えるように頑張ります!」
「ありがとうねミリィ」
俺はゆっくりとミリィの頭を撫でる。
「それでももしペトラが怖いって思うならいいことを教えてあげちゃおう」
「な、なんですか?」
「お耳を貸してごらん」
俺は傾けた小さな犬耳に語りかける。
「実はねぇ、ペトラってひとりじゃ寝れないんだよ?」
そこそこ部屋も広いはずなのにペトラはいつも俺かリシアのそばで寝ている。
さすがにピッタリは付いてこないけれど、さりげなーく近くで寝るのだ。
「え? 魔王なのにですか?」
「そう! それにね、おねしょもしちゃうんだ」
こればっかりは暗黙の了解で俺とリシアは見て見ぬ振りをしている。
夜中に証拠隠滅のために浄化魔法をぶっぱなしてるんだけど、音がうるさいからペトラがおねしょした時は俺もリシアも絶対に起きるのだ。
「え、そうなんですか?」
「そうなんだ、ペトラもまだまだ子供だからさ!」
「あ、あのご主人様……」
「ん?なんだい?」
「あの、私も怖い夢見ると時々……」
「あぁ、そっか、じゃあペトラと一緒に治せるように頑張ろうね」
「は、はい」
そう言って恥ずかしそうにしながらも笑うミリィはとても可愛かった。
幼女すこ。
明日からはお兄ちゃんって呼ばせよう。うん。それがいい。
「んじゃ、2人もそんな感じだ。君たちは奴隷として買われた。でも、関係としては家族であることを望む。君たちには主に家事や買い物をしてもらうけど、不満などは全て聞こう」
恐らく家族という部分に思うことがあったのだろう。
少し戸惑った2人は顔を見合わせていた。
「俺は奴隷とかそういうのが苦手なんだ。だから3人には過労を強いるつもりは無い。これは3人のためじゃなくて、俺のためにすることだ。多分他よりは恵まれた環境にはなるだろうけれど、そのことに感謝するとかそういうのは全く持って筋違いだと思って欲しい」
もし俺に勇気があったなら普通に人を殺すだろう。
もし俺は無心になれたなら奴隷を使い潰すだろう。
全部俺の覚悟の問題だ。
「仕事は明日からだ。頼んだぞ」
「「「はい!」」」
当然の如く夕飯の鍋は上手いこと話が運ばなかったけれど、リシアとペトラの2人は特に気にした様子もなかった。
これからも仲間として、家族として仲良くやっていこう。
俺は新しい家族達にお代わりをよそってあげながらそんな事を思うのだった。
最初のメンバーたちはちゃんとお金を払いました!
夜中にもう1話投稿します!




