手を取り合い飯を取り合う奴らを仲間と呼ぶ
俺がしばらく街を探索して良さげな雰囲気の店を見つけた頃、ペトラ達も丁度経験値稼ぎを終えたらしく、良いタイミングで落ち合う事ができた。
ちなみに従魔組は今ペトラの魔法袋の中で先にご飯を食べているとのこと。
俺たちは店に入ると、奥の方の空いている席に座る。
「ペトラ、リシアありがとな! 無事、今日から上級職に就くことになりました!」
「おおー!おめでとう!」
「よく頑張ったね! 主にペトラちゃんがだけど」
おい、やめろ。そこでその話を持ち出してくるな。
98%はペトラのおかげだけど2%は俺の努力なんだぞ!
「リシアの言うことは確かだけど、今日はしょーたのお祝いだしね! いっぱい食べよ!」
「おう!」
俺は花のような笑顔を咲かせるペトラに同意する。
そして、賑やかな晩餐が始まったのだった。
「にしても、経験値おいしかったね。私、勇者だから経験値もらえる量増えるし、レベル何個も上がっちゃった」
「良かったね〜」
2人が今日あったダンジョンの話を始めた頃、ふとカウンターの方から女性の声が聴こえてきた。
──ん? 誰の声だ? 聞いた事ある気がするな。
『いやぁ、あの男ぜーったい私に惚れてたね! 間違いないね!』
『どーせいつもの勘違いでしょ?』
『そんなことないよ! あの目は私を狙ってる目だったもん。まぁ、見た目は割とタイプだったし? どうしてもって言うなら考えてあげてもいいかな〜』
ガールズトークってあんな感じなの?
すげー上から目線じゃん。
『でも、相手は宇宙人だったんでしょ? 美少女の1人や2人囲ってるって』
『いやぁ、ないない。だって、上級職で狂戦士選んでたもん』
うーん。似たような話どっかで聞いたことあるぞ?
『流石に狂戦士はないわね』
『それに俺は初級職6つ持ってるだぜ! って』
うーん。似たような話どっかで聞いたことあるぞ?
『しかもね。いいか、ナンシー! いつか俺はビッグの男になってここに帰って来る。忘れんじゃねぇぞ! とか言い出して』
『はぁ? 初対面で呼び捨て? ていうかそれ、最早プロポーズじゃん!』
うーん。似たような話どっかで聞いたことあるぞ?
「あ……」
俺が何かに気付いた時、リシアとペトラもまた気付いたのだろう。3人揃って目が合う。
「あ、あの。リシアさんペトラさん。身に覚えはありません。あれは私の話ではございません」
「私まだ何も言ってないけど?」
「ふぁっ!?」
ハ、ハメたな!
「な、ななななな仲間を陥れるなんて酷いじゃないか!」
「いや、だから……私まだなんにも言ってないって!」
「……あっ」
俺の思考回路が何かに行き当たったが、それを全力でねじ伏せようとする自分が頭の中で暴れている。
やばい、混乱してきた。
「そうだよね。まさか私たちが翔太の手伝いをしてる間に女を口説いてるわけないよね」
そうは言うものの、リシアさんの目は糸のように細められていて、確実に俺を糾弾しようとしている。
「ペトラも信じてるよ! 仲間だもん。だからペトラ達を安心させるために何の職業を選んだのか教えてくれる?」
ペトラさんも笑顔が怖いっす……。
「ギギギギがががぎぎががが」
とりあえず俺は頭の悪いふりをして誤魔化す。
馬鹿ってのは基本的に相手にされないからな。
いや、別に口説いたつもりなんて1ミリもなかったんすけどね。
現場の雰囲気を知ってる人がいれば誤解も楽に解けたのになぁ。
「俺は狂戦士を選んだ。あそこで話してるのも多分俺のことだ。けど、別に俺があの子を好きとかそういうのはない。2人には感謝してるし、自分だけプラプラするつもりもない。だから信じて欲しい」
一応の言い訳はする。
よくわからないけど、2人には誤解されたくない。
これが仲間意識というものなのか。はたまた違うものか。
「……」
沈黙がやけに長く感じる。
俺は机の下でギュッと拳を握った。
怒ってるかな……
いや、そりゃあ怒るよな、素直に謝るべきだろうな。
「2人とも……」
「あははっ。心配し過ぎだって翔太! 念話で心の声全部届いてきちゃってるよ? 大丈夫、ちゃんと信じてるから」
「んなっ!」
珍しく声を上げて笑うリシア。俺はなんとなくいたたまれなくなって空になったコップに口をつける。
くそ、本当に嵌められた……。
念話は使う時以外マナーモードにしとこう。
でもなんだろうな。
こういう仲間の絆ってなんかいいなと思う自分もいる。
ちょっと照れるけど。
「それで、話は戻るけどなんで狂戦士にしたの? 狂戦士って上級職だと人気最下位だよ?」
「あー、それなんだけどね、ほら。俺って人とか人型の魔物とか殺せないじゃん?」
「そーだったね」
「狂化に頼ればもしかしたらそういう苦手意識も誤魔化せるんじゃないかなって」
「なるほどね。それならありかもしれないね。じゃあ、明日からの訓練は実戦形式にしてみる?」
「そうだな! そうしよう! ペトラも魔法の方の努力値稼ぎ手伝ってくれないか?」
「いいとも〜」
こうしてワイワイと雑談を重ね俺たちは盛り上がった。
俺はナンシーさんに気づかれないように買ったばかりの黒ローブのフードを被って髪の毛を隠してはいたけれど。
そういえばリシアとペトラはこんなに堂々としてるのに正体バレてないよな。何かしらスキルでも展開してるのかな?
「あ、そう言えば奴隷の件なんだけどさ……」
「どしたの〜?」
「今日見に行ったんだけど、正直あれはキツい」
「宇宙人は苦手な人多いらしいね」
「俺たちの国は一応平等を謳ってたからあそこまで人権に配慮されていない人を見るのは初めてなんだ」
貴族や王族など自分が見上げる存在はまだいい。
被害を受けさえしなければなんとも思わない。
ただ、奴隷は視界に入るだけでダメだ。痛々しくて見てられない。
それが同情か哀れみなのかはわからないけれど、少なくとも自身の視界に映る場所にはいて欲しくない。
「じゃー、メイド服でも着せておけばいーんじゃないの? ペトラのお城にも何年も生きてる奴隷の人族いるよ!」
何年も生きてる……か。
この発言だけで既に奴隷に人権がないことがわかる。
「この世界で奴隷が人間だと思ってるのは宇宙人だけだよ。奴隷は使い捨ての道具それが私たちの常識だもん」
「わかってるよ。それが俺のエゴだって。自分勝手な偽善だって。それに最近特訓ばっかりだから俺たちの代わりに稼ぐ道具が必要なのも、家事をする道具が必要なのも」
奴隷はどのみち買わなきゃいけない。それは分かってる。
けど、俺は自分の家にそんな存在を置いておくなんて、多分耐えられないと思う。
「でもさー、しょーたー? 奴隷が物なら、買ったらペトラたちの好きに使っていいんじゃない? 長持ちさせるも、贅沢させるも自由だと思うよ」
「2人は納得できるのか?」
「いーと思うよ! ペトラ、家族増えるなら嬉しいもん」
家族って……仮にも王であるペトラが奴隷と家族だなんて普通じゃ、絶対にありえないことだ。
「勇者と魔王が一緒にいる時点でもう普通じゃないだろうに」
しかしこの世界において、間違っているのは俺の方だ。
俺の非常識に2人を巻き込むのは何となく気が引ける。
「難しいことは後から考えようよ。私たちのルールは私たちで作っていけばいい。常識なんて今更気にしなくていいんだよ。念を押すようだけど、魔王と勇者が一緒ってだけで、常識外なんだから」
「そうだよ! 居場所はこれからペトラ達で作っていこうよ」
「2人がそこまで言ってくれるなら……」
「うん! ペトラもリシアもしょーたが助けてくれたからこそ、今こうやって生きてるんだもん。恩を着せてもいいんだよ? ね? リシア?」
「うん。そうだね」
……ほんと、良い奴らだよな。
視野を広げれば世界はこんなにも優しさで溢れている。今更だけど、気付けてよかった。向こうの世界じゃ、絶対に気付けなかったはずだ。
「……よし、吹っ切れた!」
ここまで2人に言わせてしまったんだ。
俺も覚悟を決めよう。
この世界、俺は生きたいように生きる。
誰にも邪魔はさせない。
「これからはわがまま言いまくると思うけどよろしくな」
「うん」
「任せてー!」
さぁ、こここらが俺のターンだ。
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〜数年後
「『 俺のターンだ』じゃねぇっつーの。あん時お前らが余計な後押ししなけりゃこんなことにはなんなかっただろ!」
王座に座り愚痴を零すのは春野翔太。
「まさか国を作っちゃうとはね! すごいね!」
「ホントだよ、すんげぇ堕ちた気分だ」
「ペトラは楽しいよ?」
「……俺もだよ。よし、そろそろだな。リシア! ダイエットの時間だぞ!」
「ポテチあと一袋食べたらね〜」
「ったく。お前はホント、どこに向かってくんだよ……」




