愛という
愛という言葉も、繰り返し使っていると何だか陳腐に聞こえてくるものだが、姉貴の言葉が宿った聖剣は青白い光を放ち、これまで見た事がないほどの熱量を持っていた。
これこそ俺の想像していた聖剣というやつだ。
リシアの持つ光の聖剣も、そりゃあかなり強いがイマイチパッとしない気がしていたのだ。
「これはすごいな……。リシアも更にパワーアップできんじゃねぇの?」
最近ようやくリシアに勝ち越せるようになった身としては少し残念でもあるが、やはり超級職というのは、それだけ規格外ということだろう。
勇者として、更なる覚醒を見せてもらいたい。
「……正直、これだけの力が私の聖剣にも顕現するなら、相当な戦力になると思う。私、もう訓練しなくていい?」
「それはダメだろ」
こいつ、魔王城に住み始めてからぐーたらが目立つよな。最近は風呂でさえ面倒くさがるようになった。
ヒキニートになるのも時間の問題か?
「それで、姉さん。その愛だなんだってのは?」
「まあ、要するに想いの強さね。勇者とは誰よりも深い愛を持つ者に与えられる称号なの。それは聖剣も同じ。──例えば火の聖剣なら正義を愛する強さね。その想いが強ければ強いほどに聖剣もまた力を増す」
前に家族旅行で帝国に行く前、リシアと二人で下見に行った時のナンパ野郎だな。
この世界の主人公と言ってもいいような爽やかさ。イケメンフェイス……ケッ、やだやだ。主人公過ぎてむしろ個性が死んでるよ、あんなやつ。
ただまあ、アイツが正義を愛しているというのは、何となく納得できるな。俺はあいつ嫌いだけど!
「水の聖剣は家族愛」
水の聖剣はレイが持っている。
つまりは、我が家の幼女ルーの兄だ。
元々ルーはレイが聖剣を取りに行く間だけ預かっていたのだが、いつの間にか勇者なはずのレイよりもルーの方が強くなってしまったものだから、彼の修行の間引き続き預かっている。
けどそうか。レイは人一倍家族愛が強いのか。シスコンだな!
「風の聖剣は自己愛」
今や分解されてアイネクライネナハトムジーク第十八金剛烈空丸・華叉の一部になってしまった聖剣だ。
でも、今になって考えてみると、俺は父さんが国のために残したものを壊してしまったのか。もしかしてヤバい?
「土の聖剣は──雷の聖剣は──氷の聖剣は──」
その後も様々な種類の聖剣の所持と覚醒条件を教えてもらった。
「そして、そこの子が持ってる光の聖剣の覚醒条件は恋愛。好きな人を守りたい、そんな感情がその剣に大きな力を与える」
「うーん……」
よりによって恋愛。
リシアもまた、微妙な顔をしている。
これは仕方ない反応だろう。何故なら、この条件は明確にハズレだからだ。
「なあリシア、ちょっと訊きにくいんだけどさ……」
「な、なに?」
ソワソワと落ち着かない様子で髪の毛をいじるリシア。
俺もちょっと気まずいんだけど……ええい! ここは聞くしかない!
「お前って、その、そっちの気とかあるの?」
「は? はあ? ある訳ないでしょ!」
「だよなあ……」
リシアは同性愛者ではない。
そして、彼女は黒の箱舟に男を禁じるほど、重度の男嫌い。つまり……なんだ。
「宝の持ち腐れだ」
「んぬっ! んぬぬぬぬぬ」
唸り出すリシア。
反論したいのに、言葉が出てこないといったところだろうか。
ただこればっかりはリシアが悪いわけではないだろう。彼女も元から男嫌いだったわけではなく、勇者として生活しているうちに、色々と経験してこうなったと言ってたし。
「へえー。でもそっか。聖剣に選ばれるってことは素質自体はあるってことだろ? リシアって恋愛脳だったんだな。恋する乙女?」
「んぬぬぬ! んぬー!」
何故か唸り声だけで感情を主張するリシア。
普通に喋れよ。
ただこの世界で20歳というのは、残念ながら行き遅れの部類に入る。光の勇者でありながら──それゆえに20歳を過ぎても独り身というのは皮肉だな。
まあ彼女が今いる家族の方が大事で、新たに家庭を持つ気もないと思ってくれているのなら、俺にとってはそんなに喜ばしいこともないし、正直リシアが他の男に取られたら結構ショックだ。ていうか、精神的に死ぬ。その時はエレナと一緒に吐くまで飲み明かそう。結婚式には絶対出ない!
「まあ、なんでもいいけどさ。情報料はちゃんと払ってもらうわよ?」
平気な顔して弟から無心する俺の姉には、一体どんな愛があるというのだろう。
お読みいただきありがとうございます。
本作品のスピンオフというか、未来編というか、そんなようなものの連載が開始しました。
下にリンクを貼っているのでよければ目を通して見てください。




