上級職へ
みんなが経験値を稼いでくれてる間、俺には俺の仕事がある。
俺は帝都にある奴隷商店に訪れていた。
今後、より修行に専念できるように、家事等の雑事を任せられる存在が必要になる。また、いつか来るかもしれない未来へと向けた戦力投資とも言える。
「超絶美少女をテイムしてやるぜ!」
俺は意気込んでいた。
リシアが男を苦手としていることもあり、奴隷の条件として女性を選択してきた。奴隷の女の子なんて言葉を聞けば、イヤでも心踊ってしまうのが思春期男子というもの。
「美少女3人テイムしてこい!」なんて言われたらそりゃあ張り切っちゃいますよ!
やっぱり綺麗系お姉さんがいいなぁ。
俺は店員さんらしき人に促されるまま店内に入っていく。奥が牢になっていてそこから選べとのこと。
「行ってきます!」
俺は1番手前の牢を覗いて──
あ、無理だ。
直感し、すぐに店を出た。
少し話が変わるのだが、俺はこの世界についての知識を女神様や書物からそこそこ得ていた。
かつて、この世界で4柱の神々がその眷属と共にこの世界で争いを起こした。
たけのこ民にあらずんば人にあらず
魔族を率いていた神、アーノスは下界にいるたけのこ派の民を集め、きのこ派の民を虐殺した。
それに対応したのが3柱の神だ。
人族を率いる女神イスラ、亜人族を率いる時空神、獣人族を率いる創造神はきのこ派の民を率いて対抗した。
長い時を経てその戦いは2柱の神の死と天使族を率いる万能神ゼーベストの平定により鎮火された。
が、憎しみは絶えることなく、今も尚争いは続いている。
「神が死んだ獣人族と亜人族は戦争をきっかけに、人族と魔族から生まれながらの敗北者──奴隷として扱われている……か」
さっき1番手前の檻にいた獣人族の小さな子供の状態は酷かった。
手足はやせ細り、身体中傷だらけ。
耳は欠損していて、目に包帯が巻かれていたことに関してはその下がどうなっているのか考えたくもない。
酷い悪臭を放っていて虫も湧いていた。
奴隷は使い捨てだと女神様から聞いていたし、高級なケーキと比べたらケーキの方が全然高いってことも聞いていた。
殺すために売られている奴隷すら存在しているのだ。
けど、同じ人間があそこまで無惨な状態で放置されているのが当たり前だと思うのは……難しい。
耐性のない俺にあの光景はちょっと……無理。
俺が想像していたのは、異世界もののアニメや小説に出てくる日本人にも都合の良い奴隷。しかし、実際に目にしたのは厳しい現実と残虐性。
直視することさえ躊躇われる世界だった。
「これも甘いってことなのかな……」
そういうわけで、思いっ切り時間を持て余した俺は渋々観光することにした。食べ歩きや装備品を整えたりをして時間を潰す。
特に必要なものはなかったのだが、たまたま鑑定士のスキルで見つけたかなり質のいい黒ローブを1つ購入し羽織ることにした。
今の俺は魔法使いに見えるだろうか?
「貴様魔法使いだな?何?剣士だと?」みたいな展開が欲しい。
「ステータス確認しよっと」
みんながどれくらい経験値を稼いでくれたのか気になり確認してみることにした。
ちなみに俺はもうステータスを確認する際に血を使ったりする必要は無い。鑑定士のスキルのおかげでぽんと見る事が出来るのだ。
「うっわ!」
思わず街中で声を出してしまった。
だって、今朝までレベル1だったのに……
「100になってる!!!!」
あいつら何と戦ってきたんだよ……
本来なら普通の戦闘職の冒険者がレベルを100にするには20年以上かかる。(非戦闘職はレベルが上がりやすい)
それを1日やで……恐ろしいわぁ。
『リシア、ペトラ!レベル100になった!』
とりあえず念話しておく。
まだ集合までには少し時間があるなぁ。
どうしようかと考えているとペトラからも念話が飛んできた。
『しょーたのマネしたんだけど届いてるかな? ペトラたちもう少し経験値稼ぐから先に上級職にクラスアップしといて!』
……念話ってテイマー専用のスキルですよね……?
見様見真似でできていいんですか?
恐るべし魔王……ほんと、頭が上がらない。
俺は畏怖の念と共に冒険者ギルドへと向かうのだった。
俺はギルド内の一番左、職業鑑定の列に並ぶ。
俺の前には高そうな鎧を着たおっさんと、子供を抱っこしたお母さんらしき人が並んでいる。
それにしてもこのギルド俺の家の近く(徒歩2時間)のギルドとは違ってめちゃくちゃ広い。色々と整備されてるし、酒屋とは合同になっていないので静かでいい。
そして、俺の順番が来る。
「クラスアップをお願いしたいんですけど……」
「はい。今の職業が剣士ですので、剣士系の中からお選びください」
本来なら10代で上級職に就けるのは名誉なことだ。
誰からも称賛されるような誉れ高きことだ。
が、それが宇宙人というだけで感動は0になる。
チートスキル持ちの日本人はこの世界で強いのは当たり前。
むしろ上級職についていない奴の方が珍しいくらいだ。
さすがは帝都のギルドの受付嬢だ。慣れたように事務をこなしている。
俺が金髪碧眼だったらものすごい称賛をくれただろうに。
俺は転職やクラスアップの際に使う魔道具に手をかざす。
するとファックスみたいな音がし始め、次第に紙が出てきた。
俺は受付の人に貰った紙を見る。本当はもう職業はどれにするか決めてあるんだけど、一応ね。気になるしね。
「えーっと、 聖騎士、暗黒騎士、魔法剣士、阿修羅、竜騎士、狂戦士……」
とりあえず書いてあるやつに目を通していく。
竜騎士とか絶対格好ええやん! 竜騎士の下のところに書いてある龍召喚スキルとかめちゃくちゃ気になる!
「あ、あの……」
受付の人が話しかけてきた。なんだろう。ちょっと困ってるように見える。
俺はズボンのチャックが空いていないか確かめるが、そもそもチャックはなかった。
鼻毛は……出てない。
じゃあ、息が臭かったかな? あそれはショックだ。
「今、魔法剣士と阿修羅と竜騎士って言いませんでしたか?」
「言いましたよ?」
「あの、すみません。多分それ鑑定機の故障です。いくら宇宙人の方でもその3つの職業が同時に並ぶことはありません」
「というのは?」
「はい。魔法剣士は剣士に加えて魔法使いの初級職をレベル100に、阿修羅は僧侶のレベルを100に、竜騎士は従魔士のレベルを100にしなければいけません。この3つが並ぶということはあなたが最低でも4つの職業でレベル100になっていることになります」
「そりゃあ、おかしな話ですね」
「誠にすみません。今、作り直しま……」
「相手が俺じゃなければ、の話ですが」
「え?」
「俺、初級職6個持ってるんですよ」
「えーー!!!」
俺は自慢げに言い放った。
あたかも自分の努力の成果だと言いたげに。
その実、自力で上げたレベルは600のうちの8だけで、後はペトラと従魔に任せていたのだけれど、そんなのお構い無しである。
男ってのは褒められたり尊敬してくれれば大抵のことは気にならない生き物なのだ。
目立つって気持ちいい。
憧れられるって気持ちいい。
である。
「全く! 冗談は顔だけにしてくださいよね!」
……あれ?信じて貰えなかった?
ていうか、ついでに顔まで侮辱された!?
「俺ってそんなにブスですか?」
「えっ? ま……そ、 そんなの知りませんよ……!!」
言えないってか!? これ以上残酷な真実は私の口からは言えませんってか!
俺は受付の人の名札を見る。
ナンシーさんか。
この恨み絶対忘れない。
いつか俺が女神様を連れ戻して有名人になったらこいつにもサイン書いてやるんだ!
ブサイクでごめんね。春野翔太です。ってね!
俺は根に持つタイプやで!
え? 何? そもそもお前なんかのサインはいらないって断られるって?
「いいか、ナンシー! いつか俺はビッグの男になってここに帰って来る。忘れんじゃねぇぞ」
「はっ! はひっ!」
俺がずいっと身を乗り出すと顔を赤くしたナンシーさんはまるで磁石のように顔を遠ざかる。この場合はS極とS極だな。
……ビビらせ過ぎちゃったかな? まぁ、いいや。
「俺は狂戦士にします」
これは前々から決めていたことだ。というか、俺はこの職業以外を選ぶつもりはなかった。
「あ、あの。狂戦士はやめておいた方が……あまりイメージ的にも」
「いいんです。俺は狂戦士にします」
「……わかりました」
何とか押し通すと俺の手の下で展開した魔法陣の色が黄色から赤に変わった。
ナンシーさんはさっきから目の焦点が合っておらずどこか気が抜けているようにも見える。
「かっ、完了しました」
よし、俺も今日から上級職だ。
俺はナンシーさんにお礼を言うとその場を後にした。
「みんなお腹空いてるだろうし、店の予約だけ先にしておくか」
俺は上級職へ至ったこともあり、るんるん気分で店を探すのだった。




