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血が



「てか、なんで姉貴はこの世界に来たんだ?」


 帰れないと言うのなら、尚のことこっちに来た意味がわからない。

 俺はまあ、帰るつもりもなかったけれど、帰れないと帰らないでは気持ち的に大きな差異がある。

 そのリスクを知った上で、姉貴がこっちに来た理由はなんだ?


「もしかして……死んだの?」


 聞けば、姉貴はペトラを凌駕するほどの力を持っているという。あのペトラが手も足も出ないとなると、それはもう災厄とさえ言える存在だ。

 死んで──女神様からチート能力を貰ったとか?


「死んでないし、私は元々強かったわよ。むしろ翔太がよわよわの雑魚虫だっただけだっつーの。なんて言ったって、私は魔王と初代勇者のハーフだもの。生まれ持った才能が違うもの」


 魔王と勇者のハーフ……?

 待てよ。それってどういうことだ?

 ていうか、あのクレイジー勇者の娘?


「俺はこの世界に来た時、ただの宇宙人認定で、魔人になったのは最近だぞ? なんで姉貴は魔人で、俺はただの人なんだよ」


「そりゃあ、翔太の()()()()が人間だったからでしょ」


 サラリと。

 さも当たり前のように、姉貴は言った。



 お前とは血が繋がっていないのだと、当然のように。


「はあああああああ!?」


 なんだよそれ! 知らねぇよ! 俺、血繋がってないのかよ!


「翔太は川で拾ってきたって話、何度もしたわよね」


「それは親が子供にする鉄板の冗談じゃなかったのかよ!」


 本当に? 俺、本当に川で拾われてきたの?


「はあ。お前、馬鹿なの? 考えたことなかったのかしら。どうして翔太だけが、前の世界で剣術やら何やらを親から学ばされているのか、逆にどうして私は何もしてなかったのか」


「それは……」


 考えたこともなかった。

 まるで、頭を殴られたかのような気分。

 ただ、姉貴が言う言葉を冗談だと笑うには、それを裏付ける記憶が多すぎる。

 あまりにも腑に落ちるものだから、脳が納得している。


「じゃあ、やっぱり、橋の下で野良猫に虐められてた俺を助けてくれたって話も本当だったんだ……」


 この世界に来る前から持っていた威嚇耐性のスキルと虎の威を借る者という称号。

 これらは多分、その時から持っていたものだったに違いない。


「そっか……そうだったのかあ」


 寂しいような気もする。

 結局のところ、本物の家族というのは、向こうの世界でもこの世界でも、作れなかったってことなんだから。


「でもそっか。血の繋がってない俺を姉さん達はあんなにも愛してくれてたんだな」


「はあ? なに急に。……もしかして私を娶るつもり?」


 ポッと顔を赤らめる姉貴。

 血が繋がってないことを認識して、彼女を改めてこう見ると、意外と可愛い──わけでもないな。


「姉さんはいいや」


「ぶっコロス」


 威嚇耐性がなければチビってただろうな。

 今更この人を女として見れないし、彼女にとっても俺はいつまでも弟だろうに。


「それにしても姉さんがサキュバスねえ」


 母さんがサキュバスだってのは、確かに言われてみれば納得出来る。

 彼女が魔王だったというのも、父との関係を見てれば何となく分かる。


「でも姉貴はないって。どうやって男を誘惑すんだよ」


 無理無理。

 そもそもあっちにいた時だって姉貴は一人も彼氏がいなかったし。


「しばらく会わないうちに随分と強気になったなあ、おい。どうやら本気で死にたいらしい」


 目を赤く光らせケタケタと笑い始める姉貴。


「まさか──」


 春野未来

 職業:狂戦士

 称号:勇者の娘 魔王の娘 サキュバスの王女

 

 勇者の娘:魔物、魔族との戦闘時、味方にステータス2倍の補正。全ての聖剣を使用可能。

 魔王の娘:人族との戦闘時、敵にステータス1/2倍の補正。全ての魔剣を使用可能。

 サキュバスの王女:異性との戦闘時、敵の攻撃力を10%下げる。


「チーターじゃねぇか!」


 しかも、俺と同じ狂戦士。

 完全に俺の上位互換である。

 ステータスは俺の方が3倍ほど高いが、魔人の俺人族でも魔族でもあり、更には異性の為、戦闘時の姉貴のステータスは実質4倍。

 聖剣と魔剣で二刀流された日には、もはや彼女に適う存在はいないのではないだろうか。


「ずりぃ。ズリィよ……」


「ハッハッハッハー! 跪け弟よ。姉より優れた弟なんていねぇんだよ!」


 

「凄いきょーだいだ……」


 俺たちの会話を聞いていたペトラが引き攣った顔で言う。


 ま、まあでも、俺が戦うのは人間ではなく神。姉貴の称号はあまり役に立たない。

 神相手には、俺の方が善戦できるのだから、ここはもう少し心を強く持つべきだろう。


「そういえば姉さん、さっきプレゼントがどうのこうのって言ってなかった?」


「あー、そうそう。伊織? だっけ。あいつからタブレットを3つ預かったんだよ」


 タブレット?

 なんで3つ?


 俺はそのうちのひとつを起動し、画面を操作する。

 待ち受け画面の背景には、俺にだけわかるパスワードのヒントと、メッセージを読むこと、と書かれている。


「メッセージはこれか」


 そこには、翔太へ、と書かれたファイルがひとつ。それを開く。


 

 翔太へ。

 お手紙ありがとう。

 君が異世界に行ったという話を聞いてすぐ、僕は翔太の家を訪れたんだけど、どうやら本当らしいね。

 もう一度会いたいだとか、寂しいだとか、まあ、僕も色々と思ったりはしたんだけど、敢えて格好を付けて、僕は「頑張れ」の一言を君に送ろうと思う。

 まあ、だから、翔太が新たな世界で羽ばたく為に、いくつか贈り物をしようと思います。翔太は現金なヤツだから、言葉を貰うよりも、こっちの方がよっぽどいいんじゃないかな。笑

 冗談だよ、怒んないでね!

 その贈り物っていうのは、添付したファイルに入ってるデータのことで、他の2つのタブレットにも、同じものが入ってる。お姉さんには電子パネル付きの充電器も渡しといたけど、そっちの世界は文明も発達してないみたいだし、資料内容は早々に紙にまとめることをオススメするよ。

 それじゃあ、頑張って!


 メッセージを読んで、次にファイルを開く。

 そこには、元の世界の様々な資料が並んでいた。

 コンクリートの作り方。農作物の品種改良法。創薬や政治。銀行の仕組みなど、ありとあらゆるものだ。


「ヤバすぎんだろ……」


 こんなもの、バレた日には戦争を引き起こし兼ねない内容だぞ。たったひとつのタブレットで、数百年も時代を進めてしまいかねない内容だ。

 

「サンキュー」

 

 一体どうやってこんな情報を入手したのかは不思議でならないが、伊織なら出来そうだという、そんな信頼もあった。


「んで、もう一個が……ぶふぁっ!」


 全部AVだった。

 ノーマルからアブノーマルまで。よく見ると、下の方にはR18のアニメや漫画もある。


 なんと言うか、男友達ならではの気遣いだな。

 しかも薄らと、俺の性癖が掴まれてる気がする。

 こわ……。

 

 呆れながらも喜びを隠せないまま、一番下までスライドすると、30秒ほどの短い動画が目に付いた。

 俺なんとなく、それをタップして、中を見る。

 そこに現れたのは、向こうの世界での唯一の友達伊織。どうやらビデオメッセージらしい。

 俺を気遣うような、それでいて小馬鹿にしたような友人を見て──ふと、頬に涙が伝ったのがわかった。


 ああそうか。俺はもう、コイツには二度と会えないのか。それを改めて突きつけられたようで、不意に後悔が押し寄せる。


 もっとちゃんと、学校行ってりゃよかったな。

 たまには自分から遊びに誘ったりもしてさ。

 もっとアイツと、馬鹿やってたかったよな。


 あーあ、馬鹿だなあ、俺は。


 やがてにこやかに手を振る伊織の動画が終わる。

 あいつは最後の最期まで──一度も別れの言葉を口にすることはなかった。

お読み頂きありがとうございます。

今年に入って、更新頻度下がってしまって申し訳ございません。


実は近日中に、新連載を開始しようと思っています。本作品のスピンオフと言いますか、未来編といいますか。この世界とも深い関係のあるローファンタジーを連載する予定です。(翔太もガッツリ出てきますが、主人公ではない)


それに伴いまして、こちらの作品も更新頻度を上げていきたいと思っております。

まだまだ回収しきれていない伏線も多いのですが、書き始めた以上は、しっかりと完結させてあげたいので。

これまで約2週間おきの投稿になっていましたが、これからはもっと増えると思いますので、細かくチェックして頂ければと思います。


では、次話もよろしくお願いいたします。

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