イカリング
なんとまあ、グロくて気持ち悪いことか。
昏い海を遊泳するクラーケンはめちゃくちゃ気持ち悪かった。
海の生き物が陸上にいたら絶対に近寄らないと思うんだよね。イカだって、海の中にいるからいいのだ。
あれが花壇で花の蜜吸ってたら誰も食べようだなんて思わない。
俺は日本──つまりは島国出身で、割と耐性もついている方だ。しかし、リシアやアデルミラは違う。
特にリシアはゲテモノがとにかくダメだ。
以前デートで港に行った時もそうだった。
「翔太……早く倒して帰ろう。夢に出てきそうなんだけど」
「うーん。でも、こいつを剣で倒すってなったら結構時間かかるぞ?」
ここは海の中だ。
火属性は消えてしまうし、水属性は意味がない。
風属性を使おうにも水中に風なんて吹かないし、地属性も相性が悪い。唯一効きそうな雷属性も自分にまで被害が飛んできそう。
「だめだ。俺、水中で戦うのは無理そう」
アイネクライネナハトムジーク第十八金剛烈空丸・華叉を軽く振ってみるが、やはり水の重さが邪魔をして、イマイチ振り切れない。
「……じゃあ、なんでこんなクエスト受けようとしたの?」
「いや、だって、勝てたらかっこいいかなって。……チヤホヤされるかなって」
これまで散々チヤホヤされて来た光の勇者に俺の気持ちなんてわかるわけない。
元の世界でも平凡で、こっちの世界でもチート能力はなし。世の中俺に厳しいぜ。
ただ、まあ、何にせよ。
ここで何もせず帰る訳にはいかない。
俺はアデルミラの防具錬成のスキルで作って貰ったゴムをアイネクライネナハトムジーク第十八金剛烈空丸・華叉に装着する。
今回の作戦は剣をモリとした刺殺。
二人の準備終了を待って、いざ、戦いが始まった。
とはいえ、相手は体長50mの巨大モンスター。
生半可な攻撃じゃ殺すには至らないだろう。
「リシア、今回の狩りの要はお前だ。光属性魔法でうまくダメージを稼いでくれ」
「おっけー」
俺たちは連携してイカを撹乱。
一番槍は俺からクラーケンの右眼への突きだ。
ぐにゅぐにゅと触手を揺らしながら暴れるクラーケン。どうやら痛覚はあるらしい。
このイカ野郎には瞼がない。こんな昏い海で視界に頼っているのかはわからないが、それでも片目を潰せたのは大きい。
俺は迫り来る触手を往なしながら、一旦距離を取る。
「確かイカって心臓が3個あるんだよなあ」
どこの部位にあるのかまではわからないが、確かそんな話を聞いた気がする。
内側から破壊してくしかねぇか。
俺は触手を避けながら背後に接近し、アイネクライネナハトムジーク第十八金剛烈空丸・華叉を深く突き刺す。
「【無波】」
回避不可能な衝撃波がクラーケンの体内を抉る。
しかし、どうやら心臓からは外れていたようで大したダメージにはなっていない。
やはり、体がでかいというのはそれだけで強い。
奴からすれば針が刺さったようなものだろう。
あ!
「リシア、アデル、作戦変更だ」
ついつい失念していたがあるじゃないか、取っておきの方法が。
「今から少し長めの詠唱に入るから時間稼ぎを任せていいか?」
「おっけー」
今から始めるのは毒属性、空間属性、風属性、水属性、火属性。計5つの属性を混じえた爆絶魔法だ。
俺はクラーケンから距離を取り詠唱を始める。
リシアはうまく触手を躱しながら反撃している。
丸太よりも太い触手。これを一本叩き切るだけでも相当難しい。
「……闇に沈む灯火よ。消えゆく蓮に一抹の願いを聞かせ。枯れゆくものに夢はない──」
頭の中で究極の魔法を組み立ながら詠唱を続ける。
強い魔力を帯びたアイネクライネナハトムジーク第十八金剛烈空丸・華叉が黒い刀身を光らせカタカタと震える。
「乱れ。狂え。花よ。ただ己が為に」
そして、莫大な魔力が荒れ狂う。
ペトラの眷属となり膨れ上がった魔力が暴れている。
気持ちいいくらいの万能感。
「狂化レベル Ⅰ」
滲み出る殺意と共に俺は剣を振りかぶり──
「【十炎】」
海を焼いた。




