意見
海底にある人魚の国。
俺とアデルミラはそこを目指すことにしたのだが、ここに来てようやく問題と向き合うことになった。
「陸の2.3倍広い土地から女王の住む城を見つけるって無理くない? そもそも、息できないだろ?」
「ひぇひぇひぇひぇ……」
相変らず不気味な笑いをするアデルミラと共に打開策を考える。
「……娘ちゃんに聞いてみるか」
クハクに頼んで、ミリィやペトラに囲まれてるだろう我が娘を連れてきてもらう。
……名前ないの不便だな。
いちいち娘ちゃんって呼ぶのも、なんか嫌な感じ。
「どシたのパパ」
「うん、実はさ、ママに会いに行こうと思うんだけど、パパは海の中で呼吸ができないのよ。どうすればいいと思う?」
「うーん。わかんナイや」
にまーっと笑顔を向けてくる娘ちゃん。
可愛い過ぎてつらい。
「とりあえず、海行くか……」
色々とガバガバである。
──ジャンプ
はい。という事で海に着きました。
リシアの故郷である帝国の海だ。
「ママとはここで出会ったんだよ」
ここで、人魚なのに顔面が魚状態のアドリアーナと出会ったのだ。
呪いが解けたアドリアーナがあんなに綺麗な人だとは思わなかった。
「そう言えば今更だけど、何で娘ちゃん普通に会話できるの?」
一目見ただけで俺の事をちゃんと父親と認識していたし、一度も会ったことのない母親の名前も認識していた。
見た目だって、産まれたての赤ん坊からは程遠い。
人間とは何もかも違う上に不自然だ。
「ぱぱがそエをモトめてるから」
「それってどういう……」
「うーんと、じゃア、いってくる!」
そう言ってバタバタと暴れだしたので、俺はずっと抱いていた娘ちゃんを波打ち際に下ろす。
すると、娘ちゃんは楽しそうな声を上げて海の奥へ、声をかける暇もなく姿を消してしまう。
「なあアデル、これ、大丈夫だよな?」
「……。」
黙っちゃったよ。
どうしよう。
俺だって、ほんの少しくらいなら泳げるけれど、それでも人魚のようにはいかない。
今から海に潜って、娘ちゃんに追いつくのも難しい話だ。
「……これを」
アデルミラはがさごそと魔法袋を漁ると、中から1枚の布を出てきた。
それは女子用スクール水着と言えるデザインの布でもある。
そして、それが俺に差し出された。
「着ろと? 18歳男子に女子用スクール水着を着ろと?」
「……お気に召しませんでしたか? デザインにかなり時間を掛けたのですが……」
いや、お前が考えたんかい!
日本人の知識なしに旧式のスク水を生み出すとか、ある意味センス抜群過ぎるけど、俺には着れないよ!
鑑定すると、一応防具扱いされており、水に対する耐性が文壇についている。
「これを着れば水中で呼吸もできるのか……」
くっ!
どうする、俺。
着ました。
はい。スク水です。
けど、さすがの俺にだって、尊厳というものがある。
防具錬成士のアデルミラが作ったこのスク水の上から、普段着を着ることでどうにか誤魔化す。
海に浸かってみると、服だけが濡れて、体は何ともない。
水中では体の周りに薄い膜のようなものが出来るので、呼吸も普通にできてしまう。
アデルめ……さては天才か!
「よし、これなら潜れるな」
アデルミラの方も既に水着を着用していたようで、紺色のスクール水着で、起伏の乏しい身を纏っている。
「行くぞ!」
魔法のお陰で全く冷たくない海水を潜り進んでいく。
沖まで水の上を走った方がよかったかもしれないが、それだと娘ちゃんを見逃してしまう可能性があるので、浅瀬からアデルミラと浸水することにした。
それしてもこの世界の海はかなり綺麗だなあ。
かなり深いところまで来たというのに、上を見上げれば陽の光を感じる。
水は透き通っており遠くまで見渡すことができ、お魚さんたちが優雅に泳いでいる。
『なにか人工的なものを見つけたら教えてくれ』
さすがに水中では会話もできないので念話。
2人揃って海の底を目指す。
太陽の光が届かないほどの深さに潜るのは正直かなり怖いのだけれど、やむを得ない。
光属性の魔法で当たりを照らしながら進んでいく。
30分ほど彷徨った頃だろうか。
海底の深くから群れが現れたのは。
魚の群れではない。
人魚の群れ──いや、これは軍隊か?
『ようこそお越しくださいました。アドリアーナ王女がお待ちです』
事務的に告げた美しい人魚の女性が先導するように俺の少し前を泳いでいく。
どうして軍が動いているのか問うと、どうやら俺は今、命を狙われる立場らしい。
アドリアーナには現在100人の夫がおり、ひとり一個、卵を配るのだという。
そして、産まれた子供の中で最も美しく、優秀な子供が次の王座につくらしい。
俺、いつの間に逆ハーの中に組み込まれてたの?
『でもさ、俺が命を狙われるって言うのは、じゃあなんでなの?』
『貴方は人族でありながら、次期女王の正夫となる方です。それを認めぬ者、アドリアーナ王女の他の旦那様達から狙われております』
え、こわ。
『あれ、でも待って。なんで俺が──って言うか、俺の子供が選ばれることになってるの? というか、うちの子ここに来たの?』
『そちらの話は後ほどアドリアーナ王女殿下から直々にされるでしょう』
際ですか。
何やら色々と混みあっていそうな気がするなあ。
 




