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【閑話】新年

あけましておめでとうございます。

正月に更新したかったんですけど、間に合いませんでした。

ちょっと長いので、読み飛ばして貰っても構いません。

あくまで閑話ですので。



「あけましておめでとうございます! えーっとですね、翔太先輩や国に帰ってしまった方達は来れないので、今日はいるメンバーだけで、ささやかな宴会にしたいと思います!」


 今日は年明け。

 新たな1年を迎える彼女達は、イベント好きな日本人に倣ってお正月の宴会を上げることになった。

 何故、リーダーである翔太が欠席なのかというと、寝坊である。

 しかも、それはただの寝坊ではなく、全く起きる気配がないのだ。

 ペトラが身体を揺すっても、クハクが身体を舐め回しても、ミリィがお腹の上で飛び跳ねても、リシアが足の裏を火で炙っても、起きない。


 ペトラが鑑定してみても、特に状態異常はなかったため、うんともすんとも言わない翔太を置いて、みんなで、お城から教会へと向かってしまったのだ。


 ──実際には、新年初夢の中で女神と会っていた訳だが、他の家族は知る由もない。



「では、リシアさんに乾杯の音頭をとって頂きます!」


 一応、家の中での序列は一番に翔太。

 二番に勇者と魔王であるリシアとペトラ、三番に家令のエレナ、四番にその他となっている。


 その他、の中にも傘下に加わったタイミングや王族貴族と平民との格差を気にしたり、ネギまやクハク達を翔太直属の部下として崇めていたりする人たちもいるので、一概に平等とは言い切れないが、それでも気兼ねなく言い合いができる程度にはお互い気を許している。


「あけましておめでとう、リシアです。黒の方舟が結成されてから1年が経ちました。1年前と比べて……みんなはどうかな?」


 その問いに対し、各々過去の自分を見つめる。

 多くのものは元々が奴隷身分であり、いつ死んでもおかしくない環境に身を置かれていた。


 目の前に並んだ暖かい食事を当たり前のように思えていることがどれだけ幸福なのか、改めて思い知る。

 食べ物がない、飲み物がない、そんなの当然の生活だった。

 ここにいる者の多くが、硬いパンを泥水に浸して食べるような生活を経験している。


 衣食住が保証され、自由な時間がある。

 まるで御伽噺のような生活。

 一年前の自分なら、絶対に信じなかったような未来。

 その道の上に、今、彼女達は立っている。


「もし叶うならば、今年も来年も、ずっとみんなとこんな生活が続くといいなって、私は思う」


「そうニャー。けど、リシア様の訓練がもう少し優しければ嬉しいニャー」


 続けたリシアの言葉にルナが合いの手を。

 教会に笑いが溢れる。

 

「ルナは後で覚えてなさい。──では、そろそろ乾杯しよう。みんな、グラスを掲げて!」


 皆がグラスを頭上に掲げたのを見て、リシアは目の色を変える。

 それは普段のポンコツリシアではなく、軍人としての、勇者としてのリシアの目だ。


 

「我等は黒の方舟。罪人の衆である。されど何ものにも曲げられぬ矜恃と掴むべき未来の為、家族の為、我らは征く! さぁ、宴だ! 我等の栄光を願って、乾杯!」


「「「かんぱーい!」」」


 グラスを打ち付け合う。宴が始まった──







「アンジーさんお酌するッス」


「どうも〜。ありがとうね、プリシラちゃん」


「じゃあ、プリシラの分は私が注ぎましょう」


「いや、あっ、エレナさん、申し訳ないッス!」


「いいの。今日は無礼講だし、じゃんじゃん飲みましょう」


 互いに酒を注ぎ合うのは、翔太により三大エルフと名付けられたメンバーだ。

 元々、3人とも年齢が大きく離れていることもあり、そこまで仲が良かったわけでもなかったが、翔太によってあだ名を付けられたことをきっかけに、最近仲が深まったのだ。

 ちなみに、三大エルフというのは──

 エロフのアンジー。

 ゲロフのエレナ。

 グロフのプリシラである。


「全く、不名誉なあだ名ッス!」

「まあまあ。けれど、私は2人と仲良くなれて嬉しいんだよ? 娘が出来たらこんな感じなのかなぁ」


 度数の強いアルコールを煽ってふわふわと語るアンジー。

 彼女は100歳越えのエルフなのに対し、エレナとプリシラの2人の年齢はまだ二桁だ。

 エレナの方がプリシラより少し年上。


「そう言えば、アンジーさん最近よく家に帰ってるみたいっスけど」


「……ああ、うん。実はお見合いが……」


「ぇぇええぇぇえええぇぇえええ!? アンジーさん結婚するんスか!? 言っても、まだ109歳っスよね?」


「アンジーさんはハイエルフの血も流れてますし、貴族だから、結婚は早いんだと思いますよ」


「あー。なるほどッス」


「私もまだ早いと思うし、結婚なんて、まだするつもりはないのだけれど、パパ……お父様が勝手に話を持ち出してきて……」


 ぶすーっと、息を吐いて更にワインを飲み干す。

 今日のアンジーはかなりのハイペースだ。


「二人は結婚、何歳差まで考えられる!? 正直、80歳以上差が開くとキツくない?」


「自分は100歳差までなら、大丈夫っスよ」

「私は年下の方がいいので、年上は50歳差ぐらいまでが許容範囲ですね」


「うーん」


「けれど、アンジーさん。ご主人様とは90歳以上差が開いてますけど、それはいいんですか?」


「ああー。そう言えば、ドワーフと戦う時、外堀を埋めようと、親に紹介してましたよね!?」


「ギクッ!」


「あれっスか! 愛に歳の差は関係ないとか言っちゃう感じっスか!?」

「な、なんのことかなぁ……」


「結婚なんてまだ早いとか言って、実は主様の事狙ってたり!」

「よよよ、よくわからないなぁ……」


「ご主人様に貰った指輪を堂々と左手の薬指に付けているのも、確信犯のつもりですか?」


 エルフの国に、指輪を渡すという文化はない。

 お揃いのピアスを開けたりする文化は、田舎の方にはあるが、一般的なエルフの求婚では、苗を買ってきて、共に育てるというものだろう。

 人族と違い、長寿であるエルフは、その成長を見守ることが出来る。

 

「まさか! 指輪をつけたままお見合いしたんじゃないっスよね?」


「そ、そそそそんなことなかった気がするなぁ……」


 この後、長時間質問攻めを食らうアンジーであった。





「おい、アデル! 私の酒が飲めねぇってのかよ! そう言いたいのか? そう言いたいんだな!? 答えろよ、おい!」


「ヒヒヒヒッ」


 エルフ組の隣では、酒を樽ごと抱えたエルネスタが、アデルミラに絡んでいた。


「まあまあ、マスター。アデルさんも困ってますから」


「きひひひ」


 一生懸命エルネスタを宥めようとする新米ならぬ新妹のスピカだが、残念ながら彼女に制御できるような女ではない。


「だらららららららららららららあああああああ!」


 樽に顔を突っ込んで一気に飲み干すエルネスタ。

 さすがは元冒険者だけあって、かなり豪快な性格をしている。

 黒の方舟一の酒豪と言われるエレナはこれ以上に飲むというのだから、ビックリである。


「そう言えば、メグちゃん久しぶりに会うね!」


 なんかもうダメだ、と全てを諦めたスピカは隣で会話するセレナとメグの方に混ざることにした。


 メグは、翔太とスピカが食事をした店で働いていた奴隷のウェイトレスで、彼女を不憫に思った翔太が高値で買い取った子である。

 普段はセレナの経営するお店でウェイトレスをやっており、今では立派な看板娘だ。


「メグはねー。人気でねー。ちょっと嫉妬しちゃうくらいなんだよねー」


 セレナは既に酔っているのか、頭を、フラフラとさせながら、彼女を褒めちぎる。


「私なんてそんな! 全然大した事ないですよ。それよりも、聞きましたよ! スピカさん、素手でドラゴンを倒せるようになったって!」


「あ、聞いちゃった!? 最近体術の訓練も様になってきてね! もうなんてい──」


 自慢げに話し始めたスピカが、一瞬にして姿を消し、数瞬後、爆音が鳴り響いた。


「不意打ちを躱せねぇようじゃ、まだまだだっつーの。もっと励めっつーの。聞いてんのかよ? 返事は? 聞こえてんだよな? 聞こえてるって言えよ!」


 どうやらべろんべろんのエルネスタが放った拳がスピカを弾き飛ばしたようだ。

 メグは顔面蒼白である。


「【沈眠】」


 セレナはエルネスタに対して、睡眠の状態異常魔法を掛けて強制的に寝かす。

 こうして、彼女達にようやく平和が訪れる。

 

「きひひひひ」

 






 さて、大荒れな会場の中、上品に食事を進めているのがロイヤルガールズ組である。

 シレーナ、カロリーヌ、理沙の3人だ。


「したんですね!? エッチしたんですねっ!?」


 問い詰める理沙の対面で、決まりが悪そうにグラスで顔を隠すシレーナとカロリーヌ。

 

「王族って、婚前交渉しちゃっていいんですか!?」


「「…………。」」


「あの、聞いてます?」


「わ、私は翔太にちゃんと言ったよ? す、好きって……」


「マジですか!!!!!」


「しっ! 声がでかいって……」


 理沙の口を塞いでキョロキョロと周囲を見渡すシレーナ。

 どうやら周りもかなり盛り上がっているため、特にこちらを気にしている様子はない。


「それじゃあ、カロリーヌさんも?」

「いえ、私はなんと言うか流れで……」


「は?」

「え?」

「はぁー?」


 かつて見た事のない理沙の態度にカロリーヌは困惑する。


「え、カロリーヌさんって、翔太先輩の事好きでもないのに、しちゃったってわけですか? うわー汚ぇ。大人って汚ぇ」


 それは理沙の本音だった。


「リリムさんなんて、あんなに泣いてたのに」


 リリムのように、本気で翔太に恋をしている人にとっては、身体だけとは言えど自分以外の人と結ばれることはとても辛いことだろう。

 理沙はリリムの気持ちを知っていたからこそ、応援していたからこそ、カロリーヌの行いは許し難く感じた。


「八方美人は時に他人を傷付けるって、翔太先輩は知らないのかな」


 お酒の代わりに、フルーツジュースを口へと運ぶ理沙。

 彼女は大人びて見えていても、実際にはまだ中学生なのだ。

 彼女の曇りなき眼には、大人のそういった世界は汚く見えてしまうだろう。


「私だって、誰でも良い訳じゃないですよ」

「じゃあ、カロリーヌさんも好きなんですか?」

「それは……」


「顔ですか!? 顔が良かったからですか? ショタコン姫様が翔太婚しちゃうくらい顔が良いからですか!?」


「私に飛び火してない!? 私は中身も好きだよ!?」


 怒気を放つように声を荒らげた理沙。

 その頬を一雫の涙が伝う。


「あれっ……?」


 無意識に零れ落ちた雫に理沙本人も戸惑いを見せる。


「ねぇ、もしかして、理沙ちゃんも……」


「違います! 全然違いますからっ!」


 シレーナの言葉を聞かずとも、理沙にはその言葉の続きがわかった。


 ──翔太が好きなのか


「私はそういうの、全然、違います」


 両目を擦り、シレーナの言葉を再度否定する。


 実際、理沙の中に自覚するような好意がある訳ではない。

 むしろ、あれだけ多くの女性に想いを寄せられている翔太だけは、好きにならないようにしようと、心掛けていた程だ。

 辛い恋愛はしたくない。

 それに、自分が想いを寄せる相手にとって、数いる中の一人という存在は格好が悪いと、そう思っている。


 だからその涙が、自分の自覚していない心の内を表していたのか、それとも、純粋にリリムを思ってなのかは確かではないが、それでもその涙には価値があった。


 少なくとも、カロリーヌの本音をさらけ出させるほどには。


「私は昔から物語に出てくる王子様に憧れていました。素敵な王子様に出会う事が夢でした」


 子供じみた夢だと、カロリーヌは笑う。

 それでもついぞ、捨てることのできなかった夢。

 

 現実の男達はカロリーヌの思う王子様とはかけ離れていた。


 美しい見た目で産んでくれた親には感謝している。

 しかし、その美貌が、まさか戦争を産み、裏切りを産み、やがて自国を滅ぼすとは思ってもみなかった。


 カロリーヌは自分を呪った。

 死ぬことさえも考えた。


 そんなとき、決まって彼女を支えてくれたのが──

 

「私には男性の事が、よく分かりません。よく分かりませんけど……翔太さん以外の人は考えられません。確かに、私は流れで、翔太さんと男女の関係になりました。けれど私はあの時、確かに彼を求めていました。理沙さんの話を聞いた今も、私の選択を少しも後悔してはいません」


 理沙が納得するかどうかは別として。

 カロリーヌは自分と翔太の関係に対して後ろめたさはない。

 今日はとことん話し合おう。

 カロリーヌは密かに、腹を決めた。




「お姉ちゃん! お姉ちゃん! ちょっと大丈夫!?」


 大人の会話をしている隣では、大人しめのメンバーが酒盛りをしていた。そんな中、唯一お酒を大量に飲んだルナが、妹のアルビナに頬を叩かれている。


「クラクラするにゃ〜」


「お姉ちゃん、まずはお水飲んで! ゲロにゃんこって呼ばれちゃうよ!?」


 何を心配しているのかイマイチよくわからない妹に介護されながら、ルナは水を飲む。


「ルナさんあんまお酒は強うないとは思ってましたけど、ここまで弱いとも思ってませんでしたわ」


 クスクスと笑うエセ関西弁のミナ。

 隣に座る灰色猫獣人のケーラと水色毛のうさ耳獣人のメルと合わせた3人のグラスにはソフトドリンクが注がれている。

 3人とも歳は15歳。

 学校でも同級生であり、私生活でも仲良しの3人だ。


「そう言えば、ケーラちゃんは、最近も夜な夜な愛しの君に会いに行っとるん?」


「えっ!?」


「それ気になってたウサ!」


「……知ってたの?」


「当然や。ちゅーか、多分みんな知っとるで?」


「ひぇぇぇぇ。もしかして、アルビナさんもですか?」


「まぁ、はい。あれだけ男の人の匂いが付いていて、気付かない獣人族はいないですよ」


「そんなぁ……」


「でも、早いですね、発情期。私はまだ来てません」


 実際、ルナ、アルビナ、ケーラは猫獣人なので大体の発情期は被るが、基本的にはもう少し後の時期になる。


「い、いやいやいや! 私だって発情して会いに行ってる訳じゃないですよ!? ただ、翔太様の寝顔を見て、ちょっと愚痴を零して帰ってるだけです」


「そうなん? けど、何日か前、エルネスタさんに絞められとらんかった?」


「見たウサ。胸ぐら掴まれてたウサ。エルネスタさん、血の涙を流して叫んでたウサ」


「あれは、本当に何もなかったんです。何かありそうなシチュエーションで、翔太様が寝ちゃったんです。……私って魅力ないですかね……」


 とほほーと落ち込むケーラ。

 彼女を慰める会が、密かに結成された。






「クハク様、御神酒注がせて頂いても宜しいでしょうか?」


「嗚呼、有難う存じます」


 最近少しずつ家族ともコミュケーションを取るようになってきたクハクにお酒を注いでいるのは社畜保育士のアズリだ。


 今ここに集まっている女性たちを一言で表すのならば、大人の女で間違いないだろう。

 ここにいるメンバーだけは、他の席にはない落ち着きを見せていた。


「それにしても、貴女、杯が様になるのね」


 クハクの対面で煙管を咥えたレベッカが、赤髪のサキュバスであるムムに対して感想を零し、息を吐く。


「褒め言葉として受け取って起きますが、他人に煙を吹きかけるのはあまり品が良いとは言えませんよ」


「うふふっ。そうね」


 妖艶な笑み。

 この場だけはまるで別世界のような美がそこにある。


「妾はむしろ、その煙に興味があるな」


 しゅるしゅると舌を鳴らしたサーストは目の前にあった豚の丸焼きのひとくちで呑み込んで笑った。

 その光景にはさすがのレベッカも目を丸くする。



「何だか、私だけちんちくりんな感じがします……」


 確かに、胸ひとつ比べても、サースト、クハク、ムム、レベッカの4人より格段に劣るのが現状のアズリである。

 4人に比べるとクールさにも欠けるところがある。


「まあ、気にすることないよ、アズリさん。みんな行き遅れて熟しただけだから。今に腐り落ちるよ」


 ひょっこりと顔を出したのは黒色スライムのドクロだ。

 この度は遅刻しての参加であり、ちょうど今到着したようだ。


「来たんですか、泥水」

「久しぶりだね、白髪ネズミ」


 敬遠の仲というべきか。

 ドクロの登場でクハクがピリつく。


「まあまあ。今日くらいは仲良くしましょう。明日からまた仕事なんですから。明日から……また……仕事……うううう」


 どうやらアズリは泣き上戸らしい。

 ムムに背中を撫でられながらひたすら酒を流し込むアズリを哀れに思いながら、レベッカはワイングラスに口を付けた。

 






 さて、そんな大人の会話をしているグループから少し離れたところでは、幼女組が集まっていた。

 光の勇者リシアとキノ、ネギまが面倒を見るようにして集まっているのが、魔王ペトラ、犬耳獣人のミリィ、賢者のルー、古龍のマカロンだ。


「ルーちゃんはお兄ちゃんに会えたの?」

「うん。会った。……私の方が強かった」

「えええ! すごーい! ルーちゃん、水勇者に勝ったの!?」


 黒の方舟が一時解散となり、ルーは兄と再開した。

 帝国で水の勇者として訓練を続けていたルーの兄だったが、まさかの妹に敗北するという残念な結果を経て、現在山篭り中。ルーは再び教会に戻り、学校へと通っているのだ。


「ミリィちゃん、お口が汚れてますよ〜」


 うふふ〜と笑いながら、タオルでミリィの口を拭うネギまの横では、銀髪の古龍種の幼女がエルネスタと同じように樽で酒を飲んでいる。


「かァー、酒はいいもんじゃなぁ……」

「ペトラにもひとくちちょーだい!」

「ならん。子供のうちから酒に溺れては将来頭がパーになってしまうからの」


 一見大人と子供に見える組み合わせだが、実際の年齢は真逆。かなりシュールな絵面である。


「そう言えばー、ネギまちゃんは一向に語尾が伸びる癖が直りませんねー」


「うふふっ。そういう〜貴女も〜毎日気だるそうな話し方が治らないのですね〜」


 実はキノとネギま、語尾を伸ばすという話し方の特徴が被っていることで、密かに争い合っていた。

 もちろん、敵視しているなんてことを表立っては言わない。ただ、自身の特徴が被った相手を牽制し合っているのだ。


「思いの外くだらない戦いをしてるのね……」


 そんなふたりの牽制を見ながらリシアはちびちびと酒を飲む。


「ミリィ達は仲良しだよ! ねぇーっ!」

「うん! 仲良し!」

「ん」


「偉いねー」


 リシアはホッコリしながらミリィの頭を撫でる。

 

 70人ほどいる黒の方舟のメンバー。

 全員が全員仲良しというのは難しいだろう。

 確執だってある。

 それでもこんな風に、言いたいことを言い合ってでも、同じ方向を向いて歩める事を誇りに思いながら、またこの一年を共に乗り越えていきたい。


 リシアはそんな事を思うのだ。





 その頃──魔王城では。

 

「うふふっ。うふふふ〜っ」


 ベッドに横たわる翔太の隣から魔女の笑い声が響いていた。

 彼女の正体は一体──

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