再会と再開
「んー。そろそろ起きるかぁ」
覚醒した俺は起き上がろうとして、何かに体を縛られていることに気づく。
「んあ?」
よく見ると、メイド服姿のキノが俺を抱くようにして一緒に寝ていたのだ。
「ははーん。さては、起こしに来てそのまま二度寝しやがったな」
キノが寝てるってことは俺ももう少し寝れるという事だ。
俺も早速二度寝をするとしよう。
俺は顔にかかるキノの髪を梳く。
あんな事があって……彼女が命のように大切に伸ばしていたあの灰色の長髪はまだ肩に届くほどの長さもない。
これでもだいぶ伸びた方だけれど、元の長さに戻るまでには当分時間がかかるだろう。
「命は大事だよな……」
そう呟いたところで、ベッドの端にクマのぬいぐるみを発見する。
「おはよう、ハル。起きてる?」
ハルは元奴隷のダークエルフ。
俺を助けてもらう代わりに、このぬいぐるみと墓、そして名前を与えた。
彼女が自殺してしまったのは、俺にとってもショックな出来事だったけれど、何故かこうしてぬいぐるみとして今も一緒に生活している。
さすが異世界ファンタジー。
『……起きてます。貴方が昨夜、猫獣人の少女とイチャイチャしているのも見ていました。もしかして、灰色の髪の女性が好きなのですか?』
どうやらずっと起きていたらしいハルから念話が届く。
彼女はぬいぐるみなので、話せないし、瞬きもしない。
起きてるか寝てるかわかんないんだよな。
「髪色に関係なく、俺は家族をみんな、大切に思ってるよ。もちろんハルもね」
俺はぬいぐるみを抱き抱えて布団に潜る。
うーむ。抱き枕には最適だ。何故か人肌と同じくらいの熱も持っているし、最高と言わざるを得ない。
ただ、文句があると言えば──
『はっ、離してください! あっ、耳はやめっ、ひゃう』
とてもお喋りさんなのだ。
貴族の遊び道具として飼われていた彼女の元の肉体は火傷で爛れ、膿に塗れていた。
とても人が触れるような身体じゃない。
結果、他人の人肌との接触を十数年以上してこなかった彼女は、全身が超敏感になってしまった……らしい。
なんか、むずがゆいとかなんとか。
短い手足をパタパタと動かして抵抗するハルを無視して二度寝。
たまにはゆっくりするのも悪くないなぁ。
「それが、待ち合わせに遅刻した理由ですね?」
「……。」
ガッツリ寝坊した俺は、ケーラの弟子、瞬剣ことミチにお説教されていた。
俺とミチで比べたら100対0で俺が悪い。
でも、俺とキノで比べたら42対58でキノが悪い。
嘘です。俺が悪いです。ごめんなさい。
「それで、師匠は?」
「あー、なんか1回拠点に帰ってからここに来るらしい」
エルネスタに色々と報告があるのだとか。
よくわからない。
「とりあえず、何か頼みなよ。奢るからさ」
言って、ちょっと気になることを聞いてみる。
「そう言えばさ、人族と獣人族、言語も使ってる貨幣も一緒だよな?」
「……? そうですね。そう言えば。考えたことありませんでしたけど」
貨幣がどうかはわからないけれど、魔族も言葉は通じるし。
どういうこっちゃろーな。
そんな雑談を1時間ほど。
やがてリシアと共に、店にやってきたのは、頭にたんこぶのできたケーラだった。
「いやぁ、エルネスタさんが投げた自動販売機が頭に当たっちゃいまして……」
「ツッコミどころが多過ぎるわ!」
まず、この世界に自動販売機がある理由がわかんねぇし、あんな温厚なお姉さんに自動販売機を投げられる経緯がわからない、そして何より自動販売機って投げれるものなの!? たんこぶで済むものなの!?
「あ、あの! 師匠!」
俺が色々とツッコミを考えている頃、席を立ったミチがケーラの元まで駆けると、そのままお腹の辺りに抱きついた。
感動の、再開だった。
「……よかった。師匠なら、どんなに身体を穢されても、心だけは清いまま、生きて帰ってくると、信じてました」
「う、うん。でも、私は、身体も綺麗なままなんだよね。……うん、不本意ながら」
ケーラは涙を流すミチを撫でながら、横目でこちらを睨んでいる。
あれ、僕なんかやっちゃいました?
「ヤッテナイデス。ナニモヤッテナイデス」
良かった。何もやってなかった。
ちょっと居心地も悪いし、俺はドロンしようかな。
「翔太様、行っちゃうんですか?」
「うん。ミリィの故郷の位置も大体想像が着いたし、リシア達とまたぶらりぶらり行ってくるよ。2人は再会を楽しんでくれ」
俺は格好をつけるために予め幾つか金貨を分けておいた財布をケーラにて渡すと、店を出てリシアに念話する。
さて、旅の再開! 楽しむぞぉー!




