立場
「実は黒の方舟をもうひとつ作りたいんです」
理沙が教会を訪れた理由はこれ。
新たな組織と、そのメンバーの育成役をエルネスタに頼むためだ。
エルネスタは黒の方舟のメンバーでは比較的後期に入ったメンバーではあるが、その実力はトップクラス。
現在冒険者ギルドのマスターを務めている彼女には持ってこいの。依頼だ。
エルネスタは自他ともに鍛えることが大好き。
理沙の目論見では断わられるはずなんて、少しもなかったのだが──
「私がそんなの許すわけねぇだろ。ただでさえ70人以上いるメンバーの中で翔太くんの余りモン扱いなんだぞ? これ以上ライバル増やすのを良しとするわけねぇだろうが!!!」
エルネスタはブチ切れた。
「もっと大人の余裕を持ちなさいな。ふふふ」
煽るレベッカ。
「ぶっ殺す。お前ら全員死ねや!!!」
突如、無詠唱の魔法を放ったエルネスタ。
理沙は瞬時の判断で結界を張る。
「エルネスタさん、シャレになりませんて……」
翔太の前ではまともに喋ることもできない彼女も、普段はこの病的なまでの短気と荒さ。接する方も体力を使う。
「り、理沙ちゃんにはわかんないよ!」
しかし、今回リリムはエルネスタの味方のようだ。
決して直接的な行動に移しはしないが、エルネスタの右後ろで主張している。
「嗚呼、今思い出してもご主人様は優しいお方。キツく抱き合いながら首筋に舌を──」
「は、ハレンチです! 18禁です!」
「うああああああ。聞きたくないーー」
理沙はレベッカ達の言い争いを聴きながらため息を吐く。
「これは期待できないかなぁ……」
理沙が黒の方舟をもうひとつ作ろうと考えていた理由。
それは──建国のためである。
城があるなら国を起こせる。そんな野望が彼女の中にあったのだ。
翔太は未だに知らぬことだが、比較的精霊の森が近いルーザス王国からは、魔王城が目視出来るのだ。
この世界で333mの建造物など、東京タワーとサグラダファミリアを合体させたあの城しかない。
恐らく世界一の城だろう。
しかも、人族と魔族の国に隣接する精霊の森に建つ城。
「そして、今や人族と魔族のハーフとも言える翔太先輩を王に据えた世界初の多種族国家。そして私は建国の母として生涯教科書に載り続ける偉人になる!」
新たにつくる黒の方舟はメイドor騎士として、城、もしくは国を守らせるつもり。
「……だったんだけど、どうだろう。これは難しいのかな」
理沙は翔太に対して、旅行中に200人ほど獣人族を連れてくるように頼んでいる。
もしも彼がそれを成さずとも、問題はない。
金の節約のために、これまでは不当に売買されていた奴隷を誘拐したりしていたが、今の理沙ならポケットマネーで買い物もできる。
「あとは他国に対抗出来る軍事力さえあれば……」
翔太は黒の方舟の方針について『やるべき事がが終われば、その後は自由に生きてもらって構わない』と明言している。つまるところ、絶対神のゼーベストを降した後の指針は無し。事実上の組織解散である。
そうなれば、翔太は無理に家族達を戦場に立たせたりなどはしなくなるし、権力に対して無頓着な彼は普通の生活を求めるだろう。それが理沙の見解だ。
故に、翔太を新たな国の王として飾りつつも、事実上の王座に君臨できるというもの。
実際に、翔太本人も理沙の今後について多少の手助けはしてくれると言質も取っている。
あとはエルネスタという教育係が手に入れば全ては上手くいくはずなのだ。
「……わかりました。では、どうでしょう。エルネスタさんを翔太先輩の奥さんにしてもらうのは」
「「「……!?」」」
「あらあら。うふふ。理沙さん。貴女とっても面白い事を言うのね。ちょっぴり不愉快なのだけれど」
理沙の提案に、いち早く噛み付いたのはレベッカだった。
一方のエルネスタはビックリしたまま固まっている。
「私たち、みんな指輪を貰いましたよね? あれは捉え方によっては、結婚の申し出みたいなものです。少なくとも翔太先輩にとっては『そう捉えても良い』という暗示が込められてるはずです。故に、言ったもん勝ち。エルネスタさんが私は貴方の妻になりますと一言いえば、その時点でもう確約されたみたいなものです」
「……まさか。そんな横暴な」
「欲しいものがあるのに燻ってる貴女たちは、私から見ても滑稽ですよ。お姉さん方。特にエルネスタさん、リリムさん。貴女が悪いんです。やるべき事もせず嘆くのは子供のする事です」
「んぐぐぐぐ……」
「はうー」
理沙の言葉に言い返せない二人はぐっと噛み締め、下を向く。
──多分、そろそろ盤面は動き始める。
翔太は、今の一時解散の状況は最後の休暇みたいなものと言っていた。
詰めるところを詰めておかなければ、全てが終わった後に迷うことになる。
何故なら──翔太がずっと生きているとも限らないからだ。
「私達も……そして翔太先輩も、ずっと生きていられるわけじゃないんですよ。できる限り、あの人に対する思い残しはして欲しくないです」
「な、なんだよ。へんな言い方すんなよ」
声のトーンを落とした理沙に対し、エルネスタも少し狼狽えた様子。
「そうですね。ただ、最後にこれだけは言っておかなければならないんですけど……」
そう言って、理沙は息を吐きだす。
「アデルミラさんの占いの結果によると……」
翔太先輩は、二年以内に必ず死を迎えるそうです。
更新遅れてすみません。




