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どうなっとん




 次に俺が目を覚ましたのは、新たな我が家──アスワド・ファミリアの自室であった。


「ケルベロスは!? どうなったんだっけ?」


 覚えているのは、苦戦を強いられて、何度も弾き飛ばされた事だけ。倒した記憶はない。


「やっとお目覚めですか」


「んあ……?」


 ベッドの横、椅子に腰掛けて、膝に本を置いたエレナが覗き込むようにして俺の様子を伺う。


「スキあり!」


「きゃうん!」


 俺はエレナの耳に噛み付くと、嬌声が上がる。

 どうやら、夢ではないみたいだ。


「夢ってなんですか? ……キノさんが心配してましたよ? 三日三晩ずっとご主人様のお世話をしていたんですから」


「そうなの? 悪いことしちゃったな」


 キノには後でありがとうをちゃんと言っておこう。

 最近、あんまり話せてなかったしな、何処かにご飯を食べにでも食べに行くのもいいかもしれない。


「ケルベロスについて、何か話は聞いてないかな?」


「……覚えておられないのですか?」


「うん。途中までは覚えてるんだけど、後半は全く」


「そうですか。討伐の方はご主人様の手で成されたそうですよ。ペトラ様曰く、その後の処理が大変だったそうですが」


 え、俺があの化物を倒したのか!?

 あいつの再生能力と攻撃力を考えると、全然そうは思えないんだけど。

 もしかして──


「はい。レベル3まで解放為さったそうです」


 マジか!

 我ながら無茶振りをするものだ。

 そりゃあ、前後の記憶がすっ飛んでてもおかしくないな。

 ペトラにも迷惑を掛けてしまったみたいだ。


「つーか、あいつどうやって俺のとこに来れたんだ? 転移魔法って1回訪れた場所にしか来れないんだろ?」


「それができるほど、ご主人様は魔力を解放したそうですよ」


 はて、狂戦士の俺にそんな魔力があっただろうか。

 理由はわからないけれど、助けられたのは事実らしい。


「……あまり、無茶は為さらないで下さいね?」


 そこで初めて、エレナの平坦な声に感情が宿った。


「皆、ご主人様のことを信じてます。しかし、だからと言って、心配しない理由にはならないんですよ」


「そうだな……心配かけてごめん」


 俺がそう言うと、ついにエレナは涙を流し始めてしまった。これはなんとも、申し訳ない。

 今思えば、悪魔と戦った時だって、彼女がゲロフにならなければ、俺はあそこで死んでいてもおかしくなかった。

 いつだって、俺の人生はギリギリ。

 俺TUEEEEができるような、チートスキルなんてもっていないのだ。

 唯一、俺が持っているのは、頼れる家族たち。

 そして、帰る家だ。


「泣かないでくれよ。……俺は簡単に死んだりしないからさ」


 俺はエレナの頬に手を添えて、涙を拭う。

 エレナは両手で包むようにして俺の手を握ると、愛おしそうに、その手に頬擦りをする。


 多分、彼女も限界だったのだろう。

 こう何度も、死にかける主人では不安で仕方ないのだろう。

 ただ、それが俺にとって──心満たされるものでもある。

 こんな事を言ったら、絶対に怒られちゃうだろうけれど。


「ご主人様……」


 そっと、こちらへと身を寄せるエレナは、小さく俺を呼ぶ。

 そのままエレナがベッドの縁に手を置き──


「コンっ!?」


 狐の尾を踏んだ。


『なんでございますか? 敵ですか!?』


 モゾモゾとベッドの中から出てきた白銀の狐。

 エレナは飛び退くようにして椅子に座り直す。


『雌の臭い……なるほど、そう言う事でございますか』


 俺にも上手く聞き取れない声で小さく零したクハクはモゾモゾと俺のシャツの中に潜り込んでくる。

 

「で、では、もうしばらくお休みください」


 口許を引き攣らせたエレナはそのまま部屋の入口へと向かっていく。

 その左手には魔法袋から取り出したであろう酒瓶。


 ……せめて、主人のいない所で取り出してくれよ。



「ありがとうな、クハク。助かったよ。お疲れ様」


「いえ、主様。ワタクシは当然のことをしたまででございます」


 ある意味、その言葉は正しいのだろう。

 地獄門を封印するのはクハクの仕事なのだから。

 でも、俺のせいで無茶させたのは本当だし、助かったのも事実。

 だから、ありがとうだ。


『主様……その、ご褒美の件、覚えておいででございますか?』


「おう。覚えてるぞ! 俺にできることなら、何でも言ってくれ」


『では──』


 クハクはベッドから履いでると人化の魔法を使う。

 そしていつもの人型に──ならなかった。


「こん!?」


 何故か、その見た目は8歳ほどの幼女姿。

 

「嘘でございます。……どうしてワタクシがこのようなちんちくりんに!?」


 どうやら、地獄門の封印にはかなりの魔力を消耗したらしい。今の彼女では、人型を取るのも難しいのだろう。


「……あんまり。これは、あんまりでございます!」


 何かに絶望した様子のクハクは狐姿に戻ると、布団の中へ潜ってしまった。忙しい子だなぁ。

  ほんと、俺より歳上なのか怪しいくらいだ。

 

「そう言えば、リシア達は? 今どうなってるの?」


『つーん』


「門から溢れた魔物は退治し切ったのか?」


『つーん』


 ダメだこりゃ。


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