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夫婦みたいな



「で、なんだけどさ。せっかく新しいお家が手に入ったところ申し訳ないんだけど、またしばらくは旅に出ようと思うんだ」


「ええー、しょーたここに住まないの?」


「いやいや。そういう事じゃねぇんだけどさ、とりあえず、まずは獣人族の国に行ってみようと思ってさ。何でも、あの国には瞬剣と呼ばれるめちゃくちゃ強い人がいるらしい。俺はその人に協力関係を求めたいわけなのさ」


 だからしばらく、旅に出る。


「でも、それじゃ、しょーたは結局おうち帰ってこないじゃん!」


「ん、だからさ、俺でもすぐに帰って来れるように転移門を獣人族の国に開いて欲しいんだよね」


 夜寝るときくらいは帰って来ようと思う。

 やっぱり、個室っていいよね。男には個室が必要だよ。


「おおお! それならいつでも帰って来れるね!」


 まあ、リシアかペトラに来てもらうっていう方法もあるんだけどさ。

 リシアのやつ、城に引っ越してから勝手にリッチ気分になってるのか、ぐーたらが増したんだよな。

 特訓の時以外全然動かねぇのよ。


「翔太先輩、ついでに200人くらい使用人も連れて来て下さいよ。この城の掃除、いつまで経っても終わりませんよ」


 もしかしたら家が新しくなって一番はしゃいでるのは理沙かもしれない。

 元々、異世界系の乙女ゲームなどはプレイしていたらしいし、彼女は彼女なりに、この世界に対する漠然とした憧れがあったのだろう。

 わざわざ創造系のスキルを獲得して、ミリィと一緒に模様替えを楽しんでいる。


「じゃあ、久しぶりにドナドナしてくるぜ!」


「ぐふふっ。ドS執事楽しみだなぁ……」


 いやらしい妄想に胸を高鳴らせる理沙。

 こいつMだったのかよ。


「まあ、男は呼ばないけどな」


「はぁー? 70人の女の子達に指輪を渡すという、ある意味70股とも言える行いをしておいて、その上更に女を蔓延らせるつもりなんですか?」


「いや、別にそれ、婚約指輪ってわけではないから」


 離れてても一緒だよって意味で渡しただけだから。


「それにほら、リシアが嫌がるから」


 俺がそう言うと、理沙が顔を寄せてくる。


「ヒソヒソ。勇者ともあろうあの人が、なんでそんなに男を嫌がるんです? ヒソヒソ」


「過去に色々あったらしいんだよ。……最初は俺もかなり警戒されてたしな」


 俺がリシアと打ち解けることができたのは、間違いなく、俺が巨乳派だったからだ。

 3歳児の胸に釘付けだったのは、本当に今思うと恥ずかし限りだけれど、当時はリシアなんか見る暇もなく断然ペトラを見ていた。


「俺はリシアに対しても紳士的な対応をしたお陰で、この信頼関係を掴めたって訳さ」


 あいつが無乳じゃなかったら、俺は今頃リシアと良好な関係を築けていなかったかもしれない。


「なーんか、失礼な話してない?」


 うわ、出た。ぐうたら女。

 引越し祝いとか言って、昨日も夜遅くまでエレナと酒盛りをしていたリシアはボッサボサの寝癖頭、オーバーサイズの襟元ダラダラシャツを着てこちらへとやってくる。


「さっさと風呂入ってこいよ。臭せぇよ」


「女の子に対して言う言葉?」


 いや、まあ、ちょっと鎖骨はエロティックに感じてしまった俺はいるけどさ。でも、こういう大人にはなりたくない。

 

「あー、そういえば、エレナちゃんゲロったから掃除してあげて。昨日の夜からそのままだから」


「相変わらずのゲロフっぷりだな……」


 エロフことアンジーとグロフことプリシラはこの場にいないけれど、いつの間にかネタエルフ三姉妹が誕生していた。


 俺は生成した雑巾とバケツ、モップもどきを持ってリシアの寝室へと向かう。


 エレナに関しては家族のまとめ役としてのストレスとかもあるんだろうし、こちらもちょっと申し訳なく思っているので大目に見る。ただしリシア、てめぇはダメだ。


 最近誰よりもたるんでいる気がする。


「やっぱりリシアには、明日から獣人族の国に向かう際、着いてきて貰うことにするわ?」


「パス」


「ダメだ」


「カス」


「ちゃっかり罵倒してんじゃねぇよ」


「お兄ちゃん、ミリィも行きたい!」


 クイッと袖を引っ張ったのは犬耳の幼女だった。

 少し申し訳なさそうな目をしている彼女に、俺は視線を合わせる。


「ミリィね、昔住んでたから、少しだけ分かるよ。本当に少しだけだけど」


 そっか。ミリィの故郷だもんな。

 そこには、ミリィの本当の家族がいるのだ。


「本当の、家族……」


 俺は、ついこの前10歳になったばかりのこの子をこんな所に縛り付けてしまっているけれど、考えてみれば、この子には本当の家族がいて、帰るべき場所があるのだ。


 ──俺と違って、帰れるのだ。


 リシアやアンジーの親に会った時は快く背中を押してくれた。

 けれど、ミリィはまだ子供だ。

 親の元にいるのが当たり前。


「ついでに、挨拶くらいはするべきかもな」


 ミリィをどうするかは──彼女の意思に従うしかないけれど、ミリィがいなくなるのは、ちょっと寂しいなぁ。


 やっぱり、幼女は癒される。

 ただでさえ、ルーが水の勇者レイの元へ帰ってしまって悲しいのだ。


「くそぅ。幼女なき世界で、俺はどうやって生きれば──」


「馬鹿なこと言ってないで、シャキッとしたらどうなの?」


 リシア、お前にだけは言われたくねぇ。


「とりあえず、明日の朝には俺とリシアとミリィで出発。おっけーですか?」


「「はーい」」


 まるでトーンの違う二人の返事を聞き、俺は明日の支度を始めた。





 翌日、時刻は午前11時。

 朝ご飯を食べた俺たちは出発する。


「できるだけ早く帰って来るから、いつも通り夕飯はお願いな」


 俺はリリムに注文する。

 はい、あなた。なんてまるで夫婦みたいなやり取りをして、笑い合った後、リシアの転移で獣人族の国へ向かう。


「私が行ったことがあるのは、東の小国ね」


「獣人族の国はいくつあるんだ?」


「全部で3つね。猫耳の国がひとつと、狐耳の国がひとつ。後は多種獣混合国家って感じ」


「あのね。獣人族はね。耳ごとに派閥があるから、内乱も珍しくないんだ」


「ミリィは物知りさんだなぁ」


「えへへー」


 幼女すこ。


「そう言えば、この世界にハーピィとかっているの?」


「ハーピィは一応魔族って括りになるかな。亜人には小人や巨人がいるよ」


「あ、それミリィも知ってた」


「ミリィはお利口さんだなぁ」


「えへへー」


 幼女すこ。


 けど、ラミアが亜人じゃなくて、アラクネは魔族らしい。よくわかんねぇな。


「まぁ、いいか。じゃあ、そろそろ出発しよう!」


 せーの、ジャンプ!




 はい、着地です。獣人族の国に着きました。


「ここは、狐耳の国ね。ここから国境を跨いで、多種獣混合国家を目指すことになると思う」


 リシアが転移した場所は、日本屋敷のようにな建物が建ち並ぶ街の一角。

 城下町のようなところだった。


「そこかしこに神社があるな」


「しかもお稲荷様──つまりクハクちゃんを祀ってるわけだしね」


 ああ、そう言えば、今シレーナの経営してる学園で働いてるアズリは、確かクハクの巫女だったっけ。

 

「巫女って、この国だと結構高い地位の人なんだけどね」


 今は人族の国で社畜をしている、と。


 時々会いに行くのだけれど、だいたいいつもげっそりしている。やっぱり、子供の相手は大変らしい。


「どうせだし、観光しながら歩く?」


 急ぎの用事でもないし、楽しんでもバチは当たらない。

 そう思ったのだけれどリシアからは否定の言葉が返ってくる。


「翔太って、鈍感だとは思ってたけど、ここまで来るとバカにしか思えない……」


「は? 俺が鈍感? どういう事だよ」


「周り、見てみたら?」


「周り? ……あっ」


「お兄ちゃん達、人族だから……」


 彼らが俺達に向けている視線、それは敵意、または恐怖。

 どちらにせよ、好意的なものではない。


「翔太がどう思ったところで、周りは違うの。私たちの常識が世界の常識だとは思わないようにね」


 そうだよなぁ。

 この世界の人族は獣人族をまるで奴隷のように使い潰すのだ。それが彼らの常識。

 俺らなんて、外道にしか見えないだろうな。


「分かってくれる人もきっといるよ。ミリィとか!」


「そうだな、ありがとう」


 ミリィはとととっと俺の左側に回ると、手を握る。

 そしてもう片方の手でリシアの手を。


「えへへ! 仲良し家族!」


 光栄だよ、ほんと。


 目指すは隣国。

 俺たちは足早に、街道を進んだ。

 楽しく笑い合いながら。

 

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