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勇者と修行



 経験値稼ぎを行うようになってから数日後、ある事に気がつく。


「俺がわざわざ戦場に行く必要ってなくね?」


 なのでペトラと従魔組は経験値稼ぎに行ってくれている間に、俺はリシアと努力値稼ぎの特訓だ。


 みんな俺のためにありがとう。



「んじゃあ、リシアよろしくな!」


「黙れ小僧! 今から私のことは教官と呼べ!」


「はい! 教官!」


「黙れ小僧! 返事はイエス・マームだ!」


「イエス・マーム!」


 何だこの茶番。まるで自分より強い存在がいなくなって活き活きしているような……よせ、雑念は捨てるんだ。

 

 鎧を脱いだリシアはただの女の子って感じだったから、武装した今の姿が余計に勇者っぽく感じる。


 光の勇者としてたけのこ派と戦っていた頃はこんな感じだったのかな?


 ふとした時の横顔とか凄く凛々しい。

 なんだろ、ちょっとドキドキする。



「今日は剣による模擬戦を行う。異論はないか?」


「イエス・マーム」


「では初め!」

「ぐふぁ」


 教官が合図をしたと同時に俺は宙を舞った。

 多分腹を蹴り上げられたのだろう。足が微かに動いたように見えた。

「……いってぇ」


「小僧。さっさと立て! 死ぬぞ!!!」


 俺は半べそをかきながら立ち上が──れなかった。

 多分足払いを喰らったのだろう。スネの骨が砕けたのがわかった。


「っく!」


「小僧。さっさと立て! 死ぬぞ!!!」


 似たようなやり取りを繰り返すが、足の骨が砕けていて上手く立てない。


 やれやれといった感じで教官から飛んできたポーションが顔面にヒットして、瓶が割れてできた傷跡以外の怪我は全てなくなった。


 痛みはもう感じない。


「今のは挨拶替わりと言ったところだ」


「教官今のは……」


「口を慎め。私は発言を許可していない!」


「……」


「返事はどうした小僧!」


「い、イエス・マーム……」

 俺は瓶が割れてできた切り傷に手についていたポーションを塗り塗りして立ち上がる。


「小僧今の攻撃見えたか?」


「イエス・マーム。蹴り上げからのかかと落とし。立とうとしたところで足を払った感じでしょうか?」


「ほう。見えていたか。なかなか見込みがあるではないか!だが10点だ。100点満点で10点だ!」


 10点……?

 他にも何かしていたのか?

 この短時間で何を……。


「わからぬか。なら答え合わせだ。私の髪を見てみろ」


 あ、ツインテールになってる!


「小僧。男たるもの、女が髪型を変えたらすぐに気づけ」


「い、イエス・マーム」

 なんて恐ろしいんだ。あの一瞬で蹴りだけでなく髪型まで変えていたなんて……


「今見せたのはステータス差というやつだな。こればっかりは仕方がないことだ。今から始めるのは純粋な剣の腕での勝負。準備しろ」


「イエス・マーム」


 俺たちは互いに木刀を構える。

 リシアが持つのは聖剣と同じく両手剣。

 俺は長めの片手剣だ。


 うっし、行くか……

 俺は間合いを取るために1歩踏み出す。


「ほう?」


 まじか……もう気づかれたのかよ。


 流石戦場を駆けてきた戦士だ。


 この一瞬で俺の癖とスタイルは全部見抜かれたと思って間違いない。



 俺の利き足は左、利き腕は右。本来は利き腕の方に足を合わせる。が、俺はあえてそれを矯正していない。

 剣の握りは右手が上で左手が下。

 間合いは広めにとる。

 

 ただこの構えでは左手よりも右手で剣を振るった時はリーチが短くなってしまう。

 

 だが──


「それは餌だな。肘が曲がり過ぎている。突きを狙うのがバレバレだ」


 ですよね……バレてると思いましたよ。


 けど、左手で突きを狙えば!

 俺は教官の顔めがけて剣を突き出す。


 突きは線ではなく点だ。故に目に大して垂直に件を走らせれば相当な空間認識能力がない限り避けられない。

 教官程の強者となれば別だろうが仰け反らせることぐらいはできるはず……!?


「見て……ない!?」


 教官は俺の剣を見ていなかった。

 俺が踏み出すと同時に教官は左に1歩逸れたのだ。突きは点である。


 故に躱された後の隙もまた大きい。


 教官の前にいるのは腕を伸ばしきった俺。



 教官はニヤリといやらしい笑みを浮かべて剣を振り被る。


 そして一閃──



「うんりゃあ!」

 俺は素早く剣を離すと教官の肘を曲がらないように掴み手首を叩く。それだけで教官の手から剣は落ちる。


 俺は素早く足を払い剣を拾う。


 が、教官の蹴りの方が速かったようだ。


 俺は数メートル程すっ飛んで木にぶつかる。

 木にはクレーターができていて俺は若干埋まってる。


 けど……痛くない。

 いや、そりゃあ痛いんだけどね。

 でもステータスが上がっているお陰だろう、致命傷ではない。


 俺は追撃してくる教官に剣を構え直して一撃一撃に対応していく。


 恐らく剣術スキルはLv10で間違いない。ひとつひとつの攻撃全てが重く鋭く俺を攻め立てる。


「が、あのくそ親父ほどじゃねぇな」


 俺が剣を交えたことがあるのは親父と教官だけだ。

 だが教官の剣を受けてようやく理解した。あのおっさんは剣に関しては一流だ。


 もちろんこうやって教官の剣を受けている俺の方が全然弱いし、教官も親父と比べなければ強者といえるだろう。


 それにもし真剣でやってれば今頃俺は死んでる。

 さっきから何度も有効打を打たれているからだ。

 俺が諦め悪く剣を振っているだけで……。


「ああっ、くっそ!」


 ()()()一撃も無いわけではないのだ。


 しかし俺よりも教官の判断が上を行く。いや、もし教官が考えて動いていたのなら俺の剣は届いていただろう。


 彼女はもう既に身体が覚えていると言った方が正しいのかもしれない。


 これは人を殺すための戦い方と武道としての戦い方の差なのだろうか。

 教官はとにかく堅い。命を大事に戦っているのだ。


 悪く言えば臆病なのだが、戦場で臆病なことは何よりも重宝される。生きてこその命だからだ。


 トドメとばかりに教官が振り下ろした剣で篭手を打たれた俺は剣を落とし跪いた。

「降参です!」


「うむ」


 俺の言葉を受け入れ剣を収めてくれた教官にお辞儀をして俺はその場に寝転がった。


 もうすぐ冬だというのに汗が絶えない。目眩のする感覚に耐えながら、俺は魔法袋から水を取り出した。


「悔しいな……」


 親父と戦う時は嫌々だった。それは絶対に勝てないという自信があったからだ。


 負けるとわかっていて戦うのは俺としても苦だった。


 けれど、今は違う。教官はまだ手の届くところにいるのだ。


「きっと翔太は私より強くなれるよ?」


 稽古を終えた教官はいつものリシアに戻っていた。


「私はほら、スキルポイント使って剣術スキルのLv10まであげちゃったからさ、何となく動けるってだけで翔太みたいに戦いながらあれこれ考える暇ないし」


「あー、そう言えばそれ使えば俺もパパっと強くなれるのか」


「そうだよ。今すぐにでも私に追いつける」


 スキルポイントの有無。

 これが俺とリシアの剣の腕の差で俺の8年とリシアの2年の差だ。


 だからその気になれば今すぐリシアと同じ舞台に立てるのだけれど、それは違うような気がする。

 多分リシアもそう思っているのだろう。


「なら俺は剣術スキルだけは一切ポイントを使わないで、自分の実力だけで上げきってみせるよ。だからこれからもよろしくお願いしますよ? 教官」


「任せといてっ!」


 鬼教官と新兵の訓練はまだ始まったばかり。



ブックマークありがとうございます!

また増えてました!

評価ポイントも上がって僕もニヤニヤです!


後で活動報告の方をあげさせてもらうのでもしお時間があればお読みください。

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