【閑話】夢の精霊
「会えると思いましたよ」
「そうね」
大事が終わった後には、女神様の方から俺に会いに来る。
今回こうして彼女に会ったのも恒例と言ってもいいのかもしれない。
「戦争の事、怒ってますか?」
「怒ってないわ」
怒っていないらしい。
けれど、女神様は表情を変えぬまま、言葉を紡いだ。
「少し、哀しいわ」
本心だろう。
きのこ派もたけのこ派も関係ない。
人族は等しく、彼女の眷属なのだ。
俺は彼らを殺した。たくさん、殺したのだ。
「あなたは私のものをたくさん奪っていくわ。孤独も、眷属も……そして心も。全部、全部あなたが奪っていったわ。ねぇ、ひとつでいいの。ひとつでいいから、私にあなたのものを頂戴」
女神様にあげられるもの。そんなもの、ひとつしかない。
「元より、俺は女神様に自由を献上するつもりですよ。俺もそろそろ、本気で動くと決めました。女神様が解放される日は──」
「違う。そうじゃないの。いつかなんて、確約のできない未来の話じゃない。今。今欲しいの」
女神様は涙を零した。
俺にはその涙の訳を推量る事ができない。
だけど、その涙は俺のせいで流れたもので、それを止めるのは俺の役目であると、理解した。
俺は孤独な神様のために、この人生を捧げると誓った。
愛する女神の為ならば、あなたが望むならば、俺はすべてを捧げるつもりだ。
「俺に、何ができますか?」
俺の問いに女神様は──
翌朝、俺は日が昇らないうちに目を覚ました。
「MUS○Iしちゃった。……まじかよ、M○SEIかよ」
けれど、悪くない。清々しい朝だ。下半身以外。
夢の中で、女神様は俺に温もりを求めた。
抱き締め、口付けをし──そして交じわった。
俺の熱を求める女神様が少しだけ怖かったけれど、誰かに求められるこの感覚は決して悪いものではなかった。
「とりあえずタオルは──」
俺はタオルを取ろうとして、魔法袋に手を突っ込む。
異次元に繋がった袋の中をまさぐっているうちに、あるものに触れた。
「これは……」
それは、旅行中に人魚から貰った卵だった。
ずっと袋の中に入れっぱなしだったそれを手に取った時には、時既に遅し。
「もしかして、受精しちゃったのか?」
卵がキラキラと輝いた。
光は直ぐに治まったけれど、鑑定眼には受精卵と表示されている。
「おはよう。翔太くんどうしたの?」
どうやらドクロが起きてしまったらしい。
「嗚呼、おはよう。実はさ、卵が受精しちゃって」
「へぇ〜。綺麗な卵だね」
ドクロはぴょんぴょんと跳ねると、スライムボディの一部を触手のように伸ばして卵をつつく。
「可愛い子が産まれるといいね」
「ああそうだな」
俺はドクロに同意して立ち上がる。
早く風呂に入らなきゃ。
「あ! 体液だ!」
しかし、俺が立ったと同時に、ドクロちゃんは飛び跳ねて、俺の股間に張り付いた。
「ちうちうちう」
気持ち悪かった下着は一瞬にしてカピカピになる。
「美味しい。汗よりも100倍美味しい! これ、どっからでてきたの!?」
「さ、さあなぁ」
言葉を濁して、風呂に向かう。
俺はドクロに対する罪悪感でいっぱいだ。
お風呂にお湯を張り終えるまでに身体を洗う。できるだけ念入りに。
「俺はもう、童貞じゃないのか……」
やがて湯船に浸かった俺は、そっと零した。
女神様は……孤独を埋めてくれる人ならば、俺でなくても良かったのだろうか。
「うわ、俺、女々し過ぎかよ……」
自分で言ってて、ちょっと恥ずかしくなる。
でも、多分。俺は女神様の事が好きだ。
一晩、拙いながらも肌を重ねて自覚した。
女神様の涙を拭うのは俺だけの役目であってほしいと。
あの人の隣にいてあげたいと。
「愛なんだよなぁ」
これはたぶん恋じゃあないけれど、俺は女神様が好きだ。
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