終戦
これはリールドネス連邦国兵から国を守る為の戦争。
そんな中、ペトラは今、旗を振っています。
「みんな頑張って〜」
一生懸命応援します。
多分、右の方で雷とか火が飛び交ってるのはスピカちゃんとネギまちゃんだと思います。
左の方で凄い勢いで敵を減らしてるのはリリムちゃん達殲滅隊。上の方で舞っている竜巻は多分エレナちゃんで、敵陣の中心を飛び交う青白い光がリシア、桃色の光がしょーたです!
「いっけー! そこだぁ!!! がんばれー!」
返事は返って来ないけれど、ペトラの声援が届いていると信じて声を上げます!
──〇〇〇〇──
──二兎を追う者は一兎をも得ず。ならば常に三兎追って四兎を仕留めるといいよ。
翔太先輩は「数学なんて所詮人間が決めた学問で、現実に則しているかどうかは別だ」なんて事を口に出して言ってしまうような人間だ。
故に、その言葉も計算のできないだけの発言だと思っていた。
だって、三兎から四兎に増えているのだもの。
計算のできないアホ。もしくは冗談。そうだと思ってた。
「こういう事ねぇ──」
今日、あの人の言うことがようやくわかった。
常に狙いを広く持つことで、周囲を巻き込む。
多分、そういう事だ。
私は聖女らしからぬ闇属性魔法を目の前の三人に向けて放つ。するとどうだろう。実際に私の攻撃を受けたのは三人ではなく四人。近くにいた敵兵を一人巻き込んだ。
攻撃の規模が大きくなれば大きくなるほど、そこにはおまけがついてくる。
「【混沌の牙】」
真っ黒な光線が詠唱の文字数に応じて増加し敵へと迫っていく。翔太先輩はともかく、私にはこの世界がゲームのようにしか感じられない。
初めこそ、人を殺すことを躊躇いはしたけれど、今となっては何も感じないし、むしろNPCにしか見えない。
──私だったら、立ち向かえないよ。
黒の方舟は100人にも満たないメンバーで構成されている。とはいえ、7000人もいる兵士が、こんなにも一方的に虐殺されているこの戦場で、彼らは何故私達に立ち向かえるのだろう。
私は絶対に逃げる。死にたくない。何としても生きる。
だからこそ、敵が人間には見えない。
この戦争だって、ゾンビゲーム感覚だ。
「来世では健やかなる生を──」
哀れな彼らにせめてもの慈悲を。
それが聖女である私の務めだ。
「【聖なる灯火】
私を中心に広がった紋章はやがて敵のみを包み、そして蒸発させる。
──どうしてだろう。何故か私の考えつく魔法は絵面がどうも闇っぽいんだよね……。
──〇〇〇〇──
7000もの兵士が黒の方舟によって一人残らず殲滅されるまでに1時間も掛からなかった。
いくら数を集めても、兵の質が根本的に違うのだ。
例え相手に上位職の人間が混ざっていたとしても、彼らの熟練度では到底適わない。黒の方舟とステータスを比べても普通職にすら劣る。
敵陣の中央で撤退命令が出てからは、瓦解するのも早かった。元より黒の方舟の前に立った敵を誰一人として逃がす気はない。戦争の勝敗は戦う前から決している。後は定められし未来に沿って殲滅するだけの作業だった。
「総員、ポイントA-4へ。火葬する」
俺達が砦前に移動するとクハクの放った業火で戦場が包まれた。
「おっきな焚き火だねー」
「黒の方舟ってペトラとクハクのだけで十分なんじゃ……」
「そそそ! そんな事ないと思うなぁ! クビとか、辞めてね? 絶対だよ?」
「もちろん。そんなつもりないけど」
みんな戦いが終わって緊張が解れたのか、雑談がちらほらと聞こえる。
「よし、撤収。俺は砦の方に寄るからみんなは先に帰っててくれ。あ、クハクは残るように。俺が帰れなくなっちゃうから」
「「「承知」」」
返事と共にスパパパパッと消えていく家族たち。
「え? えー?」
スピカが取り残された。
そういや、こいつ転移とか魔法袋とかまだ知らないんだった。
俺はスピカとクハクと共に砦へと向かう。
一応、お世話になったゴリマ達にも挨拶だ。
砦内には数多くの兵士達がいたが、その視線は全て同一。
バケモノを見るような目。そこには戦争に勝ったというよりも、俺達に対する恐怖の感情が渦巻いていた。
「ゴリマ隊長、お疲れ様です。改めまして、俺の名前は春野翔太といいます。よろしくお願いします」
「あ、ああ。お疲れ様」
なるべく普通に振舞おうとしてくれているのが伝わってくる。ありがたい気遣いだ。
「ターブン王国──改めセルフィッシュ・ハーシー王国の騎士を代表し、礼を言わせて頂く。──感謝を」
「私からも礼を言おう。ありがとう」
ゴリマに続き、ディニアも頭を下げる。
「この国は、俺も好きなんです。それにシレーナの国ですから」
彼女がこの国の王である限り、俺もまたこの国の剣であろう。
「……やはり、翔太殿はシレーナ女王と面識があるのだな」
翔太殿って……今更畏まらなくてもいいんだけどな。
「彼女は一応、うちのメンバーです。今日は来てませんが、世界樹防衛の際は見事な采配で勝利へと導いてくれました」
「なんと! いや、そうか……」
一瞬目を丸めたが、納得したように頷くディニア。
どこか納得した要素でもあったのかな?
「貴殿等がシレーナ女王の後ろに着いていてくれるなら、私も安心できる」
「えー。でも、ゲイラ殿は黒の方舟にも負けないんじゃありませんでしたっけ?」
へぇ、そんな事言ってたんだ?
俺がニヤリと笑うと、ディニアは居心地悪そうに目を逸らした。
「ふふっ。試してみましょうか?」
ここで初めてクハクが喋った。
あまりイジメてやるなよ……。
「うちは鍛え方が違うから、スピカも頑張れよ?」
「もちろんだよ。強くなる為なら、頑張れるから」
同じこと言って折れた奴知ってるぞ。俺や。
まぁ、なんにせよ。これで一件落着だ。
──次はルーザス王国か。
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次話、ルーザス王国




