劇場
「あー、しょーたどこ行ってたのー?」
「悪い。ちょっと用事があってな」
ダークエルフに解放された翔太は、直ぐに他のメンバーと合流した。翔太は彼女に対し、とある条件を出した。
それを聞いたダークエルフは二つ返事でその提案を呑み、翔太が脱走する手伝いをしたのだ。
「色々ごちゃごちゃしてるから、ひとまず状況を整理しようか」
翔太はそう言ってメンバーと現状の確認に入った。
背後にはムムが立っていて、翔太の髪を黒染めしている。
まず、翔太達が拠点としていたターブン王国は、リールドネス連邦国により敗戦。たけのこ派の国に支配される事となった。
しかし、そのタイミングでターブン王国は国王の座を娘のシレーナへと戴冠させ、更に国名をセルフィッシュ・ハーシー王国へ。
半ば詐欺のような手口で、敗北宣言を撤回。
攻め直そうとしてくる敵国兵に対し、セルフィッシュ・ハーシー王国は黒の方舟をぶつける事となった。
更に、ルーザス王国では、カロリーヌが内乱を起こしていた。彼女の復讐がどのようなものかを翔太達は知らないが、
動きがあるのは確かだ。
「ルーザス王国がそんな感じなら、この国を攻める余裕なんてないんじゃないの?」
リシアは翔太に対して、そう意見した。
「いや……そうでもないらしい」
──早かった。
展開が、あまりにも早かったのだ。
故に、今頃ルーザス王国が大変な状況に陥っていたとしも、リールドネス連邦国の軍は、既にこの国へと進行してしまっている。
ルーザス王国には3万のリールドネス連邦国兵が派遣されており、そのうちの七千が、第一波として、既にこの国へと攻めに来ていたのだ。
「状況は読めないけど、この七千の兵はこのまま攻めてくる可能性が高い」
翔太の読みは当たっていた。
実際、リールドネス連邦国軍の総指揮官は既にカロリーヌの手に掛かっていた。作戦変更の指示を出せる人間はもういないのだ。
状況を把握する頃には彼の軍は既に、国境を跨いでいるだろう。
「引き続き戦争の準備を。この国は今やシレーナの国だ。そして、俺達の家だ。何としても守るぞ」
「「「承知」」」
翔太は情報を共有し、ひとまず話を締めたところで、ある事に気付く。
「あれ? スピカだ」
翔太の目の前には黒の方舟の制服──夏服バージョンに身を包んだスピカがいた。
少し表情は固いが、元々騎士団の副団長だったという経歴もあり、かなり様になっている。
「エルネスタさんのご厚意により、先日より黒の方舟、67番目の星とさせて頂きました。スピカ・タキオンでございます。私は貴方の剣として敵対する者の全てを打ち払う事を誓いましょう」
スピカは立膝を付いて頭を下げる。
これは騎士が主への忠誠を誓う際の儀式だ。
翔太はぽんとスピカの頭に手を置くと、期待している。
ひとことそう言った。
そして、スピカが立ち上がってから、わざわざ敬語を使う必要がないことを伝え、軽く雑談をした。
「エル姉もありがとう。スピカ、ずっとここに入りたがってたみたいだし」
「べべべべ別にいいよ。うん。まだちょっと戦闘技術は心配なところあるけどね。どうしても翔太くんの役に立ちたいって言うから……」
スピカは一瞬白目になり掛けて、すぐ様素に戻る。
あまりにも意外だった。まさか、狂人とまで言われたあのギルドマスター、エルネスタがメスのか……女性らしい表情を見せたことが。
「エルネスタさん、普段と大分キャラ違いますね」
スピカは思った事をついつい口に出してしまった。
「ねねねねねね、ねぇ翔太くん! あれ見て!」
エルネスタは翔太の視線を遠くへと誘導すると、すぐ様回し蹴り──スピカは40メートルほど転がっていった。
「ん? エル姉、なんかある?」
「お、おっきな雲だよ〜」
エルネスタはからからに乾いた笑みを浮かべると、あははと誤魔化した。
翔太は子供扱いされてるのかな〜なんて事を考えながら彼女に合わせて笑うのだった。
そして、ついにその時が来る。
「これは聖戦だ。罪人駆除──潔白の為の戦いだ。我ら黒の方舟は、人類の敵と相成った」
翔太は静かに口を開く。
彼の背にはカロリーヌとシレーナ、サーストを除く61人のメンバーと、両脇に立つ魔王と勇者が綺麗に整列している。
翔太は少しずつ迫る敵を見据えたまま、彼女達に背中を向けて語る。
「正義など必要ない。ただ居場所を守る為、隣人の明日を守る為に武器を執ればいい。例え 今から始まるのが我らを滅する為の聖戦だとしてもだ」
──諸君に今一度問う。
──これから世界を敵に回す俺に、ついてきてくれるか?
翔太は彼女達からの返答を背中で受け止め、アイネクライネナハトムジーク第十八金剛烈空丸・華叉を抜く。
「【常世の祝福を】」
ペトラが家族全員に祝福を授けると、それを合図に100倍以上戦力差のある敵軍へと攻め込んでいった。
──〇〇〇〇──
その戦いの全てを俺は砦の上から見ていた。
白き鎧を纏った七千を超える兵士達に衝突した黒の方舟は、あっという間に呑み込まれていった。
その光景は闇をも照らす光のようにも見えた。
が──突如、轟音が鳴り響いた。
舞い上がった砂煙が落ち着いた頃には敵陣のど真ん中に大きなクレーターと倒れ伏す数百もの兵士だけが残っていた。
「ゴリマ……今の見えたか?」
「いえ、まったく……」
ディニア殿にも、どうやら何が起きたのか分からなかったらしい。
ただ、ひとつわかるのは──これから始まるのは戦争などではなく、一方的な虐殺だということだ。
ブックマーク、評価励みになります。
次話もよろしくお願いいたします。
 




