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ドナドナしてよ



 スピカが兄と兄妹喧嘩? をしてから、話しかけてくる人がめっきり減った。

 所属する部隊でも、俺とスピカは少々浮き気味だ。

 そんな中、唯一話しかけてくるのは、このセツナという青年だ。


「へぇ〜。セツナって、レベッカの知り合いだったんだ」


「よく呼び捨てにできるね。あんなにおっかない人、他に知らないよ……」


 レベッカがおっかない人か……。

 まぁ、確かに普段はクールだし、綺麗なお姉さんって感じだしな。

 高嶺の花感が出てるし、人当たりもそこそこキツい方だ。


 でも俺は彼女の弱さも知ってるんだぜ?

 訓練終わりに、鼻水垂らしながら泣きついて来る事が何回かあった。……というか、今もたまにある。


 俺はちょっとした優越感に浸りながらセツナと話を続ける。


「あたしは嫌いだな、あの人。美しさの裏に牙を隠し持ってるって感じ」


 まあ、あの人、死神とかいう怖い職業持ってるからな。

 ずっと上級職だと思ってたけど、どうやら暗殺系の超級職らしい。

 俺も頑張ってステータスを上げてるつもりだけれど、気を抜いてる時に背後から迫られたら確実に殺されるだろう。


 スピカに関しては、もっと他に嫌う理由があると思うんだけど……ほら、スイーツの件とかさ。


「レベッカさんってすごい潔癖症だからね。僕の友達が肩を叩いただけで殺されかけたんだ」


 確かにいつも手袋付けてるけど、あれも潔癖症だからってことなのかな。暗殺の時指紋が残らないようにだと思ってたけど、よく考えたらこの世界で指紋の鑑定ってできないもんね。

 彼女が暗殺を得意としているのは、もしかしたら潔癖症故の不純物除去みたいな感じなのかもしれない。


 なんとも怖い話だぜ。


 泣きついて来た時に抱きしめちゃってるけど、しかも頭とか撫でちゃってるけど、もしかしたら後で全身消毒とかしてるのかもしれない。

 ただ俺は殺されかけていないので、触れても良いって思われる程度には好かてると見ていい、はずだ。嬉しいね。


「セツナはレベッカとどこで知り合ったんだ? 話を聞いてる限り、スイーツ店とは関係なさそうだけど?」


「スイーツ店? レベッカさんが甘いもの食べてるとこなんて想像できないけど……。あの人はね、僕が所属している冒険者ギルドのギルドマスターの上司。冒険者家業の総合責任者みたいな立場の人だよ」


 ……とんでもないお偉いさんだった。


「普段は仕事をほとんど秘書に投げてるらしいけど」


 普通に、驚きなんだけど……。

 レベッカはスイーツ店を開く時、一般人に擬態するための裏工作と言っていた。実に暗殺者らしい意見だと、その時は感心していたのだけれど、もう一方でそんな偉い立場にいたら意味がないのではないだろうか。


 ……単純に、甘いものが好きだからやってるのかもしれない。


 でも、そっか……。

 あの人かなり超人だったんだなぁ。

 俺とレベッカの出会いもかなり特殊な状況だったし、黒の方舟に入る前からも、波乱万丈な人生を送っていたのかもしれない。


「おい! お前ら! 明日の朝、国境に向かうことになった! 急いで準備しろ!」


 ゴリマが大声で隊全員に呼びかける。

 いよいよ、俺は戦場に立つ。


 血と悲鳴で溢れたあの景色を……


「うっ……!」


「ちょっ!? 大丈夫なの?」


 急に込み上げてきた吐き気。

 スピカは背中をさすって顔色を伺ってくる。


「嫌なことを思い出しただけだよ……」


 幾ら時間が経っても、あの光景だけは未だに俺の頭から離れない。

 完全なトラウマだ。

 リシアやペトラはそれでも幾度となくあそこに立ち続けたと言うのだから、畏怖を感じざるをえない。


「……大丈夫。俺はきっと、上手くやるはずだ」





 次の日の朝、俺は早々に泣きそうだった。


「歩兵なんだから歩いて向かうのは普通でしょ? 戦争はまだ始まってないんだし」


 スピカは当たり前のような顔をしているけれど、俺からしたら驚愕だ。

 だって、俺たち、今王都から国境に向かうんだよ?

 日本という島国でさえ、東京から歩いて他の県に向かうのは大変なのだ。この国は小国とはいえ、日本よりはデカい、と思う。


「有り得ねぇ……」


 今の俺が何時間も歩き続けたところで、疲れたりはしないだろう。……肉体的には。ただ、精神的な疲ればかりは簡単に取れるものではない。

 軍として、人目の着く所では綺麗に隊列を組んで歩く必要もある。

 戦場に着く前に心が折れそうだ。


「なぁ、街中じゃなくて、人のいない山道とかだったら従魔に乗ってもいいのかな?」


 今俺たちが歩いてるのは山の麓。

 こんな所に人が住んでるとは思えないし、いても山賊くらいのものだ。


「ゴリマさんに聞いてみたら?」


 俺が従魔を飼っていることはディニアとの一件でバレている。今更隠す気もない。


 俺はドクロに背負ってもらう為に──


「ダメだ」


「え、でもゴリマさ──」


「ダメだ」


 そんなぁ。

 この人ケチいぞ! 自分だけ馬に乗って優越感に浸りやがって。

 俺だって、スピカだって剣士の上級職に就いてるんだから、騎士として扱えよ。馬に乗せろよ!


「まあまあ、落ち着きなよ、ショータ。もうそろそろ休憩らしいしさ」


 セツナは俺を諌めようと肩を掴んで引っ張ってくる。

 

「んぐぬぬぬぬぬ」


 納得できない。

 

「軍を乱すな。連帯責任だ。休憩は次の街まで見越す」


「何やってんの!? 翔太のせいで休憩なくなっちゃったじゃん!」


「ホントだよ! せっかくの休みが!!!」


「おのれ! このゴリマッチョ! 俺がお前の腐った根性叩き直してくれる!」


「貴様! 俺をゴリマッチョと言ったか!」


「んだよ! 文句あんのかよ! 脳筋ゴリラめ」


「……そ、そうか。俺は脳筋ゴリマッチョゴリラか……」


 何故か嬉しそうな顔をするゴリマ。


「し、仕方ないな。次の街で休む許可は与えよう、しかし! 羽目を外すなよ」


 何故か機嫌が良くなったゴリマは顔を赤くしてそう言った。

 おっさんの赤面ってどこに需要があるんだよ……。


「って、うわぁ……」


 セツナの隣にいたグラマーなお姉さんが目を輝かせてこちらを見ている。

 多分あれだ。ヤバい人だ。……しかも、多分あの人日本人だし。

 関わらないようにしておこう。


 俺は気を取り直して歩みを進めた。

 まさか次の街に着くのが4時間後だなんて、思ってもみなかったけれど……。

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