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予定変更



 腹痛が治った俺は、スピカの後ろで腕を組んでいた。


「お、お前なんて、俺が出るまでもねぇよ。スピカ、やっておしまいなさい」


 この件に関しては家に帰ってからレベッカに問い詰めるとして、まずは目の前のこの状況をどうにかするところから始めなければならない。

 

「……あれ、でも、なんで俺、この人と闘うことになったんだっけ?」


 訓練所に入った時には既にそういうムードで、半ばテンションが興奮気味だった俺は流れに乗ってしまった。

 でも、よく考えたら、初対面でいきなり闘うこと必要ってどこにあったんだ?

 

「翔太ってほら、操縦士なんでしょ? だから、翔太の強さ見せて貰えないかなって」


 なるほど、そういう事か。

 

「俺の力はそう簡単に見せていいものじゃないのだよ。世界の深淵を覗くには君ではまだ力不足なのさ」


 とりあえず、それらしいことを言っておく。

 スピカは黒の方舟の大ファンらしいし、そのトップである俺に対しては変にツッコんでもこないだろう、そんな期待だ。


「……一応聞いとくけど、翔太って黒の方舟で1番強いんだよね?」


 スピカは少しムスッとした顔で耳打ちしてくる。

 俺とリシアとペトラは三竦みの同率だから、まぁ一位と言ってもいい。

 まぁ、クハクには1対1で闘うと勝てないのだけれど、彼女は俺の従魔なので、ノーカンだ。彼女はあくまで俺の武器だ。


「今度腹が痛くない時に力見せてやるから、待っとけ」


 俺は少し腰を曲げて彼女に耳打ちすると、スピカは満足気に頷いた。


 ……別に耳を齧りたくなってはいない。



「流石はゲイラ殿。あんなにも簡単に翔太に勝つとは。国一番の女騎士は伊達じゃないようですね」


「はっ。白々しい。私の強さはお前が一番よく分かっているだろう?」


 挑発するようにくっ殺女騎士ディ二アは笑う。

 かつてはスピカよりも強かったのだろうな、彼女は。

 話を聞いている限りそんな感じがする。


 ただ、スピカは仮にも黒の方舟のメンバーによってら鍛えられているのだ。負けはずがない。

 鑑定眼スキルを使い効率的な努力値の稼ぎ方を調べ尽くした俺たちは鍛え方が根本的に違う。


「ゲイラ殿の強さ……確かによーくわかってます。幾度として敗れ、そしてたった一度も、私の剣は貴女に届かなかった。けれど、それは過去の話です。──ここは私のいるべき場所ではなかったから」


「ほう? スピカ、つまり貴様は軍を抜けたお陰で、強くなったと言いたいのか?」


「言いたいっていうか、まぁ、事実そうなんですよね。世界は広いって言いますか、ここで学んだことなんてお遊びだったと言いますか」


「くくくっ。随分と面白い冗談だ。追放されて覚醒というやつか?」


 ディ二アは豪快に笑う。


 そのネタこの世界でも通じるんだ。


「まぁ、そうですね。覚醒したと言っても、やっと一歩目を踏み出せた感じですけど」


「ほう? ならば見せてみろ。お前の力を。──通信交換で進化するポケ〇ン程度じゃあるまいな?」


「ポケ〇ンはこの世界でも有名なのか!?」


 ていうか、通信交換で進化するポケモンを侮りすぎだろ。

 ゴ〇ストとゲ〇ガーの違いは覚醒と言っていい。


「前に、私の従姉妹が冒険者パーティーを追放されたらしくてな。その時に覚醒したと言っていたのだ」


 いや、質問の答えになってねぇけど……?


 まぁでも、その話を聞く限りだと、この世界でも追放された人が覚醒するってのはあるらしいな。


 パーティー追放からの覚醒と、通信交換で進化するポケモンを重ねた人間は多分この人だけだろうけど。


 俺がもしリシア達に「あんたみたいな無能なリーダーいらないから」とか言われて捨てられたらどうなるんだろう。

 多分覚醒とかしないで普通に不貞腐れると思うんだよね。


「頑張ってくれ、スピカ! 俺の仇を取ってくれ!」


「任せて」


 スピカはニコリと笑うと剣を数歩前に出る。

 背中から抜き放った大剣をズシンと地面に突き刺した。


「見せてあげますよ。──そして貴女は知ることになるでしょう。これまで貴女の見てきた世界の狭さを」


 スピカは何やらかっこいいことを言って剣を構え──


「あ、あの、ちょっとタイム……。あれ、なんだろ、お腹が……って! いたたたたたたたた」


 お前もかよ!!!!


「え、あれ? 何これ、凄い痛いんですけど!? うぐぐ」


 とうとう踞ってしまったスピカは脂汗を浮かべながらこちらを見てくる。

 

 ダメだよ、そんな助けて欲しそうにこっちを見たって。

 俺にはどうしようもできないんだ。

 さっき解呪スキルを発動したけれど全く意味がなかった。


「あとは時間が解決してくれるよ」


 俺はスピカを優しく諭す。


 ディ二アはまたか、と呆れ顔だが、当人からすると本当にシャレにならない痛みなのだ。


「もういい。貴様らは帰れ。上には私から報告しておく。非常に残念な結果だった、とな」


 なんでい、偉そうに!

 

「俺だって本気出せば強いんだからな!」


「黙れ! 戦はお前の都合など加味しない。いつでも万全の状態で戦えると思ったら大間違いだ!」


 恐ろしく真っ当な正論。俺でなきゃ泣いちゃうね。

 ただ、その言葉が正しいが故に、俺の闘志には火がついた。


「……分かりました。やります。貴女が死んでも文句を言わないと言うのなら」


 俺は煽った。

 あの腹痛には並の胆力では抗えないだろう。

 しかし、相手に死ぬ覚悟があるのならば、俺にもやりようがある。


「……くふふ。死人が口を利くか?」


「やめてください。俺の語彙の偏差値に言及しないでください」


「よかろう。その闘い、受けて立つ。騎士とは誇りに生きる者。──時としてそれは死よりも重い」


 煽っておいてなんだが、こんな事に命を掛けるのは馬鹿だと、俺は思ってしまう。

 俺には──誇りと埃の違いもわからないから。


 アイネクライネナハトムジーク第十八金剛烈空丸・華叉を抜いた俺は剣を構える。


「さぁ、始めましょうか」


 俺は漲らせるようにして殺気を飛ばした。

 先程まで綺麗に並んでいた兵士達は一人残らずその場に腰を着いた。


「さすがです。ゲイラさん。貴女は立ってられるんですね」


 彼女が体に付けた鎧がカタカタと音を鳴らす。

 圧倒的な実力差を前に震えているのだろう。

 俺も経験があるから分かる。


 しかし、彼女は剣を構えこちらの様子を伺っていた。

 

「やりま……す、ね」


 突如襲った腹痛に、再び俺は蹲る。

 ただ、恐怖を押して立つ騎士を前に、またしても降参など有り得ない。


 俺はそのままの状態でスキルを発動した。


「【狂化ランク2(ディメント・ツー)


 たかが痛み如きで止められることのない殺意はただ真っ直ぐにディ二アへと向かっていった。



 次に俺の意識が覚醒したのは、宿舎の俺の部屋だった。

 スライムのドクロを枕にしており、胸の中にはすっぽりとクハクが収まっていた。

 ベッドのそばにある椅子では、人型のネギまがうとうとと、寝船を漕いでいた。


 先程の勝負、俺はディ二アに一撃も与えることはなかった。

 それは彼女が優れていたからではなく、うちの従魔達が止めに入ったからだ。

 俺の気持ちを()()()()()()のかはわからない。

 けれど、恐れていた自体にはならなくてよかった。

 ディ二アは強い。強いが狂化した俺の一撃を受け止められるほどではない。もし従魔達が止めてくれなければ怪我では済まなかっただろう。


「ありがとうな、みんな」


 俺はポツリと小声で感謝を伝えた。

 ただ、俺の気遣いとは裏腹に眠りの浅かったネギまだけは起きてしまう。


「体調は〜大丈夫ですか〜?」


「おう。心配掛けたな」


 その言葉にネギまはふふっと笑うと、俺の頭を撫でた。


「私達は貴方の従魔ですから〜。もっと、もぉっと、頼っていいんですよ〜?」


 まるで聖母のような微笑み。

 母のようなその存在に、ついつい甘えたくなる。

 彼女の前では強がりも見栄も、全てが溶けてしまいそうだ。


「まあ、ダメ人間にならない程度に頼らせてもらうよ」


 俺は無邪気な子供らしく、彼女に笑いかけた。


「……それから〜。ご主人様とスピカさんはですね〜、別の軍に派遣されることが決まりました〜」


「そうなの?」


「はい。二人は最前線に送り出されるらしいですよ〜?」


「まじかー」


 嫌われたか、実力を買われたか……いや、どっちもだろうな。


「とりあえず、もう一眠りしたい、ネギまも一緒にどうだ?」


 本当は今日家に帰る予定だった。

 けど、お腹も空いてないし、なんか疲れたし、久しぶりのベッドも悪くないし、帰るのは明日でいいかな。


 俺は、人化を解いて手のひらサイズになったネギまを布団に招き入れそのまま二度寝を開始した。

高評価めちゃくちゃ嬉しいです!

ありがとうございます!!!

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