闇掬い
パーティーの日から数日が経った。
シレーナの件以外、特に問題もなくパーティーは幕を閉めた。
オリヴィアはプレゼントを喜んでくれたみたいだし、俺自身も楽しむことができた。
ただ想像していたよりもオリヴィアと話す時間は短かったし、何だかお互いの態度もよそよそしかったような気がする。オリヴィアはどうか分からないが、少なくとも俺は距離を感じた気がした。
一方、シレーナと理沙とセレナは一泊して、翌日の昼頃帰って来た。
セレナまでもお泊まりしたのはちょっと意外だったが、料理人さんとは存外仲良しなのかもしれない。
ちなみに、彼女達からの情報だが、オリヴィアは寝言を言うタイプらしい。ちょっと可愛いな。
「んで、カロは?」
「……まだお見えになりませんね」
パーティーの日、予定があるからと言って欠席したカロリーヌは、その日から今日に至るまで家に帰って来ていない。
「心配ですか?」
「そりゃあな。連絡もないし」
彼女は女の子。しかも、きのこ派一の美女と言われているほどだ。余計心配にもなる。
強い感情の動きがあれば念話が届くので、そこまで心配してはいないが……。
──ずとずとすど
その時、階段の方から何かが滑り落ちる音ようなが聞こえてきた。ここは教会の地下三階。多分、音の大きさ的に地下一階から地下二階に降りている音だろう。
耳を澄ませていると、やがて音が大きくなり、ついには地下三階の扉が開いた。
「おかえり。カロ、サースト」
先度までの音はサーストの蛇足が這っていた音だ。
帰宅した2人はどこか疲れているようにも見える。
身なりをきちんと整えるカロリーヌにしては珍しく、ポニーテールに結われた髪が少しバサ付いていたし、服も煤けていた。
「ただいま帰りました。──先にお風呂を頂いてもいいですか?」
「お、おう」
カロリーヌはタンスからタオルを1枚取り出すと、そのまま階段を上って行ってしまった。
詮索する間もなかった。
「難儀な娘よ」
サーストは俺の近くへ寄り、くるくると尻尾を絡ませてくる。
こうするのが一番落ち着くらしいが、彼女の力で搾られでもしたら口から内蔵が飛び出そうなので、俺は毎度ビビってる。
「あいつと一緒にここ数日、何をしてたんだ?」
「妾の口からは言えぬ。気になるのならば、本人から直接聞けばよかろう?」
まぁ、そうなんだけどさ。
俺、カロリーヌに関してはいまいちどこか踏み切れないって言うか、割と壁がある感じなんだよね。
カロリーヌが元々人間関係に関しては積極的でないってのもあるにはあるんだけれど、俺も彼女とどう関わればいいのか、正直わからないのだ。
「かかかっ。青いのう」
「うっせ。お前だってコミュニケーションはそんはに上手くねぇだろ?」
「何を言っておる。妾は千年以上生きておるのだぞ?」
「その結果がこれか? 普通にダメダメじゃねぇか」
サーストはいつの間にか脱衣しており、ただいま全裸中。
元々裸で過ごしていたのもあって、服は彼女の肌に合わないらしい。
さすがに家の外では服を着るように、カロリーヌが命じているが、家では基本全裸である。
こいつの裸に関してだけはさすがに耐性もついた。
尻尾でぐるぐる巻にされながら抱きつかれてる今も、俺の自制心は仕事をしている。
「他者の温もりというのも、存外悪くない」
スプリットタンがしゅしゅると音を立てる。
食われそうで怖いんだが、色んな意味で。
「巻き付くならカロにしろよ。お前のご主人様だろ?」
「主様には嫌がられるの。他者との接触は避けているように見える」
まぁ、確かに。
スキンシップは好きじゃないイメージはあるよな。
「俺がおっぱい触った時も怒られた」
「それは誰でもそうするじゃろうて」
「え、お前も?」
「主は魔物にも興奮するのか? それはちょっと怖いのう」
サーストは結構ドン引きした顔をすると拘束を緩めた。
「こほん。──話は戻すけど、カロだ。お前だって気付いてるだろ? あいつの、その、心の内は……」
サーストがカロリーヌに仕えると決めた理由の一つ。
それはカロリーヌの心の内にある──闇の部分に触れた事だ。
「さあな」
「お前も従魔契約してるんだから、思考を読むくらい容易いだろう?」
以前、俺の思考を読んでクハクがナース服に変装して詰め寄ってきた時は、さすがに焦った。俺、血の涙が出てたんじゃないかな? 手を出さなかったことを褒めて欲しい。
「部下のケアをするのが上司の務め。主様は昨日、妾にそう言っておったぞ?」
「それはカロの主義だろ? 俺の考えとは反するよ」
相手を思う気持ちがあるのならば、立場なんて関係なく、差し伸べられる手があるのならば、行動するべきだと、俺は思う。
「主義には思考、感情が多分に含まれると、妾は思うがの」
言いたいことはまぁ、何となくわかる。
ただ、部下のケアは上司の務め。そんなありふれた言葉のどこに思考や感情が含まれているのだろう。
「要するに、じゃ。主様は心の内の闇を晴らすのならば、主に頼りたいのではないかのう」
なるほど。そういう事か。
カロリーヌを部下という立場に置くのならば、確かに俺は上司になるな。
ただ、彼女が俺を頼りたいと思っていたとして、だ。
「実際に、あいつが俺を頼ると思うか?」
「思わんのう」
「……ちなみに、お前だったら俺を頼る?」
「頼らんの」
「つまり?」
「主にできるのは、黙って見守ることだけじゃな。使えんヤツめ」
感想貰えました。ありがとうございます!
やる気出ます。
作者が、一番自己投影してるのって実は理沙なんですよね。
翔太がこの先どうなって行くのか、僕自身にも全く分かっていません。




