それでも、そなたは美しい
ふと、視線を感じる。
「ん?」
今、京に見られてなかったか?
もし、そうだとすると……まさか!
自分で問い、自分で出した結論に全身から冷や汗が飛び出る。
俺は脳内で京にひたすら弁明した。
いや、これは違うからね。夢!夢見てただけで、別に変な妄想とかじゃないから!
これもいつも俺がやることである。
もし、クラスに人の思考を読める奴がいたら困るので妄想の後は必ず夢を見ていたと言い訳することにしてる。
俺はそこら辺も抜かりないのだ。
強気な時は「俺の心が読めるとは、やるじゃねえか」的な感じに念じて逆に挑発してから、キョロキョロしてるんだけどね。
いつも反応がないのでこのクラスに思考を読める超能力者はいない。そう思っていた。
だが、もしも、もしも京がその能力を持っていたら……
「キーンコンカーンコーン」
チャイムの音が授業終了を伝える。
と、とりあえず
「今日の授業はここまで」
今日の妄想はここまで
俺はいち早く逃げるために席を立とうとする。
「ねぇ、春野くん」
が、京の声が俺の動きを塞き止めた。
あ、これ詰んだわ。
俺のオカズは……じゃなくて、俺の隣人は思考を読める超能力者だった。
そう。俺の妄想の数々は全て本人に筒抜けだったのだ。
「春野くん、授業中すごかったねぇ」
「い、いや、あの、ほんとすみません」
「別に謝ることじゃないよ! 授業中は暇だもんね」
心無しか、目が死んでいるように見える。人をゴミのように見る目だな、これ。
「私、気になって授業どころじゃなかったよ」
そりゃそうだ。授業中隣の席の奴が自分の肩を揉む妄想をしてたら気持ち悪いだろ!
「ほんと、ほんとにごめん」
「だから謝ることじゃないって」
なるほど、謝って済む問題ではないと、言外に彼女はそう言ったのだ。
一見優しそうに見える笑顔もなるほど、よく観察して見ると怒っているように見えなくもない。いや、きっと怒ってるんだろうなぁ。
罪悪感で、胸がいっぱいの俺はその後、京と何を話したのか覚えていない。
けれどこの一件で自分という人間を見つめ直す大きなきっかけになったのは確かだ。
それから程なくして、俺は人生で初めて牡蠣を食べることになる。
京真琴さんに思考を読む超能力的なものは一切ございません。
これは主人公の勝手な思い込みです。