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契約


 いつもは呼んだら光の速さでやってくるクハクが今日に限っては全然来なかった。


「なんかあったのか?」


 少し様子が気になった俺はクハクの元へ訪れると、その場には見た事のない存在がひとつあった。


 そう。干からびた黒色のスライムである。


 俺はとりあえず、ボロボロになったスライムに水を掛けてやる。


 するとスライムは直に潤いを取り戻し、直径40cm程にまで蘇生した。


「ピィー! ピピィ〜」


 瑞々しいスライムが揺れる。


 多分何かを伝えようとしているのだと思う。

 けれど、当然俺にスライムの言葉はわからない。


「えーっと、コイツ何言ってんだ?」


「主様を殺しに来たと」


 クハクの通訳が入る。

 なるほど、俺に用があるのか。


 なら、俺も戦うしかないかぁ、なんて思っていると、何故かスライムは必死に揺れ始めた。


「どうしたんだ? 何か言いたいことがあるのか?」


「ピイ! ピィピィピィ!」


 いや、俺、魔物の言葉はわかんねえし……あ、そうだ。


「【テイム】」


 俺はスライムに触れると従魔契約の魔法を発動する。

 これで相手が応えてくれれば契約は成立するんだが──よし、成功だ。


「よし、これでお前の言葉がわかる。もう一回話してもらっていいか?」


「ずっと……ずっと会いたかったの! ずっとありがとうって言いたかったの! だから来たの!」


「お、おう」


 心做しか、さっきよりもスライムがキラキラして見える。

 ぷるっぷるの身体を波打たせてぽよぽよ跳ねる。


「……」


「えーっとそれだけ?」


「うん! それだけ!」


「えっと、俺のこと探してたんだろ? なんかして欲しいこととかあったんじゃないのか?」


「ううん。特にないよ。」


 特にないのかー。


「あ、あの……私のこと覚えてない……?」


「うっ」


 額から汗が零れる。なんだこのドラマみたいな展開は。しかも相手はスライムだし……。


「い、いやぁ、うん。覚えてるよ、あの時は大変だったよねえ」


「うん。あの時、貴方に出会わなければきっと私は死んでいたから……」


「……」


 俺、スライムの命を助けたことなんてないぞ?

 むしろ、低レベルの頃は進んで狩っていたくらいだ。


「あの日、あの森で貴方様に分けてもらった聖水。すっごく美味しかった!」


 聖水……?

 森……?

 スライム……?


 俺は頭をフル回転させて、思い当たる事象を探っていく。


「……あっ! わかった!」


 こいつあの時のスライムだ!

 ペトラとリシアを拾った後、俺は森を出る前に立ちションした。その時に、青いスライムに引っ掛けちゃったんだ。


 そしたら急に色が黒くなり出して、しかもめちゃくちゃでかくなったからか、ダッシュで逃げたんだった。


 お陰で森の中を30分くらい迷ったんだっけ。


「鑑定眼──」


 名前:なし

 性別:♀

 種族:ポイズンスライム

 称号:龍を屠るもの(ドラゴンキラー) 旅人 一途


 Lv:41

 HP:2018

 MP:5661

 攻撃:810

 防御:991

 敏捷:1074

 知力:11

 魔力:555

 幸運:107

 固有スキル: 腐食 分身 変化 自動回復 痛覚無効 物理攻撃無効 エスカリボルバー 狂化

 通常スキル:毒魔法Lv7 縮地Lv4 氷耐性Lv8 千里眼Lv6


 いや、めちゃんこ強いやないかい!

 こいつドラゴンまで狩ってやがる。

 幸運やMP、魔力だって俺より全然高いし、他のステータスは全部俺の半分くらいある。

 それよりも、物理攻撃無効って……


 ポイズンスライム:一定量毒素を取り込む事で種族進化を果たしたスライム


 なるほど、俺の体液の影響か。こいつ、やばいな。


「お前はこれからどうするんだ?」


 行く宛てがないなら是非とも我が家に招きたいところだ。

 この能力なら即戦力になる。というか、魔法でしかダメージを与えられないことを考えると俺より強いかも。


「私は貴方にお礼と愛を伝えたかっただけなんだ。後は家に帰って静かに暮らそうと思ってる」


 なるほど、それってつまり暇ってことだよな?


「なぁ、良ければうちに住まないか? 少し狭い家だけど、俺の従魔として来てくれると嬉しい」


「い、いいの? 私……スライムで、そこの九尾の方みたいに美しくもなければ戦いも得意じゃないよ?」


「気にすんな。戦いなんてのはそのうち強くなるから」


 リシアに扱かれれば嫌でも努力値が溜まってくし、というか既に強いし。


「なら! 是非とも傘下に加えて頂けると嬉しいなぁ」


「ちっ」


 パァっと花が咲くような、明るい声を浮かべたスライム。

 とは対照的に、クハクは舌打ちをひとつした。


「よろしくな」


「はいっ!──それでは……」


 突然、ぐにゃぐにゃと形を変え出したスライムはやがて人の形を模す。


 質量保存の法則は?


「こんな感じでいいかな?」


 目の前に立っているのは黒髪赤目の正統派美少女。

 日本の王手企業のご令嬢に居そうな、前髪ぱっつん系女子で、我が家初の姫カット。その黒髪はきめ細やかなストレート。キューティクル半端ない。

 顎には小さなホクロがひとつあり、背丈は163cmほど。


「これでしっかり愛を伝えらる──ずっと大好きだったよ」


 そう言ってスライムは俺に抱き着くとそのまま胸に顔を埋めた。


 さて、過去にこれ程までにストレートに愛を伝えられた事などあっただろうか。


 いや、ない。


 一切包み隠さず伝えられる好意に、俺はどう返せばいいのだろうか。


「これからは貴方の体液は全て私のものなんだっ! 嬉しいなぁ」


「許しませぬっ!」


 突如発火したスライム。俺の胸の中で火だるまになるとバチバチと音を鳴らす。


 俺は熱くないのだが……この子は死ぬだろ。


「おい、クハクやめろ!」


『火属性耐性Lv1を獲得しました』


『火属性耐性Lv2を獲得しました』


『火属性耐性Lv3を獲得しました』


『火属性耐性Lv4を獲得しました』


『火属性耐性Lv5を獲得しました』


『火属性耐性──』


『火属性無効を獲得しました』


 その光景に俺は絶句した。

 クハクは火の聖獣だ。にも関わらず、このスライムは二度食らっただけで、それを克服したのだ。


「なんなんですか……貴女。さっきから私の邪魔ばかりして。そんなに私が嫌いですか。許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない。死ねよ、この狐がァァァ!!!」


 突如態度を豹変させたスライムはクハクに襲いかかる。

 

 速い──が、ステータスにおいてはクハクの方に軍配が上がるため、攻撃はいとも簡単に躱される。


「逃げてんじゃねぇよ! 来いよこのクソアマがァァァ!」


 え、怖い。何これ。どうすればいいの?


「ストップ! ストーップ! 2人とも仲良くしないと!」


「無理です」


「私も無理! せっかくの再開なのに、邪魔ばかりしてくるし!」


 いや、このスライムちゃんキャラ変わってるし……

 ああ、狂化スキル使ってんのか。

 俺も傍から見たらこんな感じってこと?


「死ねオラァァァァァァ!」


 さっきまでの人懐っこいスライムは何処へ?


 まあ、そんなこんなで、新しい従魔が増えた。

 その黒いスライムの名はドクロ。ドクロちゃんである。

 

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